カウカモでは7/24(火)〜、世界最大の音楽ストリーミングサービスSpotifyの協力により、新しい「東京」との出会いを提供する新感覚な “音楽写真展” TOKYO SOUNDSCAPE by cowcamoを開催します。今回は参加クリエイターを代表して、フルカワミキさんに「東京」の街について、また日常を切り取った写真や音楽についてお話しを伺いました。
スーパーカー解散後2006年よりソロ活動を開始し、自らの音楽活動の傍ら、作詞・作曲・楽曲アレンジ・アートワーク提供、セレクトショップ運営などで活躍されているフルカワミキさん。あなたの知らない「東京」に出会う “音楽写真展” TOKYO SOUNDSCAPE by cowcamoのために、日常の風景を写ルンですで撮影、Spotifyでオリジナルプレイリストを作成していただきました。
イベント本番では、気鋭の若手クリエイター12組の切り取る「東京」を視て・聴いていただけますが、今回は特別に、参加クリエイターを代表して、フルカワミキさんのお写真の一部とプレイリストを先行でご紹介します。彼女は「東京」のどんなシーンを切り取ったのでしょうか。
7月某日、都内にて、カウカモ編集長・伊勢谷(いせたに)がインタビューを行いました。
ナンバーガールやくるり等と同時期に鮮烈なデビューを果たし、「’97の世代」と呼ばれ日本中を熱狂させたスーパーカー。新しいジャパニーズロックの到来を感じさせたバンドの中で、紅一点だったのが、今回インタビューさせていただいたフルカワミキさんだ。
デビュー当時わたしは中学生で、洋楽・邦楽問わず音楽を聴いていた。いまでもスーパーカーを聴くと、あの青くさくキラキラした毎日が昨日のことのように思い出される。きっとカウカモ/カウカモマガジンを日々ご覧いただいている読者の皆さまも、まさに “青春ど真ん中” という方が多いんじゃないかと思う。
フルカワさんがメインボーカルをつとめたスーパーカーの「Lucky」 や「Strobolights」を聴きながら、何だか初恋の人と再会するような気持ちで、インタビューのため都内のスタジオを訪ねた。風が強く、雨が降り出しそうな天気だった。
フルカワさんと「東京」の関係
―フルカワさんは高校2年生の時に地元・八戸でメンバー募集の張り紙を出して、高3の時に上京されたそうですね。
行き来しだしたのが高3の時ですね。本格的に上京したのは19の時です。
―メンバー募集の時点ではまだ楽器を触ったこともなかったと伺いました。
地元では何もすることがなくって・・・当時はまだSNSどころかネットも普及してなくて、学校の友達以外で、自分の人脈と無関係の新しい人とつながれる場所がなかったんです。本当は音楽じゃなくてもよかったんですよね。ただ、楽器店のメンバー募集を見てるような人は、自分が知らない音楽やカルチャーのことにも興味があるんじゃないかと思って。自分は “集まらなかった楽器を担当すればいいや” くらいに思ってたんですけど、同時に “想像の範疇” の人しか来なかったら、バンドはやらなくてもいいと思っていました。
―でも結果的に、その張り紙が運命を切り拓くきっかけとなったんですよね。バンド結成から上京まで、すごいスピードで話が進んでいったと思うのですが、当時から「東京に行きたい」という思いはあったのでしょうか?
メンバーが3人集まって初顔合わせの時に、既にオリジナルの曲がいくつかあって。当時はお金もないし、みんなでCDを持ち寄ってただ聴いたり、籠って曲をつくったりするのがすごく楽しかったんですよね。それに、まだ歌の入っていない、曲だけのデモテープを聴いた段階で、こう・・・ざわめきというか。“これはいける” っていう確信のようなものがあって。それで結成1年目の年末にメンバーが4人揃ったから、その日にデモを録ったんです。それを試しに送ってみたら、年明けに連絡がきて、よく分からないまま東京から人が会いに来てくれて。まだライブもしたことなかったのに(笑)
―そうすると、よくある「片道切符だけで東京に行ってやる!」というよりも、先に音楽が認められて東京に出ることになった、という感じですね。まだ10代という若さでしたが、不安はありませんでしたか?
