体をつくる源、食。味噌をはじめとした発酵食品を口にする機会は多いですが、発酵食品は買うもので、自分で作るものではないと思っていませんか?

しかし、最近では味噌づくりのキットが販売されていたり、ワークショップが行われていたりしていて、発酵の過程を生活の一部として楽しむ人が増えてきています。

そこで、発酵の魅力や自宅で楽しめる発酵生活について、山梨県甲府市にある創業150年の老舗「五味醤油」さんにお話をうかがいました。

味噌の魅力を伝える、老舗味噌屋六代目「発酵兄妹」の取り組み。

「五味醤油」六代目の兄・五味仁さんと、妹・五味洋子さん。

山梨県甲府市に店を構える老舗「五味醤油」六代目の兄・五味仁さんと妹・五味洋子さんは、「発酵兄妹」というユニットを組み、HPやワークショップ、ラジオ番組などの活動を通じて、発酵や味噌の魅力を発信しています。歌って踊って味噌づくりを学べる、「てまえみそのうた」の発案者でもあります。

小倉ヒラク&コージーズによる「てまえみそのうた(絵本)」てまえみそのうた は一度聞いたら忘れられない、そして思わず口ずさんでしまうメロディーです。

ーおふたりの家業である「五味醤油」について教えてください。

五味醤油は、山梨県甲府市にある明治元年より味噌と醤油の製造を開始した会社です。

現在は醤油は作っていませんが、甲州味噌を中心に「しょうゆ麦麹」などの調味料や地域性を生かした商品を作っています。

味噌と一口に言っても、作られる土地や気候によって特徴が異なります。大まかに米どころでは米麹、麦どころでは麦麹で味噌を作りますが、五味醤油が作る甲州味噌は、米麹と麦麹の両方を使う珍しい味噌で、ほうとうに合うまろやかな味が特徴です。稲作に適していなかった山梨では、武田信玄が冬の田畑で麦栽培を指示し、米と麦を使う珍しい甲州味噌が広まったと言われています。(仁さん)

米麹と大麦麹をあわせた「甲州やまごみそ(小・500g)」。

五感で感じる発酵の力。麹も味噌もいきている!

ー発酵兄妹のおふたりが普段生活される中で、発酵の力を感じることはありますか?

感じます! スーパーなどで販売されている味噌は品質を一定にするため、発酵を止めて出荷されているものもあるんですが、うちで売っている味噌のパッケージは発酵を止めていないので、夏場ですと活発になった菌の呼吸で、怒ったみたいに袋がパンパンになるんですよ。

そして、うちは天然醸造なので気候によって味噌の色が濃くなったり薄めだったりと色が変化するのも、生きているな〜と生命力を感じます。(洋子さん)

僕が麹が生きているなと思うのは、麹が発酵する際に熱を出すことです。味噌を醸造するのは冬場なんですけど、外気温が−10℃くらいでも麹の発酵熱だけで室内が25℃くらいまでに上がるんですよ。甘い香りがする自然の暖房です。なので、麹室では半袖で、別の部屋では長袖を着込んで・・・大変です。(仁さん)

決められた規格で菌による発酵を止め、常時一定の品質を提供することも可能なのだそうですが、「うちは主にお客さんの好みに合わせて説明しながら販売しているので、発酵を止めたり添加物を加えたりせず、すっぴんのままお届けできるのがいいんじゃないかなと思っています。」と仁さんは話します。

歌ってつくろう手前みそ! 味噌づくりワークショップ

無印良品 渋谷西武で行われた味噌づくりワークショップ「歌ってつくろう手前みそ。」の様子。

味噌の作り方を簡単に言うと、煮て潰した大豆と麹と塩を混ぜて、熟成させて完成です。麹や大豆の種類、塩分の量、熟成期間で味噌の味が変わっていきます。味噌のすごいところって、子どもからお年寄りまで口にする調味料ってところ。なので、幼稚園に行く時もあれば老人ホームに行くこともあります。誰でもできるので、私たちはワークショップのターゲットを絞っていないんです。(洋子さん)

参加者たちは、大豆を潰す際の感触に思わず「おぉー」「うわー」と、声を出しながら味噌づくりを満喫していました。

2016年1月24日(日)に東京・渋谷の「無印良品 渋谷西武」で行われたワークショップ「歌ってつくろう手前みそ。」には、親子から食に興味がある女性、味噌づくりに興味はあったけど機会がなかったという男性二人組など、さまざまな年代の方が参加していました。ワークショップは2時間ほどでしたが、「てまえみそのうた」で味噌のつくり方を楽しく把握した参加者たちは、麹や大豆の香りや大豆を潰す感覚を味わいながら各自の「手前みそ」を完成させ、大事に持ち帰っていました。

「かんたん手前味噌キット」の中身。水煮の大豆と米こうじと塩のセットです。

手順とか材料とか分からないけど、とにかく味噌づくりをしてみたいという方へ向けて「かんたん 手前味噌キット」を作りました。これが100%のものではなく、通過点だと思っています。キットとして商品化するのにはためらいがありましたが、味噌づくりにチャレンジしてみるきっかけにしてもらえればうれしいです。(仁さん)

