冬の始めのある日、長野県は諏訪にオープンした「ReBuilding Center JAPAN(愛称リビセン)」にお邪魔したカウカモマガジン取材チーム。
新宿から特急あずさで約2時間の「上諏訪(かみすわ)駅」から徒歩10分。古い建設会社のビルをリノベーションしたリビセン。
“ReBuild New Culture”という理念のもと、解体される古い建物から古材や建具、家具などを救済=レスキューし、販売するこの場所。立ち上げたのは、空間デザインユニット「medicala(メヂカラ)」の東野唯史(アズノタダフミ)さん、華南子(カナコ)さん夫妻です。
今回お話をお伺いしたのは、東野唯史(以下、アズノ)さん。1984年生まれ。大阪、兵庫、福岡、名古屋、東京と転々と移り住む。名古屋市立大学芸術工学部卒。空間デザインの会社に勤務後、2010年に世界一周の旅。帰国後2011年よりフリーランスデザイナーとして活動開始。2014年よりmedicalaとして妻のカナコさんと共にmedicala設立。
「世の中に見捨てられたものに価値を見出し、もう一度世の中に送りだし、次の世代につないでいく」という想いは、中古マンションを住み継ぎながら自分らしく暮らすことを応援するカウカモマガジンと重なるところ。
しかもアズノさんはカウカモマガジン編集長・中村真広と同い年の友人。東京でも噂になっていたリビセンは中村も「ずっと来たかった!」場所でした。今日は中村が聞き手となり、立ち上げまでのストーリーとこれからをアズノさんにインタビューします。
中から溢れる光がとても印象的なリビセンのエントランス。
いろんな人を巻き込んで作るから、優しい場所ができる
いい場所だね。改めて、リビセンはどんな場所なのか教えてください。
メインは古材の販売で、古材1本、トタン1枚ずつ、安いものだと300円から気軽に買える場所としてやっています。売り場の隣にはカフェがあって、2階では古道具も売っていて。
古材や建具がラフに積まれたオープンな売り場。左奥の作業スペースでは、スタッフがレスキューした古材を、施主にプレゼントする皿に生まれ変わらせていました。
おいしいカレーとチャイが評判のカフェ。正面の窓の向こうに古材売り場が見えます。床は古材を張り直し、左の壁は石膏ボードをはがしてRC(鉄筋コンクリート)の下地を表しに。
2階には、椅子や机、建具など古道具が並ぶ。
カフェと古材売り場が隣り合っていて、窓からお互いに見えるのはおもしろいね。
そう、こういうことがやりたかった。単なる古材屋だと建築関係者しか関われないけど、「ReBuilding Center JAPAN」の理念は “ReBuild New Culture”。文化を作っていきたいから一般の人に広く知ってほしいし、“自分ごと”として関わることで広がっていってほしい。古材に興味がない人もカフェをきっかけに来てくれて、席に座ったら窓から古材が見えて。スタッフと話すうちに古材レスキューを知って、「うちの実家を解体するから来てもらおうかな」て話につながればレスキューが増えるし、古材をかっこよく再利用できることも知ってもらえる。
リビセンは空間や家具のデザインもしているから、カフェは古材を使ったプレゼンテーションの場でもあるね。カフェの家具はアズノくんのデザイン?
スタッフや「お助け隊」と一緒に作ったものが多いね。例えばこのテーブルは、山口から来てくれた大工さんが作ったもの。
テーブルの周囲に使われた穴の空いた材は、隣町の岡谷で盛んだった養蚕業で長年使われていたもの。まさにご当地廃材!
ーリビセンを語る上で欠かせないのが、全国から集結するボランティアスタッフ「お助け隊」。この建物をリノベーションするためFacebookで募ったところ、のべ460人もの応募があり、2ヶ月にわたって木工や左官、ペイントなど大活躍したそう。
※現在も「リビセンサポーターズ」として古材整理や釘抜きなどのお手伝いを随時募集中! 詳細はウェブサイトからお問い合わせを。
リビセンオープンまでの軌跡は、置いてある冊子で見ることができる。
ゲストハウス「
Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(東京・蔵前)もそうだけど、アズノくんがデザインした現場って、いろんな人が集まって
オーケストラで作っていくような感覚な気がする。リビセンも、その日来てくれる人たちと一緒に作ったじゃない? 普通の建築家とはちょっと違う方法かなと。
そうかもしれない。その方法しかやってないからよく分かんないけど(笑)
全国から駆けつけた「お助け隊」。アズノさんが設計した下諏訪にあるゲストハウス「マスヤゲストハウス」に長期滞在して通った人もいたそう。(写真は「ReBuilding Center JAPAN」Facebookページより)
だからこそ手垢がついたものができるというか、優しいトーンになるよね。使うのも古材だから、新しいんだけど新しくないというか。
外から見ると単に「かっこいいお店」かもしれないけど、施主やお店で働くスタッフ、一緒に施工した人はできた過程を知ってるし、誰がどこを作ったか全部分かってる。作った人の顔が見えるってすごくいいなって思うし、古材も、どこから出てきたものかお客さんに伝えられる限り伝えてる。それが古材の楽しさだし、良さだと思うから。
リビセンとの出会い、自分が持っているもので意義ある仕事を
ーリビセンの母体は、アメリカ・ポートランドのNPOが運営するリサイクルショップ「ReBuilding Center」。その運営方針に感銘を受けたアズノさんが、「ReBuilding Center JAPAN」を名乗りたいと本国に相談し、ゴーサインを得たことからプロジェクトはスタートしました。
ポートランドにある、本家「ReBuilding Center」の様子。
本家のリビセンを知った時、「やりたいのはこれだ!」って感じだった?
