気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第89弾は「大山」です。


■意外と便利な場所にあります

今回降り立ったのは板橋区「大山」。『どこかで聞いたことあるぞ?』と思ったそこのあなた。その気持ち、ちょっと分かります。

まずはこのエリアの位置関係や交通手段をご紹介しましょう!

© OpenStreetMap contributors

「大山」駅はターミナル駅「池袋」から3つ先(乗車時間はわずか約6分!)、東武東上線の各駅停車駅。アクセスのよさに定評があります。

駅周辺には山手通りやその頭上を走る首都高速道路、川越街道が通るため、車を使った移動も便利なエリアなんですよ。

左・「大山」駅東側には、都心の主要道路である山手通りが南北に通っている。その頭上には首都高速中央環状線も。/右・山手通りと交差する川越街道。

とはいえ、東武東上線の各駅停車駅というのは、やや知名度が低いイメージ……なぜ聞いたことがあるのでしょう? おそらくその答えはこちら!

じゃじゃーん! 全長560mもの長さを誇るアーケードの大規模商店街「ハッピーロード大山商店街」です!

1日約32,000〜34,000人ほどの方が訪れるこちらの商店街には、スーパーや薬局、洋服店、カフェにお惣菜屋まで、日常を支える211もの店舗が連なっています。

そしてこの商店街、今まさに変革を迎えているタイミングだそう……詳しくは後ほど!

左上・駅前の老舗ベーカリー「マルジュー 大山本店」。コッペパンの元祖と言われ、その歴史は古く大正2年(1913年)創業なんだとか。/右上・たびたびメディアに取り上げられるクレープの専門店「ピエロ」。メニューはなんと200種以上! 商品名がずらりと書かれたメニュー表は必見です。/左下・著名人のサインが数多く飾られている精肉店「新井精肉店」。食べ歩き番組のロケ地としても有名なんです!/右下・商店街の出口まで歩くと突き当たるのは、川越街道。

今回お話を聞かせていただく “街の先輩” は、商店街振興組合の元理事長・小原貢久さんと、商店街活動の事業支援マネージャーとして関わっている大塚達朗さん。小原さんは現在相談役として、この街の発展を力強く支えていらっしゃいます。

左から大塚さん、小原さん。

■商店街の成り立ちって?

まず一番に聞きたいことなのですが、これほど大規模な商店街は全国を探してもほとんどないと思います。なぜ、ここ「大山」に誕生したのでしょう?

商店街事務所にて

小原さん:もともと今ある「ハッピーロード大山商店街」は、大山駅寄りの「大山銀座商店街振興組合」と川越街道寄りの「協同組合大山銀座美観街」というふたつの商店街でした。

1960年代当時は物を置いておけばすぐ売れてしまうほど、毎日のように人で賑わっていましてね。東上線の奥からわざわざこの街を目指して人が来るくらいだったんです。

それが1970年代に入ってすぐ、「池袋」でサンシャインシティの建設が決まったことで、ついにこの賑わいも失われてしまうと各商店の店主たちは危惧しまして。

ここは一丸となって対抗するしかないと、今の大きなひとつの商店街に合併したというわけです。

全長560mもの長いアーケードは、商店街がひとつになったことをきっかけに1978年4月に完成。『雨の日でも傘をささずに通行できるのが嬉しい』と、お客さまに大変喜んでいただけたそう。

なるほど。商業圏が被ってしまう「池袋」との差別化のために、地域が団結した結果生まれた商店街というわけですね。

その後もアーケードの全面的な大改修や、防犯カメラの設置、照明のLED化など、さまざまな取り組みが行われてきたんだとか。

これらの活動を通じて、商店街の健やかな発展の礎が築かれました。

■物を介して、人と人の思いが触れ合う交流拠点

そんな商店街振興組合ですが、2000年代に入ってからは新たな取り組みを始めます。

それが、小原さんが立ち上げに尽力し、2005年にオープンした全国ふる里ふれあいショップ「とれたて村」。このお店では全国各地の新鮮なとれたて野菜や魅力的な特産品を販売しています。

2022年3月時点で9の市町村と直接契約を結んでおり、今まで16年間にわたり食の魅力を地域のみなさんに届けてきました。

しかしいったいなぜ、この事業を始めることにしたのでしょうか?

