中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。
今回は、カウカモ の「リノベーションプランニングチーム」でプロデュース物件の設計に携わっている後藤紗希の自邸を訪ねました。
■マンションの最上階、とある一室で
「祖師ヶ谷大蔵」に建つ、築37年(取材時)のマンションの最上階。そこには古材建具(※)や和家具が織りなす古民家の空気を帯びた住まいがあった。そして、その住まい手であり、設計者でもあるのが、カウカモスタッフの後藤だ。今回は、物件購入からリノベーションのエピソードまでを掘り下げていこう。
(※ 建具=ドア)
後藤:ずっと自分の家が欲しくて、せっかくならばリノベをしたいなと。
Yさん:実はもともと “賃貸派” だったのですが、リノベ済み物件の内見に連れて行かれるうちに『賃貸では手に入らない暮らしができるな』と、だんだんその気になっていきました(笑)
住まいの所在地は、世田谷区の「祖師ヶ谷大蔵」。エリアに求めた条件は「砧公園」に近いこと。なんでも、それはYさんのご趣味に起因するのだとか。
Yさん:トレイルランニング(※)が趣味なので、クロスカントリーコースのある公園の近くに住みたかったんですよね。23区内で土の上を走れるのは、砧公園か代々木公園くらい。砧公園のコースは起伏があって、山道を走る感覚に近いんですよ。
5、6年後に売却を見据えているため、広さはいま必要十分な50㎡程度、ルーフバルコニー付きを条件に探し、この物件にたどり着いたのだそう。
(※トレイルランニング:登山道などの舗装されていない道を走るスポーツ)
■古民家暮らしに憧れて
「古民家和リノベ」と題された今回のリノベーション。コンクリート造のマンションの一室ながら、どこか “田舎のおばあちゃんち” のような懐かしい空気が漂っている。
後藤:私の将来の夢は古民家に住むことなんです。今回は都内のマンションでそれを実現しようと思って。この住まいを通じて「古民家和リノベ」が増えたらいいなと、参考にしてもらえるような空間を目指しました!
Yさん:僕たちはふたりとも前川國男邸(※)の設計が好きで、和のテイストを感じられる住まいをつくりたいという想いがありました。それに、秋田にある実家が築50年ほどの一軒家なので、古道具がある空間って違和感なく馴染めるんですよね。
(※日本の近代建築の第一人者である前川國男氏の木造の自邸。現在、東京都指定有形文化財として「江戸東京たてもの園」に移築・保存されている)
古民家が特集された雑誌を読み漁り、「何が家を古民家たらしめるのか」を考えたところ、一番重要なのは「建具」だという結論にたどり着いたと話す後藤。
後藤:古材建具は、新木場にある古材を扱う「ひでしな商店」で調達してきたものなんです。当然そのままでは寸法が合わないので、建具屋さんに調整してもらう必要がありました。今回は自分で図面を引いて建具屋さんとやりとりしたのですが、それがもうめちゃくちゃ大変で…… その作業は業者さんに依頼することをおすすめします(笑)
後藤: 「古民家和リノベ」 なので、家具も古い和風のものを中心に集めました。
引越し前に家具がおおかた入っている状態を目指して、家具選びは設計段階で配置を計画しながら行ったそう。
後藤:和風な空間って重心を低くして、視線を横につなげることが大事だと思っていて。長手方向の奥行きを感じるように床と天井を木板張りで仕上げています。
色の濃い天井は、低さと圧迫感が強調される一方で、床と天井にサンドイッチされたような安心感が得られるんです。
それに、もし天井が白かったら和家具や古材建具があまり馴染まなかったかも。
マンション最上階の住戸のリノベーションでは、居住性向上のため天井に断熱材を入れる場合が多い。最上階でなければ天井の躯体現しを検討したのかもと後藤は話していたが、かえってこの木板張りの仕上げが 「古民家和リノベ」の雰囲気をぐっと引き立てているように感じた。
■随所に光る “カウカモ流 リノベノウハウ”
なるべくローコストで真似しやすいリノベーションもテーマだと後藤は続ける。
後藤:たとえば、左官壁にしたかったリビングには、マットで左官壁に近い質感のある「モリス ヘリテージカラーズ」というクロスを貼るなど、素材感を損ねず値打ち感のあるものを採用するようにしました。
もっと言えば、ここはフルリノベではなく、“ハーフリノベ” というべき事例かもしれません。配管は3年前に更生工事が完了していたのでそのまま使っていますし、トイレや洗面も一度リノベされていたので、既存のものを利用しました。使える設備はなるべく残してコストを抑えられるように設計しています。
さらに、この住まいからは「SELEC」というリノベプラン付き物件のプランニングを担当していた後藤ならではの工夫を随所に見ることができる。
■窓辺チル
後藤:SELECには “光と風を感じる家” をコンセプトにした「窓辺チル」というプランがあるのですが、この小上がりはその要素を取り入れたものなんです。
ここを全面ワークスペースにする選択肢もありましたが、リビングの余白になるような場所をつくりたかったんですよね。
■ライフワーク
Yさん:リモートワークになって、ワークスペースをつくって本当によかったなと思っています。オンオフの切り替えがしやすいし、なにより集中できます。
■キッチンチャット
Yさん:もともと料理は好きだったのですが、前の家はキッチンが狭くて使いづらくて…… オープンで便利なキッチンになったので、今は料理がすごく捗ります!
