中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。

今回訪れたのは、建築家とコラボして未改装の物件にフルリノベーションを施した武井さん一家のご自宅。「暮らしの中で自然の光をいかに感じられるか」をテーマとした工夫が盛りだくさんの住まいです。


設計を担当した竹味佑人建築設計室提供の武井邸のムービー

北区・赤羽エリアの台地に建つ築27年(取材時)になるマンションの角部屋。南東に面する5つの窓を一体化するように設えた、木を基調とした窓辺空間が特徴的だ。

武井家は、左から光さん、結ちゃん、梨紗さんの三人家族。結ちゃんが生まれるタイミングで未改装の物件を購入し、リノベーションを施した

ご主人の武井光さんは、オフィスや工場といった大規模建築を手掛けるゼネコン設計部の建築士。かねてから自分の住まいを自らの設計でリノベーションしたいと考えていたそう。

計画にあたっては、住宅設計や木の扱いに長けている建築家の竹味さん(竹味佑人建築設計室)とタッグを組んで設計に臨んだ。

武井さん:自分ひとりで設計に没入するよりも、コラボレーションした方が面白いものができるんじゃないか、と考えたんです。

左は、共同設計者の竹味佑人さん。武井さんの大学時代の先輩なのだそう

窓際のランドスケープ

マンションは開けた土地に面し、地上4階のこの部屋の窓先には開放的な景色が広がっている

武井さん:物件購入の決め手となったのが、荒川の爽やかな風が吹き抜け、眺望のよい窓辺だったんです。この窓辺を生かすことから設計をスタートさせました。

キーワードは、『窓際のランドスケープ』。5つの窓を手掛かりに、窓際に気持ちのよい生活の場をつくることを目指した。

間取りは2LDK、延べ床面積は60㎡。羽目板張りの壁面、木の造作カウンターや窓上シェルフなど、窓周りを木で統一し、一体感のある印象に仕上げている

竹味さん:5つの窓が別々に存在するのではなく、あえてひとつの大きな窓の中に5つの穴があいているような意匠をつくりました。

マンションのリノベーションでは戸建ての場合とは異なり、開口部自体に手を加えるような工事はできない。そこで、窓同士に一体感を持たせ、新しいひとつの窓として解釈し直すことで、ある種 “マンションリノベらしからぬ空間” を実現したという。

壁際の棚は、無印良品の収納家具がぴったり収まる内寸に設計。窓上のシェルフには、絵画や本などお気に入りの品々をディスプレイしている

■窓枠を通じて、内部環境をどうよくするか

竹味さん:豊かな生活を送るためには、「暮らしの中で自然の光をいかに感じられるか」が重要だと思うんです。

開口部に手を加えられないということは、室内に入る光の量があらかじめ決まっていることを意味する。その限定された光をどれだけ内部環境に取り込めるかが設計の要となった。

カウンターは窓台の高さに合わせて造作。建築士という職業柄、図面を広げることが多いためスペースはゆったりめ。開放的な景色を見ながら仕事をしていると、とても作業が捗るのだとか

竹味さん:窓辺にはデスクや棚といった機能を持たせながら、天板に外の光を反射させたり、室内に明るさを感じさせるデザインを施しています。

窓上に連続するシェルフにも角度をつけて、光がより目に入ってきやすくなることを意図した。この住まいには、こうした「光」を操る工夫が随所に散りばめられている。

シルバーに仕上げられた壁が目を引くダイニング。ペンダントライトはルイス・ポールセンの「PH5」

武井さん:ダイニングでは壁に向き合うことが多いので、狭さを感じないように奥行き感の出るシルバーの壁を使いたかったんです。

竹味さん:プランニングの過程で唐突に出てきたアイデアでしたが、窓からの光を拡散させる点でも有効な手段として設計に落とし込みました。

緑で彩られた窓辺。窓上のシェルフに植物をハンギングしている。掃き出し窓の前は光沢感のあるタイル敷き。

武井さん:室内に植物の居場所をつくりたかったので、窓辺をベランダの延長として使えるようにタイルを敷いています。

実はこのタイルも、部屋を明るくする工夫のひとつ。光をよく反射するように真っ白で艶のあるタイルを厳選したとのこと。

小上がりの隣は、寝室兼クローゼット。室内がなるべく広く感じられるよう、LDKと一続きの空間としてつくった

武井さん:東面の窓からは気持ちのいい朝日がズドーンと入ってきます。いつも朝になると娘が「起きろ〜! 」という感じで寝室の引き戸を開けるので、爽やかな気持ちで一日を迎えられるんですよ。

