仲間同士の気軽なホームパーティはもちろん楽しいけれど、たまには思い切って、ユニークなパーティをしてみませんか?
世界中の食卓で毎日食べられている、日常の家庭料理。レストランでは決して味わえない素朴な家庭の味を、実際にご家庭におじゃまして、楽しむことができるオンラインサービスがあります。その名も『 KitchHike(キッチハイク)』。このKitchHikeを使った新しいホームパーティの楽しみ方を、創始者のひとり、山本雅也さんにお聞きしました。
ごくふつうの家庭料理を通じて、
世界中の「作る人」と「食べたい人」をつなげる
—まずはKitchHikeとはどういうサービスなのかを教えていただけますか?
「KitchHike」は、旅先からご近所さんまで、料理を作る人と食べる人をつなぐマッチングサイトです。
利用の仕方としては、3通りあります。
まず、旅先で、現地の暮らしや現地の人がごく普通に毎日食べている家庭料理を楽しんでみたい、という人。僕らのサイトでは「HIKER」と呼んでいるんですが、HIKERになるには、KitchHikeのサイトから、訪れる国の「COOK」(家庭料理を作る人)を探し、メニューを確認して日時を予約します。Paypalで決済が完了したら、当日、決められた時間に訪問すれば、家庭料理をごちそうになりながら楽しい時間を過ごすことができます。
次に、自分がいつも作っている家庭料理をふるまってみたい、という方は、「COOK」としてKitchHikeに登録し、料理の写真やメニューを公開します。HIKERからの問い合わせがあったら、日時や待ち合わせ場所、時間を決め、当日、自慢の家庭料理でもてなします。
そして、これはHIKERさんのバリエーションとしてニーズが出てきたものですが、旅行に行かなくても、日本に住む外国人COOKのところに行くことで、いろんな国の家庭料理を食べられるという利用方法です。週末にちょっとプチ海外体験、みたいな感じで利用されている方が増えていますね。
現在、KitchHikeには世界33カ国、約600人のCOOKさんが登録してくれていますが、そのうち日本に住む外国人COOKの方は40人位います。
たとえば、日本にはアルジェリア料理のお店が1軒もないんですね。日本からいちばん近いアルジェリア料理の店はマレーシアに1軒だけ(笑)。でも葛飾区に住んでいるアルジェリア人のモハメドさんがCOOKとして登録してくれているので、日本ではまず味わえないアルジェリア料理、しかもレストランでは食べられない家庭料理を、葛飾区で食べることができるんですよ。
「世界遺産を見るよりも、他人の家の食卓を訪れたほうが何倍もいい想い出になる」という経験から生まれた
—おお、おもしろい! 確かに、旅先でおいしいレストランに行くのもいいけれど、現地の人々はどんな暮らしをして、毎日どんな食事をしているんだろう、ということのほうが興味をそそられたりしますし、レストランで味わえない家庭料理ってとても魅力的です。
旅行で訪れるのがもっとも困難な場所が、家庭の食卓だと思っているんですね。
僕自身、学生時代に東南アジアやインド、チベットなどをバックパッカーで旅行をしていて、KitchHikeを始めるにあたって、1年半かけて47ヶ国のふつうのお家の食卓に訪ねていってごはんをごちそうになる、というフィールドワークを行ったんです。そしたらもう、外国で食卓を一緒に囲むというだけで、友だちがめちゃくちゃ増えたんですよ。
ー1年半で47カ国!! それはすごい経験ですね。中でも衝撃的だった食卓や味はどんなものでしたか?
