広い庭や畑はないけれど、自宅でハーブや野菜を育ててみたい、わざわざお店で買わなくても、自宅で手軽に野菜を収穫して料理に取り入れてみたい、と考える方は少なくないのではないでしょうか。

近年はベランダでグリーンカーテンなどを楽しんでいる方も多いですが、ベランダで育てるとなると、プランターや土、肥料などあれこれ買い揃えなければならず、また、うまく育てるのもなかなか難しいもの。何を隠そう筆者も、ベランダでの家庭菜園を始めてみたものの、せっかく育てたハーブにアブラムシがびっしり付いてしまったり、つい水やりがおっくうで枯らしてしまったり・・・とあえなく挫折してしまったクチです。

しかし、そんなベランダ菜園挫折組はもちろん、これから家庭菜園に挑戦したいという方でも簡単に野菜づくりができる方法がありました! ファームマエストロの鈴木あさみさんが提唱する、その名も「イエナカ菜園」。気軽に始められて、しかも可愛らしいグリーンインテリアにもなるというイエナカ菜園の楽しみ方を、鈴木さんに伺ってきました。

幼少時から市民農園で野菜づくりに親しんできた経験から、多くの人に野菜を育て、味わう楽しみを知ってもらおうと、農業を一から学べる1日学校「ファームマエストロ協会」を設立。料理研究家としても活躍されていて、ブログでは、野菜を使った料理を中心に、レシピが多数紹介されています。

日が当たらなくても、土がなくても、野菜が育てられる?!

小さな器で育てられるスプラウトは、日を当て過ぎないのがうまく育てるコツ。ベッド脇や洗面所などにも気軽に置けます。

野菜を育てるというと、多くの人が、土と水、そして十分な日当たりが必要と考えるのではないでしょうか。でも、土を使わず、日当たりを気にせずに、家の中で育てられる野菜があると言います。

本当にそれでうまく野菜が育つのでしょうか?

手軽に始められて、わずか10日間で収穫できるのがスプラウト=新芽です。土を使わずに、水にひたした化粧コットンに種を蒔いて育てます。スプラウトは光を遮断して発芽させるんですよ。

えっ!? 種の発芽には、水と光と適切な温度が必要だと思い込んでいたのですが・・・、光を当てずに発芽させるとは驚きです。

容器の底の大きさに合わせてカットしたコットンを敷いたら、霧吹きで十分に湿らせて、種をまきます。種を蒔いたら発芽するまで、アルミホイルや新聞紙、箱などで容器を覆って光を遮ります。発芽したら、蛍光灯の明かりで十分に育ちます。スプラウトは少し苦みがあるので、カルパッチョやサラダ、スムージーなどに少量使うくらいで十分。大きめのスプーンや小さなココットで育てられるので、置く場所がないという方にも向いていますね。

スプラウトやフレッシュハーブは、スーパーで買うと、多すぎて逆に余らせてしまいますよね。イエナカで育てて、食べたい分だけ収穫して、香り付けや薬味に添えるのがちょうどいい。それに、スプラウトは少量でも、大きく成長した野菜よりも何倍も栄養価が高いんです。

栄養価の高いスプラウト。お料理に少量加えるだけで、見ためもぐっと鮮やかに! イエナカ菜園はすぐつまんでお料理に加えられるのも魅力です。

おお、なんと。筆者がこれまで思い描いてきた野菜づくりのイメージとはかなり逆の発想です。こんなにコンパクトに、きわめて栄養価が高い野菜を育てられるとは。しかもたった10日間で!

また、野菜を育ててみたいと考えている方の中には、家の中に土を持ち込みたくないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。その点、土いらずというのは、本当にお手軽ですね。

色や味の違いが楽しめる、バラエティ豊かなスプラウトたち

スプラウトというと、かつてはアルファルファが一般的でしたが、近年はスーパーの野菜売り場でもさまざまなスプラウトを見かけるようになりました。

鈴木さんがおすすめするスプラウトは?

最近はブロッコリースプラウトが特に栄養価が高いということで、医学的にも注目を集めていますね。ブロッコリーの新芽に含まれるスルフォラファンという成分は、がん予防効果があり、また発がん性物質を解毒化し、体内から排出する効果もあると言われています。
また、ピンクカイワレやレッドキャベツは、茎の部分がきれいなピンクや紫になるので、見た目にも華やかですよ。

ほのかなピンクの茎とみずみずしい緑の葉が美しいピンクカイワレ。

こちらは緑が鮮やかなルッコラのスプラウト。新芽でもちゃんとあのルッコラ特有のゴマのような味がするそうです。

スプラウトではすっかりおなじみ、アルファルファ。食物繊維が多く、腸内の発ガン物質などを吸収し、便秘を改善してくれます。ビタミンA・K・Bが豊富!