寝室は引き戸をすべて閉めれば、適宜クローズドな空間にできる

武井さん:僕は田舎出身で、外と中が  “ツーツー” な家で育ってきたので、そんな外の様子を身近に感じ取れる環境をこの家でもつくりたいという想いがありました。

室内に光を積極的に取り込み、時間や天候といった自然環境の変化を日々敏感に感じることが、健康的な暮らしに繋がっていると武井さんは語る。

撮影には、結ちゃんも元気いっぱいに協力してくれた

武井さん:娘も光の変化に合わせて、一日の中で居場所を変えながら過ごしています。日の入る暖かい場所で遊んでいたり、自分なりに環境の変化を楽しんでいるのかなと感じます。

溌剌(はつらつ)とした様子で過ごす結ちゃんの姿は、閉塞しがちな都市生活の中でも自然環境を肌で感じ取れるライフスタイルを送ることが、子どもたちの成長においても重要な要素ではないかと感じさせてくれた。

■今後の改修も見据えた可変的小上がり

上・小上がりには宙に浮いた鴨居を設けており、カーテンをつければ臨時的な個室として使用できる。左下・小上がりの下は高さ最大60cmの大容量の収納。右下・ケーブル類をすっきりとしまえるコンセント内蔵の穴を仕込んでいる。照明は奥さまお気に入りのイサム・ノグチの「AKARI」

武井さん:この鴨居は、今後の改修への手掛かりでもあるんです。今後、個室を増やしたくなったときには引き戸をいれることも考えています。

これからのライフステージの変化に合わせて、この住まいをどう住みこなしていくかが楽しみなのだとか。

■異素材が同居する表情豊かな水まわり

竹味さんによれば、素材使いもこの家の特徴なのだという。

竹味さん:あえて異素材を同居させることで、いろいろなものを受け入れやすい寛容な環境としました。

「木」「シルバー」「打放しコンクリート」がこの住まいの主要な要素であるが、そのルールから外れた素材を要所要所で使うことで、生活を送る中で増えていく物たちも、場に自然と馴染んでいくそうだ。水まわりには、奥さまがセレクトした数種類のタイルを散りばめている。

上・造作のアイランドキッチン。奥に見えるパントリーの棚は追加でDIYしたもの。左下・玄関からキッチンまで土間を連続させている。パントリーを土間に設けたことで食料品の収納がスムーズに。壁面は手を加えやすい有孔ボードやラワン材のラフな仕上げとした。右下・リビング側と床の高さが異なるため、キッチン側にある窓辺のカウンターは立ち仕事に適した高さになっている

ステンレス製の吊戸棚は、既製品のレンジフードに高さを合わせて竹味さんが設計図を描き、特注で製作。25mm角のアングルを用いて、細く馴染みよく造られている

壁と天井は珪藻土塗装、床材は亜麻仁油などを原料に作られるリノリウム。調湿性の高い自然素材を選んでいる

武井さん:洗面には窓がないので、清潔感がありキラキラした爽やかなインテリアに仕上げています。

■設計を振り返って

図面を見ながら、設計当時を振り返るおふたり。武井さんがプランニングの原案をつくり、それに対して竹味さんが数パターンの提案を出しブラッシュアップを図るかたちで設計を進めていったという

建築家は、それぞれが独創的なアイデアや引き出しをもつもの。武井邸は、ふたつの個性が干渉するのではなく、うまく融合した結果、「光を操る」というユニークなライフスタイルを生んだ好例だ。その下支えとなったのは、お互いに対するリスペクトの念だろう。

コラボレーションにおいて、考えうる他の可能性をお互いに投げかけ合いながら、検討を重ねることが肝要だったと語っていた。

取材当日はあいにくの悪天候ながらも、光に満ち溢れ明るく健やかな暮らしぶりが印象的だった武井邸。今後の暮らしに合わせてどのようにカスタマイズされていくかも楽しみだ。

―――――物件概要―――――
〈所在地〉赤羽
〈居住者構成〉3人家族
〈間取り〉2LDK
〈面積〉60㎡
〈築年〉築27年(取材時)
――――――設計――――――
竹味佑人建築設計室+武井光
〈WEBサイト〉http://ytaw.jp/ (竹味佑人建築設計室)