中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていたただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。 新築志向の家探しから方向転換して、築50年のマンションリノベを行った大久保由有さんのもとを訪れました。


今回訪れたのは都内にある築約50年になるヴィンテージマンションの一室。約130㎡の専有面積に加え、広々としたルーフバルコニーを備えたホテルライクな空間だ。

ここで暮らし始めるのは、わずか33歳ながら「BIANCA表参道」の院長・理事を勤める大久保由有さん+愛猫1匹。この物件に出会うまでの経緯や、リノベーションで実現したかったことについてたっぷりとお話を伺った。

■新築のブランドマンションに憧れ、購入検討をスタート

家主の大久保由有さん。小柄で朗らかな女性だ。

まわりで家を購入している人が多くて、最初は漠然と新築もしくは築浅のブランドマンションを購入しようと考えていました。実際に新築マンションのモデルルームはいくつも見学しましたし、新築の抽選に応募したことも、築9年になる中古マンションに申込みを入れたこともありました。

だけどどこかでずっと、『こんなに高いのにこんなに狭いんだ』とか『(築10年ほどの物件は)絶妙にトレンドからズレた内装なんだよな』とかモヤモヤが消えなくて……

大久保さんは約1年間、フットワーク軽く、気になる物件があれば現地に足を運ぶことを欠かさなかった。いまとなれば、それもこの物件と出会うために必要な工程だったのかもしれない。

LDKに足を踏み入れると、ワイドスパンの開口から陽が降り注ぐ。

内見を重ねるかたわら、友人が中古マンションのリノベーションをプロデュースするというので、工事の段階から現地にお邪魔して完成までを見学したんです。

『こうやって既存の内装を壊して造り直すんだ』『あの空間がこんなふうに変貌するんだ』など、リノベーションに関する知見を高められたのは大きかったですね。

出来上がった内装がとても素敵で、『こんな空間、新築じゃ実現できない!』ってピンときたんです。

モデルルームは素敵でも、それって実はオプションだらけだったりするじゃないですか。物件自体が高いのに、そこにオプションを付ければ付けるほどさらに高額になる……それにも納得がいかなかったし、標準仕様じゃ満足できない自分もいて。

リビング部分には職人さんお手製の木のルーバー壁。どこか和の要素が感じられ、空間がぐっとシックな印象に。ゲストが快適に過ごせるよう、LDKは全4ヶ所に床暖房が入っている。

そんなとき、同じ友人から紹介されたのがこの物件だった。

情報を渡されたとき、真っ先に『築50年!? 絶対ムリ!』って思いました(笑)。だけど印象だけで決めつけるのはよくないと思って、現地に行ってみることにしたんです。

そしたら外観や共用部は時を重ねた美しさがあってイヤだとは感じなかったし、管理状態も周辺の治安もよさそうだったし、新築では手が届かない広さもすごく魅力的に映って。
 

壁やキッチン面材に張られているのはタモ材。1本の木から採取したものを世界各国で分離加工し、再びこの住まいに集結させた。縦のラインが美しい正目(まさめ)を選りすぐったというこだわりも。

内見時に『居住者(ご高齢のご夫婦)のお孫さんが離れを秘密基地みたいに使っていて』などエピソードを伺うことができて、『ああ、すごく丁寧にお住まいだったんだ』って感じて、それも購入の決め手になりました。

以前の内装写真を拝見すると、手を加えながら住まわれていたことがよく分かる。スペースごとにテイストの異なる壁紙が貼られ、床素材もバラバラ。

普通であれば工事後の姿を想像するのは難しいはずだが、大久保さんは理想的な中古リノベーションマンションの内装を事前に見ていたからこそ、そこに対する躊躇はなかったのだと言う。

すっかり気に入り、すぐに購入申込みの手続きを行なった。

■大切な人たちとくつろげる空間を目指して

仕事柄スタッフと食事に行く機会も、たくさんの友人と顔を合わせる機会も多い大久保さん。リノベーションで実現したいことの最優先事項は、そうした人々と時を共にできる居場所をつくることだった。