毎日のように多くの人で賑わう「とれたて村」。このお店を目的に大山を訪れる人も多くいるそう。

小原さん:商店街は人が来てなんぼの商売だと思うんです。そのために “ハッピーロードここにあり” ということを世間に知ってもらいたかった。

ただ一発屋では困りますから、普段から人が来てもらわないといけないわけです。それでどうしようかと考えたときに、デパートの物産展に目をつけたんですよね。

当時はアンテナショップ(※)がポツポツと出始めた頃でしたから、『よし、これをやってみようじゃないか』と。

※企業や地方自治体などが自社あるいは地元の製品を広く紹介したり、消費者の反応を探ったりする目的で開設する店舗のこと。

店内には全国各地から集まった商品が魅力的なポップとともに陳列されている。どんな商品があるのか、眺めているだけでも楽しい。

小原さん:ただ商店街の人間だけが潤うんじゃなくて、契約農家の方、なにより地域の方々、関わるみんながハッピーになれるように。ウィンウィンの形でやれないかと思ったわけです。

だからこそ目指したのは、物の売り買いだけでなく、人と人が交流できる場所になることでした。農家の方が店頭で直接自分の口で説明して、お客さんはその話を聞いたうえで商品を購入してくれる。

ある地方に注目した物産展を開くときは地元のお祭りをここでやってもらったり。それでお客さんも『実はそこの出身なんです』と盛り上がったりしてね。

東京は地方出身者の集まりって言いますから、やっぱり自分の故郷が取り上げられるのはみんな嬉しいですし、物を介して人と人が交わるということに好評をいただけて。

左上、右上・東日本大震災による東北地方の復興支援を目的に、商店街が主催し2011年8月より開催している「大山ふるさと夏まつり」(2020年からは新型コロナウイルスの影響で中止に)。全国市町村の生産者も参加し、地域の特産品販売やふるさとPRなどが行われている。/左下・「とれたて村」参加市町村に出向き、収穫体験ができる産地訪問ツアー。直接触れ合うことで、その地域への愛着が増すんだとか。/右下・地方からの修学旅行生を受け入れ、販売を体験してもらう企画。学生たちも自分たちの住む街の魅力を再認識する機会になっているそう。(4枚ともにハッピーロード大山商店街より提供)

かくして店舗での販売にとどまらず、郷土愛を感じられるイベントの開催や、産地訪問ツアーの実施、産地からの修学旅行生の販売体験など、大山と産地を結ぶ拠点としての活動を行ってきた商店街。

“人と人とのふれあい” 。このワードが、大山の街の魅力を知るうえで鍵となっていきそうです。

『生産地や農家の方のお名前を掲示したり、店内には交流市町村の紹介パンフレットも置くなど、なるべく作った人の顔が見えるようにしています。地域の魅力を見つける機会になると思いますよ』と大塚さん。

■脈々と受け継がれるのは、街への思い

さて、「とれたて村」のことを紹介しましたが、商店街は他にも多数の取り組みを行ってきたとのこと。

そのひとつが、各商店の店主が講師となり、地域の人々にプロの技術を無料で教えてくれる「まちゼミ」という企画。

各商店の店主が主役となる「まちゼミ」は、今ではこの街の一大イベントに発展。居酒屋店主が天ぷらの揚げ方のコツを教えてくれる回など、興味深い講座が目白押し。

大塚さん:「まちゼミ」はもともと全国の他の商店街でも事例としてあったのですが、大山は特に自発性というか、自分たちで進めていくエネルギッシュな空気があるように思います。

内に閉じずに、商店街の加盟店以外も巻き込んでやられてるんですよね。実行委員メンバーにも入ってもらったりしてますし。

そうすると今まで “点” でしか影響を与えられなかった取り組みが、地域全体に “面” として機能し始めるんです。

取り組みのひとつひとつがただの一発屋的なことではなくて、漢方薬みたいにじわじわと、地域の連帯感の向上に貢献しているなと思いますね。

人を巻き込むことで、より広範囲に影響を与えられる。お話を聞くにつけ、街の盛り上がりには地域に関わる全員が主体的に取り組んでいく必要があるんだと感じました。

ただ一方で、街に関わる皆さんがこれほどまでに協力的な理由が気になります。

左・「ハッピーロード大山商店街」の加盟店舗で使用できる共通ポイントカード「ハローカード」。商店街として全国初の試みだった。/右・店舗のシャッターを1枚のキャンバスに見立て、美大生がアートを描くイベントも。(3枚ともにハッピーロード大山商店街より提供)

