2日間に渡って渋谷ヒカリエで開催された『ニュー不動産展』。

不動産業界で働く人や住まいへの感度が高い人、部屋探しをしている人まで多くの人が訪れ賑わいを見せました。

2日目は、「不動産×テクノロジーの可能性」「シェア、最近どう?」「愛ある賃貸住宅との出逢い方」の3つのトークセッションが実施されました。合計5時間の長丁場でしたが、一秒たりとも聞き逃せない濃厚な内容。わくわく感たっぷりのひとときでした。

それでは、筆者の感想をまじえて各セッションの概要をレポートしていきたいと思います。

session 2-1:
「不動産×テクノロジーの可能性」

2日目第一弾は、不動産にイノベーションの風を吹き込む先駆者たちが提言する「不動産×テクノロジーの可能性」。進歩が目覚ましいテクノロジーを部屋探しに活かすべく、事業を展開している企業3社から3名が登壇し、手掛けているコンテンツをそれぞれ発表するところからスタートしました。

テクノロジーと聞いただけで思考停止する筆者。しかし今回のセッションではどんな技術が生活のどんな場面で活かされるのか、とても分かりやすいトークだったため、明快に理解することができました。

登壇者は伊東祐司氏(株式会社 ネクスト/左上)×織田健太朗氏(株式会社リブセンス/右上)×末吉一敬氏(アットホーム株式会社/左下)。モデレーターは松本龍祐氏(株式会社メルカリ/右下)。

伊藤氏、織田氏、末吉氏のお三方はおもに賃貸物件の情報を取り扱う事業者。一方、モデレーターの松本氏はアプリの新規事業に携わるIT業界の人。「IT業界の中で大の不動産好き」を豪語する松本氏が、不動産とテクノロジーが今後どのように発展していくのか、ユーザーの目線から質問を展開してくれました。

まずは、各企業が取り組んでいらっしゃる不動産×テクノロジーの事例をざっくりと紹介したいと思います。

「楽しい物件の探し方を提案していきたい」と語るのは不動産情報サイトHOME'Sの伊東氏。HOME'Sでは、物件に直接足を運びチャイムを鳴らすと、不動産会社の物件担当者が、遠隔で鍵を開ける仕組みや、googleグラスのような器具を用い、バーチャルでソファやテーブルを配置し、居住後のインテリアのイメージを膨らませるシステムを開発している。さらにはレゴで物件を作るシミュレーションシステム「GRID VRICK」というテクノロジーなど、SF映画に出てくるような世界観が現実のものになりつつあるようです。

「不動産会社と何度もやり取りする手間を省けるようにしたかった」と話すのは、ネットで完結できる賃貸サイト「カリル」を運営するリブセンスの織田氏。「カリル」ではITによって属人的な業務を削減し、仲介におけるコストカットをはかっているそう。また、「IESHIL(イエシル)」という不動産売買を見える化したサイトも運営。不動産売買において価格というのは大事ですが、意外と漠然と決められているとか。そういう世界観を変えるために、「IESHIL(イエシル)」では賃貸情報や売買履歴の価格データなどを集約し、公開しています。

最後は、長年支持される媒体の制作から、最新のSNS型アプリのリリースまで幅広く手掛けるアットホームの末吉氏。個人的に驚いたのは、街の不動産屋さんの窓などに貼られている賃貸の情報を記載した「ファクトシート」を作る技術。ファクトシートは1日300万枚印刷し、4万1640店に配布しているそう。なんと、不動産会社から注文が入ってから3日で刷り上げるというからスゴい。それを成し遂げる背景には印刷技術やロジスティック技術などのテクノロジーが隠れているそう。また、最近は不動産会社の物件担当者とダイレクトにメッセージのできるSNS型アプリ「TALKIE」を開発。新旧の技術を取り入れた部屋探しの方法を提供し続けているようです。