うーんそうですね・・・なんか早く死ぬと思ってたんですよね、当時(笑)。若い時ってそうじゃないですか? だから色んなことを受け止めるエネルギーがあったんだと思います。もちろん “この音楽がいっぱい聴かれたらいいなぁ” “東京でそれが発信できるんだったら嬉しいなぁ” というふうには思ってたんですけど。“いつか地元のスピーカーから流れるようになったらいいなぁ” とか。すごい興奮した訳でもなく、ただ “自分の住んでる土地と、遠くの東京に繋がる窓口ができた。うれしい!” くらいの気持ちでしたね。
―初めて東京に来た時の印象はどうでしたか?
夏だったので “すごい暑い” っていうのと、“臭い” って思いました(笑)。なんだかいろんな匂いが混じってる感じがして・・・。あと、表参道から渋谷を目指して歩いてるときに、青山通りと明治通りの違いが分からなくて、全然違うところに辿り着いた思い出があります(笑)。背の高いビルが並んでいて真っ直ぐな道が、同じように見えたからだと思うんですけど。
―東京で最初にお住まいになったのはどの街でしたか?
行ったり来たりしている間はホテルで仮住まいみたいな感じだったんですけど、ちゃんと引っ越しをしたのは三軒茶屋です。
―三茶であれば、そんなにギラッとしていないし、下町感があるから住み心地がよさそうです。
事務所のある下北沢にもすぐ行けるし、渋谷にも行きやすいかなぁくらいの感じで決めたんですが、結果的にいまも世田谷区に住んでますね。てんちゃん(フルカワさんの愛犬)と一緒に入れるカフェも家のまわりにたくさんあるし。あ、わたし毎日お茶するのが日課なんです(笑)
―世田谷には大きな公園が多いから、犬連れで入れるカフェがたくさんありますもんね! 約20年の間に、東京に対する感じ方の変化はありましたか?
不思議なことに、地元に帰ってちょっと経つと早く東京に帰りたいなと思ったり、東京にいると一瞬地元に行きたいな、みたいに思うことが増えましたね。
東京に帰るとほっとするのは、きっと自分がいても景色に紛れることができて、適度に適当でいられるからだと思います。例えば “あそこに何が建ってた” っていうのも覚えていなくてもいい気がします。景色が変わっていくことも東京だったら受け入れられるというか。地元だといまだに古い建物が残ってたりして、小さい頃からから見慣れてるからこそ “ブロック塀の高さってこうだったっけ?” っていうところまで気がついたりするんですけど。東京だとそういうところの度合いが違う感じがしますね。
撮影した写真について
―今回のイベントのために「写ルンです」撮影していただいた写真です。データは事前にお送りしていますが、今日は現像してお持ちしました。どんどん広げちゃってください。
あーいいなーいいなー、やっぱりこういう感じなんですよね、プリントアウトすると! なんかピントが曖昧な感じもいいなって思います。
―撮影の際に気をつけたことなどありましたか?
あんまりファインダーを覗き込まないようにしました。“あっ” と思った時に、どう映るんだろう・どう切り取れるんだろうって想像しながら、呼吸する感じでぱっぱっと撮ってみようかなって。スマホとかで撮るともう出来上がりが見えるじゃないですか。でもそういうのがないから、空間ごと楽しもうっていう。構えるというよりもポッケに入れながら、“あーなんかいい感じ、あ! フラッシュフラッシュ!” みたいな(笑)。そういうものが多いです。あとは “これ色がきれいな気がするけど「写ルンです」だったらどう撮れるかな” とか。
―特にお気に入りの1枚はありますか?
