気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第86弾は「大塚」です。


2021年。JR山手線「大塚」駅に降り立った取材班は、北口の変貌ぶりに衝撃を受けました。『大塚、最近行ってないな』という方も、行けばきっと驚かれると思います。『行ってないな……ていうか、そもそも行ったことないな?』という方だって、やっぱりちょっとはハッとするはず!

駅のホームから見た「大塚」駅北口。見慣れぬモニュメントが気になります。

再開発された山手線の駅前といえば、大きな駅ビル(アトレ)、バスロータリー、花壇、そして花に負けじと咲き誇る大手チェーン店の看板……そんなイメージが浮かんできますよね。ところが今回の舞台である「大塚」は、ひと味もふた味も違ったユニークな駅前風景に仕上がっているんです。

「大塚」駅北口風景。

「大塚」駅は、山手線の「池袋」と「巣鴨」の間に位置しています。10〜20代が訪れる “若者の街” と、おばあちゃんのハラジュクとも称される “シニアの街”、それらに挟まれた「大塚」は……えっ、じゃあ “中年の街”? なんて思っていたら、まさか本当にそうなるのカモ。『働き盛り世代のアダルトにとって、居心地のいい街にしたい』笑顔でそうお話ししてくださったのは、今回の街の先輩である武藤さんです。

「大塚」にある山口不動産 代表取締役の武藤浩司さん。大手監査法人のエリート会計士から家業を継ぐ形で地場の不動産会社の代表へ……と一風変わった経歴の持ち主です。紆余曲折のストーリーは、武藤さんのnote記事で読むことができます。一緒に写っているのは山口不動産の看板犬 ナルちゃん。

「大塚」駅北口周辺のダイナミックな変化は、武藤さん率いる山口不動産(※)の「ironowa ba project(いろのわ ビーエー プロジェクト)」の賜物。まずは、同席していただいた広報担当の横川さんも交えて、その全体像について解説していただきました。

※2023年1月より社名を「ironowa」に変更。

色とりどりの「ironowa ba project」

広報担当の横川さん。

横川さん:「ironowa ba project」の「iro(色)」は多様性を、「wa(輪)」はつながりを表現しています。様々な個性やバックグラウンドを持つ人々が、輪のように手を取り合って主体的に暮らせる街にできたら、と。「ba」は「being&association」の略で、「そこにいれば、つながりを感じる場へ」という意味が込められているんです。

駅の北口周辺には、山口不動産の自社ビル「ba01」〜「ba07」がそれぞれ異なった役割を担って建っています。順番に見ていきましょう。

まずba01には、圧倒的な知名度を誇る「星野リゾート」の展開する都市型観光ホテル「OMO」の、記念すべき都内第1店舗目を誘致。大塚の街にまた新たな価値をプラスしました。

2018年竣工のba01。1階には、幅広い使い方ができるオールデイダイニング「eightdays dining」(右上 写真提供:山口不動産)、地下1階には卓球ガストロパブ「ping-pong ba(ピンポンバ)」があります。

武藤さん:僕が33〜4くらいの時ですかね、いまいち存在感の薄いこの街をどうやったら変えられるのかな……って考えていたんです。必要なのは多分 “ブランド” だ。有名なホテルなんかを誘致できたら、注目してもらえるんじゃないかって。

僕は大真面目だったんですけど、その時話を聞いてた人は『こいつ馬鹿(無謀)だな〜』って思ったでしょうね。

それでも星野リゾートさんに打診してみたら、当時ちょうど都市型ホテルを計画していたところで、まんざらでもないと! ただ、ほかにも候補地があるとのことだったんですね。

『2番目とか3番目じゃ注目されないから、大塚が1番じゃないと嫌なんです!』って(笑)そこから藁にもすがる思いで交渉を続けて、なんとか話をまとめることができました。

続くba02は、一転してローカル&レトロ感満載! 東京さくらトラム(都電荒川線)の線路沿いに建つ古民家たちをリノベーションし、情趣ある飲み屋街「東京大塚のれん街」へと変貌させました。

この一帯の飲み屋街がba02。店舗兼住宅だった古民家から、彩りに富んだ個性的な11店舗が軒を連ねる食のスポットへ。昭和の雰囲気とモダンな空気が溶け合う空間です。

武藤さん:地元のお客さんだけじゃなく、一軒目にどこか近場で飲んだ後に『いいとこ知ってるんだよ』って、タクシー乗って来ているらしきグループの姿を結構見ますね。
駅から見えるのれん街の灯りって独特で幻想的なんですよ。 隣を都電が走るのがまたノスタルジックで。