大型のアイランドキッチン。ゲストがたくさん集まった際に使い勝手がいいよう、シンクや作業スペースの割り付けも考慮されている。カップボードのカウンターには盆栽を飾る予定だという。

30代に入ると、まわりも結婚したり、子どもができたり、ライフステージが変化していってる最中で。子どもを連れて気兼ねなく集まれるお店って少ないので、自分の家を解放できたらいいなと思うようになったんです。

東側は元々3つの空間に分かれていたんですが、景色がいいこともあって、広いLDKに変えてもらいました。大きなアイランドキッチンを造り、みんなで料理できたら楽しいだろうなと思って。

ただ空間が散らかるのは嫌なので、パントリーに物を集約できるようにしたんです。表に出ている冷蔵庫のほか、パントリー内にも冷蔵庫が置けるんですよ。準備は万端です!(笑)

左・LDKで一際目を惹くYuta Okudaさんによるアート。配色は大久保さんと相談しながら決めていった。/右・リビングの一角で仕事することを想定して造ったデスクスペース。「上部にもアートを飾りたいです」。裏側がパントリースペース。

■設計パートナーを信じて任せたからこそ実現できた空間美

間取りは3SLDK。LDKと主寝室は広めに確保し、ゲストルームや猫の部屋として使おうと思っている2室に加え、ルーフバルコニーから出入りする “離れ”(=サービスルーム)があるのが特徴だ。

驚いたのは、LDKに置かれている特大のソファセット、ローテーブル、ダイニングセット、ペンダントライト、ワークスペースや洗面所のスツールに至るまで、すべてデザイナーに依頼し、特注でオーダーメイドされたこと。

広い空間だと半端な余白が残ってしまいがちだが、おかげでどのスペースもピッタリと収まっている。

オーダーした家具の数々。ソファのファブリックは猫が引っ掻いても解れにくい素材を選んだ。ダイニングチェアやスツールの座面には、名作「Yチェア」などでも使用されているペーパーコード。

間取り・内装の設計を担当された花山真吾さんも交えてお話を伺った。

左が設計当時メジャースケール株式会社に在籍し、現在は有限会社花山建設の代表取締役を勤める花山真吾さん。

花山さん:カラースキームは大久保さんが以前見学されたリノベーション物件のものを踏襲しています。あるホテルをヒントに、落ち着いたトーンでまとまっているのが特徴です。今回特にこだわったのは、ゲストが滞在するLDKや、通過する場所の意匠や収まりですね。

実はこのマンションは経験豊富な職人さんをも唸らせるほど工事の難易度が高くて(笑)。管理がいいからこそ工事自体の制約が多く、ヴィンテージマンションならではの設備の撤去、構造を回避するにはどうすべきかなど、検討すべきことは山のようにありました。

だけど大久保さんと二人三脚で家をつくっていくことが楽しくて、最終的には職人さんたちが『明日も行こうか!?』って提案してくれるくらい盛り上がった現場でもあるんです。

ゲストを迎え入れる玄関ホールには、大久保さんがコレクションしているアートを飾るスペースを設けた(現在はKYNE氏のミラーを展示)。スイッチの数は極力減らし、センサーで人が通るたび灯る仕組みに。一部の建具を除き、フルハイトドアで揃えているのもポイント。

キッチン、カップボード、洗面台、トイレ手洗いなどは田中工藝社製で統一。水栓金物には谷尻誠氏、吉田愛氏率いるサポーズデザインオフィスのプロダクト「cye(サイ)」を使用している。

わたしは何でも、一度お願いすると決めたらほとんど口出ししないって決めていて。空間デザインに関して素人であるわたしが何か言っても『木を見て森を見ず』みたいな感じで、チグハグなものしか出来上がらないって分かっているので。

