中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。

モダンなギャラリーやバーを思わせるクールな空間ながら、職住をシームレスにつなげたツクルバ社員の自邸を訪ねました。


今回訪れたのは、カウカモを運営する株式会社ツクルバで、不動産の企画・デザイン・運営に携わる部門の管理をしているH.Tの住まい。元はオフィス空間のコンサルやデザインをしていたとのこと。

在宅勤務が増えた今の時代だから聞きたい、ワークスペースの専門家ならではの住まいづくりに迫ります。

ニューノーマルを迎えて

コロナ禍により在宅勤務がはじまったことで住宅の購入を決意したというH.T。「5階以上の角部屋」「日当たり」「良好な管理状態」などなどの諸条件を満たす物件を見つけ出した。

H.T:ものを多く所有しない主義だったので、以前は賃貸を身軽に転々としていました。そのうえ外出する時間が長く、自宅での暮らしに関心が薄かったんです。在宅が日常になった今、そこを見直してみようと。

3面採光で明るく風通しがよい環境。「ターミナル駅が徒歩圏内」「ランニングや散歩が出来る公園が近い」「都心でありながら静か」という立地の希望も無事叶えられた

ノンテリトリアルな住まいづくり

間取りは “食う・寝る・働く” がシームレスに行われるワンルーム。在宅勤務を前提としたリノベーションでは、ワークスペースを独立して設けることも多い。あえてそうしなかった理由を聞いてみた。

H.T:オフィス業界では「ノンテリトリアル・オフィス」という言葉が古くからあって、自席を設けず、社員の好みや気分に応じて働く場所を自由に選択できるオフィスを意味します。

例えば、窓際にカウンター席があったとしたら、コーヒーを飲んで休憩するもよし、ひとりの作業に集中するもよしと、いろんな使い方ができる環境です。今で言うABW(Activity Based Working)※に近く、この家はその在宅オフィス版を意識してます。

“書斎” という場に働くことを限定するのではなく、キッチンで仕事をしたり、デスクで立ってYouTubeを観たり、自分の気分次第で場所と目的を自由に選びたいと考えたんです。

※仕事内容に合わせて、自ら働く場所を選ぶ働き方

場所を選ばずPC作業ができるよう、コンセントはソファ裏やキッチンカウンター等のいたるところに

もともと職場と住宅が切り離されていること自体に違和感を抱いていたと語るH.T。彼が “暮らし” と “仕事” を同じ空間で行き来するような場を求めたのはきっと自然なことだったのだろう。

■アートギャラリーのように

そんなオン・オフ両立の住まいを設計するにあたり、ヒントになったのが “アートギャラリー” だ。

H.T:美術館やギャラリーって、緊張感を演出する場もあれば、リラックスできる場もある、展示作品ごとに場の印象がガラリと変わる面白い空間ですよね。それがこの住まいの思想にフィットするように感じて、『もしアートギャラリーに人が住んだら』をテーマにデザインをはじめました。

玄関ドアを開けるとすぐにアートがお出迎え。アートはNathalie Dumontier氏の油彩画、インスタグラム経由で直接本人に相談して決めたのだそう。絵画を照らす照明は、美術館で使われるModuleX(モデュレックス)社製

玄関側からリビングを見る。左の収納には、靴や野球道具、登山用品などのアウトドアグッズが納められている

美術館やギャラリーといえば、白い天井に白い壁。この住まいでも白塗装壁は外せない。展示室ばりにスポットライトが並んだ天井からも “ギャラリーらしさ” が感じられる。

その光の色も特徴のひとつで、住宅の照明は電球色(色温度:2700~3000K)が一般的だが、ここではより白に近い温白色(色温度:約3500K)を用いている。

H.T:仕事をしている時は、明かりがオレンジ色でムーディすぎると集中できないし、リラックスしたいときは白すぎると落ち着かない。色を自由に変えられるようにしてもズボラなのできっとやらなくなる(笑)。だから、その間を取って温白色の照明を採用したんです。

リラックスした雰囲気が漂う室内夕景。リビングの照明には、演色性※が高く長寿命なダイクロハロゲンLED球を用いた。※光源が色の見え方に及ぼす性質、色の見え方が自然光に近いほど演色性が高い(撮影:本人)