ほかにも、白ごま、クレソン、マスタード、ラディッシュ、ケール、そばなど、たくさんのスプラウトがあり、味わいもさまざまなのだそう。どれもあっという間に育つので、あれこれ育てて、好みの味を見つけるのもいいですね。

エディブルフラワーならお部屋がぱっと華やかに!

鈴木さんはさらに、育てて食べるだけでなく、花を鑑賞する楽しみも与えてくれるエディブルフラワー(食用花)も、イエナカ菜園にぴったりだと話します。

エディブルフラワーもイエナカで育てやすいのでおすすめですね。きれいなお花を楽しんで、さらにそのお花をサラダやカルパッチョ、フルーツなどに添えていただきます。

おお、あの、高級レストランで出てくるオードブルに添えられていそうな、食べられるお花ですね!

お料理だけでなく、こんなふうにティ―カップに浮かべるのも素敵なアイディア! 自分で育てたエディブルフラワーなら安心して使えますね。

エディブルフラワーというとなんだか高級そうなイメージで、これまであまり縁がなかったのですが、自分で育てたらぐっと身近な食材になりそうですね。たとえばどんな種類があるんでしょう?

種類はたくさんありますが、たとえばパンジーやマリーゴールド、ペチュニア、ナスタチュウムなど、なじみがあるお花のエディブルフラワーがあったりします。エディブルフラワーには、ビタミンAやビタミンCなどが含まれ、見ためにきれいなだけでなく、栄養価も野菜に引けを取らないんですよ。
もちろん、お花屋さんでふつうに鉢植えで売られているものは食べられませんから、エディブルフラワーとして売られているものを育ててください。と言っても、ふつうのお花屋さんや園芸店ではあまり売られていないので、ネット通販がおすすめですね。私はエディブルフラワーの苗はすべて、ネット通販で入手しています。サイトがいくつかあるので、ぜひ検索してみてください。

色違いのペチュニア。ペチュニアは色のバリエーションが多く、ソフトな口当たりでクセがなく食べやすいのが特徴です。

なじみの深いお花が多く、可愛らしさもひとしお。しかもお料理をぱっと華やかにしてくれるエディブルフラワー、イエナカ菜園を数倍楽しくさせてくれるに違いありません!

鉢植えハーブは器ごとインテリアとして楽しむ

お料理に少量使いたいハーブ。種からでも育てられますが、苗を購入して好みの鉢に植えつけるとかんたんです。

お料理に少量加えるだけで、ぐんと味に深みを与えてくれるハーブは、育てたい野菜の代表格ではないでしょうか。市販されているものはなかなか使い切れないですが、お家で育てれば、いつでもフレッシュなハーブを、使いたい量だけ使うことができます。イエナカ菜園で育てやすいハーブはどんなものがあるでしょうか。

ハーブは種から育てることもできますが、苗を買ってきて植え付けると、より簡単に、うまく育てられます。たとえばローズマリーは丈夫で枯れにくいですし、イタリアンパセリもかなり元気に伸びますよ。みつばやパクチー、ネギなど、根付きで売っている香味野菜は、根の部分を植えると、再生して収穫を楽しめます。
また、私はディルのふわふわした繊細な葉も好きなんですが、ディルは卵のパックでも育てられるんです。卵のパックは面積が小さいので、小さい種の野菜を育てるのに向いています。ベビーリーフなんかも卵パックで育てられますね。葉がわさわさと生い茂るので、グリーンとしても楽しめますし、伸びてきたところからちぎって使えば、すぐに生えてきます。

ハーブは、1年を通じて育てるのなら植木鉢に植え付けますが、数ヶ月楽しむなら、水はけにはあまりこだわり過ぎなくてもいいと思います。雑貨屋さんで売っているおしゃれな器をはじめ、ペットボトルやお弁当箱、ヨーグルトのパックなどでも育てられますよ。ただし、水はけがない器の場合は、水のやりすぎには注意してください。手で土を触ってみて、乾いていたら、土が湿る程度あげるのが目安です。冬なら2,3日おきぐらい、夏なら毎日。水やりは朝がいいですね。

こんなおしゃれな器でも栽培が可能です。ただし水のやりすぎには注意。コットンが湿る程度が適量です。

ふむふむ、水やりは朝がよいのですね。でもどうして朝なのでしょう?

特に真冬などは水が冷たいので、夕方に水やりをすると、水が蒸発しにくく、底に溜まってしまうので、根腐れを起こしやすいんです。朝なら、水をあげたあとに室内でも日がある程度当たり、程よく乾いていくので根腐れを防ぐことができます。

なるほど、それは知りませんでした! ちょっとしたことですが、水やりの時間を気をつけるだけで、ずいぶん変わるのですね。いやー、勉強になります。

土はどんな土を使うのがよいのでしょう?

