麻布十番といえば、下町らしさが残る駅前の商店街が有名ですが、今回ご紹介するのは、商店街とは反対側の閑静なエリアに佇むヴィンテージマンション。

なだらかな日向坂を上っていくと、賑やかな駅前とはまったく異なる光景に圧倒されます。坂の途中に佇むオーストラリア大使館の隣には、宮殿のような洋館「綱町三井倶楽部」がそびえ、その斜め向かいには、昭和初期の官庁建築のひとつである旧逓信省簡易保険局(現かんぽ生命東京サービスセンター)が。

左上・6階建ての重厚感あるマンションの3階がご紹介するお部屋。/右上・マンションのすぐ隣には、綱坂と名付けられた坂道が。両側にはお屋敷町らしく立派な築地塀が連なっています。/左下・物件の斜め向かいにそびえる「かんぽ生命東京サービスセンター」は、昭和初期の名建築。/右下・こちらは麻布十番の商店街。昔ながらの商店と新しいお店が混在し、多くの人で賑わいます。


かつて綱町と呼ばれていたこの界隈は、江戸時代は武家屋敷として栄えたのだそう。偉容を競うように点在する歴史的建造物に見惚れながら坂を進むと、ありました! かつてのお屋敷町の名前を冠した「綱町ホームズ」。

建物の周囲が瓦を載せた伝統的な"築地塀"で囲われているのは、その昔、ここがお屋敷だったことの名残なのでしょう。重厚なこのマンションの1室のリノベーションを手掛けたのは、株式会社ウダツの宮島光太郎さんです。

宮島さんはマンションデベロッパーに10数年、不動産運用会社に約8年勤務した後、不動産投資会社、株式会社ウダツを設立。20年ほど前から自宅の改装を趣味としてきたことから、そのノウハウを生かし、リノベーションの企画と監理を自らこなしているのだそう。


127㎡という贅沢な広さのヴィンテージマンションをどんなふうにリノベーションするか。宮島さんが出した答えは、これまで自宅のリノベーションを幾度も手掛けた経験から得た、ごくシンプルなものでした。

僕は建築畑の出身ではないんですが、昔から自宅をあれこれいじるのが好きだったんですね。ここ20年の間に自宅を買っては自力でリノベーションして住んで、売却して、また買って、を繰り返して、気がつけば7物件を改装してきました。始めは壁の塗装や床材も凝りに凝ったものにしたりしたんですが、いろいろやってみてわかったのは、自分がこだわって選んだ家具や植栽を趣味のものを置いて暮らすのに、部屋自体にあまりクセがあると、しっくり来なくなってしまうということ。部屋自体はシンプルなキャンバスにして、自分が持っている家具が映えるようにしたいなと思ったんです。

たしかに、インテリアや趣味にこだわりがある人ほど、プレーンな間取りを自分色に染める暮らし方に行き着くような気がします。

そんな考えのもとにリノベーションを施した、潔いまでにシンプルな大空間。そこには随所に細やかな工夫が施されていました。

北東向きの3階ながら、見晴らしがよく明るいLDK。窓の外には東京タワーが見えています。

まずは圧巻の広さのLDK。遮るものが一切なく、ひたすら広々とした空間は、木目が美しいオークの床がすがすがしい雰囲気。シンプルであることで、成熟した暮らしを満喫する人にふさわしい風格に満ち溢れているように見えます。

この部屋はもとから2LDKで、間取り自体はまったく変えていません。
こういうお部屋に住まわれる方は、ご夫婦のみとか、ご夫婦+お子さんがひとり、ぐらいの少人数でゆったりと暮らされると思うんですね。家具も重厚だったり、大きさがあるものをお持ちのはず。また、週末にはたくさん人を呼んで、ここでパーティすることもお好きだったりするんじゃないかなと考えて、余計なものを置かず、広さを確保しました。

エアコンはビルトインですっきりと。天井は梁を出してさらに天高を出してあるので、空間がますます広々として見えます。

こんなLDKにはテレビは置かず、プロジェクタで壁に大きく映し出すのが似合いそう。アメフトの試合を見ながら数十人でわいわい盛り上がる、海外ドラマのようなワンシーンを思わず妄想してしまいます。

外国の邸宅でよく見かける、憧れのコの字型のキッチン。導線がよく、料理もしやすそうです。


キッチンも驚異の広さ。これだけカウンターが広いと、大人数のパーティでも余裕で料理が振る舞えますね。リビングダイニング側に面した一角は、カウンターテーブルやバーコーナーとしても活躍しそうです。正面奥にはクッキングヒーターとオーブン、左側のカウンター下に食洗機が収められています。収納もたっぷりあって、食器や調理器具がいくらでも入りそう。

