建物名に「パーク」の言葉をいただく今回の物件。でも、パークサイドマンションとかパークビューマンションと聞いて、実際に行ってみると部屋から公園のグリーンを綺麗に見られないとがっかりしたことがある人も多いのでは? 確かに公園のそばに建ってはいるけど、階数や開口部の角度などでなかなか美しく見られるお部屋はなかなか少ないようですね。

この物件は2階に位置し、南側に向いた大開口の先にはドドンと公園の木々。こんな物件はめったにないと驚き、モチベーション上がりまくりでプランニングしたと話すのは、ゆくい堂の山下直樹さん。

会社立ち上げ以来、ボスの右腕的存在の山下さんは、ゆくい堂の頼れるアニキ。職人さんたちにも慕われていそう。

施工を始めた時期には、この公園ではたくさんの大木が紅葉していて、玄関を開けた瞬間、視線がそのまぶしい木々に引き込まれ、本当にびっくりしました。この部屋が2階だからこそ、見下ろす緑でなく、包み込まれて、引き込まれ、空間と溶けあうような緑なんですね。この稀有な「借景」を活かさない手はない。自然を内空間に取り込まないとバチがあたるなと・・・・。

と、朴訥と語り始めてくれた山下さん。外見は一見すると、ちと怖そうなアニキ(失礼!)。でも、お話をしてみると、とっても腰が低く温厚で、大人になっても冒険心と茶目っ気を忘れない少年の心を持った人、という感じ。大胆な面と繊細な仕事ぶりのバランス感がとてもよく、この住まいにかける熱い思いはスゴイの一言です。

マンション前の広々とした公園は都会のエアポケットのようで癒されます。これで真冬の緑なので、春になったらスゴイことになりそう。

玄関を開けて、廊下の両側をスッキリとしたラインで見せ、リビングとベッドルームをゆるやかに仕切るクリアガラスの格子窓にしました。すべては公園の自然を引き込むために。

そういえば、肉眼で美しい公園の緑や桜、紅葉を見た時、「ダイナミックで美しい」と脳は判断するそうなんですが、京都のお寺にあるような格子窓越しに名庭園を見たような時には、格子で切り取られた分、脳内予測やファンタジーも手伝うのか、「凝縮された美」を感じると言われているんだそうです。
この格子窓の仕上がりには満足しています。無垢のフローリングはしっかりして木目がいい感じで、何年経っても飽きないナラにしました。

玄関方面を見ても、スッキリとしたラインが続いているのが分かります。萌えます。

フローリングの美しいナラ材の目が窓に伸びているのと同じナラ材の室内の格子窓がとても印象的でこの空間のキーになっていると思いました。

実は、取材した時期はマンションの大規模修繕工事中。こちらマンションはこの地域でも例を見ないほど管理が行き届いていて、定期的にメンテナンスが行われているのだそう。サッシや玄関ドアは交換されたばかり。厚板複層ガラスが入ったペアガラスのサッシはグレードの高いものが使われていて、結露防止やエアコンの効率アップに役立ちます。

本来の窓からの眺め。現在は大規模修繕工事で外囲いが付いてしまっていますが、新緑の季節になったら緑がお披露目されます。(写真提供:ゆくい堂)

大規模修繕の一環である外装メンテナンス工事のために、窓の外にはメッシュの幕が降ろされ、残念ながら取材の際には公園の木々を部屋から眺めることはできませんでした。

でも、メッシュの幕越しからでも豊かな公園の自然は感じることはできました。キッチンに立っていてもグリーンを楽しみながら調理ができます。春になると桜が咲き、夏はマロニエの緑が涼やかで、秋には紅葉も楽しめます。滝、池などの水施設もあり、都会のオアシスのようです。

左・玄関の右側はただの白い壁のように見えますが、大容量の靴収納と個室への扉が潜んでいます。/右・どこから入るのか一瞬分からない、隠し扉のようなドアからアクセスする4畳の個室。

一方、公園の眺めを活かすプランニングだけでなく、空間のディテールにもこだわり抜いています。

玄関を入ってすぐ右側にあるシューズクローゼットの扉と4畳の個室に入るドアを、一枚の白い壁にみえるようにフラットに仕上げています。また、反対側にあるトイレ・洗面・バスルームに入る引き戸には、ソリッドな木を使いました。シンプルな木の引き戸が、白い壁に浮いているように見せたかった。
この、玄関から廊下の両サイドの仕上がりはとても気に入っています。

左・バスルームはシンプルな白いユニットバスを新設。/右・木のボックスで囲まれたような洗面台。木の面には収納が隠れています。

よくよく見てみると、白い壁はちょっとマットな独特の質感をしています。STANDARD TRADE.やTRUCK FURNITUREなどの、無垢材を使いながらもソリッドな家具がとても綺麗に映えそうだなと思いました。そんな男前なインテリアテイストがお好きな人にはグっときそうです。