衝撃的な出来事ばかりでしたが、食べ物としていちばん面白かったのは、ブルネイですね。ブルネイはマレーシアの横にあるので、日本からはわりと近いし、戦時中は日本が統治していた国です。で、ブルネイには「アンブヤット」という食べ物があるんですよ。見た目は完全に水飴みたいなどろっとしたグレーがかったもので、ヤシの木の成分をお湯に溶いたものらしいんですけど、食卓に20種類ぐらい料理が並んでいる中に、大きな器に入ったアンブヤットもどんっと置かれるんです。どうやって食べるんだろうと思って、割り箸で水飴のように取って食べたら、まず怒られるわけですよ、「おい、なにやってるんだ」と。「単体で食うな、これはおかずにちょんっとつけて食べるんだ。味がしないだろ」と言われたんです。
たしかに無味無臭で、なんだこりゃという代物だったので、「ああ、つけて食べるんだ」と思って、次に、料理につけて食べたら、また怒られるわけですよ。「おい、今、噛んだだろう」と。「それは噛むんじゃなくて、飲み込んでのどごしを楽しむんだ」と言うんです。でも、教わったように飲み込んでも、おいしさが全然わからなかったですね。だけどアンブヤットはレストランでも出てこなかったし、ストリートフードでも見かけなかった。まさに "家庭の味" だったわけです。
食文化って、国が違っても地域的に似てくる料理や味付けがたくさんあるんですよ。東南アジアもわりとそうなんですが、アンブヤットだけは完全にブルネイ独自のもので、他の国にはない食文化でした。本当に謎の伝統食でしたね。でも大皿でみんなでつついて食べるとか、ひとつの器からみんなで取るみたいな食べ方は、とてもアジアらしいと思いました。1年半、世界を回る中で、こんな体験を50回ぐらいしてきたんですよね(笑)。
ー謎の食べ物「アンブヤット」との出会いそのものも、食べ方でいちいち怒られるのも、かなり貴重な体験ですね(笑)。一般家庭の食卓を訪れなかったらきっと出会わなかった味ですもんね。
一般的な旅行って、観光地をめぐって、その土地のものを食べて、それでなんかその国をわかった気持ちになるじゃないですか。でも、それだけでは全然本質はわからない。もっとその国の人とつながるには、その国の暮らしをわかるにはどうすればいいんだろうと考えたときに、家に行って一緒にごはんを食べるといいんじゃないかと。
世界遺産を訪れるよりも、他人の家の食卓のほうが、何倍も想い出に残ったりするよね、ということは、KitchHikeを立ち上げたメンバーとも常々話していたんです。食卓って日常の暮らしのど真ん中じゃないですか。その国に暮らす人にとっての日常は、実は僕らにとって特別で新鮮な体験だし、逆に、僕らがふつうだと思っていることは、日本に来る人にとっては特別なんだと。お互いに特別なことをせず、日常を交換すればそれが特別な体験になる、っていいなと思ったんですよね。
お互いの「ふだんの料理」が特別な体験になる
—なるほど。COOKは「頑張っておもてなしをしなくちゃ」と張り切らなくても、HIKERはその国のふつうの、いつもの食事をむしろ一番知りたいというわけですね。それは招くほうも気持ちがラクですね。
—外国人の家を訪問して、料理をごちそうになる、というのは、めずらしい料理そのものを楽しむというだけでなく、食習慣の違いやテーブルマナー、食材の使い方、おもてなしの仕方など、いろんな発見がありそうですよね。
そうなんです。COOKの家に訪ねていって、はじめまして、とあいさつしてお家に上がって、はじめはすっごく緊張していますよね。で、料理をいただいて、最初は料理そのものに興奮しているんですけど、だんだん食器とか食べ方とか、食卓そのものが見えるようになってくる。もっと時間が経つと、その人の家とか暮らし方が見えてくる。きっかけは料理というひとつの点なんですけど、そこから始まる交流があって、どんどん俯瞰して見えてくるようになって、その国のことが少しずつわかってくるんです。
—KitchHikeに掲載されているさまざまな国のお料理の写真を見ていると、食べに行ってみたくてワクワクしてきますが、英語に自信がない人でも大丈夫なんでしょうか?
日本に住んでいる外国人COOKの方は、半分ぐらいは日本語がとても上手なので、臆することなく行ってみてほしいんですけど、仮に日本語を話せない相手だったとしても、そこにおいしいごはんがあれば、盛り上がること間違いなし、ですよ。ごはんがあるだけで、ほんとに話題は尽きないんです。片言でも「これ、何?」とか「どうやって作るの?」「どうやって食べるの?」などなど、聞きたいことは山ほど出てくるので、3時間ぐらいはほんとに一瞬で過ぎちゃうんです。
—それを聞いて安心しました! やっぱり食べることは国や人種を超えた共通の興味ですもんね。
それでは、HIKERとして外国人COOKの方の料理をごちそうになる場合、心構えとか、心がけるとよいことはありますか?