小原さん:先代から今まで、『なんでも先駆けてやってみよう』という精神が脈々と継承されているからだと思います。

当時から各々が知恵を振り絞って、商店街に人を呼ぶためにどうしたらいいかを創意工夫して考えてきました。

今では若い店主が増えてきて、2、3代目の息子娘が着実に継いでいます。役員陣も商店街としては比較的若い方で、理事長はじめ役員は40~50代を中心に構成されていることも特徴ですね。

そうしたひとりひとりのメンバーが、街がやってきたこと、親がやってきたことを間近で見てきて、その気持ちごと継いでるのかなと思います。

「ハッピーロード大山TV」は商店街が運営するYouTube内の番組。商店街や地域の情報を面白く、楽しくお届け中。商店街公認アイドルの「CUTIEPAI・まゆちゃん」(写真左下)や、商店街レスラーである「ハッピーロードマン」(写真右下)が所属する「いたばしプロレス」のメンバーも出演している。(3枚ともにハッピーロード大山商店街より提供)

小原さん:まちゼミに関しても、昔は企業秘密だからなんて突き返されることもありましたが、今はお客さんのためだったらとやってくれるんです。みんな、「大山」の街の未来を考えてくれているんですよね。

大塚さん:こういう風にやってみようと人の意見を受け入れて、どんどん実践していく。大山の人たちは思考が柔軟なんだと思います。

それに、ここ10年ほどで板橋区全体の人口が増えていて、20,30代が特に多いそうです。「池袋」が近い割に家賃が安いからでしょうかね。

どんどんと年代が若返っている印象があるので、これからますます活気付いていく街なんじゃないかと思います。

大塚さんは “街づくりのプロ” として全国各地の町おこしを支援。着任にあたっては、大山に住むことが条件だったそう。『物価が安くて住みやすいです。板橋区は23区で病床数が最も多く、医療環境も充実していますよ』と大塚さん

■これから、街はどうなっていくのだろう

50年以上の歴史がありながらも、全国の商店街に先駆けて新しい取り組みを次々と行ってきた「ハッピーロード大山商店街」。なんと現在、駅周辺の再開発計画が進行中とのこと。

© OpenStreetMap contributors 「大山駅周辺地区まちづくりのお知らせ 第11号」を元に作成。

今回の再開発によって、商店街をふたつに隔てる形で道路が通されることになります。最後に、おふたりに今の思いを聞きました。

小原さん:これまで地域の皆さんに支えられ、商店街は大きな発展を遂げることができました。ただこの先、ネット通販も普及し商店街離れも進むなか、今のやり方では通用するか分からない。

30年後を見据えて次の代にどうバトンを渡すかを考えたときに、新たな街づくりが必要なんじゃないかと。

大塚さん:ただそれは単に道路を通しましょうという話ではなくて、商業面から環境面まで含めて、条件あっての開発です。大山という街自体の発展が期待できるように、今も話し合いを進めています。

商店街のなかや川越街道沿いを含めて、すでに一部のエリアでは再開発が進行中。店舗の移転先の案内が掲示されていたりと、着実に工事が進んでいる様子。

商店街はきたる再開発に向け、商店街の100%出資でまちづくり会社「まちづくり大山みらい株式会社」を立ち上げたとのこと。大山の未来を見据えたエリアマネジメントの旗振り役を担うべく、都市再生推進法人(※)の認定を目指しているそう。

※地域のまちづくりを担う法人として市町村が指定する団体

再開発で空きスペースとなる場所の事業企画も商店街側が主導して進めるなど、行政と協力しながらひとつひとつコトを進めているのだとか。

商店街がシェア事業の専門集団「ジェクトワン」と提携しオープンした「かめやキッチン」。空き店舗を利活用する新事業として生まれた今回の店舗は、飲食店を創業予定の人のテストケースや、料理好きのママ友たちが集うレンタル貸しの料理教室などのほか、幅広く利用されている。次の計画も進行中で、これからさらに空き店舗を活用していく予定だそう。(ハッピーロード大山商店街より提供)

一部反対意見もあるそうですが、それもすべてひとりひとりが街を思い、いかに次世代に魅力ある街を残せるかを考えているからこそ。

今後も行政や商店街、地域の皆さんで話し合いをしながら丁寧に進められていくことになりそうです。

時代時代でぶつかる課題に、常に前向きに、新しい形を模索して取り組んできたこの街。きっとこれからも人と人で手を取り合い、議論することで、街の魅力は着実に継承されていくでしょう。

老若男女、あらゆる人たちの暮らしを支える商店街という存在。

街を行き交う人々がショッピングバッグ片手に帰路へとつく姿を目にした私は、どうかこの風景がいつまでも続きますようにと願ったのでした。

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