だからこそ、パートナー選びにはこだわりましたが、そこからはほとんどお任せという感じでした。

内装がすべて撤去されたスケルトン状態のタイミング、壁の位置を決める墨出し確認のタイミングなど、要所要所で花山さんから声を掛け、その度に大久保さんは差し入れを持って現場を訪れた。

主寝室に付帯するウォークインクローゼット(WIC)。映画の世界観に憧れ、大久保さんからリクエストした空間のひとつだ。

クリニックを新設するときもそうなんですが、工事中はできるだけ現場に足を運ぶようにしていて。職人さんとお話しすることによって細かいこだわりを教えてもらえるし、完成したあと隠れてしまう部分も見ることができるじゃないですか。

コミュニケーションを取ることによって丁寧にお仕事していただけるし、出来上がった空間になおさら愛着が湧くと思っています。

花山さん:本当に信じて任せていただいて、とても進めやすかったです。細かなリクエストもほとんどなくて、『ここの壁にこんなアートを飾りたいんだけど』とか、そのくらいだったと思います。

ダウンライトは数を極力減らし、灯体が奥まったものを使うことによって、夜間でも窓ガラスに光が映り込まない造りになっている。窓前の埋め込みエアコン設置も、ミリ単位の調整が必要だった箇所。 

工程が厳しかったからこそ、多い日には20人くらいの職人が現場に居合わせ、設計を担当する花山さんの前には各々の確認のため長い行列ができたというほど。しかし施主である大久保さんも交えての家づくりは、エピソードを聞いているこちらまで楽しくなるほど和気藹々とワンチームで進んでいったようだ。

■新築を検討している人ほど、リノベーションの楽しさと満足度を知ってほしい

物件探し期間まで含めると約2年間。完成した住まいを見て、大久保さんはどんな感想を抱いているだろう。

とにかく楽しかった! というのが一番の感想です。みんなでイチから空間を創り上げるって、本当に楽しい。

ものすごく高い金額を払って購入する新築マンションも、結局自分が気に入る間取りや内装になっているかって分からないと思うんです。実際わたしは標準仕様だと満足できそうになく、理想を叶えるにはオプションに膨大なお金をかけなければいけないと痛感しましたし。

引っ越しを間近に控えて思うのは、かかったコストも、内装のクオリティも、すべてにおいて満足しているということです。もしいま新築や築浅物件を内見し、わたしと同じような壁に当たっている方がいらっしゃれば、ぜひリノベーションの可能性も検討してほしいですね。

LDK全景

これからこの住まいで、どんな日常を思い描いているのだろう。

わたしも友人たちと同じように、これから家族を持ったり、子育てするかもしれない。でもこの広さがあれば、そんなライフスタイルの変化も柔軟に受け入れられそうです。

日本人のアーティストさんが好きなので、まだまだアートを増やしていきたいですし、窓前のフラワーボックスにどんな植栽を置こうか考えるのも楽しいです。

それと、ルーフバルコニーに面した離れをどう使おうか妄想中です。瞑想とトレーニング、ゴルフのパット練習場にしようかな、とか(笑)

わたしが住み続けてもいいし、将来的には地方に住む両親に上京してもらい、ふたりの終の住処にしてもらってもいいなとも思っています。完成した写真を見せたらすっごく喜んでくれたんですよ。

家を購入することは、新築であろうが中古+リノベーションであろうが大きなお金を支払うことに違いはない。けれどもその金額と見合っただけの、もしくはそれ以上の納得感や満足感を得られることがとても大切なのではないかと思う。

物件探しに難航している方は、ぜひ大久保さんのようにたくさんの選択肢を身をもって体感・検討し、避けていた条件にも目を向けてみると、思いもよらない素敵な住まいと出会えるかもしれない。

ーーー物件概要ーーー
<居住者構成>おひとり+猫1匹
<間取り>3SLDK
<面積>専有面積約130㎡+ルーフバルコニー
<築年数>築約50年

ーーー設計ーーー
<会社名>メジャースケール株式会社

取材・文・撮影:伊勢谷 亜耶子


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