リビングに対面したオープンな造りは、“人が自然と集まるキッチンを囲む家” がコンセプトの「キッチンチャット」というリノベプランがベースになっているのだ。
■ “壁式構造” の魅力とは
この住まいのもうひとつの特徴が、荒々しいコンクリート壁だ。そんな壁に関するトピックもひとつご紹介しよう。
この物件の構造形式である “壁式構造” は、リノベーションにおいて間取りが変更しづらいため好まれないケースも多い。しかし『この壁をうまく “味” にできれば面白い空間になるのでは?』と思い、この物件の購入に至ったのだと後藤は語る。
後藤:RC造の建物の構造形式は、柱・梁で構造を担う “ラーメン構造” 、その名の通り壁で構造を担う “壁式構造” があります。ラーメン構造は、内壁を取り壊して間取りを変更しやすいメリットがある一方で、柱・梁の凹凸が室内に現れてしまいます。もし、既存の間取りが気に入っているなら、すっきりとした空間をつくりやすい壁式構造もおすすめです。それに、躯体現しの質感を楽しめるのも壁式のメリットですよ。
■リノベ暮らしを日々満喫
この住まいでお気に入りの過ごし方を尋ねてみると、後藤は宝塚歌劇の演劇鑑賞、YさんはF1やスポーツの観戦を大スクリーンで楽しむことだと話してくれた。
Yさん:スポーツ観戦も大画面だと臨場感が段違いですね。このスクリーンは僕のこだわりで付けたので、プロジェクターの配置は僕が考えました。天井の隅に固定棚を取り付けて、斜め上から投影しているんですよ。
後藤:実はプロジェクターって、オンオフの切り替えにもいいんですよ。正直、在宅勤務だと定時後でもテレビを見ながらだらだらと仕事してしまいがちだったんです(笑)。でもプロジェクターを使うには部屋を暗くしなきゃいけないので、自然とメリハリをつけて行動するようになりました。
Yさん:実はトライアスロンも趣味で、ロードバイクにもよく乗ります。ここから下ろすのがちょっと大変なんですけどね(笑)
最後に忘れてはならないのが、この住まいの目玉のひとつである特大ルーフバルコニーだ。アウトドアチェアやテーブルが並び、ビアガーデンさながらの休日を楽しめそうだ。
Yさん:これからは、このルーフバルコニーをもっと充実させていきたいですね。ビールが好きでホップを育てているのですが、それを手すりに這わせて目隠しがわりにしようと試みてます。ゆくゆくはドライガーデン(※)も造ってみたいなと。
(※ 乾燥地帯に生育するサボテンなどの多肉植物を中心に植栽したガーデニングのこと)
他にも、『外壁にスクリーンを設置して野外映画館風に』などこれからの楽しみをたくさん語ってくれたふたり。リノベーションの工程も住み始めてからも、住空間を楽しんでつくりあげていく暮らしぶりがとても印象的な取材だった。これからどんな進化を遂げていくのかに期待だ。
―――――物件概要―――――
〈所在地〉祖師ヶ谷大蔵
〈居住者構成〉2人家族
〈間取り〉1SLDK
〈面積〉48.85㎡
〈築年〉築37年(取材時)
――――――設計――――――
〈設計〉後藤紗希
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撮影:戸谷 信博/取材・文:本多 隼人