左・ba03(2018年竣工)は賃貸マンション「ba apartment」として住まいの場を提供。/右・ba05(2020年竣工)は、駅のすぐ隣にある商業ビルとして、街のランドマーク的な存在になっています。

ほかにも、飲食店が集まるba06(1986竣工)、山口不動産ほかのオフィスがあるba07(1996年竣工)などが存在します。

行政と手を携えて

いや〜改めて見渡してみると、北口周辺には「ba」のロゴを掲げた建築がたくさん!  ちなみに、記事冒頭のホームから見た北口の写真には「ba」が4つも写ってますので、気になる方は探してみてください。

中でも一際存在感を放つのは、白いリングやモニュメントのある「大塚駅北口駅前広場」。2021年3月に整備されたこの広場は、山口不動産によって「ironowa hiro ba(いろのわひろば)」と命名されたのだそう。あ、これは「ba」と付いているけれど、皆さんが作ったわけではないんですね?

モニュメント「光のファンタジー」は、チームラボ出身のデザイナー・穴井佑樹氏が手がけたもの。夜には光ります!

武藤さん:実は山口不動産が豊島区のパートナーになって、区が整備したこの広場の命名権を買い取ったんです。

もし「ironowa hiro ba」が無かったら、『おおba、またba!』って、ここまで圧倒的な景色になれてなかったと思うんですよ。自分たちの仕事じゃないところまで、あたかも自分たちがやってるように見せるという……(笑)

豊島区は、支払われた命名権料を広場の維持管理に充てているそう。これは全国的に見て珍しい取り組みかも。

武藤さん:行政と民間が、一緒になって街を形づくっていく象徴が欲しいよねって。だから僕らのba05最上階のデザインも(広場と合わせて)リングなんですよ。建築としては施工が大変だし費用がかさむけど、そこに価値を持たせたかった。季節やテーマによっていろんな色に光りますが、豊島区のリングとうちのビルのリングは基本的に同期しているんです。

虹色に輝く広場のモニュメントとba05。

武藤さん:民間だけで突っ走ってもいい街はできないだろうな、っていう直感があって 。お互いに知恵を出し合って、予算が少ない中でどうしたら素敵な街に見えるかな?って一緒に考えていける現区長とは波長がとても合ってるんですよね。

想いの出発点

武藤さんは小学5年生から大学4年生までの間、この街で青春時代を過ごしたそう。母方の家業だという山口不動産は、かつて「池袋から巣鴨まで他人の土地をまたがずに行き来できた」という伝説がささやかれたほど、このエリアに深く根ざしています。

ba01やironowa hiro baができる前の「大塚」駅北口の風景(写真提供:山口不動産)

武藤さん:ba01や03がある土地には、もともと朽ちかけた古い建物が建ち並んでいたんです。コインランドリーだったり、スナックだったり。朽ちて、人がいなくなったら壊して駐車場にして、その繰り返しでした。

そこへ、僕が当時の社員と一緒に一軒一軒まわって、立ち退き交渉をしていって……今思うと得難い経験でしたね。

インタビューはba07の会議室にて。右が武藤さん、左はba01にある「ping-pong ba」スタッフの橋詰さん。みなさま、にこやかにノリよく話してくださいました!

それまで手つかずに近かった土地に光を入れ、再開発に至るまではなかなかの気力・体力が必要だったとお見受けしますが……お話を伺っていくと、どうやらこのプロジェクトは「人とカネを集めるぜ! 」的なギラギラした野望というより、もっとエモーショナルなところに動力源があるようです。

武藤さん:……「大塚」って、これまでにいらしたことありますか?

“大塚っ子” だった武藤さんに言わせると、『どこに住んでるの?』という話題になった時に、まず「大塚」の場所をわかってもらえない。そして仕方なく『池袋のあたり』と表現すれば、途端に『すごーい!』と感嘆される。そんなやり取りのたびに、違和感が募っていったのだとか。事実ビッグターミナルの隣で便利だし羨ましい気持ちもありますが、確かに自分ゴトとして想像してみると、街のアイデンティティはそこじゃないんだー! と言いたくなる気持ちはよくわかるような。

武藤さん:これは僕の原点なんですけど、『大塚に住んでる』って言った時に『わ〜大塚に住んでるの! 超いいね!』って言われたいんです(笑)

