去る8月29日から30日まで、渋谷ヒカリエにて開催された『 ニュー不動産展』。

全国津々浦々、不動産にまつわる革新的なお仕事や取り組みをされている企業・団体・個人が集まり、テーマごとにトークセッションを行うイベントで、これからの業界を牽引するまさに「ニューな面々」が登壇していました。

各々が仕掛けるサービスの革新性に唸らされっぱなしの2日間(プレイベントも含めると3日間)。その様子を、遅ればせながらレポートしたいと思います。



『ニュー不動産』とは?

ちなみに『ニュー不動産』とは、「不動産を新しい切り口で捉えるメディアやサービス」の総称とのこと。

野心と才気に溢れたスタートアップの集まりかと思いきや、今回のイベントにはリクルート住まいカンパニー(SUUMO)やアットホームといった有名企業も参加していました。古参と新参が喧々諤々、不動産の未来を語るトークセッションは聴きごたえ十分で、「え? それ言っちゃっていいの?」と会場をザワつかせるぶっちゃけ話も満載。

そんなイベントの全容はYouTubeにて公開されているため詳細はそちらをご覧いただくとして、ここでは各セッションのざっくりした概要と、筆者の所感を述べていきたいと思います。

会場前ではペッパーくんが来場者をお出迎え。もしかしたら未来の不動産屋は無人化されて人工知能が物件を案内してくれるなんてことになる、かもしれないですね。

なお、今回のイベントでは2日間で計6つのトークセッションが行われました。

各セッションのお題目は「不動産×テクノロジーの可能性」だったり「中古住宅が不動産のメインストリームになる日」だったりと、いたってマジメ。さりとて専門的すぎず、不動産事業者はもちろん現在住まいを探している人にとっても参考になりそうな、とっつきやすい内容でした。


session 1-1:
「まちと不動産の幸せな関係」

一発目のセッション、トークテーマは「まちと不動産の幸せな関係」。不動産を媒介に、街に根付いた活動を行う事業者のみなさんが登壇しておられました。

登壇者は篠原靖弘氏(エヌキューテンゴ/左上)×須賀大介氏(福岡移住計画/右上)×寺井元一氏(まちづクリエイティブ/左下)。モデレーターは今村ひろゆき氏(まちづくり会社ドラマチック/右下)。

篠原氏、寺井氏は大きなくくりでいうと「不動産屋」ということになるのでしょうか。しかし、ただ住居を提供するのみならず、イベントなどを積極的に仕掛けることで街とそこに暮らす人々との接点をつくる、まさにニュータイプの不動産屋。一方、須賀氏は福岡にIターンで移住する人同士を結び付け、仕事やコミュニティを生み出すなど、こちらも移住者を街に根付かせる架け橋的存在です。

篠原氏は西国分寺、須賀さんは福岡、寺井氏は千葉の松戸と、各々がそれぞれのホームタウンに腰を据え、住民を巻き込んだ街づくり、コミュニティづくりに尽力されています。

後半には街やコミュニティづくりに対する熱いクロストークも展開されました。

特に印象に残ったのは、須賀氏のこの発言。

「福岡ってグローバルシティのイメージがあると思いますが、じつは7割の留学生は母国に帰ってしまう。その原因のひとつに、転居の際の保証人問題があります。僕らがつくったシェアオフィスにも恵比寿から移住してきたアメリカ人がいるんですが、転居の際に保証人がいなくて困っていました。そこで、僕らが保証人になってとりあえず福岡に来てもらった。僕らはそうやってまずは身近なところでグローバルな社会をつくっていこうと。そのうちイギリス人やカナダ人も移住してきて、最近はかなり楽しいことになっている。自分たちから積極的に行動していくと、作りたい未来が手元に寄ってくると思うんです。」

外国人留学生に限らず不動産業界の旧態依然とした制度が足枷になって、住みたい街への移住や転居を阻まれるケースは他にもあるはず。須賀氏の取り組みはまさに「まちと不動産の幸せな関係」を作らんとする改革者にふさわしい事例でした。「不動産」っていう言葉にはどこか冷たい響きもありますが、そこに人が介在することでこんなにも血の通ったものになるんですね。

※session 1-1:「まちと不動産の幸せな関係」の全貌は下記よりご覧ください。


session 1-2:
「遊休不動産の再生・利活用を面白がる」

さて、次は「遊休不動産の再生・利活用を面白がる」がテーマ。遊休、すなわち空き家や空きビルなどの再活用に尽力している方々によるセッションです。

登壇者は上田真一氏(空家・空地管理センター/左上)×重松大輔氏(スペースマーケット/右上)×吉村真代氏(STAY CATION/左下)。モデレーターは唐品知浩氏(リゾートノート/右下)。

