年が明けていよいよ冬本番。今年は暖冬だとはいえ、外が寒くなれば、暖かい部屋の中でゴロゴロ過ごすのが至福な季節でもあります。そして "ゴロゴロ" に不可欠なものといえば・・・気持ちのよい絨毯! ラグ、カーペット、ペルシャ絨毯・・・。床に敷くものはピンからキリまでいろいろなものありますが、最近日本でファンが急増しているのが「ギャッベ」です。
今ではさまざまな国で作られているものもありますが、ギャッベとは、本来イランの遊牧民族、カシュガイ族が一つ一つ手で織った絨毯のこと。手作業で作るので、世界には一つとして同じものがありません。すべてが一点もの! 2012年には、この織りの技術がユネスコ世界無形文化遺産に登録されています。
ギャッベを見て、多くの人がまず目を奪われるのは素朴な絵柄でしょう。人、動物、植物などが散りばめられていたり、はたまた風景画のようなものがあったり。シンプルな美しい色のグラデーションもあれば、いろいろな色がパッチワークのように織られているものもあります。さらに、その絵柄には意味があります。たとえば、鹿は家族円満、木は長寿や健康、メダリオンは厄よけ、四角は幸せを呼び込む窓、ザクロは子宝・・・。1枚の絨毯にはそれを使う人が幸せになりますように、という思いが込められているのです。
さらに驚くべきことに、ギャッベの制作にデザイナーはいません。織り子さんがイコール、デザイナーです。自らの感性をもとに即興で織り上げていくのです。ペルシャ絨毯の場合は昔から専門のデザイナーがいますが、ギャッベはそもそも家庭で使われていたもの。現地では「結婚をするときは、3枚のギャッベを織ってから嫁入りする」と言われているように、母から娘へ代々伝わってきた技術なのです。
少々前置きが長くなってしまいましたが、そんな魅力あふれるギャッベについて、もっと知りたい! ということで、輸入販売をしているアートギャッベ専門店「MUSUBI・結び」(東京都・品川区)の "手織絨毯アドバイザー" 為我井(ためがい)翔さんにお話をうかがいに行きました。
「MUSUBI・結び」のショップは、西大井駅から徒歩1分ほどのところにあります。創業92年のインテリアショップ「ROOM ART MATSUI」に併設されており、常時100枚以上のギャッベがあります。都内でもこれだけの数を一度に見られるのはここだけ! さらにインテリアショップ内にあるので、ギャッベ専門スタッフと家具のスペシャリストがいます。お部屋のトータルコーディネイトを考えながらギャッベを選べるのもありがたいポイントです。
ここはもともと家具のお店なんですが、4代目オーナーが絨毯業界で修行をしていた人で、ギャッベに惚れ込み取り扱うことになりました。弊社で輸入しているのは、最高品質のギャッベだけを扱い、欧米でも高い評価を得ている『ZOLLANVARI(ゾランヴァリ)』製のものです。欧米の見本市はもとより、年に1度はイランへ買い付けに行き、厳選したものだけを日本に仕入れています。
ギャッベはすべてウール100%。大きさは座布団サイズから、200×300センチほどの大きいものまでいろいろ。厚さは2〜3ミリ程度です。さっそくショールームにあるギャッベをあれこれ触らせてもらうと、予想以上に肌触りがしっとり・・・いつまでもなで続けてしまいたくなる気持ちよさがあります。
もともと羊の毛にはラノリンというリップクリームなどの原料になる脂が含まれているんです。その脂は抜かれてしまう事もあるのですが、ゾランヴァリのギャッベは脂分を抜かずに染色しています。だから肌触りがしっとりし、脂が汚れを弾くので汚れにくいんです。
さらに、ゾランヴァリが使うのは冬を越え、春に刈った羊の毛のみ。夏毛はパサパサしていますが、冬毛は脂分を多く含み手触りがいいのだそう。夏毛か冬毛かだけでも、仕上がりにはかなり差がでると為我井さんは言います。
この羊の毛を、遊牧民の女性たちが手や櫛のような手すき道具ですき、紡績を使って1本1本撚っていきます。染色は100%自然素材です。ウコンやジャシール、アカネの根、インディゴなどを大釜に入れ、染め上げていきます。天然素材で染めた糸は透明感があって発色が美しく、時間を経て多少色あせても、いい感じになじみます。染色をしていない原毛からも白からグレー、茶色のグラデーションで20色くらいはとれるそう。
