横浜市青葉区みたけ台(青葉台駅)
住むほどに価値を増す家
みたけ台の家
家は経年とともに劣化していくもの。一般的にはそんなイメージですよね。実際、日本の住宅は「築20年で建物の価値がほぼゼロになる」なんて話もよく耳にします。 しかし、アメリカやヨーロッパではたかが20年や30年で住宅価格が大幅に暴落するなんてことは少なく、むしろ、家人が色々と手...
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家は経年とともに劣化していくもの。一般的にはそんなイメージですよね。実際、日本の住宅は「築20年で建物の価値がほぼゼロになる」なんて話もよく耳にします。
しかし、アメリカやヨーロッパではたかが20年や30年で住宅価格が大幅に暴落するなんてことは少なく、むしろ、家人が色々と手を加えグレードアップを図ることで購入時より価値が上がるケースも珍しくないとか。パリやロンドンにある築ン百年のアパートとか、普通に人気物件だったりしますしね。
今回紹介するのは、そんな欧米的価値観を反映した住まい。横浜市青葉区の緑豊かなエリアに建つ、築30年の一軒家です。リノベーション界の雄・株式会社リビタの手により生まれ変わった空間には、「住むほどに価値を増し、暮らす楽しみを広げる」様々な"仕掛け"が施されていました。
その仕掛けの中身については後ほど語るとして、まずは築古物件にまつわる不安を解消しておきたいと思います。今回の物件のように築30年となると、若干不安なのが耐震性の問題。古い戸建ての場合、見た目が綺麗でも構造部が激しく劣化していたり、そもそも耐震性能に問題のあるケースも少なくないようです。その点、本物件を担当したリビタの桜庭伸也さんにうかがってみましょう。
確かに、古い戸建ての中には耐震性能を満たしていないものがたくさんあります。ですから弊社では、リノベーションを行うにあたって第三者機関による劣化事象のチェックや基礎配筋調査などを必ず実施します。表面上では分からない水回り下地の腐りや金物の不足箇所など修繕が必要な箇所を細かく洗い出す、人間ドッグのようなものですね。その上で、建物の品質を一定水準まで引き上げる改修工事と「耐震適合証明書」の取得を行っていますので、安心して住み継ぐことができます(桜庭さん)
我々人間だって30年も生きてれば、少なからず健康不安のタネを抱えているものです。建物も同様で、事前調査をするとほぼ毎回何かしらの問題が見つかると言います。
しかし、この物件は例外でした。
綿密な調査を行うも深刻な劣化や欠陥がほぼない"健康体"だったそうです。
大抵の物件は、内装材を剥がしてみると土台や木が朽ちていたりするものです。でも、ここは大がかりな補強を必要としない、レアケースでした。もともとあった柱を残すなど、既存の味わいを生かすリノベーションができたのも、そもそもの建物のポテンシャルが高かったからです長く安心して住むためにはまず、頑丈なハコであることが第一条件。そこに、アレンジしやすい豊かな可能性をもった空間があれば、家族がその時々で求めるものを少しずつ加えながら、いつまでも楽しく暮らすことができます。(桜庭さん)
なるほど、ならば安心。不安が解消されたところで、さっそくおじゃましてみましょう。
やってきたのは神奈川県青葉区の「みたけ台」。1970年代後半に開発が進んだ宅地で、ゆるやかな坂上の広い土地に、低層の戸建て住宅がゆったりと配されています。
少し歩けば区を縦断する鶴見川の清流。周囲は緑に覆われ、幼き日の夏休みを回顧させるような牧歌的光景が広がっていました。脳内を『少年時代』(井上陽水)がリフレインします。
また、ひとつひとつのお宅にも豊かな植栽が見られ、エリア全体の穏やかな雰囲気づくりにひと役買っています。聞けば、一帯では古くから土地の細分化や10メートル以上の建物の建築を制限する、住民同士の協定が結ばれているそう。長い時間をかけて醸成された、周辺住民の美意識の高さをうかがわせますね。