マットな質感の白い壁は、実は塗装と塗装風クロスを使い分けているんです。塗装風クロスは非常に薄いクロスで、左官屋さんたちの見事な仕事で綺麗に貼ってもらいました。

実際に近くで見ても、塗装部分とクロス部分は違いがほとんど分かりませんでした。白は白でも、奥行き感を生み、視覚的効果でより空間を広く見せてくれるマットな白を選んだというのも、山下さんのこだわりです。

"魅せる"配管付きの壁。エッジが効いていて素敵ですね〜。イタリア・SMEG社製の冷蔵庫は「表に出して置いても空間に似合うものを」ということで備え付け品として用意。

その白い壁の反対側、キッチンからダイニングに伸びる壁はモルタルの左官仕上げです。少し無骨だけど、陰影の深さはまるでオランダ絵画のようでアーティスティック! アンティーク家具やスタイリッシュなフラワーアレンジメントの背景にマッチしそうです。その壁から伸びるアルミ色の配線管も現代アートのようです。

普通はコンクリートの躯体の上に下地材をつくって、その下に配線をしますが、空間を少しでも広くするために躯体に直に仕上げを施しています。なので、配管がどうせ見えるなら大胆に見せちゃえ、ってことで、壁に這うようなデザインにして遊んでみました
照明もこの配管とマッチするようなインダストリアルなものを選びました。この空間に住む人には、蛍光灯の白い灯りは似合わないと思い、小さなあたたかみのある照明を多灯使いしています。もちろん、入居後にお好きなペンダントライトにチェンジできますが、夜でもオレンジ色のあたたかい癒される灯りで、公園の木々の葉のかすれる音に耳を傾ける、なんてのもいいと思います。

ふたり暮らしなら、ここにベッドルームを置いて。鳥のさえずりでさわやかに目覚めることができそう。

この物件のある大森の魅力や雰囲気、利便性に関しては、同じく大森にあるゆくい堂さんのリノベーション済み物件、「 ごっつくて愛おしい奴」もご覧ください。徒歩10分圏内に2駅あるだけじゃなくて、巨大スーパーとしながわ水族館が徒歩圏内の稀有なロケーションなんです。

左上・JR大森駅の東口。駅前には飲食店も充実。/右上・大森駅東口から物件へ行く途中にある西友。/左下・物件から京急・大森海岸駅方面に徒歩3分のところにはイトーヨーカドーも!/右下・京急の大森海岸駅までも徒歩6分なので羽田へのアクセスも超便利です。


左上・改札を出てすぐに買い物ができる大森駅のアトレも便利。/右上・大森駅西口を出ると目前には神社の緑!/左下・大森駅西口側は、大正末期から文人や文化人が多く住んだ、馬込文士村と呼ばれる馬込・山王エリア。/右下・下町っぽさの残る西口の商店街もてくてくと家族で散歩するのも楽しそう。

最後に、モノが多くて捨てられない私が個人的にアゲアゲポイントだったのが、コンパクトな平米数ながら、収納スペースがたくさんあったこと!

あら、こちらにも、ここにも!! という感じで、鎧戸の両開きの大きなクローゼットのほかにも、キッチンの足元はフルオープンになっていてワゴンなど可動式の収納を置けそうだし、壁に設置されたアイアンの棚受けとナチュラルな棚板で構成されたシェルフも見せる収納が楽しめそうだし、キッチンの手前やトイレの天井側など、ニッチなスペースにもさりげなく収納を設けてくれているのが心憎い。

ソリッドな仕上げの造作のキッチン。コンロは左手側の壁の裏にあります。手前のニッチ収納に食器やグラスを飾ってみたい。

やはり住み続けていくうちにモノが増えてしまうので、隠すものは隠せるように収納をとっています。ハコモノの収納を買わなくてもスッキリ住めると思います。

バルコニー側のセミオープンなスペースは、ベッドを置いて使って欲しいと考えているんですが、 将来的、壁で仕切れば個室にもできるし、子どもが小さいうちは子どもスペースとしても使ってもいいし、いろいろとフレキシブルに対応できるようなスペースにしています。
個人的に好きなポイントは、どうってことないところなんですが、ベランダ前の窓の逆梁部分に貼ったパインの板です。この窓台には、グリーンや好きな雑貨をディスプレイしてもらってもいいし、夫婦で腰掛けて、縁側感覚でのんびりお茶でも、なんて使い方もいいと思います。

左上・ベランダ側の窓辺の足元には幅広のパインの板が貼られ、窓台やちょっとした縁側のように腰掛けて使える場所になっていました。/右上・個室の"隠し扉"に付けたスチールの取っ手。/左下・「アンバーな色合いの灯りを楽しんでほしい」という想いから、照明器具も備え付け。/右下・ガスコンロはグリル付きの3口。美味しい料理がどんどんつくれそう。

公園の自然と共存することのできるミニマムでシンプルな住まい。ミニマムといっても将来的なポテンシャルの高い無限に拡がる豊かさを感じられます。

ベランダ前の縁側のような窓台に夫婦で座って、公園の木々からの心地よい風を感じつつ、子どもが遊ぶ姿を見守るーー。そんなおだやかな暮らしが送れそうな物件です。


取材・文:近沢晋治/撮影:cowcamo/一部写真提供:ゆくい堂