(明治神宮境内の写真を指しながら)これですね! 通りがかって “素敵だなぁ、いい風景だなぁ” って撮ったやつです。神宮の敷地内で、外国人の方が着物をレンタルして記念撮影してたんです。“観光で来たらやっぱりそういうの楽しみたいよねぇ” っていうハッピーなオーラがふぁーっと漂ってたし、光の感じもよかったので、歩きながら撮りました。
―ご自宅の写真もたくさん撮影していただきましたね。窓辺でブラインドの影が落ちてるお花の写真もすごく素敵でした。
家の中でも陽の入りが好きな場所で、そこにお花を飾ったりするんですけど。やっぱりフィルムはインスタとは違う感じで撮れてる!
―この箱入り娘ならぬ “箱入り猫” の写真も好きです(笑)
これね、ニャンコちゃんね。よく行くお花屋さんなんですよ。王道の、普通の街のお花屋さんで、そこの看板猫です。この子とこのお花屋さんがすごく好きで。あーーーこれも可愛い〜。これはフラッシュたき忘れてるんですけど、目が光ってなくて可愛いし、お花が浮いてる感じがしていいですね。でもフラッシュたいたやつも猫っぽくて可愛い! ミカン箱もちゃんと見えてるし。・・・老人が花と動物を愛でるような感覚です(笑)
Spotifyのプレイリストについて
―次に「東京」をテーマに作成していただいたプレイリストについて伺いたいと思います。超有名大物ロックバンドの曲がたくさん入っていて、中には懐かしいものもありました。どういう感じで組み立てていきましたか?
最初は「出るぞ!外に行くぞ!」みたいな(笑)。コンクリートとか硬めの建物がいっぱいあるところに出て行く時に、威勢のいいというか、元気になる感じの曲を選びました。
―“硬い建物がたくさんある街に繰り出す” っていう感覚が、東京生まれ・東京育ちのわたしにはないのですが・・・そういう闘いモードというか、「よしっ!」って思うことも未だにありますか?
あります! 誰と闘うっていうわけじゃないんですけど、気合い入れる感じはありますね。1曲目のPublic Image Ltd.の「Public Image」は、彼らが来日したときに秋葉原や原宿を歩いてる映像を観てて。田舎で鳴ってても気持ちいいけど、どっちかっていうと、いろんな人たちがいろんな目的で訪れてて、そこに敢えて紛れ込んで行く時のBGMにサイコーと思って。ベースがドゥッドゥッドゥッドゥッ・・・みたいな(笑)。イントロからいい。
―最後の方にはメロウな曲もセレクトされていますね。
木漏れ日とか窓ガラスに反射する光とか・・・手に取れないような感覚やニュアンスに出会ったときに、アンビエントやChet Baker、そういう緩やかな音符の隙間を濡らすような音楽を聴くんです。血の繋がった家族と離れているからこそ、東京では自分の内面と向き合って深呼吸する時間もすごく大切で。全体的に気持ちの緩急でラインナップした感じです。
それから、普段あまりリコメンドとかで書かないような曲もちょっと入れてみました。昔からよく耳にしていた有名な曲なんだけど、誰のか覚えていなかったものを調べて「Elsaだ!」とか。聴感だけだと可愛らしい曲っていう印象だけど、改めて歌詞を読み返したら結構悲しい歌詞だったのをいまの歳になってやっと知ったり・・・「ああこーゆー曲だったか・・・でも東京の空は青いです、カシャ」みたいな(笑)そういう感覚で曲を選んでみました。
―特定の場所に紐付いた曲はありますか?
一番最後の(映画)ブレードランナーの主題歌Vangelis「One More Kiss, Dear」とかは、雨の日の新宿に行くとあーーーって思いますね。この間もタクシーで通ったんですけど、アスファルトが濡れてて、カラフルなネオンが滲んで、ワイパーの雫に光が反射して落ちていく感じとか・・・。ああいう風にいろんな色の看板とかがわーっと立体に交差してる景色を見ると、なんか異様というか、セットのような造りもののような世界に見えますよね。
今回のイベントを通じて感じたこと
―今回のイベントでは、クリエイターの方々が見て・聴いている「東京」を知ることで、ご来場いただいた方々に新たな気づきや発見をしていただけたらと思っています。一方でフルカワさんにとってもご自身の「東京での暮らし」を見つめ直すきっかけのひとつになれたらいいなとも思っているのですが、実際に撮影やプレイリスト作成をしていただいていかがでしたか?
