ここ数年、日本で盛り上がっているお酒のひとつといえば、クラフトビールは忘れてはならない存在です。聞いたことはもちろん、実際に飲んだことがあるという方も多いのではないでしょうか? クラフトビールを専門に取り扱う飲食店も年々増えていますが、それとは一線を画するお店が今回ご紹介する東京恵比寿にあるリカーショップ「NIGHT OWL(ナイトオウル)」です。ここの特徴は何と言っても、ドラフトのクラフトビールを量り売りしてくれること。今回はマネージャーを務める小菅一範さんに、クラフトビールをよりおいしく楽しむ方法をお聞きしました。

「とりあえず、ビール」と言われるくらい日本で愛されているビール。しかし、「とりあえず」の一言で済ますにはあまりにももったいない奥深き世界が広がっていました。

こだわりのセレクトリカーショップ「NIGHT OWL」

恵比寿駅からおよそ徒歩5分。さまざまなお店が入るビルの奥へ奥へと進んで行った先に見える「NIGHT OWL」のロゴが描かれた扉。いちげんさんでは、たどり着くことが難しそうな場所にありますが、それがむしろワクワクした気持ちを高めます。

扉を開けてお店に入って進むとすぐカウンターが見え、奥には大きな冷蔵庫が。よく見ると、6つのタップが側面に付いています。こんな冷蔵庫今までに見たことがありません!

この冷蔵庫には、量り売り用のドラフトのクラフトビールの樽と、同じく量り売り用のワインの樽が入っています。冷蔵庫はオリジナルで造りました。鉄工所にお願いをして、業務用の冷蔵庫に、海外から取り寄せた器具を組んでもらいました。

扉の先に突如現れる空間

6つのタップのうち、左の4つがドラフトのクラフトビール、右の2つがドラフトのワイン。冷蔵庫の中には、それぞれの樽が大切に保管されています。

量り売りができる6種類のうち、4種類がドラフトのクラフトビールで、残りの2種がドラフトのワイン。黒板にはその日、量り売りで購入できる銘柄が記載されています。

ビールは1番から4番まであります。1番がさっぱり、フルーティだったり華やかな飲みやすいもの。2番が特殊な作り方をしていたり、スペシャルなもので全体的に重みのあるもの。3番が華やかだけれど苦味がしっかりあるもの。4番がエール系という飲み疲れしないものでモルトの甘味やチョコレート感があるもの、というバランスを意識しながらセレクトしていますね

樽の容量によっても異なりますが、だいたい一週間から二週間で銘柄が変わっていきます。

そもそも、クラフトビールの定義とは何なのでしょうか。疑問に思いますよね。しかし、まだ日本での歴史が浅いクラフトビールは、確固たる定義と言えるものは実はありません。

では、小菅さんが考えるクラフトビールとは?

ほとんどの日本の方が思っていると思いますが、一般的なコンスターチなどで薄めず、おいしく作ったビールではないですかね。アメリカに言わせると今の時代に合わせたものがクラフトビールだと言う人たちもいますね

小菅さんのいう「今の時代に合わせたもの」というのは、古くからの作り方をそのまま踏襲するのではなく、醸造家の手によってひと工夫もふた工夫もされているものを指します。醸造家によるこだわりが一番出る部分であり、クラフトビールを楽しむ醍醐味はこの部分にあるとも言えます。

違いが楽しいクラフトビール

この日量り売りに出ていた、1番、2番、4番のクラフトビールを実際に飲み比べてみました。

最初に驚いたことは、色がまったく異なるということ。見た目からしてここまで違うとは。

3つの中でも飲みやすそうな1番からいただきます。

新潟の胎内高原という場所で作られている「シトラ・ヴァイツェン」というビールです。シトラというアメリカ原産の柑橘系のホップをふんだんに使っているヴァイツェンという種類です。柑橘系というよりも、使っている麦のほのかな甘味がして、みずみずしい白桃のような、ちょっとほのかな抜け感を味わうことができます。

美しい金色。爽やかな風味が口の中に広がります。若干酸味を感じますが、嫌な感じはなくさっぱり。スイスイと飲めてしまいそう。好き嫌いの差が出にくい、人で例えるなら好感度の高い人気者タイプと言えそうです。