それらの糸を使い、織り子がフリーハンドで織っていきます。ギャッベの形が出来上がると、裏面をバーナーで焼き焦がしてムダな毛を処理し、洗浄、乾燥、シャーリング(刈り込み)、調整を経てようやく1枚のギャッベが完成します。
大きさにもよりますが、170×240センチ程度のものなら、織るだけで半年から1年はかかります。羊の毛を刈るところから考えるとすごい手間ひまがかかっていますよね。
だからこそ、使い込んでいくとその差が明らかに出るのでしょう。
目が細かく、丁寧に作られたギャッベは50年経ってもまったくへたりません。100年以上親子で使い続けることもできるんです。最近は婚礼箪笥なんてなくなってしまいましたが、ギャッベなら持ち運べるからいいかもしれませんね。
ちなみに気になるお値段は、150×200センチのリビングサイズで30万円台半ばから50万円後半くらいまで。60×90センチの玄関サイズで6万円半ばから10万円くらいまで。一番人気はお手頃な玄関サイズのギャッベだそうですが、一度買うと気に入って、かなりの確立でリビング用も買い求める人が多いそう。また、「高級絨毯だとお手入れが大変なのでは?」と思いがちですが、そこは心配ご無用。
高密度に編み込んでいるのでゴミが中に入りにくく、普段は掃除機をかけるだけで大丈夫です。何かこぼしてしまっても、羊毛は脂分を含んでいるので表面で水を弾きますし、色がついてしまっても、少しずつ水をかけてたたけばよくとれます。汚れが気になるようであれば、5,6年に一度クリーニングに出してもいいかもしれませんね。
しかも、かなりしっかりと作られているため、ペットにひっかかれても「問題ありませんよ」と頼もしいお答えが。ネコや犬を飼っているお宅でも使えます。
また、ゾランヴァリのギャッベは夏冬関係なく使えるのも魅力のひとつ。
標高2000〜3000メートルの、昼夜の温度差プラスマイナス30度という環境にいる羊の毛を使うので、調湿効果が優れていて、夏でも表面がさらっとしてるんです。汗を吸っても自然に発散してくれるので、不快感がありません。さらに羊毛には空気を含みやすい性質があるので、クーラーをつけていれば、冷たい空気が絨毯にこもり快適です。逆に冬は、床暖房やホットカーペットがある場合は、オフにした後もその熱が数時間続くんですよ。
ギャッベを選ぶときのポイントは、サイズと色。もしいま使っているラグがあれば、その大きさをはかり、さらにソファのサイズや色、床の色、部屋の大きさなどをショップのスタッフに伝えれば、相談にのってもらえるそう。大事なのは「ソファと部屋の大きさの両方を伝えること」。どちらか一方だと、全体のバランスが見えず、適切なアドバイスができません。
そして絵柄は直感と好み。空間に合わせやすいのは、やはりグラデーションなどシンプルなものですが、逆に部屋全体をシンプルにまとめて、色とりどりのギャッベで遊ぶという方法も。ギャッベが好きな方はギャッベらしいパッチワークを好む方が多いそう。また風景画の場合は、「絵を床に敷く」ような感覚で。季節によっては壁にかけて楽しむこともできます。
「ちなみに、見る方向によって、色が変わるものもあるんです。たとえばこれ(写真下)。右からみる場合と左から見る場合で緑の明るさが全然違うんです。毛並みによって光の反射が変わるからなんですが、秋冬は暗い色が見える方向に敷き、春夏は明るい色が見える方向に敷くという使い方ができます」
為我井さん自身も、買い付けにいくときは「絵のきれいさ」と「織りの仕上がり」を見て、直感で選ぶと言います。
「現地では何千枚というギャッベから選ぶので、1枚当り2、3秒で判断しなきゃいけないんです。もちろん、あの家具に合いそうだな、あのお客様の家に合いそうだな、とある程度のイメージはありますが、基本的にはファーストインプレッションで"ビビビッ"ときたものを買います」
「MUSUBI・結び」では、年2回、ギャッベ展を開くそう。次回は4月に開催予定とのこと。400枚ほどが並ぶ、関東では最大規模の展示になります。めくるめくギャッベの世界。あなたもこの機会に一生の出会いを探してみませんか。
■取材協力:アートギャッベショップ・MUSUBI 結び
http://gabbeh.co.jp/
〒142-0043 東京都品川区二葉3-22-2
営業時間 11:00~19:30
定休日:毎週火曜日(祝日は営業します)
TEL 03-3781-5080
取材・文:宇佐美里圭/撮影:cowcamo(写真一部提供)