中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。
今回は特別編として、古民家をフルリノベーションした住まいをご紹介します。
ここは「吉祥寺」に建つ築90年の古民家。足を踏み入れれば、古き良き日本家屋の情緒を残しながら、モダンに再編集された空間が広がっている。
住まい手は、カウカモスタッフの美作天地(みまさく てんち)と平野翔子(ひらの しょうこ)、その息子さんの3人だ。空き家になっていた平野の祖父の家を引き継ぐ形で、2021年にリノベーションを施し、新生活を始めた。
美作:子どもが生まれる予定だったし、実家の近くで暮らせると安心かなと。
それにこの家なら100%リノベにお金をかけられるから、普段お客さんにリノベを提案する立場として、一度自分でとことんやりきってみるのもいい経験だと思って。
スタイリッシュさよりも、古民家のポテンシャルを活かした “味” のある住まいを求めたというふたり。リノベーションの設計は古民家改修を得意とする宮田一彦さんに依頼した。
美作:カウカモマガジンに載ってるBEAMSスタッフさんのお家がめっちゃかっこいいと思って、設計者を調べたら宮田さんだったんだよね。
『コスパのいい既製品より、古民家にあった質感のいいもの使いましょう』ってスタンスの方ですごく職人気質。例えば壁はクロスを使わずにすべて漆喰風の塗装で仕上げたり、素材にこだわって造り込んでもらった。
“こまめにメンテナンスしながら付き合うクラシックカー” みたいな、かわいげのある家になったかと思う!
間取りのプランニングは、白図にキッチンやトイレといったパーツをテトリスのように切り貼りして検討。ふたりが出したアイデアを宮田さんがブラッシュアップしながら図面に起こしていった。
美作:まず天井の高さが最大5.2mもあることに興奮した。マンションの倍はあるよね(笑)
それが一番カッコよく見える構成を考えたら、広いLDKの真ん中にキッチンがバシッと見えるようなプランがいいと思って。
こうしてでき上がったのは、高さとダイナミックな架構が強調された開放感ある大空間。小割りだった間取りを思い切って大改編し、LDK中心の生活空間に仕上げた。
■くつろぎの小下がり
リビングは一段下げることで、ダイニングと緩く区切りつつ、くつろぎやすい造りとした。
美作:だだっ広い空間だから、ダイニングとは印象を変えたかったんだよね。人が来たときには、段差にこしかけて集まれるのもいいなと思って。
そういえば、ここで過ごした今年のお正月は、プロジェクターでお笑い番組を見たり、ちゃぶ台でおせち食べたり、いい日だったなぁ。
平野:窓辺は小上がりみたいになってるんだけど、まだあんまり使いこなせてないんだよね。子どもが大きくなったらここで宿題をやったり、もっといろんな使い方ができるといいな。
■使い勝手は最新鋭
平野:私はキッチンや水回りの設備、どこそこに収納が欲しいだとか、機能面にこだわりたくって。
と話す通り、それらを造り込んだのもこの住まいの特徴のひとつだ。
キッチンは引き出しを造らず、コンロ等をインターネットで手頃な価格で購入。結果、システムキッチンと同程度のコストで造作できたという。
美作:造作のキッチンに憧れがあったわけですよ!簡素に造りつつも、IHコンロや海外製の食洗機を入れたりと機能面もバッチリな出来栄え。
収納棚はキッチンと天板の高さを揃えて造作した。見せる箇所・隠す箇所のメリハリがついた造りに。奥行きを広くとり、作業台としての使い勝手もいいそうだ。
平野:私が北欧モダン的なインテリアが好きなので、洗面室は綺麗目に仕上げてもらいました。最初てんちゃん(美作)が床は大谷石(※1)にしたいって言ってたんだけど、『掃除しにくいでしょ!』ってPタイル(※2)に変えたり、実用面も考えながら(笑)
※1 外壁や塀などの建材として使用される石
※2 塩化ビニル樹脂を配合した硬質の床材
美作:そういうモノ選びで言えば、建具屋さんに行ったり、タイル屋さんに行ったり、とにかく色んなところに足を運んだね。
平野:そうそう。一から選ぶのが楽しい反面、結構体力つかったよね。タイルひとつとっても、サンプルだけじゃ実際に貼られたイメージってなかなか掴みづらいし。
だからある程度選択肢を絞ってくれる定額制のリノベ商品が便利なんだって気づいた(笑)
内装や設備の選択は、リノベーションの醍醐味であり悩みどころでもある。古民家に馴染む素材を選びながら、使い勝手のいい仕様に。キッチンと水回りにはそんなふたりのこだわりと苦労が垣間見えた。
■寝室の上には……
続いてご紹介するのは、LDKの一角にボックスのように挿入された寝室。いちばん日当たりのいい東側にリビングを割り当て、寝室は最小限にプランニングしたそうだ。
日当たりをリビングに譲ったとはいえ、爽やかな朝を迎えるには十分な木漏れ日が差し込む。壁一面にクローゼットが設けられ、朝の身支度もスムーズだろう。
美作:収納らしい収納はここと玄関周りにしかないんだけど、この上にロフトを造ってスペースを空けてあるから、物が増えても大丈夫!
美作:実は『まだまだこの家は終わりじゃない』って思ってて。ここを収納以外にどうやって使うかを今は考えてるんだ。
ロフト上に子ども部屋やワークスペースをつくるなど、将来計画を現在模索中。住んでなお、暮らしの妄想が止まらない余白を残した住まい。これからどう進化を遂げていくかが楽しみだ。
■住まいづくりを振り返って
平野:ここは30年前にサッシ類が更新されてるから、ある意味築30年の戸建てリノベに近いよね。でもマンションでいう「大規模修繕工事」を一度もやってない状態だから、やっぱりガタが来ている部分も多かった……
美作:そうそう。古民家ならではの “味” が魅力的な一方で、そのあたりを自分で修繕しなきゃいけないのが大変だよね。当たり前だけど、マンションには管理をやってくれる人がいるのが羨ましい(笑)
リノベーションを経て、戸建てとマンション、それぞれのメリットを実感したと振り返るふたり。理想の住まい探しにおいて、そのどちらを選ぶかはライフスタイル、価値観によって異なるが、“クラシックカーを愛でるような味わい深い暮らし” の魅力を美作たちは教えてくれた。
―――――物件概要―――――
〈所在地〉吉祥寺
〈居住者構成〉3人家族
〈間取り〉1LDK+Loft
〈面積〉77.8㎡
〈築年〉築90年・30年前に移築・改装(取材時)
――――――設計――――――
〈会社名〉宮田一彦アトリエ
〈WEBサイト〉https://m-atelier.jp/
撮影:沢崎 友希 / 取材・文:本多 隼人