2番はイギリスのWILD BEERという作り手の「Bibble」というビールです。野生の酵母を使っている種類も出していますが、これは使っていないタイプのものです。オレンジピールの華やかな香りがありながらも、ずっと飲んでいられるような、アメリカンペールエールというスタイルのもの。クリアにできています。

見た目はアンバー色。グラスを鼻に近づけてみると1番とは明らかに違う香りがします。少し苦味を強く感じますが、すっきりとした喉越し。飲んだ後は香ばしさが鼻に抜けていくのを感じます。第一印象は気難しい感じだけれど、付き合っていくうちにだんだん好きになってしまうタイプという印象。

4番はオーストラリアのメルボルンで作られているMOUNTAIN GOATという作り手の「Fancy Pants」です。タスマニアで採れた「ギャラクシー」というホップを使っています。ほのかに酸味やふくよかさがありながら、重すぎたりクセがありすぎて全部飲めない、という飲み疲れがなく、おかわりがしたくなるようなタイプです。2番と4番は方向性は似ていますが、まったくの別物です

見た目は一番濃いのですが、カラメルのような甘い香りがします。飲んでみると、コクのある苦味が広がりますが、確かに重すぎるという感じはありません。丸く優しい後味で、じっくり味わいたい気持ちになります。私はこの4番が一番好きでした。強そうな見た目とは裏腹に実はとても優しい人というような、ギャップのあるタイプだと感じました。

三種類飲んだだけでも、その違いに驚きます。また、ドラフトだからでしょうか。芳醇な香りも普段飲んでいるビールとは明らかに異なります。一気にグビッと飲むというよりは、ゆっくり香りと飲んだ後の余韻を楽しみたくなりました。

今回紹介したものは、記事の公開後には販売終了している可能性がありますが、小菅さんに相談しながら自分の理想に近いものを探すのも楽しいと思いますよ。

思わず欲しくなる! 量り売りを利用するための道具「グラウラー」

量り売りのクラフトビールやワインを購入する時に必要不可欠なアイテムがあります。その名も「グラウラー」。ガラス、ステンレス、アルミ、陶器などでできた容れ物です。そのまま飾っても絵になるくらい見た目もおしゃれ。

ガラス瓶のグラウラー。中央にあるのがNIGHT OWLオリジナル。部屋に飾りたくなるようなスタイリッシュなつくり。

ステンレスでできたグラウラーは、ビールの炭酸用に耐圧を兼ねているものが多いのだそう。

グラウラーはアメリカではよく使われています。一般的なビールの作り手は、樽のビール、ボトル、缶をそれぞれ販売してという流れになると思いますが、アメリカだと「ドラフトしかやらない」「ボトリングをしない」という主義の方も多いんです。そういう所は、その作り手のところに行けば週に3日くらいはグラウラーを使った持ち帰りも対応していたりして、その日はお客さんで行列ができる、なんてところも少なくありません。結局、作り手側からしてもボトリングしたり、缶にしたりする設備が必要ないですし、在庫を抱えなくても済む。そこでしか飲めないということが価値にもなりますよね。

作り手側にも大きなメリットがあると言える量り売りですが、今の日本では、免許の取得や役所への手続きが複雑かつ面倒なことも影響してか、実際に行っているところは少ないのだそう。しかし、量り売りには私たちがまだ知らないビールの楽しみ方があるのも事実です。

やはり、同じ銘柄でもドラフトと瓶詰めされたものだと味わいがかなり違ってきますね。一般的にというか経験則に近いのですが、容器と液体の接地面積が大きければ、大きいほど味わいは落ちると言われているんです。なので、ワインに対してもハーフボトルよりもフルボトル、フルボトルよりマグナムボトルが圧倒的においしいです。ビールもそうだと思うのですが、ビールはまた少し特殊で、瓶の中で熟成させるものもあります。単純に味わいが落ちるというより、別物になっているという場合もあります。

その違いを楽しむのも、新しいビールの魅力発見につながりそうです。さらに、どのくらい空気を入れるか、樽からタップまでをつなげるライン(管)の長さをどうするかでも味をある程度調整することも可能だそう。失礼を承知で言うと、ビールって思っていた以上に繊細なんですね。