おお。生まれ育ったこの街が大好き♡ という街との純愛ストーリーではなく、まさかのコンプレックス渦巻く愛憎ドラマ、とでも言いましょうか……(すみません)。けれど街のことを考えて考えて考えぬく姿は、真摯そのもの。だからこそ、そこに深い省察と戦略的な目線が生まれるんですね。

いやいや、そうは言っても「美味しい」「楽しい」

ここで、もうひとりの「街の先輩」である橋詰さんが「大塚」の街が持っている雰囲気のよさについて語ってくださいました。橋詰さんはba01の地下にある卓球ガストロパブ「ping-pong ba」のスタッフとして、昼夜お客さんと触れ合っています(名刺に書かれている肩書は「エンターテイナー」!)。武藤さん曰く、『僕はあくまで仕掛け人で。こういう現場に立ってる人間が、これから鍵を握っていくんじゃないかな』とのこと!

「ping-pong ba」は料理・お酒を味わいながら卓球でコミュニケーションを楽しむ大人の娯楽場。ダーツやカードゲーム各種、それにちょっと懐かしい往年の名作漫画も備え付けられています(さすが30〜40代に優しい街!)。

老若男女・国籍問わず多くのお客さんが訪れるという「ping-pong ba」。上階のOMO5に宿泊するお客さんはもちろん、近所に住む方や、飲食店の人たちも仕事終わりに顔を出したりするのだそう。『そうやってこのお店が、みんなにとって気軽に集まれる場所になってほしい』と橋詰さんは語ります。

橋詰さん:僕の思う「大塚」のいいところは、まず “食” ですね。個人的にレトロなものが好きなので、昭和の頃からある洋食屋さんや純喫茶がちゃんと残っているのが嬉しいんです。あと、意外と有名なお店が多くて! おにぎりやインドカレー、ラーメンの名店がさりげなく営業されてるのがいいなって。

左上・1971年創業の洋食屋さん「GOTOO」。地元民に愛される大人気店です。/右上・レトロ感漂う喫茶店「BOGEY」/左下・「大塚」といえば、駅の北口にある老舗おにぎり屋さん「ぼんご」も外せません。いつ行っても行列ですが、それでも食べたいお味とボリューム!/右下・本格的なインドカレーが楽しめる「やっぱりインディア」。

南口にある「サンモール大塚商店街」は個人店が多く、古きよき商店街の趣が残っています。一本道ではなく、背の高い雑居ビルの間に放射状に広がっているのが特徴的です。お肉屋さんの看板のイラストが可愛すぎて悶絶!

日本酒好きと言う横川さんからも、『お酒飲む人にとっては天国みたいなところ』とのコメントをいただきました(笑)。 個人経営で美味しいお店が豊富なことに加え、ビールのインポーターや醸造所などもあるので、近年はクラフトビール好きからも熱い視線を注がれているんだとか。

もっと知りたい、リアルな暮らしやすさ

それでは遊びに来る場所としてでなく、住む場所としての「大塚」はどうでしょうか? お話を伺った皆さんの実感としては、タワーマンションの増加に伴い、30代のご夫婦や、お子さんが生まれたばかりの世代が次第に増えているそう。

横川さん:私たちが保有するマンションで言えば、ピンポイントで「大塚」に住みたいというより、きっかけは利便性重視で入居される方が多いんです。「池袋」が近いし、「新大塚」駅から丸ノ内線で「大手町」「東京」に直で行けますから。

山手線&丸ノ内線という、都内の主要路線を押さえている万能感!「東京」も「渋谷」もだいたい20分で行けてしまう恵まれた立地です。(OpenStreetMap contributors

キッズフォトのカメラマンという経歴を持つという橋詰さん、さすがの子育て目線です。

橋詰さん:意外と公園があったり、個人的には結構ファミリーでも住みやすい街だと思うんですよ。駅から街中まであんまり段差がないから、ベビーカーを押しながらでも歩きやすいですし。

左上・「大塚」駅から「南大塚通り」を南下すれば丸ノ内線「新大塚」駅はすぐそこ。その先は「春日通り」に名前を変えます。/右上・商店街のすぐ側にある「天祖神社」。地元の方が絶え間なく参詣されていたのが印象的です。/左下・「豊島区立大塚台公園」では、ヒジャーブを巻いた子どもたちが元気に駆け回っていました。近隣にイスラム学校があるためか、国際色が豊かな点もこのエリアの特徴かも。/右下・公園のすぐそばではハラルフードを扱うスーパーを発見。

「空蝉橋」から見た山手線×スカイツリーのコラボレーション。あぁなんてTOKYO……旅行者じゃなくとも思わずシャッターを切りたくなるスポットです。左手には2020年築のタワーマンション「パークアクシス大塚ステーションタワー」がひょっこり。