思い通りにならないことが好きなんだなぁって(笑)。例えば写真をデータで見るのとプリントアウトして見るのとで印象が違ったみたいに、物体となった時に受け取る印象が微妙に変わったりしますよね。
最近出したアナログレコード(※)もそうだったんですけど、溝を削るときに予想外の音がノイズになっちゃって、せっかくの45回転だからやり直したりとか。デジタル処理ではそんなこと絶対起きないんですけど。でも物体に何かを焼き付けたり刻んだりしたときに、想像通りにならないことでストーリーがまた生まれたり、想像通りにするために知恵や努力が生まれたり、次の話に繋がっていったり・・・。その感覚を楽しんでるのかもしれません。予想外のことがあると自分の知らなかった感性が喜んでくれるというか。
※ フルカワミキ÷ユザーン「KOUTA LP」。“KOUTA” は小唄。アイデンティティに根ざした音楽と共に。有機的でPOPなワールドミュージック。
改めて、フルカワさんにとって「東京」とは?
―改めていまのご自身にとって「東京」ってどういう存在だと思いますか?
・・・知らない街だなって(笑)。遠い存在のように感じたり、世界的にみてもすごいところだなって感じたり、割と素朴で普通だなって感じたり・・・。安心するのに、旅行者でいるような、よそ者のような感じもする。故郷に対する愛情とか複雑な想いと同じで、東京にも同じような感覚がある気がしますね。あ、でも世界の窓口というか、ドアがいっぱいある場所っていうところがすごい好きだったりします。
―またここから外に出ていける場所。
更に外に行くためのドアを感じられると安心するっていう感覚が昔からあって。日本の中でも東京は世界の窓口だから、どこか安心するんですよね。海外に住んでる友達にすぐ会いに行ける安心感というか。日本だけじゃないっていう感覚・・・不思議です。なんなんでしょうね。いま話しながら思いました。
フルカワさんにとって「ドア」の存在。ドアは「東京」から「故郷」へ繋がり、「外国」にも繋がっている。こことはまた別の世界を感じることによって安心感を覚えたり、ワクワクしたりするようだ。
インタビューの途中でわたしが「ずっとフルカワさんのことを知っていたし、音楽も聴いてきたけど、すごく遠い人・遠い存在だと思っていました」と言うと、「え、わたしをですか!? えーーーーとんでもない!!!!!」と全力で否定して下さったのだけど、きっと同じように感じている方が多いに違いない。
でも目の前に居たのは、小さくて、声が甘くキュートで、笑顔がとびきりに素敵なひとりの女性だった。インタビューを通じて感じた彼女の “強さ” 、そして写真から伝わる “体温” で、わたしはまた大きく彼女の虜になってしまった。
(インタビュー・完)
ラブリ、窪塚洋介、SALUなど気鋭のクリエイター12組が「東京」を表現した写真とオリジナルプレイリストを同時体験できる!
クリエイターの視点を通じて東京の新たな一面と出会える音楽写真展「TOKYO SOUNDSCAPE by cowcamo」を7月24日〜7月29日に開催します。
■参加クリエイター
角舘 健悟 (Yogee New Waves)、窪塚 洋介、小見山 峻、 SALU、 高山 都、フルカワミキ、松坂 生麻 (Name./urself )、モーガン茉愛羅、山田 健人、横田 真悠、yoppy (little sunny bite)、ラブリ ※五十音順
【イベント概要】
TOKYO SOUNDSCAPE by cowcamo
日時:7/24(火)-7/29(日)11:30~20:30 ※最終日のみ17:00まで
会場:CLASKA 東京都目黒区中央町1丁目3−18
入場料:FREE
イベント詳細はこちらから → https://tokyosoundscape.cowcamo.jp/
フルカワミキ÷ユザーン「KOUTA LP」。
”KOUTA”は小唄。アイデンティティに根ざした音楽と共に。有機的でPOPなワールドミュージック。好評発売中。
取材・文:伊勢谷 亜耶子 撮影:角田 博