ビールに限らず、ワイン、日本酒など醸造系は生鮮食品に近いですね。

NIGHT OWLオリジナルのグラウラー。海外のものは基本的に容量が多いが、こちらは無理なく飲みきれるサイズの750ml。幸運の象徴でもあるふくろうが夜に羽ばたく姿が描かれています。さらにNIGHT OWLという言葉には「宵っ張り、夜歩きまわる人」という意味もあるのだそう。

作り方にもよりますが、グラウラーに入れたビールは基本的に冷蔵庫か野菜室保存でだいたい2日以内は楽しめるとのこと。もちろん、なるべく早く飲むにこしたことはありません。

ビールが好きな人にグラウラーに詰めて贈るという方もいますし、もっと合理的な方だと中身だけ飲ませて回収するというパターンもありますよ(笑)

ビールが嫌いな人は、本当のビールのおいしさを知らないだけかもしれない

お酒が好きで、知識も豊富な小菅さん、さぞかし昔からビールも好きであったのだろうと思いきや、「もともとビール苦手だったんです」と衝撃発言!

鮮やかな手さばき。

それは、遡ること今から6年前の話。

アルコールだったらウィスキーとかカクテルとかそういったものが好きだったんです。ビールの主に炭酸が苦手だったんですが、一般的なビールのエグ味や香りがあまり好きではなくて、まったく飲む習慣がなかったんです。それがおいしいと思うようになったのが、友達がエビスビールの琥珀ヱビスを飲んでいて、少し飲んだらよくて。ダメだったものがよくなると、これはどうなんだろうという探究心が芽生えました。また、その時辺りからちょうどいろいろと新しいクラフトビールが入りはじめた時期だったので、いろんなお店に行ったりしました。

当時の小菅さんのように「ビールがなんだか好きになれないんだよね」という人は、もしかしたら単純においしいビールにまだ出会っていないだけなのかもしれませんよ?!

これからの季節におすすめのビールの楽しみ方

最後に小菅さんに教えていただいた、これからの季節におすすめのビールの楽しみ方をご紹介します。

まず缶の場合、缶から直接飲むのはNG。グラスやプラスチックのカップでもいいので、きちんと他の容器に移して飲むことが大切です。

味というのは、まず初めに香りが鼻から入り口から抜けていくことで補填しているので、香りはとても重要です。瓶や缶のままでは香りが上がってこなくなってしまうのでおすすめしません

また、ビールの冷やし過ぎも要注意。これは冷えによって香りが開かなくなる場合があるため。理想としては、一番低くても7度。そこから15度以内がベストな温度なのだそう。重めのビールだったら赤ワインと同じ15度でOK。

さらに上級者さんにおすすめなのが、グラスを変えて楽しむ方法です。

オールマイティに使えるのが、ボルドーグラス。酸味やフルーティさを楽しみたい場合は、白ワイングラス。全体的にボディがあったり、深み、甘味があるもの、色が濃いタイプのものはチューリップと呼ばれるより華やかにしてくれるタイプのグラスをうちでは使っています。

同じビールでもグラスを変えて飲んでみると、全然違ってくるものがあります。ポイントとしては、グラスに注ぎすぎないこと。ワインと同じくらい、多くてもグラスの半分の量に留めるようにしてください

ここで、ふと疑問が。ビールと言えば泡も大事な気がするのですが・・・?

少し飲んでみて、炭酸が強すぎる場合は、あえて炭酸を飛ばしてあげるほうがいいと思いますが、泡は基本的に意識しないでいいと思います。みなさん意識しすぎるあまり、泡立たせ過ぎていてバランスが悪くなっている場合が多い。空気が入るし、ガスと一緒に香りも抜けてしまいます。立てようとしなくても、自然と泡は出てくるものなので、普通に注いでもらえればいいと思います

なるほど、これは気をつけたいポイントです。

では次に、これからの季節におすすめのビールを、好みやシーン別にみていきましょう。NIGHT OWLで買うことができる瓶ビールも合わせて教えてもらいました。

・これからの寒い時期におすすめ

お店の名前と同じ「NIGHT OWL」というスパイスを感じるパンプキンエールがおすすめだそう。合わせるのは、こちらもお店で販売している砕いたピンクペッパーが入ったホワイトチョコレート。