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街の歴史と誇り

さて……ここで少し歴史を振り返ってみましょう。そもそも「大塚」は、花街として栄えた街。大正〜昭和初期にかけては、豊島区最大の繁華街として都内でも屈指の盛り上がりを見せたのだとか。時代とともにその香りは薄れていきましたが、現在でも南口の「三業通り」付近にその名残が。

※三業とは、「芸妓置屋」「待合」「料亭」のこと。それらが三位一体となって営業を許可されたエリアのことを「三業地」や「花柳界」と呼んでいました。

左上・ビッグターミナル「池袋」の隣だからか、ビジネスホテルがとても多い「大塚」駅周辺。風俗店や、ビジネスじゃない方のホテルもチラホラ。/左下・2019年にオープンした話題のバー「ニュー秘宝館」! 日本各地の閉館した秘宝館から逸品を集めたという、ディープなスポットです。こちらは開店前の写真ですが、取材後に遊びに行ったかどうかは秘密です。

武藤さん:うちのミッションに「誇りある街を取り戻す」というものがあるんですけど、その誇りって、花街だった頃の賑わいなんですよね。古い世代の大塚の人は、ずっと『昔はすごかったんだよ』って言う。

だから、この街をカラフルに、ユニークにして、みんなに喜んでもらいたいっていう僕たちの取り組みの中でも、ピンクを否定したくないんです。

花街を復興するとは言わないけど、これから、ピンクを現代的にアップデートしたい。できればスタイリッシュにというか、あたかもそうじゃない店なのに……っていうのが理想です。そうしたら、イカガワシイっていうイメージはそこまで持たなくてもいいかもしれない。

こういう話を真面目にしたいんですよ! 盛り上がるのに、しちゃいけないって雰囲気がある。僕は誰もやらないことの中にまだ見ぬ価値があると思ってますよ。

左・可愛い芸者さんがチョコンと載った「大塚三業通り」の看板。/右上・レトロ感漂う「大塚バッティングセンター」&パチスロ「ひょうたん島」のすぐ左手の道を入っていくと、ゆるく蛇行した「三業通り」の始まりです。/右下・現在も芸者さんを呼べる料亭のひとつ「和可月」。どことなく凛とした佇まい!

全国の子育て中の皆さま、思い切って聞いてみましたよ! あのう……先ほどファミリー世帯も増えてきているとお伺いしましたが、そういう魅惑的な大人のスポットづくりのビジョンと、相反しないものなんでしょうか?

武藤さん:例えば、「恵比寿」や「五反田」にも風俗店はありますよね。何かね……そういうのって、あるから絶対ダメではないと思うんです。逆に全くない街って、住むにはいいけど、街の引力というか、出かけて行きたいとは思わないんじゃないかなって。

よくも悪くもいろんな色を否定せず、混在しているぐらいの方が、実は街が魅力的になるんじゃないかと思う。ピンクはちょっとした差し色のイメージですので、安心してください(笑)

いかがでしょうか。個人的にはとても納得し、安心しました♡

これからの「大塚」と一緒に、ワクワクしてほしい

南口を走る路面電車。横切ってゆくたび、レトロなムードがフワリと舞い上がるような。隣駅「向原」までの線路沿いには様々な品種のバラが植えられ、例年春には「大塚バラまつり」が開催されます。

うーん、めくるめく街「大塚」。画一的でなく、個々の色を大切にしたアプローチによって、古きよきものと新しいもの、みんなに明るい日向と、ディープな日陰……お互いが引き立てあい、街の中に強い補色効果が生まれています。クラクラするけど、その絶妙なバランスがまた気持ちいい。

北口にて「ironowa hiro ba」のカーブに腰掛ける人を発見。新たなランドマーク、ba05の前で待ち合わせでしょうか?

武藤さん:もっともっと面白い街にしていけるように頑張るので、ぜひ温かく見守ってもらえたらと思います!

街の先輩は、まだこれからも「大塚」は変化を続けていくと楽しそうに語ります。この街に飛び込んで思い切りそれを享受するなら、今なのかもしれません。

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【INFOMATION】
店名:ping-pong ba(ピンポンバ)
アクセス:東京都豊島区北大塚2丁目26番地1 B1F ba01 (google map
TEL:03-3918-6851
営業時間:平日11:30 - 15:00,17:00 - 22:00 / 土・祝11:00〜22:00 / 日11:00〜21:00
定休日:月曜日

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