中古のマンションを購入することの魅力ってなんでしょう?

新築に比べて価格が手頃だから? もちろんそれは大きな理由のひとつかもしれません。でも、新築ではなかなか実現できないデザインやこだわり抜いた設備・間取りでより自分たちらしい暮らしをしたいと、積極的に中古物件を探す人は増えているのではないでしょうか。

とはいえ、市場に出回っている中古マンションは、まだまだ無難なプランの物件が多いのも事実。そんな業界に新風を吹き込むべく、大手の中古マンション買取再販会社が立ち上がりました!

今回おじゃましたのは、等々力の築37年のマンションの1室。年間300戸近い中古物件の売買を手掛けるタイセイ・ハウジーリバースと、リノベーション界の老舗であるブルースタジオのコラボレーションにより実現した、感性溢れる住まいです。

物件の担当であるタイセイ・ハウジーリバースの富岡健悟さん、同じくコーディネーターの田中美沙子さん、そしてブルースタジオの執行役員 石井健さんに、この物件の誕生のきっかけや魅力について語っていただきました。


左から、デザインリノベーション業界の重鎮と言えばこの人、ブルースタジオの石井健さん。石井さんの語る言葉は、ひとつひとつが素敵な暮らしを形にするアイデアに溢れています。中央の田中さんは照明メーカーで照明計画を長年提案してきた経験から、インテリア全般に興味を持ち、リノベーション業界に転職。暮らしに彩りを添えるエッセンスを取り入れた住まいづくりを目指しているとのこと。右端の富岡さんは、年間約30件もの物件を仕入れから内装、販売まで一貫して担当。年間取り扱い件数社内ナンバーワンのトップセールスマンです。


こちらの物件が建つのは、自由が丘も徒歩圏内、目の前には目黒通りが広がり、物件のすぐ向かいには高級食品スーパーの紀ノ国屋・・・という魅力的なロケーション。わくわくしながら扉を開けると、モルタル敷きの玄関の左側に、土間空間が広がります。自転車なら3台ぐらいは余裕で置けそうですし、インナーガーデンとして観葉植物をたくさん置いたり、アウトドアグッズ置き場やホビールームにしたりと、いろいろな使い方ができそう。

「さらに、将来的には壁で仕切り、独立した個室にすることも可能なんですよ」と富岡さん。なるほど、家族構成や用途に合わせて間取りを変えることも想定した、フレキシブルなスペースでもあるのですね。

左・土間からLDKまでの廊下。右側にサニタリーが収まっています。/右・天井板が取り去られ、天高が確保された土間空間。共用廊下に面した窓を開ければ、心地よく風が吹き抜けます。


玄関からLDKに続く廊下の左側には、ウォークスルークローゼット。そしてその奥には寝室が続いています。ぱっと見た感じは斬新なレイアウトのようですが、実はとてもよく考えられた動線です。

土間と寝室の間にあるウォークスルークローゼットは、引き戸でつながっています。帰宅してすぐ着替えるのに便利ですし、将来は子ども部屋と夫婦の寝室の両方向から使うこともできます。

弊社はこれまでファミリータイプを中心に、より多くの方に受け入れられやすい間取り、つまり「なるべく部屋数が多く、ひと部屋の広さもそこそこ確保、残りを最低限の収納に」というプランを供給してきました。しかし今回は、ブルースタジオさんに設計を担当していただき、まったく逆の発想のリノベーションに挑戦したんです。僕自身、この業界に11年いますが、標準的な物件をたくさんつくって供給するだけでなく、もっと自由度が高くてデザイン性がある中古物件づくりをしたい、業界大手である弊社がそのような挑戦をすることで、業界に新しい風を吹き込みたいという思いもありました。そこで、リノベーション業界では知らない人がいないブルースタジオさんにラブコールを送りました。(富岡さん)

ウォークスルークローゼットとリビングの間に位置する主寝室。(家具は展示用で、本物件に付設しません。)

石井さんも、オーダーメイドのリノベーションや注文住宅を求める人と、既存の住宅の間には大きな乖離(かいり)があると指摘します。

中古物件を購入してリノベーションする方の大きな傾向として、部屋数を少なくすることが多いんです。たとえば60㎡で3LDKだった間取りを2LDKに、人によっては1LDKにしたいというケースもあります。また、みんなが集まるリビングは広くして、そのぶん、個室は狭くてもいいという人も多い。そして、広い収納もニーズが高く、リノベーションをする人の多くが、もとの間取りの倍の収納スペースを確保します。こんなふうに、市場に多く出回っている中古物件と、住みたいと思っている住宅はほぼ逆なんですね。このギャップを近づける形はないか、中古物件の「新常識」を作れないか、と考えたのが今回の物件なんです。(石井さん)

南向きのバルコニーに面してゆったりと取られたリビングスペース。休日には友人をたくさん呼んで、ホームパーティもできる広さです。


南向きのバルコニーいっぱいに広がる、等々力の街並み。まっすぐに延びる道路が壮快です。


個性的になりすぎず、"自分たちらしい住まい"にこだわる方のニーズに応える。おふたりの熱い語りには、その並々ならぬ思いがほとばしります。

キッチンは、奥にはコンロ、手前にはシンクと、ふたつに分散されたⅡ型キッチンを導入。

タイセイ・ハウジーリバースさんの要望で、キッチンはかなり気合いを入れました。自由が丘はスイーツのお店や飲食店が多いし、目の前には紀ノ国屋もある。ここに住む方は食に関心が高い人だと考えたんですね。できあがってみたら、最初に想定していたよりもさらに豪華になりましたが(笑)。(石井さん)