不動産業に限った話ではありませんが、テクノロジーによって業務のIT化が進む昨今。物件探しにおいて人が介在する意味はどんなところに見出せばいいのでしょう? そんな疑問に答える伊東氏のコメントが、とくに印象に残りました。

「不動産会社がいらなくなるんじゃないかという話もありますが、今後不動産会社の需要がもっと高まると考えています。ITで業務の効率化を図ることで、お客さんとのコミュニケーションがもっと増えると思います。ユーザーは営業マンが長年培った街の情報など、プロとしての意見をすごく求めています。テクノロジーで解決できる分野と、不動産会社さんが解決できるものが上手く組み合わさるとますます部屋探しが楽しくなるんじゃないかなと思っています。」(伊東氏談、略)

なかなか理解が難しいテクノロジーの話ですが、我々の生活にどのような影響が及んでいるのかを知ることで、とても身近に感じることができました。

※session 2-1:「不動産×テクノロジーの可能性」の全貌は下記よりご覧ください。


session 2-2:
「シェア、最近どう?」

すっかり定着した住まいのかたち「シェアハウス」。以前は、初期費用を抑えたい人たちが仕方なく暮らす、寮の延長線上のような存在でしたが、最近は野菜を育てたい人、語学力を磨きたい人や、バンドマンなど趣味嗜好ごとに人を集めているシェアハウスも増えてきています。

そんなシェアハウスの現在地を語る「シェア、最近どう?」のセッションでは、シェアハウスを手掛ける事業者3名が登壇されました。

登壇者は土山広志氏(株式会社リビタ/左上)×露木圭氏(株式会社コプラス/右上)×三渕卓氏(東京急行電鉄株式会社/左下)。モデレーターは北川大祐氏(株式会社ひつじインキュベーション・スクエア/右下)。

なかでもシェアという概念についての変化について詳しく紹介してくれたのが、株式会社リビタの土山広志氏。土山氏によると、近年シェアの概念が急速に進化しているそう。

「まずは “モノをシェアする" ところから、コミュニケーションという付加価値を求めて “場所や人をシェアする" 、さらには “価値をシェアする" ところまで、だんだんと進化してきています。そのなかでシェア住宅の捉え方も非常に曖昧な領域にあると思っていますし、住む人のマインドも変わってきていると思います。2010年くらいまではシェアハウスと言えば安くてお得というイメージが強かったと思いますが、年収700万円の人も住むようになってきて、なんでだろうと不思議に思うことがありました。」(土山氏談、略)

確かに短期的な居住を求めている人から、賃貸住宅と変わらない長期的な住まいとしてシェアハウスを選ぶ人までさまざまです。このように、住む人によって意向が異なるように思われるシェアハウスですが、土山氏によると、大きく分けると次の3つのマインドに分かれるそう。

・ビバーク型居住 … 当座の一時居住としての暮らし。
・トラベラー型居住 … 交流関係再構築と旅のような暮らし方。
・ピポット型居住 … 人脈・情報を住まいながら得る。

また、株式会社コプラスの露木圭氏は、「一般の普通の人が、シェアハウス物件を探す属性となってきているというのが、この2,3年の大きな変化ですよね。“交流大好き!" とか “イベント大好き!" という人だけではなく、子育てをするのによさそうといった理由で選んでいます。そういう意味では(シェア住宅に住むという)メニューが増えたのはいいことですよね」と話します。

ひと言にシェアハウスと言っても、住む人によって求める暮らし方も色々あり、それに応えるようにシェアハウスも増えてきているようです。

※session 2-2:「シェア、最近どう?」の全貌は下記よりご覧ください。


session 2-3:
「愛ある賃貸住宅との出逢い方」

そして最後は、かけがえのない賃貸物件と出会うために必要なことを議論する「愛ある賃貸住宅との出逢い方」のセッション。DIY可能な物件だけを集めたサイトや、独自のフィルターでこだわり物件を集めた不動産検索サイトを運営する方まで、愛を感じられる物件を扱う事業者のみなさんが登壇します。