キッチンとリビングダイニングとの間には、もとは壁があって、キッチンは独立していました。今回、壁を取り去ってセミオープンにしたことで、より広さを出し、サーブもしやすくなっています。収納棚の奥のコーナー部分は、中がターン式になっているので、物を出し入れしやすいですよ。

さらにキッチンの反対側は、大型冷蔵庫が収まるパントリースペースも。食材をたっぷり買い溜めしてもラクラク収まります。

また、ラグジュアリーなサニタリースペースも感激モノ。

板張りのバスルームは、昭和の高級感を漂わせ、モザイクタイルがかわいらしい洗面コーナーやトイレも広々としています。大きな収納棚も設置されているので、ごちゃごちゃしがちな小物はすべて収めてすっきりと使えますね。

クラブハウスにありそうな、赴きあるバスルーム。


ゆったりしたサニタリーは上品な色合いのモザイクタイルがアクセント。


これだけの広さゆえ、収納スペースや廊下の幅もスケールが違います。廊下に防火壁が設置されているのも、100㎡超え物件ならでは。

廊下の先には小振りの居室と、12畳ほどの主寝室があります。手前の居室は子ども部屋か趣味の部屋、奥は主寝室として使うのが一般的でしょうが、ご夫婦ふたりの住まいなら、手前を主寝室に、奥の部屋はセカンドリビングにするのもよさそう。

LDKと同じオークの床材が敷き詰められた廊下には、奥行きのある収納が組み込まれています。


主寝室もシンプル&広々! 右側にあるウォークインクローゼットは、ルーバー付きの扉で通気性も十分。


そして主寝室の奥には、東側の壁いっぱいに広がるウッドデッキテラスが!

テラスはもともとガラスの手摺で囲われていましたが、高さのあるウッドパネルで囲ってプライベート感を出しました。椅子に腰掛けると、周囲の視線を遮ることができて、なおかつ、東京タワーはゆったりと眺めることができるんです。

周囲の視線を気にせず思い切りリラックス出来るウッドデッキテラス。ここで何をしようか、考えるだけでわくわくしてきます。


これだけ広くてプライベート感のあるテラスなら、楽しみ方の幅もぐっと広がります。友人を招いてバーベキューパーティをするもよし、壁沿いにぐるりとハンギングバスケットを吊るしてガーデニングを満喫するもよし、ヨガマットを広げてもよし、ゴルフマットも敷けちゃいます。まるで部屋がもう1室あるみたい!

ちなみにこちらの住戸、すべての部屋から東京タワーが眺められるというのも大きな魅力。3階ながら、大きな通りに面していて隣接する建物が少ないため、程よい見晴らしがあって、東京タワーも裾のほうまでよく見えるんです。しかもかなり近い! 夜景は一層素敵であることは間違いありません。

広い通りを見渡す窓の景色がとても印象的。3階でも見晴らしがよいのが自慢です。


ため息が出るようなスケールのお部屋をぐるりと見学させていただきましたが、さらにすごい設備を発見! 洗濯物を目隠しして干すことができる2畳半のランドリールームがあるのです。下の写真の右側がそのランドリールーム。上部に送風機が付いていて、しかも扉を閉めれば洗濯機が置かれているとはまったくわかりません。

左・廊下にあるクローゼットは奥行きがあり、大きな物も余裕で収められそう。/中・主寝室のウォークインクローゼットは細かな仕切りや小物を入れられる引き出しなど収納設備が充実。/右・キッチンの反対側に設けられたランドリールーム。上部に送風機が設置されていて、多少の洗濯物はここで干すことができます。


洗濯機や洗濯物を置く場所って、少人数なら狭く、家族が多いほど大きくて広いほうがいいと思いがちですよね。でも、実は逆なんです。家族が多いとそれだけ洗濯物が溜まりやすいから、しょっちゅう洗濯機を回すんですね。逆に少人数の家庭の場合は、ある程度洗濯物を溜めて一気に洗うというサイクルになることが多いんです。この住戸は大家族で住むというより少人数で暮らすことを想定しているので、洗濯物を置いたり干したりするスペースをあえて広くしたんです。

生活のサイクルを考え尽くしたこの心遣いはうれしい限り。そして、洗濯の前に種類ごとに分類できるよう、ラックや棚をいくつも設置してあるという細やかさにも脱帽です。

ちなみに主寝室のウォークインクローゼットも、小物やアクセサリーなどをきちんと分けて収納できる機能的な造り。シンプルさの中にある細部への心配りに、取材チームの女子3人はひたすら感激するのでした。

さて、サイト上ではとても表し尽くせない本物件の魅力は、ぜひ実際に足を運んで体感してください。

この部屋は東京タワーに見守られながら、おごそかにあなたのことを待っているに違いありません!


取材・文:吉田タカコ/撮影:cowcamo