そんな魅力あふれる「みたけ台」の中でも、高台の角地という絶好のロケーションに建つのが今回の物件。面格子とデッキ材のフェンスに囲まれた白亜の戸建ては美しく、周囲の住宅と比べてもひときわ大きい、まさに「邸宅」というたたずまいです。約61坪の敷地を贅沢に使い、庭を含むエクステリアをたっぷりと確保しているのも、ゆとりを感じさせる要因でしょう。
では、さっそく中をのぞいてみましょう。
なんといっても目を引くのは、「広っ!」と思わず唸る1階のLDK。21畳のスペースと白い壁、三方向の窓からたっぷり注がれる光が開放感を演出しています。アカシアの無垢フローリングも気持ちいいですね。
柱や仕切りが少ないオープンな空間は、状況に応じたフレキシブルな使い方ができそう。また、シンプルな塗装壁は気分に合わせて別の色を重ねることも容易でしょう。リノベーションによって完成されたスペースでありながら、自分好みに塗り替えられる真っ白いキャンバスのようでもある。なんとも創造性を刺激する空間です。
実は、これこそリビタによる"仕掛け"のひとつ。フリーなオープンスペースを設けて使い方に可変性をもたせたり、内装をあえて最低限の仕上げにとどめることで、いかようにもカスタマイズできる「余白」を住まい手に残そうという趣向です。つまり、ここは「住みながら手を加えていく」ことを前提とした家だったんですね。
リビタのリノベーション物件には「使い方が規定された完成品に生活を合わせるのではなく、暮らしに合わせて自ら自由に使いこなしていく」という、基本コンセプトがあるそうです。
使い方の最適解は住む人によって、また家族の成長によって刻々と変わっていくだけに、各々のライフスタイルに合わせ、必要な機能を自在に足し引きできる余地を残しているわけですね。いやいや、心憎い。
みたけ台の家にも「使い方を規定しない」汎用性の高い空間が随所に見られます。
玄関と地続きになった6畳の土間もそう。もともと和室だった場所を改装して生まれたフリースペースは、植栽や園芸道具を並べて外部空間のように使うもよし、友人を招いて教室やワークショップを開くもよし。あるいは、自転車などのメンテナンスをするミニガレージとしても使えそうです。その使い道に思いをめぐらすだけで、ワクワクしてきますよね。
一方で、よくよく目を凝らすと、至る所に前の住まい手による痕跡が。
たとえば、2階部分の柱はあえて、30年の歳月が育んだ風合いをとどめています。時の経過を感じさせつつも傷みの少ない柱は、この家が大切に使われていた何よりの証。そんな愛着ごと受け継ぐことで、「自分たちも丁寧に住もう」と思えるんじゃないでしょうか。
リノベーションによって全てをリセットしてしまうのではなく、先達によって刻まれた暮らしの記憶を味わいとして残す。劣化ではなくヴィンテージとしての価値を重ねる。まさに、「家は住むほどに価値を増す」という、リビタの哲学を体現した空間ではないかと思います。
さらに、既存の建物を生かしたリノベーションは、快適性や機能面における利点もある模様。たとえば、2階にはもともと吹き抜けだった場所を増床したフリースペースがあるんですが、ふつうに床板を貼るだけでは、せっかくの彩光や開放感が損なわれてしまう。そこで、床材に半透明のポリカーボネイトを使用することにより、居住面積を広げつつ吹き抜けの心地よさも残しています。
また、天井を取り払いむき出しになった梁にはハンモックを吊るしたり、洋服をかけたり、植物をディスプレイしたり。さらには、ブランコだって吊り下げられちゃいます。
住まい手が使い方を練り、機能を育てていけば、それはいつしか唯一無二の個性となり、住むほどに成熟した家になっていきます。そんな住まい手の思いが色濃く反映された建物は価値を下げることなく、次世代へと受け継がれていく。まさに、理想的なサイクルと言えるでしょう。
家を消耗品ととらえがちな日本人の価値観に一石を投じる、新たな住まいのカタチ。
こうした家が増えれば、「使い捨て」などと揶揄される日本の家の平均寿命も少しは伸びるかもしれません。
取材・文:やじろべえ株式会社/撮影:cowcamo