恵比寿という街の魅力。

まずもって、名前がいい。
だって、"恵比寿"ですよ。商売繁盛と五穀豊穣をもたらす神様ですよ。実に縁起がいいじゃありませんか。

続いて、立地がいい。
渋谷、代官山、広尾と隣接していて、山手線上で、六本木にも近い。便利かつ刺激的なことこの上ありません。

そして、そんな立地なのに、全然尖っていないところがいい。
"トレンディタウン"として一躍注目されるようになったのは、21年前に恵比寿ガーデンプレイスが開業したのがきっかけ。それでも街全体が極端に開発されることはなく、今でもそこここに、下町らしい光景が残っています。

左上・物件の反対側になるJR恵比寿駅バスロータリー付近。駅にはアトレが併設。/右上・物件まではこちらの西口からが便利。/左下・恵比寿のランドマークとも言える恵比寿ガーデンプレイスまでは徒歩10分ほど。/右下・物件近くには、周辺住民に愛されている通称"タコ公園"。春には見事な桜を楽しめます。

今回ご紹介するのは、そんな不思議な魅力にあふれる街・恵比寿の駅からわずか徒歩4分という立地に生まれた、リノベーション済み物件です。
飲食店や大きなオフィスビルが続く通りを進みながら「こんなところにマンションなんてあるのかなあ」と半信半疑でいると、ありました、ビルに挟まれるようにして建つ茶色のマンションが。

恵比寿駅東口を出て徒歩わずか4分の場所。1階にはおいしいと有名な本格派タイ料理屋さんが入っています。

まぎれもない商業地域で、お部屋もバルコニーが通りに面しています。昼間はビジネスマンが行き交う姿も見えますが、意外に騒々しくはありません。
築40年を超えているだけあって、共用エントランスは若干古めの印象ですが、一歩お部屋に足を踏み入れてびっくり!

既存の壁や天井を取り去り、真南からの光をたっぷり取り込める間取りに。縦横に広がる梁がダイナミックです。

どうです、この広々として清々しい空間!

グレーともブルーともグリーンとも形容しがたい、微妙な色あいに塗られた壁と梁、幅広のフローリング、LDKとふたつの個室を回遊するようにつないだ開放的な間取り。

住空間としても、クリエイティブなオフィスとしてもぴったりとはまりそうなこのお部屋。リノベーションをディレクションしたのは、株式会社リビタの本田雄三さんと上沼夕美子さんです。

やわらかな語り口でこの物件のポテンシャルの高さを語ってくれた、株式会社リビタ レジデンシャル企画部の本田雄三さん。


あっと驚くアイデアを次々に繰り出す上沼夕美子さん。「私たちが想像もしなかった面白い使い方をしていただけたらうれしい。どんなふうに使っていただけるか、今からとても楽しみです」

このお部屋は真ん中に、壁がどーんと立ってるんですね。空間を3つのゾーンに仕切る壁なんですが、どうしても幅があるので存在感が出てしまう。だったらこの壁をシンボリックな存在にして、周囲を回遊するように使える間取りにしようと考えました。
塗装した壁と梁は、設計をお願いした8dの岡村航太さんからのアイデア。天井に梁が走っているので、中央の壁を"幹"に見立てて、そこから太い枝が広がっていくイメージから、緑を思わせる色にしたんです。(上沼さん)

たしかに! この色のおかげで、ただの白壁のままだったら邪魔に見えそうな大きな梁も効果的なインテリアになっています。

左側のシェルフが置かれている壁面がマグネット塗装仕上げ。手前のリビングと奥の居室とのあいだは、左の壁に収納されている引き戸で区切ることができます。

さらにこの壁にはおどろきの仕掛けが。

実はこの壁、LDK側は磁石がくっつくようになっているんです。もし事務所として使うとしたら、ここにいろいろマグネットで貼れたら便利だし楽しいなと思って、マグネット塗装を施しました。住居として使うときも、マグネットであれこれ付けられると便利ですよね。他の壁とまったく同じ色で、だけどここだけマグネットが付く、というところに遊び心を入れてみました(笑)。(上沼さん)

マグネット塗装というと、磁石らしい黒っぽい色をイメージしがちですが、あえてそうではない色にして、一見それとはわからない仕上げにしてあるところが面白い!

