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中野、高円寺、西荻窪、吉祥寺など、「住みたい街」として人気の街が連なるJR中央線。サブカルなニオイを漂わせつつも、庶民派でアットホーム。そんな二面性が多くの人をこの沿線に惹きつけるのかもしれません。

左上・真新しい駅舎の武蔵小金井駅。近日エキナカができる様子。/右上・南口正面には成城石井や飲食店、本屋、ジムなどが入る駅ビル。/左下・南口にはイトーヨーカードーも。/右下・今回の物件がある北口側には西友とドンキホーテ。

今回の物件がある街は、中央線の武蔵小金井。実は今回の取材で初めて下車したんですが、意外にも(失礼)栄えていてびっくり。駅前には大型商業施設が並び、周辺には商店街も複数。中央線特有ののんびりした雰囲気に加え、この便利さ。さらに吉祥寺までは11分、新宿までは快速1本で26分の距離。正直かなり住みやすそうです。

と、周辺環境に早速☆3つを出し、向かった物件は駅から徒歩7分の所にある10階建てマンションの8階。玄関に入り、紺色の重厚なドアを開けると、真っ白な空間の先に開放的なバルコニー。広い空が目に飛び込んできます。

バルコニーの先には広い空。周囲は低層の家々で、眺めは抜群。

仕事から帰ったら、バルコニーでビールをグイッとやってプハーッ! 最高に贅沢だと思いません?

そう話すのは、この物件をリノベーションしたゆくい堂の田澤絵美さん。田澤さんと一緒にこの空間をプランニングし、現場監督も務めた當眞健さんも、このバルコニーを絶賛します。

屋根付きのバルコニーだから、日差しの強い日も、雨の日でも外に出れます。視界を遮る高い建物はないし、上下や隣の住戸から見えない造りになっているから、近隣からの視線を気にしなくてもいい。こんなに開放的なのに、プライベートな空間なんです。(當眞さん)

田澤さん(左)はゆくい堂の広報も兼任。當眞さんの前職は住宅建設会社の設計士で、現在は現場監督もこなします。

ワンルームの空間は窓辺にベッドを置くプランになりがちですが、それではせっかくの眺めも、バルコニーとのつながりも遮断されてしまう。約33㎡というコンパクトな空間の中で、いかにベッドがメインにならないプランにするかを考えたと當眞さんは話します。

改装前は、玄関を入ってすぐのところに壁付けされていたキッチンを、思い切って部屋の中央に配置したんです。改装コストを考えたら、水まわりの位置はあまり変えない方がいいんですけど(笑)。そうしたら玄関側に配置したベッドスペースが死角に入り、キッチン側からもバルコニー側からもリビングを使えるプランになりました。(當眞さん)

バルコニーの広さは8.4畳。夜空を眺めながらお酒を飲んだり、休日はブランチを楽しんだり。ウッドデッキ&屋根付きなので、リビングの延長として使えます。

いかようにも使える半屋外空間の使い道を考えるのも楽しみなところですが、こちらの物件、室内もいかようにも染められる仕様になっています。

ゆくい堂のリノベーション済み物件にはいくつかのシリーズがあって、それぞれ異なる世界観でつくっています。今回の物件は『my-me』というシリーズで、コンセプトは「私色に染める白いキャンバス」。私が女子的スパイスを加える指示をする度に、當眞さんは頑張って共感しながら応えてくれました(笑)。(田澤さん)

置き家具のような雰囲気のキッチン。クラシカルな脚は、田澤さんが思案の末にこのイメージに辿り着き、ネットで制作工場を探し出して制作してもらったもの。

住み手の暮らしを引き立てる、床も壁も天井も真っ白な空間。そのままでも断然素敵ですが、加えるアイテム次第でどんな色にも染まってくれそうです。

女性向けと聞くと、ガーリーで装飾的なお部屋をイメージされると思うんですが、今回イメージしていたのはプレッピーやトラッドな雰囲気。甘さよりも知的さを感じさせる空間を目指しました。(田澤さん)

左上・わざと荒く仕上げた目地は當眞さんが、塗装とヤスリ掛けは田澤さんが自ら担当したというブリック壁。/右上・使い込まれて塗装が剥がれたような表情のフローリングはチェスナット。/左下・シンクと水栓もクラシカル。洗濯機はキッチンにビルトイン。/右下・ルーバー扉のクローゼットは通気性抜群。取っ手が渋かわいい。

