
住まい選びやリノベーションを検討する際、「アルコーブ」という言葉を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。アルコーブとは、マンションの玄関前や部屋の一角にある、くぼんだスペースのことです。室内の空間設計を指す場合とマンションの玄関前スペースを指す場合がありますが、その用途や設計には多様なバリエーションがあります。
今回の記事では、アルコーブの定義からメリット、具体的な活用方法まで、詳しく解説していきます。
アルコーブとは?

アルコーブとは、建築用語で「壁面から後退させてくぼみを作った空間」のことです。この設計手法は、空間に変化をつけ、機能性と意匠性を両立させる目的で用いられています。
アルコーブは大きく分けて2つの形態があります。1つは室内に設けられる壁面のくぼみ、もう1つはマンションなどの共用廊下から後退した玄関前のスペースです。それぞれの特徴についてみていきましょう。
室内のアルコーブ

室内のアルコーブは、室内の一部の壁面をくぼませて作られたスペースのことです。使用目的に応じて大きさや形状を自由にデザインできる利点があり、天井高や奥行き、幅などを細かく調整することで、より使いやすい空間を実現できます。
アルコーブはリビング、寝室、廊下など、さまざまな場所に設置されますが、一般的にはワークスペースや収納として設置されるケースが多く見られます。たとえばデスクを配置したアルコーブであれば、集中できる書斎スペースや学習スペースとして活用できるでしょう。ほかにも、靴や外出着などの収納に使えるほか、小さなベンチや椅子を設置すれば、短い休憩スペースとしても役立ちます。
マンション(屋外)のアルコーブ

マンションのアルコーブは、共用部分の廊下からへこんだ作りになっている玄関前のスペースのことです。一般的に共用部分として扱われるため、管理規約で定められた範囲内での利用が求められます。専用使用権が設定されている場合もありますが、その場合でも一定のルールに従う必要があります。
このタイプのアルコーブは、玄関周りの空間として機能するだけでなく、マンション全体の美観や防犯性の向上にも役立ちます。共用廊下からの視線を遮ることでプライバシーを確保できるほか、玄関扉の開閉時に共用廊下の通行を妨げることがないため、他の居住者への配慮にもなるでしょう。
玄関ポーチとの違い

アルコーブと玄関ポーチは一見似ているように思えるものの、門扉の有無といった明確な違いがあります。アルコーブには基本的に門扉がなく、共用廊下の一部として扱われるのに対し、玄関ポーチは門扉によって明確に区切られた個人の専用空間として扱われます。
そのため、アルコーブは使用に関する制約がある一方、玄関ポーチは専用使用権が設定されていることが多く、個人の裁量で使用できる範囲が広いのが特徴です。
設計上の特徴として、アルコーブは、限られたスペースでも設置できるため、コンパクトな設計が可能です。比較的専有面積の少ないマンションにも採用されることがあり、限られたスペースを効率的に活用できる点が利点です。
アルコーブのメリット
アルコーブには、室内とマンション共用部分でそれぞれメリットがあります。
室内のアルコーブ

室内アルコーブは、空間を有効に活用できる点が特徴です。メインの居住空間から程よく独立したスペースとして機能し、収納スペースやワークスペースとして活用するなど、用途に応じた使い方ができます。また、壁面収納や造作家具を取り入れることで、限られた床面積を有効に活用することも可能です。
デザイン面では、壁面のアクセントとして、奥行きや立体感を生み出すことができます。間接照明と組み合わせることで、奥行きを強調し、落ち着いた雰囲気を演出することもできます。また、照明や装飾の工夫によって、視線を引くデザイン要素としても活用できます。

マンション共有部分のアルコーブ

マンションのアルコーブは、共用廊下からの視線を遮ることで、プライバシーを確保できます。
また、マンション全体の美観や防犯面の向上にもつながります。アルコーブのデザインは、マンションの外観を整え、統一感を持たせることにもつながります。防犯面では、居住スペースの視線を遮ることで、不審者が侵入しにくい環境をつくる効果が期待できます。
さらに、玄関扉の開閉時に共用廊下の通行を妨げにくくなるため、共用部の快適性を維持しやすくなります。
アルコーブのデメリット

アルコーブには、室内とマンション共用部分でそれぞれデメリットもあります。
室内のアルコーブ
室内にアルコーブを設置する場合、限られたスペースの中で設計されるため、居住空間が狭くなる可能性があります。特にコンパクトな間取りでは、アルコーブを設けることで、実際に使える生活空間が減ってしまうことが考えられます。
また、アルコーブによって部屋の形状が複雑になると、家具の配置が難しくなることもあります。規格サイズの家具が収まりにくく、オーダーメイドや特注家具が必要になるケースもあり、追加費用が発生する可能性があります。
マンション共有部のアルコーブ
マンションのアルコーブは共用部分として扱われることが多く、個人の判断で自由に使用できない場合があります。専用使用権が設定されていれば私物を置くことが可能ですが、そうでない場合は、管理規約に従う必要があります。事前に管理規約を確認し、許可されている用途を把握しておくことが大切です。
また、アルコーブの使い方によっては避難経路の確保に影響を及ぼすこともあるため、災害時の安全性を考慮した適切な利用が求められます。
アルコーブの設計時の注意点

アルコーブを設計する際には、いくつかのポイントに注意する必要があります。快適な空間を作るために、何に使うかを考慮し、以下の点を検討しましょう。
室内アルコーブの活用方法

室内アルコーブは、さまざまな方法で活用することができます。以下、具体的な活用例を見ていきましょう。
ベッドやデスクなどの家具を置く
リビングや寝室に設けられたアルコーブは、デスクを配置して書斎スペースとして活用できます。在宅ワークの増加に伴い、オンライン会議に適した作業空間として利用する人もいます。書斎として使用する場合、照明や音響設備を工夫することで、より快適な環境を整えることができます。
子ども部屋では学習スペースとして活用でき、メインの空間と区別することで集中しやすい環境を作ることが可能です。三方を壁で囲まれているため、ある程度の騒音を軽減し、静かな環境を作るのに役立ちます。ベッドを設置する場合は、棚やカーテンを活用することでプライバシーを確保しやすくなります。
収納スペースにする
アルコーブを収納スペースとして活用することで、部屋を整理しやすくなります。オープンシェルフを設置すれば、本や小物をおしゃれに収納できるほか、クローゼットとして利用する場合は、照明や収納棚の配置を工夫することで利便性が向上します。
アートや観葉植物を置く
アルコーブをアート作品の展示スペースとして活用することで、個性的な空間を作ることができます。観葉植物を飾ることで、ナチュラルな雰囲気を演出するのも良いでしょう。間接照明と組み合わせることで、より印象的なディスプレイスペースとして楽しめます。
まとめ

アルコーブは、室内に設けられたくぼみやマンションの玄関前スペースを指す多機能な空間設計です。室内のアルコーブは家具や収納などさまざまな用途で使え、マンションのアルコーブは共用廊下からの視線を遮ることでプライバシーを確保し、美観や防犯性を向上させる役割を果たします。設置を検討する際には、部屋の間取りを考慮して位置を決め、管理規約や設計の複雑さにも注意が必要です。
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琉球大学大学院理工学部卒。環境建設工学を専攻し、大学院卒業書、建築設計事務所に勤務し、住宅や公共施設など様々な建物の設計に携わる。現在は建築デザイナーとして不動産開発の企画・設計から運営まで行うコンサル会社にて、オフィス設計やリノベーションなどを中心に手がける。趣味は街歩きと珈琲焙煎。空き家を活用して設計事務所と珈琲屋さんを開くことが目標。