キッチンは「Ⅱ型」と呼ばれる、コンロとシンクが振り分けられたものを造作していただきました。このようなキッチンも弊社としてはかなり大胆なチャレンジでしたね。これまでの作り方ではきっと、アイランドキッチンと壁との間も、冷蔵庫や食器棚を置くスペースに活用したと思うんです。でも今回はそこを、あえてデザイン性を前面に出し、回遊できる造りにしました。食洗機も贅沢なんじゃないかと石井さんに言われましたけど(笑)、僕はどうしても付けたかった。シンクまわりに水切りかごを置くのは、この物件には合わないと思ったんです。洗い物はすぐ食洗機に入れられて、乾いたら食洗機からそのまま食器棚にしまうというスタイルがいいなと。(富岡さん)

天然石を惜しげなく使った床や、無骨な足場板をあしらったアイランドキッチン。


Ⅱ型キッチンは作業スペースが広く取れるのがメリット。ダイニング側にはスツールを置いてカウンターテーブルにしても。


左上・コンプレックスの艶やかなサブウェイタイルがさわやか!/右上・使い込まれた本物の足場板を使って造作したアイランドキッチン。ラフな質感が絶妙な味わいになっています。/左下・土間スペースの奥の壁には、おしゃれで便利な有孔ボードが下げられていました。/右下・洗面コーナーは清潔感あふれるモザイクタイル貼り仕上げ。


ダイニングの右側の白壁の奥には、主寝室が収まっていますが、壁にはめ込まれた角窓がとってもキュート! さらにこの窓、見た目がおしゃれなだけではなく、とても重要な役割を果たしているんです。

ここに窓を設置した理由は3つ。まずダイニング側から見たときに、ここが壁だけなのではなく、窓が設けられていることで、空間がより広く感じられます。2つめは、主寝室がコンパクトなので、窓をつけることで主寝室内の圧迫感を軽減。そして3つめが一番重要なポイントなんですが、キッチンに立ったときに、角窓からリビングと主寝室の両方を見渡すことができるんです。(石井さん)

角に窓をはめ込むことで、圧迫感をなくし、キッチンからLDK全体を見渡すことができるようになりました。

たしかに、ここが白壁のままだったら、キッチンから見た風景がとても狭苦しいものになっていたはず。キッチンに立ったときの心地よさの理由は、このこだわりの窓にあったんですね。

左・ウォークスルークローゼット内の棚は、高さが自由に変えられます。/右・土間スペースと寝室とはそれぞれ引き戸でつながっています。


石井さんが次々に出してくださるアイデアは、ひとつひとつが弊社にとってはかなりの冒険でしたが、本当に勉強になりました。

たとえば、石井さんがウォークスルークローゼットと主寝室をカーペット敷きにすることを提案してくださったんですが、正直、最初は社内で戸惑いの声が上がったんです(笑)。今の住宅はオールフローリングが基本中の基本で、カーペットは敬遠される傾向があるからです。でも、ここをあえてカーペット敷きにすることで、うまく空間がゾーニングされること、土間からカーペットへの切り替えによってプライベート感が増して、気持ちも切り替わること、カーペットには吸音性があるので、リラックスして眠りにつけることを石井さんから教えていただいて、なるほど〜! と納得しました。やっぱりここはカーペットが断然いいですよね!(田中さん)

石井マジックはこれだけにとどまりません。たとえば、LDKにつながる廊下に設けられた、アーチ壁の空間。少し奥まっていて、なんだろう? 興味をそそられます。そこにはトイレが収まっていました。

左・LDKの扉の手前には、アーチ壁の少し奥まった空間が。何があるんだろう? と興味をそそられます。/右・アーチ扉の向こうはトイレでした! こってりとしたグリーンの塗装がよく似合っています。

バスルームと洗面コーナーへの扉と同じように横並びになっていたら、廊下がただ真っ直ぐな面白みのないものになってしまう。少し奥まった空間を作って、アーチをくぐっていくようにしたことで、すごくプレミアム感が出るんだということを学びましたね。(田中さん)

ちなみにトイレの壁の深いグリーンの塗装は、田中さんの提案とのこと。石井さんに刺激をうけて、自らもこれまでは提案したことがなかった冒険的なアイデアを提案したのだそう。

アーチをくぐっていく先の籠り感があったので、トイレの中が白壁だったらつまらないと思ったんです。石井さんのプランでは白壁だったんですが、ここは絶対濃いグリーンがいい!と強く主張しましたね(笑)。(田中さん)

水まわりはシンプルに。特にきりっと直線的なフォルムのバスタブは、高級感があってかつお手入れもしやすい気がします。


いかがでしたか? 魅力的なロケーションに、遊び心がたくさん詰まった住空間。とびきり素敵な自由が丘ライフは、ここから始まります!

左上・自由が丘駅へは徒歩20分強。休日のたびに足を延ばしたくなります。/右上・自由が丘はおしゃれな家具や雑貨のセレクトショップがいっぱい。「IDEE」は2階にカフェが併設されています。/右下・カジュアルモダンな家具が揃う「ACME」もあります。/左下・ライフエディトリアルブランドのCIBONE(シボネ)がプロデュースした雑貨ショップ、「today's special」も。日々の暮らしが楽しくなるアイテムがいっぱいです!


左上・昭和50年代の上質な暮らしを形にしたような白亜の館。/右上・マンションのすぐ向かいには高級スーパーマーケットの紀ノ国屋が。/右下・等々力駅から物件までの道のりにはユニクロも。近くにあると重宝しますよね。/左下・紀ノ国屋の隣にはスーパーの西友。日用品もそろっていて便利です。


取材・文 吉田タカコ/撮影:cowcamo