他にもさまざまな"仕掛け"があちこちに隠されていました。

表情あるフローリングと淡い梁の色の組み合わせは、ナチュラル系からアジアンテイスト、レザーや鉄などの無骨系など、置くインテリアによってさまざまな表情を見せてくれそう。

フローリングは店舗でも使われる厚みのあるものを使っています。メーカーでは土足使用で耐用年数30年と謳っていて、事務所として使って土足で歩き回ったとしても、長く使えますよ。 (上沼さん)

なるほど、このお部屋がどことなくセレクトショップのようにも見えるのは、そのせいでもあったのですね。

5.6畳の寝室。間取り図上は「寝室」と書かれていますが、奥のサービスルームと合わせて、ここの使い方も自由自在。

さらに、ソファの後ろ側の壁は、ハーベストパネルと呼ばれる素材を白く塗装したもの。麦わらを固めた素材で、釘を打ち込んだりしやすいんです。DIYで棚を取り付けたり、カウンターテーブルを付けてみたり、好きなようにカスタマイズしてほしいですね。(上沼さん)

なんと! ここの仕掛けも全く気がつきませんでした!

一見すると、淡い色調や明るい色のフローリング、キッチンの白いタイルなどからフェミニンな印象を受けますが、なかなかどうして、実はハードユースにも耐えうる頼もしいお部屋だったのですね。

リノベーションの楽しみって、"自分でつくる"ところにもあると思うんですね。このお部屋は世界観をつくり込みすぎず、あえて引き算で仕上げた、リビタのリノベーション済みマンションとしても初めての試みなんです。お客様がご自身でつくっていける余地を設けることで、使い方の自由度も楽しみも広がるのではないかと考えました。
間取り図で"サービスルーム"と表記しているお部屋は、ウォークインクローゼットとも考えられるし、資料置き場にもできるし、デスクスペースにもできます。壁面を、やはりDIYが可能なコンパネ下地にしてあるので、棚をたくさん付ければ、丸ごと収納スペースにすることだってできちゃうんです。(本田さん)

サービスルーム、寝室、ウォークインクローゼット、ミーティングルーム……。いろいろ使えそうな1室。

そうなんです。実はこのお部屋を最初に見たときに、「あれ? 収納スペースがないけど・・・」と思っていたのですが、部屋を丸ごと収納に使ってしまおう、とは! その発想は目からウロコでした。

サービスルームは、引き戸をすべて閉めればまったく明かりが入ってこないので、寝室にしてもいいし、事務所ならミーティングルームや応接室にもよさそうです。

もちろんキッチンにもこだわりが詰まっています。

無垢材の扉を全面的に使用したキッチンは、オーダーメイドのようですが、実はメーカーのシステムキッチンなのだそう。天板は傷が目立ちにくいステンレスで、コンロは3口。壁面は白のサブウェイタイルを貼って、汚れにくく、かつ清潔感ある仕上げにしています。

無垢板をぜいたくに使ったキッチン。額付きの収納扉がちょっとアメリカンな雰囲気。

住まいとして使う際にはもちろん、事務所として使う場合でも、充実したキッチンがあったらいいと思うんです。みんなでお昼を作って一緒に食べたり、キッチンになんとなく人が集まって話したり。「みんなで作って食べるお昼がおいしすぎて、この事務所がやめられないんです!」なんていうのがあってもいいと思いませんか?(笑)(上沼さん)

左・玄関を入るとすぐ左手側にあるサニタリー。床は玄関と同じモルタル仕上げでひと続きに見せ、玄関まわりが狭苦しく見えないよう工夫しています。/右・お風呂には広がりを感じさせる大きな横長のミラーを設置。床は玄関やサニタリーと合わせ、グレーの色合いに。

駅近の快適さと、新旧入り交じったちょっぴりディープな街並、そしてクリエイティビティをかき立てられる自由な発想の空間。

使い方はあなたのアイディア次第、ぜひ設計者もあっと驚く独創的なお部屋に仕上げてください!

左上・物件近くには、話題のサードウェーブコーヒーショップ「猿田彦珈琲」が。その隣の和風アイス専門店「JAPANESE ICE OUCA」も超人気です。/右上・3〜5坪のリーズナブルな飲食店が軒を連ねる恵比寿横丁もすぐそば。知らない人同士でもすぐ打ち解けられる気さくさがウリ。/左下・日常のお買い物は、駅の反対側にあるピーコックで。通りには飲食店も充実してます。/右下・JR恵比寿駅に併設されたアトレ内にある成城石井は、輸入食材やデリが豊富。

取材・文:吉田タカコ/撮影:cowcamo