土は、使い回しのものではなく、新しい土を使ってください。イエナカ菜園のよいところは虫がつきにくいことですが、それでも古い土を使うと、虫が発生する原因となります。イエナカ菜園の場合は、ベランダでプランター栽培するよりも土の量がずっと少ないですから、有機培養土など高品質の土を使ってあげるといいですね。成長もよりよくなりますよ。

うーむ、そうだったのか! 筆者がベランダでのプランター栽培に失敗した理由のひとつはここにあったということに、やっと気づきました。土を入れ替えるのがおっくうで、再生材を混ぜ込んでは、同じ土を使い回していたのです。まさにアブラムシや尺取り虫に食い荒らされましたし、苗はだんだん育ちが悪くなっていきました。土は毎年新しいものに入れ替えないといけないんですねー。反省。

とはいえ、プランターの土を入れ替えるのって実際重労働ですし、土ぼこりも立ちます。面倒くさがり屋な私は、やっぱりイエナカ菜園のほうが合っているのかも!

小さい頃は野菜嫌い、ファーストフード大好きな子どもでした

野菜づくりのスペシャリストとしてはもちろん、野菜を専門とする料理研究家としても活躍されている鈴木さん。でも、小さい頃はスナックやファーストフードが大好きで、野菜が苦手なお子さんだったと話します。

もともとファーストフードが大好きで、誕生日にはマックのポテトだけでいいなんて言っていた子どもでした(笑)。それで、両親が食育のためにと、私が小学生のときに市民農園を借り、家族で野菜づくりを始めたんです。私も毎週末に畑に通い、草取りをしたり、畝(うね)を作ったり、種や苗を植え付けたり・・・。早起きは苦手でしたが、畑に行くとどんな作業も本当に楽しかったんですね。そして自分たちで育てた生のままのとうもろこしや採れたてのトマトを食べたら、とても美味しくて。それからは野菜が大好きになりました。

市民農園をきっかけに、野菜に目覚めたという鈴木さんですが、そこから本格的に農業を始め、ついには農業を学べる学校を作るようになったのには、中学生のころにお母様がご病気で入院されたことが背景にあるのだそう。

中学生のときに、母が病気になり、入院したんです。主治医の先生から野菜を積極的に摂るようにと言われたので、毎日、畑で収穫したものをスムージーにして届けたり、ミキサーを持ちこんだりしました。すると、母はみるみる元気になり、ついには病気が治ったのです。100%野菜のおかげで治ったのかどうかはわからないですが、母が野菜のスムージーを飲むたびに「病気が身体から飛んでいくみたい。」と言ってくれるのが本当にうれしくて。そんなことがあって、野菜を作る楽しみや畑で土いじりをする楽しみ、そして野菜が持つ力を教えたいと思うようになりました。それで、成人してからは、畑を借りて本格的に農業を始め、さらに畑の持ち主の農家さんに「一緒に学校をやりませんか?」と持ちかけました。それが一般社団法人ファームマエストロ協会が生まれたきっかけです。

ファームマエストロ講座では、畑に出て野菜に直に触れ、耕うん機の扱い方なども学ぶことができます。

ファームマエストロは、丸1日の座学と実習で、農業をイチから学ぶことができる学校です。それぞれの野菜に適した季節や温度、育て方を学び、土起こしや種の蒔き方・苗の植え付けの仕方までを体験します。

お庭や畑があるけれどもどう手入れしたらいいかわからない、という方、あるいは定年退職後の楽しみに、とかお子さんの食育に、という方など、さまざまな方が受講されています。

イエナカ菜園をきっかけに、もっと野菜づくりのことを本格的に学びたくなったら、ぜひファームマエストロにチャレンジしてみてくださいね。

良いことづくめなイエナカ菜園!

いかがでしたか?

イエナカ菜園は、育てている野菜の様子を常に目にすることができるので、ベランダで栽培するよりも、野菜との距離がずっと近く、より親しみや愛着も湧いてくるのではないでしょうか。

また、土ぼこりや虫、台風なども気にしなくていいのもイエナカならではの魅力です。

気負わずに始められるイエナカ菜園。スプラウトなら、種さえ入手すれば、あとは家にあるもので始められます。

さあ、ベランダ栽培でうまくいかなかったあなたも私も、今日から "イエナカ菜園ニスト" 。楽しさと美味しさと健康を、お家で丸ごと手に入れちゃいましょう!

■ファームマエストロ協会HP
http://www.farm.fm/

■鈴木あさみ's MENU(ブログ)
http://ameblo.jp/asami-recipe/

イエナカ菜園についてもっと詳しく知りたい方は、鈴木さんの書籍をチェック!

『イエナカ菜園 室内ではじめるキッチンガーデン』 鈴木あさみ 著 日東書院本社

取材・文:吉田タカコ/写真提供:鈴木あさみ