気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第80弾はこの連載企画2度目の登場となる「下北沢」です。


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サブカルチャーの “聖地” 下北沢(通称:シモキタ)。なぜそんな呼ばれ方をするのかは、街にダイブしてみればきっとすぐに納得できるはず。ライブハウス、小劇場、古着屋、雑貨店にカフェ…… 趣味嗜好の店で溢れた街なんです! ここにはあらゆる種類の偏愛が集まり、まるで文化祭前夜の部室棟のような空気が満ちています。

マニアックな演劇が上演される「「劇」小劇場」の前。これからマチネ(昼公演)のもよう

さて…… そんな下北沢の街ですが、みなさんはここ数年の間に訪れましたか? 小田急線の地下化が完了してから、仮囲いだらけの時期を経て、駅周辺の風景は大きく変化しました。

かねてからの愛すべき “ごった煮” 感はそのままに、新しく感度の高い施設がいくつも生まれている下北沢の街。今回はその変わるものと変わらないものを見つめながら、今ここにある街の魅力に迫ります。

新駅舎は左が小田急線、右が京王井の頭線。駅前では待ち合わせの人たちがまだ変化に慣れず迷っている姿も見られた

お話を伺う街の先輩は、このエリアで複合施設「BONUS TRACK」を運営する散歩社のチーフディレクター、桜木彩佳さんです。

こちらが複合施設「BONUS TRACK」。詳細は後ほどじっくりと!

■今日も何かを発掘できる、迷路のような街

まずお聞きしたのは、桜木さんの “シモキタ” 愛。学生時代からこの街に惹かれて、大好きなミュージシャンゆかりの店に通ったり、おしゃれなカフェでちょっとムードに浸ってみたり、心ときめく時間を過ごしてきたそう。

散歩社チーフディレクターの桜木さん。インタビューはBONUS TRACK内のキッチン付きレンタルスペース「BONUS TRACK HOUSE」にて行った

ライブハウスに通ったり、ヴィレヴァン(ヴィレッジヴァンガード)で漫画を買ったりの日々でした。“自分がいたい姿でいていいよ” という、街からの肯定感みたいなものを昔から感じていた気がします。

左・スタジオへ向かうバンドマンを発見。楽器や演劇の稽古着など、大荷物を抱えた若者が多いのも下北沢ならでは。/右・ライブハウスは路地裏や地下のいたるところに

この街では、とりあえず来てから『さあ今日はどうしよう?』って、面白いものを探しながら歩いてる人が多いんですよ。入り組んだ小道や路地裏も多いし、知らない道があったらついつい歩き回りたくなる街ですよね。そういう、明確な目的がなくても居心地のいい空気感がすごく “シモキタ” っぽいなって。

左・ “シモキタ” ファッションといえば、古着を取り入れたユーズドライクなスタイルが中心。髪色も色とりどりだ/右・老舗の純喫茶「TROIS CHAMBRES(トロワシャンブル)」

劇場に行くと次の演劇のチラシがいっぱい席に置いてあったり、飲み屋さんにびっしりポスターが貼ってあるんです。そういう “来てみて新たにわかること” が生み出すワクワクが、次の時代へつながるパワーになっていると思います。

左上・銭湯を改装した古着店「new york joe(ニューヨークジョー)」/左下・この街に8つもの劇場を展開する本多グループ。もっとも大きい「本多劇場」の下には、桜木さんも通ったという「ヴィレッジヴァンガード」も/右・街には階段が通りに面した建物が多い。そこは公演ポスターやチラシを貼るのにもってこいのスペースだ

線路の立体交差化と下北沢ケージ

下北沢の街を語る上で欠かせないポイントのひとつが、京王井の頭線の高架化と小田急線の地下化です。“開かずの踏切” による慢性的な渋滞に悩まされていたこの街にとって、これは大きな変化となりました。

交通状況がよくなるのはもちろん、これまで線路が走っていた場所が、ポカーンと空いたということなのです!

再開発が進む2016年頃の下北沢

その後数年間、街のあちこちに大規模な仮囲いが。ちょうど、街が羽化する前のさなぎの状態だったと例えられるかもしれませんね。

そんな中で、京王井の頭線の高架下に生まれた空き地で期間限定オープンしたのが「下北沢ケージ」(〜2019年)。金網で囲まれた巨大なケージ(檻)の中でイベントや飲食を楽しむことができるスペースです。

オープン当時の「下北沢ケージ」

▼以前おなじ “街の先輩” 連載で取材させていただいた「下北沢ケージ」の記事もどうぞ!
【 #下北沢 】変わりゆく街に生まれた空間、金網「ケージ」で交差する「シモキタカルチャー」

大学卒業後にライブハウスで音楽関係のお仕事をされていた桜木さんは、この「下北沢ケージ」の運営スタッフ募集を見かけたときに『自分はこれをやるんだ!』と直感し、すぐさま応募。そこから “シモキタ” という街の変革の最前線に身を投じていったんだそう。

当時は言葉にはせずとも、自分のいる業界に閉塞的なムードを感じていて。せっかくの素敵なカルチャーを、どうやったらもっと拡張できるんだろうって気持ちがありました。そんな中 “シモキタ” を歩いてたら、なんかスケスケの場所が現れたんです(笑)

下北線路街プロジェクトとBONUS TRACK

やがて下北沢ケージは2019年にその役割を終え、今度は地下化した小田急線の線路跡地で新たな動きが起きます。小田急電鉄主導の「下北線路街プロジェクト」です。それは「世田谷代田」〜「下北沢」〜「東北沢」3駅分(全長約1.7km!)の線路跡地を利用して、様々な場を創設するというもの。

下北線路街プロジェクトイメージ(小田急電鉄プレスリリースより)

左上・暮らしながら学べる学生寮「SHIMOKITA COLLEGE」/右上・なんと箱根から天然温泉を運び込んだという、本格温泉旅館「由縁別荘 代田」/左下・オープンなイベントスペース「下北線路街 空き地」では取材日にも青空市が開催されていた/右下・まだプロジェクトの一部は工事中。2021年内をめどに、「下北沢」駅から「BONUS TRACK」までの直通ルートが完成する予定だそう

そう…… 今回お邪魔した「BONUS TRACK」も、その「下北線路街プロジェクト」のうちのひとつなのです! それではご紹介が遅くなってしまいましたが、ここで複合施設「BONUS TRACK」について詳しく教えていただきましょう。

ランチタイムが迫り、賑わいはじめる広場。当初は線路跡のこの細長い敷地を駐車場にする案もあったのだとか

「BONUS TRACK」は、住居併設の飲食店や物販店が集まった商店街のような場。敷地内の広場では、個人の商いや若者のチャレンジを応援するようなイベントが多く開催されています。

左・手前がBONUSTRACKで、黄色い屋根からは住宅。どこまでが商業施設なのかパッと見ではわからないくらい、風景に溶け込んでいる/右・小規模の建物を点在させることで、大きく空を望む開放的な空間となった

ここは法律上、基本的に低い住居などしか建てられないエリアです。それを踏まえて、小田急電鉄さんの中で “2階を住居にした、昔ながらの長屋スタイルの商店街 ” というアイデアが出てきたんです。開発する側としても、ここにチェーン店が軒を連ねる従来的な商業施設をつくれば、この街が育んできたカルチャーや魅力が失われるんじゃないか…… という問題意識があったようです。