■オフィスの風合いを帯びて

オフィスづくりを手掛けるH.Tならではのこだわりは、素材や家具選びからも感じられる。

H.T:このフローリング、無垢板ではなくフェイクなんですよ。

自分はオフィスで用いるような人工的な建材が好みで、この家でも木壁以外は全てそういった素材を使っています。

天然素材ももちろんいいんですが、メーカーが日々研究開発した血と汗の結晶ともいえる工業製品が好きなんですよね。性能面では、メンテナンス性のよさはもちろん、苦手な虫が寄り付きにくいのもGOODです(笑)

上:フローリングを質感よく見せるコツは、照明を狭角にして明るさでメリハリをつけることなのだとか。例外的に部屋のアクセントになる木壁のみ、天然木の突き板を用いた。樹種は一番好きなブラックウォルナット。/左下:キッチンの床など、水回り全般で採用したのがモルタルのような風合いの「デコリエ」という仕上げ材。水をはじき清掃性が高い。/右下:カーテンは川島織物セルコンにオーダーしたもの。寝室のレースカーテンは光沢のある素材を用いて、日中は明るく、夜は光沢が反射して中が見えづらいようにしている。寝室のみ丈を15cm長くし、ドレープ感を出したのもポイントだ

青緑の大きなアートとアイスグレーのソファに辛子色のクッションがいいアクセントに。色味のシミュレーションはCGで入念に行い、アートはワークスペースとリビングのどちらにも合うfranko氏の抽象絵画を選定したのだとか

家具はギャラリーやオフィスでよく使われているものを中心にセレクト。特にH.TはKartell(カルテル )社製のものがお気に入り。インテリアの色味は暖かすぎず、冷たすぎずを意識して、住まいのコンセプトであるオンオフ両立の雰囲気を演出しているのだ。

■職住がシームレスな暮らしを

最後に、そんな住まいで送るH.Tの暮らしの一部を追ってみよう。

朝目覚めると、まずは充実のバスルームに。

H.T:南東向きに窓があるので、シャワーと一緒に朝日も浴びられるのが気持ちいいんですよね。ホーローのバスタブもこだわって取り付けました。

バスルームは同じ設計部署の人が実践していた仕様を参考に、全面デコリエ仕上げ。浴室乾燥機付きで、『ベランダいらずで虫に遭わなくてすみます(笑)』とH.T。トイレと洗面は躯体の制限もあり、まとめてプランニング

日中は程よく明るい環境で外の景色を見ながら仕事に取り組む。デスクは直射日光の当たらない北側の掃き出し窓の前に設置している。

H.T:デスクはオカムラ社の電動昇降タイプにしました。幅は1,400mmで、マルチモニターと照明が置けるちょうどいいサイズなんです。昇降式になっているのが大事で、立ち仕事、座ってガッツリ集中、のんびり動画鑑賞等、どのモードにも最適化できるようにしたかったんですよね。

正方形の2枚のアートポスターはRonan Bouroullec氏の作品。前職で輸入インテリアを扱っていたカウカモ編集部スタッフに選んでもらったそうだ

食事や気分転換の際は、二型カウンターが食卓代わりのダイニングへ。

H.T:朝はスムージーを作って、飲みながらここで仕事をすることも多いです。今後はゲストにウイスキーや料理を振る舞ったり、いろいろな使い方をしたいですね。

『ちょっとウイスキーは置きすぎました(笑)』と苦笑するH.T、ここに越してからお茶やコーヒーにも凝るようになったのだとか。立ち仕事用のコンセントもばっちり完備

そして日が暮れれば、日中の爽やかな雰囲気とは一転してムーディなバー空間に。

日中は緊張感のある仕事場、夜はリラックスできるリビング。その相反するふたつの空間を、アートギャラリーというテーマで両立させたH.T邸。

アクティビティごとに空間を分けるのではなく、自分の気分に応じてワンルームを “ノンテリトリアル” に使いこなす暮らしぶりが印象的だった。

―――――物件概要―――――
〈所在地〉目黒区
〈居住者構成〉シングル
〈間取り〉1R
〈面積〉約47㎡
〈築年〉築43年(取材時)
――――――設計――――――
本人