寒い時期は、しっかりとボディがある濃密なタイプのビールはいかがでしょう。スパイスの効いたホットビールもおすすめですが、一般の方がご自宅で作るのはちょっと難しい。やはりそういうのは、バーテンダーさんがいるところで飲むのがおすすめです。この「NIGHT OWL」は、メイン料理、特に肉に合わせるといいと思います。うちにあるものでおすすめするなら、砕いたスパイスが入ったチョコレートとの相性もすごくいいですね。食べた後にビールを飲むとまた香りがふわっと広がります。スパイスや甘味のあるものは冬場にすごくいいですね

・お酒が苦手な方におすすめ

おすすめは、左から量り売りもしていた「MOUNTAIN GOAT Fancy Pants」(缶)、「LA SIRENE Saisonette」、イタリアの「BIRRA FLEA Bianca Lancia」。

お酒があまり得意でない方はさっぱり、飲みやすいものがいいですよね。例えば、イタリアのビール「Flea」はオレンジピールと小麦の甘味をバランスよく楽しむことができます。ヨーロッパの中でも水のキレイな地域で作られているので、すごくクリア。飲み辛さがなく、すっと入ってくるタイプのビールです。料理だったら魚のムニエルなどバターを使ったもの、ホワイトアスパラガスをソテーしたものも合うと思います。オーストラリアのビール「LA・SIRENE」はローズマリーやセージのような香りと、シャンパンやスパークリングワインのような炭酸感を持っているタイプです。

・食事の終わりにまったりしながら飲むなら

左から「STRAFFE HENDRIK Straffe Hendrik Tripel WILD 2015」、「DE DOCHTER VAN DE KORENAAR Embrasse Peated Oak Agead」、前出の「NIGHT OWL」もおすすめだそう

単体でじっくり楽しめるビールがいいと思います。お店で扱っているのは、ベルギーの作り手の「STRAFFE HEMDRiK」のもの。野生の酵母を使って熟成させています。独特な酵母由来の苦味や濃密さが出ています。「Embrasse」もベルギーで、ウィスキーの樽を使って、熟成させたものです。色は淡い黒。レーズンやドライフルーツのような芳醇さやフルーティーさがあります。

ここまでいろいろと教えていただきましたが、最終的に自分好みのビールを見つけるにはどうしたらいいのでしょうか?

ビールは醸造酒の中でも特殊だと思います。ワインだったら、地域、作り手、ブドウ品種、ボディを見て、なんとなく味の想像ができます。しかし醸造酒の特にビールのような穀物系のものは料理に近いので、それだけではわからないんですよね。ビールというのは実は一番いろんなお酒を勉強しないとわからないものなんです。

どれを買ったらいいのかわからない時は、やはりプロに聞いてみるのが一番よさそうです。

クラフトビールの多様性を知ってほしい

ビール以外にもウィスキーやジン、こだわりの日本茶や食料品、調味料も販売しています。ここにしか置いていない逸品も。

「 "ビール" というものに対する固定観念以外の楽しみ方がたくさんあることを知ってもらいたい」という小菅さん。確かに、大衆の飲み物であるがゆえに「ビールってこういうもの」というイメージに、今まで捕らわれがちになっていたかもしれません。

クラフトビールは多様性がありますし、おもしろいな、と思っていただければ一番いいですね。ワインの酵母を使ったり、ワインを熟成した樽を使ったり、最近では日本酒の酵母を使ったものもあります。"ビール=ひとつ" ではない。作り方が違うと赤ワイン、白ワインくらい違うんです

知れば知るほど楽しいクラフトビールの世界。まずは好みのものを見つけるところからはじめてみてはいかがでしょうか。

取材協力:NIGHT OWL
http://night-owl.jimdo.com/
東京都渋谷区恵比寿1-8-3-103
Tel:03-6277-3743
営業時間:
平日13 : 00 ~ 22 : 00
土日祝日11:00〜21:00
定休日:不定休