時間も時間ということで登壇者にはビールが配られ、皆さんほろ酔い気分で会話も盛り上がりました。

登壇者は浅井 佳氏(株式会社アールストア/左上)×林厚見氏(株式会社スピーク/右上)×村井隆之氏(DIYP/左下)。モデレーターは島原万丈氏(HOME'S総研/右下)。

そもそも愛ある賃貸住宅とは、どういうものでしょうか? 「賃貸住宅が重視すべき経営資源は愛(愛着)なのではないかと思っています」と語るのは、HOME'S総研所長の島原万丈氏。

「東京、ニューヨーク、ロンドン、パリの4都市で住み替えの動機をリサーチしました。すると、“東京ではライフステージが変わったとき" がきっかけで住み替えるという人が多かった。一方、ほかの3都市での回答が多く、東京が少なかったため大きく差がついたのは “よりよい住宅に住むため、住宅の質の改善" という動機です。欧米では重視条件が部屋や建物のよさ、好きな地域が高いのに対し、東京はそこに対するこだわりが低い。つまり、家賃が適当で希望するエリア、そして通勤に便利だったらそれでいいという考え方だということが分かります。逆に東京では築年数を重視していることが分かります」(島原氏談、略)

筆者の周りを見ても、どんな賃貸に住みたいかというよりも合理的な条件で探している人が多い気がします。スペックだけで選んで愛情を感じられるかというと、難しいのかもしれません。なんだか恋愛に通じる気がしますね。

個人的に印象深かったのは、東京R不動産の林氏による次のコメント。

「愛がいいのは、お金も資源もいらないということ。オーナーさんの想いが入れば、(物件の)稼働が上がっていくんですよね。たとえば、僕は愛を感じる飲食店にも出会いたいんですけど、飲食店だったらある程度システム的に点数をつけて評価できると思うんです。でも、不動産で『愛を感じるかどうか』となると、時間はかかると思うんですけど、想いを込めた人たちの物件がお金や資源を掛けずとも幸せになることは確かです。」(林氏談、略)

住まいで過ごす時間は、かけがえのない一生を構成している大切な時間です。ならば、愛を感じられる物件に出会うことで、日々の暮らしはきっと豊かになるはずです。

テクノロジーから愛の話まで、幅広い観点から不動産が語られた2日目のセッション。私たちの人生と切っても切り離せない住まいについて、じっくり考えさせられたひとときでした。

※session 2-3:「愛ある賃貸住宅との出逢い方」の全貌は下記よりご覧ください。


おまけ:
「ニューニュー不動産ナイト」

なお、今回2日間に渡って行われたニュー不動産展の前日には、プレイベントとして「ニューニュー不動産ナイト」のトークライブが行われました。

左から、森岡友樹氏(おもろ不動産ナイト、間取り図ナイト代表/マドリスト)、エガミナツコ氏(不動産屋さん/シェアハウスオーナー)、青木純氏(メゾン青樹 代表/大家さん)。

左から、三土たつお氏(ライター/地図好き、散歩好き)、山本梓氏(ソトコト編集部/不動産好き)、諫山三武(SINRA 編集部/ZINE『未知の駅』編集長/ヒッチハイカー)。

ニュー不動産のさらに先を行く、ニューニューな不動産を語るべく、各方面からの個性的なスピーカーが集結。革新的な賃貸物件や運営する大家さん、シェアハウスオーナー、雑誌編集者、散歩好きライターなど、さまざまなバックボーンをもつ面々が不動産業界の現在を真面目に語り、かと思えば、時におふざけモードの妄想全開トークを繰り広げ、会場を盛り上げました。

※プレイベント:「ニューニュー不動産ナイト」の全貌は下記よりご覧ください。


登壇者の半数は不動産の専門家ではなく、だからこそ思いもよらぬアイディアも出てくる。

ある意味無責任なその発想は、不動産の楽しい未来を予見させ、ワクワクさせてくれるものばかりでした。