できれば、香りが断然違うので目の前で煮た大豆を潰していただきたいんですけど、今回は入門編として「かんたん 手前味噌キット」を使用しました。これをきかっけに、自分で大豆を煮てもらう中級、好きな大豆を選んだり麹の配合を考えたりする上級までいってもらえたらいいなと思います。(洋子さん)

いきた食品を食べて腸の働きを活発に! 自宅で手軽に作れる調味料。

− 普段の生活、食卓に発酵食品を取り入れるおすすめの方法があれば教えてください。

うちで販売している麦こうじに醤油を入れて醸した発酵調味料「しょうゆ麦麹」は、納豆のタレの代わりにかけていただいてもいいですし、たまごかけごはんのお供としてもぴったりです。「塩こうじ」も塩の代わりに使って料理をするとお肉を柔らかくしてくれたり、旨味を増してくれたりするのでオススメです。

「しょうゆ麦麹」と「塩こうじ」のつくり方をブログに載せているので、よかったらご自宅でつくってみてください。(洋子さん)

●しょうゆ麦麹

大麦のぷちぷち食感がおいしい、洋子さんオススメの発酵調味料「しょうゆ麦こうじ」の作り方はこちら

●塩こうじ

漬込んだり、塩の代わりにつかったりととにかく万能な発酵調味料「塩こうじ」の作り方はこちら

五味家では必ず朝に味噌汁が出てきます。パンと一緒に出てくる時もあります(笑)。味噌屋だからというよりは、母の食育です。季節の野菜を使うだけでアレンジでき、旬を味わうことができるのでいいですよ。私は白菜の甘さ引き立つ冬の味噌汁が好きです。お客さんで、夏はお昼に冷たい味噌汁を飲むのがお気に入りという方もいます。(洋子さん)

工場の仕事を終えて味噌汁を飲むと生きていてよかった〜って思います。体調はともかく、毎日味噌汁を飲んでいるお陰か、お通じはいいですよ。発酵食品を売りにしている料理屋さんで食事した翌日は特に調子がいいですし、発酵食品の力ですね。(仁さん)


冬には温かく、夏には冷たく。季節の野菜をたっぷり入れたお味噌汁を。

これからの「発酵兄妹」。日本の食卓を子どもから変える!

− 今後の展開や最新のニュースなどあれば、お聞かせください。

これからは味噌づくりだけでなく、食べるところまで取り組みたいと思っています。山梨の郷土料理に「ほうとう」があるんですけど、それには甲州味噌が決め手なんですね。今はいろんな保育園とかで味噌づくりしているんですけど、最終的には「ほうとう」を食べようというところまでできればと。食育に取り組むにあたって、最初は母親のモチベーションを変えようとしていたんですけど、それは大変なので、子どもたちへアプローチしています。

「てまえみそのうた」とかも、家で子どもが歌っていたら何? って思うじゃないですか。それに、子どもが作った味噌なら、お出汁をいつもより丁寧にとってみようとか、ちょっといい野菜使ってみようとか思ってもらえるかなと。遠回りかもしれないですけど、子どもから変えていくことで食卓がより豊かになっていけばいいなと思います。(洋子さん)

そう、最初は味噌づくりに呼ばれていただけなんですよ。でも普通にやっているだけではおもしろくないから、楽しく伝えたいなと。初めの頃は小学生に教えていても、親が変わらないと食卓は変わらないと思っていたんですけど、「子どもが味噌を作ったので味噌汁を作るようになりました」って聞くようになりました。

やっていくうちに味噌づくりワークショップも広まってきましたし、これは子どもから食卓を変えられる可能性があるなと。じゃあ説明が3分で済むし歌でもつくるかと「てまえみそのうた」ができました。で、友だちに頼んだらダンスがついてきて。ダンスがつくと子どもたちに普及しやすいんですね。最初は僕たちは踊っていなかったんですけど、今では踊っています(笑)。(仁さん)

園児たちとともに行う味噌づくり。「てまえみそのうた」を歌って踊って学びます。

でも歌って踊っているだけではなく、僕の方は原料にフォーカスしていければと思っています。最近では東京・吉祥寺に「Taihiban(タイヒバン)」っていうお店があって、オリジナルの堆肥を使ったお米があるから麹にしてくれとか。「Taihiban」のお店の方を思いながら麹をつくるのっていいなと思って。現在は国産や県産の材料を使っているんですけど、ゆくゆくは誰がつくったのかまでわかるような材料をつかっていけたら仕事がより楽しくなるんじゃないかなと思っています。あと最近の活動では、2015年10月から山梨のYBSラジオで発酵をテーマにした番組「発酵兄妹のCOZY TALK」を週1回放送しています。(仁さん)

すごくためになる話をしているわけではないんですけど、発酵を知ることによって日常が楽しくなったりとか、自分の食べているものに興味を持ったりするきっかけになればと。なので、頑張って1年続けることで、リスナーの方に地元のものを食べようとか、この発酵食品がいいって言っていたから食べてみようとかっていう風になっていただければと思っています。(洋子さん)

■取材協力:五味醤油/五味仁・五味洋子


HP:http://yamagomiso.com/

ラジオ「発酵兄妹のCOZY TALK」:http://www.ybs.jp/radio/cozy/