今や全国に820万戸と言われる空き家。これは総住宅戸数の13.5%に上るとか。また、空き家だけでなく、利用日数の少ない空き別荘、家人がほぼ留守にしている都心のマンションなど、うまく活用されていない不動産はごまんとあります。

彼らはいずれもそんな遊休不動産を「借り手がいない物件」と定義するのではなく、積極的に活用すべき資産と捉えているわけです。

「空き家は2030年には2000万戸を超えると言われています。日本にある住宅のじつに3戸に1戸が空き家になる。それを減らすには老朽化した建物を壊して野山に返すこと、使える建物を積極的に活用していくことが重要です。たとえば店舗に改装したり、アトリエとしてアーティストの方に安く貸し出すなど、住宅以外の用途で積極的に活用していく必要があると思います。」とは空家・空地管理センターの上田真一氏の談。

遊休不動産を再生・利活用するアイデアは他にもまだまだ。

たとえば、吉村氏は別荘シェアサービス『STAYCATION』を運営。年に1・2回しか使われていない別荘の「空き時間」を旅行者などに貸し出すマッチングを行っています。別荘には住まい手の温もりがあり現地の生活環境にも近いため、より現地に根差した「暮らす旅」が可能になるのだとか。

また、『スペースマーケット』代表の重松氏は、営業時間外のカフェや上映時間外の映画館、休日の会社の会議室など、あらゆるスペースのスキマ時間をフル活用すべく、スペースのオーナーとそこを使いたいユーザーのマッチングサービスを展開。映画館で株主総会をしたり、お寺で企業研修をしたりと、従来の役割を超えた新たな価値を生み出しています。

なるほど、別荘は別荘、映画館は映画館としてだけ活用するのは確かにもったいない。慣例や常識にとらわれず「空きスペース」という大枠で捉えて広く発信すれば、そこを多目的に使いたいユーザーを掘り起こすこともできましょう。ネガティブな社会問題として認識されがちな空き家問題も、彼らのように遊休不動産として面白がることで、解決の糸口が見えてくるのかもしれません。

※ session 1-2:「遊休不動産の再生・利活用を面白がる」の全貌は下記よりご覧ください。


session 1-3:
「中古住宅が不動産のメインストリームになる日」

さて、個人的に一番面白かったのはこのセッション。テーマは「中古住宅が不動産のメインストリームになる日」です。

登壇者は内山博文氏(リビタ/左上)×風戸裕樹氏(ソニー不動産/右上)×村上浩輝氏(ツクルバ/左下)。モデレーターは池本洋一氏(リクルート住まいカンパニー/右下)。

「リノベーション」という言葉の認知度が高まるにつれ、その規模を拡大し続ける中古住宅市場。昨年秋にはGoogle検索ワードで「リノベーション」が「新築マンション」を上回るなど、リノベーション済みの再販物件や、中古住宅を買ってリノベーションという選択肢を検討する人が確実に増えています。長らく新築信仰に縛られてきた日本人的マインドも、少しずつ変化しつつあるのでしょう。

セッションでは、リノベーション再販の現状や業界の新たな取り組み、昨今のブームに乗って中古住宅が不動産市場のメインになる日は来るのか? などなど、中古住宅&リノベーションにまつわる幅広い議論が交わされました。

リノベーション住宅推進協議会の会長も務めるリビタの内山氏によれば「中古住宅であっても、きちんと手を加えれば新築以上のバリューを提供することができる。断熱性や耐震性はもちろん、空間に関しても新しい価値を提案できるのがリノベーションです」とのこと。

なお、中古再販物件を手掛けるリビタでは先日、1億円を超えるリノベーション物件が売れたそう。まさに中古というネガティブな価値観をリノベーションの力で凌駕した好事例と言えるでしょう。

ちなみに壇上は左サイドにSUUMO編集長の池本氏、リビタ常務取締役の内山氏、右サイドにソニー不動産の風戸氏、ツクルバの村上氏が陣取り、奇しくもアダルトチームとヤングチームに分かれる構図。

総合不動産情報の巨大ポータルサイトとして君臨するSUUMOにスタートアップが鋭く切り込む場面なども見られなかなか刺激的だったのですが、それはぜひ動画でご覧ください。

※※ session 1-3:「中古住宅が不動産のメインストリームになる日」の全貌は下記よりご覧ください。


さて、というわけでイベント1日目のレポートでした。

ユーザーと不動産のこれまでにない出会いを紡ぐべく奮闘するキーマンたちの試みはいずれも魅力的で、単に住まいという枠を超え、暮らしをワクワクさせてくれそうなものばかりでございました。

不動産を気軽に楽しむ『ニュー不動産』の波が、これからますます広がっていくことに期待したいと思います。

2日目に続く・・・