中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。

今回は、カウカモを運営するツクルバで不動産企画を担当する吉田民瞳の自邸を訪ねました。


ご紹介するのは、白い洞窟のような廊下が印象的な吉田の自邸。『内装はあえて仕上げきらず、箱としてのポテンシャルを高めること』を重視したという、そのシンプルながら空間的な工夫に富んだ住まいのつくり方を紐解いていこう。

学生時代は公共空間の計画や設計を学んでいたという吉田。建築士の友人とともにコンセプトを入念に練り上げてリノベーションに臨んだのだとか

吉田:もともと建築が好きで、思い描いている空間のイメージがあったんです。以前は賃貸のリノベーション物件に住んでいたんですが、『もっとこうだったらいいのに!』という想いが募ってきて。子どもが生まれたタイミングで物件探しを始めました。

物件の所在地は「二子玉川」。多摩川沿いのエリアは、都心ながら開けていて緑豊かなことが魅力だ。ここに越してきてからは、川沿いの二子玉川公園でリモートワークをするなど、リバーサイドならではの暮らしを思う存分満喫しているそう。

延床面積は約60㎡。奥さまとお子さんとの3人暮らしだ。リビングにはお子さんの遊び道具がちらほら

■豊かな廊下空間

家に入るとまず目に飛び込んでくるのが、このまっすぐに突き抜ける廊下だ。1階の住戸かつ縦長の間取りながら、光が家の中心部まで差し込んでとても明るい。

左側は一見フラットな壁に見えるが、家事室やトイレへ続く扉が並んでいる

吉田:リノベ前は家に入った瞬間、扉に囲まれてすごく暗かったのが残念だったんですね。でもここに抜けのある廊下を造ってあげれば、全体に光と風が通り抜けるような家になると思ったんです。

「廊下をいかに気持ちのよい場所にするか」にこだわったという吉田。そんな廊下に込められた工夫の数々をご紹介しよう。

■アクティビティの生まれる場に

まず注目したいのは、この廊下に備え付けられた機能だ。家族3人のための本棚と洗面スペースが設けられ、単なる動線ではなく家族のアクティビティが生まれる場になっている。

幅930mmのややゆったり目の廊下。洗面スペースは玄関すぐ横に配置されている

吉田:普通なら廊下はデッドスペースと捉えて『なるべく狭くしよう』って発想になりますが、あえて広くすることでもっと豊かに使えるんじゃないかと思ったんです。

本棚には家族みんなの本が並んでいて、この廊下もひとつの部屋みたいになっていますね(笑)

さらに廊下の白い壁の裏側にはサニタリーやクローゼットが配置されており、来客時には視界から外したいプライベートな部分をしっかり分離している。

脱衣所兼家事室。こちらに雑多な機能を集約したことで、廊下側の洗面スペースをすっきり見せられている。カウンター端にある洗面ボールはサブとして小さなサイズを採用した

■広がりを感じる洞窟

 “広い空間同士をつなぐ洞窟のようなイメージ” と吉田が語る通り、廊下を見通せばすーっと伸びた先に開放的な空間が広がっているような感覚を覚える。

左・天井は半分だけ仕上げた。奥に見えるのは寝室。/右上・ 半分仕上げた天井の上は本棚になっている/右下・ドア枠や蝶番を壁の内側に仕込み、フラットで連続感のある壁に仕上げている。こうした部材の収め方は、製品を選ぶ手間がかかるものの、金額的には一般的なものと大きな差はないのだとか

吉田:フラットでまっすぐ抜けた廊下を造りたかったのですが、梁がかなり大きいので、その高さに合わせて天井を全部張ると、かなり窮屈な印象になることがわかったんです。

そこで天井は、半分だけ仕上げて水平方向の連続感を持たせつつ、もう半分を抜くことで開放感を出すことにしました。

実はコンクリート現しの天井が暗いのもポイント。はっきり奥まで見せないことで実際より天井を高く感じさせることを意図したそう。このように「あえて全体を視認させないで、更なる空間が展開する期待感を抱かせること」を意識して住まいづくりに臨んだと吉田は語っていた。

■アクティビティで場をつくる

リノベーションのもうひとつのこだわりは「個人に紐づいた部屋をつくらないこと」なのだそう。

吉田:約60㎡という限られた面積を豊かに使うため、部屋も廊下も全部が全員にとっての場にできないかと考えました。だから子ども部屋もないし、僕専用の書斎だってない。みんながアクティビティに合わせて動けるような住まいを目指したんです。

ワークスペースは夫婦の仕事場としてはもちろん、お子さんのお絵かきスペースとしても使われる、みんなのための場なのだ。

左・廊下からワークスペースを見る。本棚の中に入り込むような造りが面白い。/右・上部の明かりとりの室内窓は、広さを感じるための工夫のひとつ

寝室も家族全員で使う場だ。現在は親子3人で一緒のベッドに寝ているそうだが、将来的にはロフトに扉やカーテンをつけて、子どもの寝るスペースにする予定とのこと。

左・寝室から廊下を見通す。/右上・寝室壁面に開いた穴はロフト。/右下・玄関にも寝室と似た穴が。こちらは土間を延長した収納で、寝室のロフト下の空間を活用した

個人ではなくアクティビティに紐づけて間取りを考えれば、家族全員が家全体を目一杯使いこなすことができる。このように自由な発想でライススタイルに合った間取りをつくれることもリノベーションの醍醐味だ。

■ゆったりとした変化を楽しむ暮らし

最後にこの家でのお気に入りの過ごし方を尋ねてみると、リビングのソファに座って長い廊下を見通すことだと話してくれた。

吉田:この廊下をつくってよかったなと(笑)遮るものが何もなくて、すーっと抜けてるのが最高です!

それに、この家はまだまだアップデートの途中だと思ってます。家具も以前から持っていたものをそのまま使っているので、今後はゆっくり更新しながら変化を楽しんで過ごしたいですね。

冒頭で述べた『内装はあえて仕上げきらず、箱としてのポテンシャルを高めること』とは、そんな変化も受容できる住まいという意味が込められているようにも感じた。これからどんなアップデートがなされていくかが楽しみだ。

―――――物件概要―――――
〈所在地〉二子玉川
〈居住者構成〉3人家族
〈間取り〉1SLDK
〈面積〉60.44㎡
〈築年〉築44年(取材時)
―――――設計・施工―――――
〈会社名〉coto
〈WEBサイト〉http://coto-inc.net/works/73