積極的に楽しむ姿勢で臨むこと、ですね。レストランと違って、一方的にもてなされるものでもないと思うので、ちょっと料理を手伝ってみたり、盛りつけを一緒にやってみたり、自分も参加してその場を一緒に作っていくのが楽しいと思います。また、人によっては、買い物から一緒に行きたいというリクエストもあったりするので、COOKさんにお願いしてみてもいいかもしれません。
—それは楽しい! こういう食材はこういうところで買えるんだ、というのもわかりますね。ただ招かれてお客さんで行くよりもずっと楽しいですね。
では、COOKになりたいと思った場合、どういうところに気をつけたらいいですか?
やっぱり招く側としては、家の掃除は大事でしょうね(笑)。あとは、もてなす気持ちがあれば大丈夫です。そんなに気負わずに、ふだんから作っているものを出すようにすれば、緊張もしないし失敗も避けられますよ。「ふだんのもの」が相手にとっては特別なので。
皆さんやはり、ただ食べるだけでなく作るところから一緒にやってみたいと言いますね。何もせずにずっと座って待っているのも気まずいでしょうし。作るプロセスにちょっと参加して自分も一緒に作った気分ぐらいになれるといい。「ちょっと酢飯あおいでくれる?」とか「大根おろしてくれる?」とか。一緒に食べることも絆を深めますけど、一緒に作ることも仲良くなるための大事なステップなんです。そして一緒に作るとさらにおいしく感じるじゃないですか。
あとは、人と人がどうやったら国籍やことばを超えてつながれるのかって思ったときに、やっぱり一緒に食卓を囲めば、たちまち仲良くなれるんですよ。
実際に、KitchHikeを使って外国人COOKのところにごはんを食べに行くと、一度行っただけであっという間にお友だちになった、という方がすごく多いんですね。Facebookでも友だちになって、プライベートで誕生会に呼ばれたり、といったお付き合いが続いていく。
ヨーロッパやアメリカなどではいろんな人種の人が暮らしていたりしますけど、日本の場合、まわりに外国人ってあまりいないじゃないですか。でもKitchHikeがあれば、日本に住んでいる外国人の方と知り合えて、ごはんを通じて親しくなれて、じゃあ今度その人の国に行ってみようかな、というきっかけになったり。どんどん展開していくんですよね。
いかがでしたか? 外国の家庭料理を囲んで、外国人の方と親しくなれるというチャンスが、こんなに近くにあったとは!
まずはお友だちを誘って、外国人COOKのところにおいしい家庭料理を食べに行ってみませんか?
そしてお料理が好きな方はぜひ、COOKとして外国人HIKERを招いてみては?
伝統的な和食である必要はまったくありません。たこ焼きパーティとか、皮から包む餃子、日本ではみんながおいしいと知っている一晩寝かせたカレーと作りたてのカレーを食べ比べる、なんていうのも面白そう! 英語が苦手な方でも、KitchHikeスタッフがメニュー説明をフォローしてくれたり、よりおいしそうに見える写真を撮ってくれたりなど、強力バックアップしてくれるそうですよ。
いつもの料理をふるまって、思いもかけなかった国の人と国際交流ができたり、英会話の勉強になったり。さらに、料理にはきちんと料金が支払われるので、ちょっとしたお小遣い稼ぎにもなっちゃうんです。まさにいいことづくめ!
ほんのちょっとの勇気を出せば、あなたや誰かの「いつもの料理」でたちまち素敵なパーティがはじまります!
ぜひKitchHikeで「HIKER」や「COOK」の登録(もちろん無料!)をして、食卓から国際交流を楽しんでみてください!
取材協力:KitchHike
https://ja.kitchhike.com/
取材・文:吉田タカコ/撮影:cowcamo(一部写真提供:KitchHike)