さわやかな白い空間にどっしり落ち着いた雰囲気ももたらしている、荒々しい表情のフローリングやブリックタイルの壁。聞けば、空間が単調にならないようにと、あえて表面が凸凹した土足店舗用フローリングをセレクトしたのだそう。また、フローリングもブリックタイルも、長く使い込まれるうちにペンキが剥がれてきたかのようなシャビーな仕上がりなのですが、これも一度塗装した上から、わざわざヤスリを掛けて表現したと言います。

最初からアンティーク加工されたものを使うのは簡単ですが、それではチープに見えてしまう。見た目だけのデザインを施しても、すぐに飽きが来てしまうと思うんです。(田澤さん)

ルーバー扉もこのドアも同じ建具職人さんが手作り。ドアノブはアンティークですが、ラッチの部分は新品を使用。

紺色の親子ドアはアンティークに見えますが、建具職人さんがいちから作ったもの。これにもちゃんと理由があって、本物のアンティークドアでは歪んでいたり、引き渡し後に壊れるリスクもあるので、新たに製作したのだそう。

素材選びにしても、仕上げ方についても、必ず理由とこだわりがある。ゆくい堂がつくる住まいには、隅々までつくり手の想いが詰まっています。

左・自転車も置けちゃう玄関。部屋はワンルームですが、独立した広い玄関があるとゆとりある印象を受けます。/右・便器、ドアハンドル、照明・・・。細かなところまでセンスが感じられます。

僕らは自社で販売するリノベーション済み物件を手掛ける時、必ず給排水配管やガス管、電気配線などのインフラ設備を新規交換しています。たとえ物件の仕入れ時に「配管・配線もリフォーム済み」と言われてもです。実はやってないかもしれないし、僕らが売った後にトラブルが起きたら? つくり手として売り手として、住む人の暮らしにきちんと責任を持ちたいんです。(當眞さん)

左・海外のホテルにありそうな洗面台。こんなスペースで身支度したら、気分は映画女優?/右・大きな窓が付いたバスルーム。空を眺めながらの入浴も可能。

當眞さんと田澤さんの口から度々出る「リスク」と「責任」という言葉。この家に住む人のことを真摯に考えて家づくりをしていることが伝わってきます。

自分たちで物件を仕入れてリノベーションするからこそ、雑誌や本で見るような空間のイメージにもチャレンジできるし、そのリスクも魅力も、住まい手に説明することができる。
だったら、ありきたりの家をつくるよりも、私たちが本気でいいと思う素材や暮らしにこだわり尽くした家を提案する方が、ずっといいと思うんです。(田澤さん)

小金井街道に面して建つマンションですが、該当住戸は通りと反対側なので車の音は気になりません。1階には自家焙煎のコーヒー屋さんが。

住まい手に届けたいのは「楽しみがある暮らし」。ゆくい堂の住まいづくりに込めたそんな想いは、今回の物件には特にフィットしているように思います。

というのもこちらのマンション、住人でつくる組合による自主管理の形態をとっています。築44年という古さの割に外観も共用部もキレイなので、管理が徹底しているんだな〜と思ったら、常駐の管理人さんが共用部の至る所をお掃除されている姿を見て納得。

住人同士のコミュニティも豊かで、秋は屋上でお月見会、年末は集会所で餅つき大会など、住人たちが集うイベントが度々行われているのだそう。

僕らもイベントに参加させてもらったんですが、古くからの住人も若い住人も分け隔てなく盛り上がっていました。今どき、こうした住人同士の触れ合いがある集合住宅は珍しい。
今日、管理人さんに挨拶したら、「今年は屋上でBBQやるよ!」って誘われました(笑)。次のイベントには、この家に暮らす人と一緒に参加したいですね。(當眞さん)

ブリックタイル壁の手前がベッドスペース。窓辺に重心を置いた暮らしができる空間。

バリバリのオシャレタウンでシングルライフを謳歌するのも悪くありませんが、ほどよいローカル感が漂う武蔵小金井の街でなら、肩肘張らない身の丈のリラックスライフが送れるのではないでしょうか。
ちなみにお値段も身の丈。都心への距離と街の環境を考えたら、将来賃貸に出すとしてもニーズは高そうです。

帰ってきたくなる家があると、忙しい毎日もきっと頑張れると思いますよ。


取材・文:佐藤可奈子/撮影:cowcamo