いや、最初は買い物に行きたいって思っただけ(笑)。ただ、近くに古材屋は欲しいなって思ってた。店舗デザインの仕事で古材を使うようになったんだけど、近くの解体現場で手に入れるとか行き当たりばったりのやり方だったから、もっと気軽に安く買えて、楽しい古材屋があればいいのになと。だから「誰か日本でやってくれりゃいいのに」と思ってた(笑)。
「いい空間ってかっこいいだけじゃなくて運営もしっかりしてなきゃいけないし、施主が目指す景色や、来てほしいお客さんに来てもらえる仕掛けを作らなくちゃいけない」と話すアズノさん。
それで去年、ポートランドの「ReBuilding Center」に行ったらすごく良くて。街に愛されてるしスタッフにも愛されてるし、売り場からも理念を感じたんだよね。彼らの目的は古材を売って儲けることじゃなく、コミュニティを強くすること。NPOで運営してるし社会的意義が強い場所で、この活動で街やコミュニティを良くできるし、世界を良くできるって彼らは本気で思ってる。俺のモチベーションも、大学の時に教えられた「デザインは世界を良くできる」、常にその気持ちでやっているから。
「ReBuilding Center」の中には、各種パーツがカテゴリごとに分けられ所狭しと並ぶ。
古材や施工の知識があってデザインもできる、そういう “自分がいま持ってるもの” で世界や日本に対する社会的意義を果たせて、ビジネスとしても成り立つことを考えたら、自分で「ReBuilding Center」ができそうだと思ったんだよね。それで、日本で古材を扱うなら「ReBuilding Center JAPAN」を名乗りたいと思って、ホームページから本国にメール送って頼んで。
うん(笑)。アメリカから帰国してメールの文面作って、今までデザインしたものの写真も送って。そしたら1通目の返事で「いいよ」って。
うん。でもなんとなく、諏訪しかないかなって思ってた。
ー諏訪の古民家をリノベーションした「マスヤゲストハウス」を手がけたことを機に、2014年に東京から諏訪に移住したアズノさん夫妻ですが、リビセンの場所として諏訪を選んだ決め手はなんだったのでしょう。
リビセンの2階から見える景色。
東京から公共交通機関で来やすい場所で探していて。ここは新宿から特急で2時間、駅から徒歩10分だから、車がなくても東京から電車かバスで来てもらえるし、買ったものは配送すればいい。
そう。首都圏でマンションを買って、リノベーションに500万円とか1,000万円かける人たちが古材を使いたいって思った時、今だとだいたいアメリカからバーンウッド(納屋に使われた板材)を輸入することになる。でも日本の古材を使っても、これだけかっこよく使えるってことをうちでは見せられるから。ここに来れば一気に選べるし、バーンウッドより安いよね。
海外から燃料使って仕入れるんじゃなくて、地元でとれた材料だから環境にも負担が少ない。捨てられるはずだったものだから焼却されなかっただけでCO2は減らせるし、使えば使うほど環境にいい特殊な材料だと思う。
2階にはレスキューした家具や小物などの古道具売り場。リビセンのリノベーション前のビルの応接室にあったという鹿の剥製(5,000円)、中村編集長がお買い上げ〜。
50年後、いい古材はなくなってしまうかもしれないから
空き家問題って今さんざん言われてるけど、ただ助成金を使ってつぶすんじゃなく、手でバラしてもう一度使えるようにすれば資源になって、二次流通できる。そこらへんはまさに、僕らがやろうとしてるカウカモのストーリーとすごく近い感じがするなあ。
うん。今はまだ「古材なんていくらでも出てくる」って気がするかもしれないけど、きっと50年ぐらいたったらそんなことなくなっちゃって「あの時とっておけばよかった」と思うと思う。
しかもRC(鉄筋コンクリート)の建物ばっかりになってね。
昔の材は、やっぱり釿(ちょうな)だとか大工道具の跡があってすごくいい。今は、そんな手間かかる方法で製材しないから。昔のは、木の種類も地松(国産の松)を使ってたり、ちゃんとかっこよくて。
本国の「ReBuilding Center」では、ベニヤはポリシーとして残さないんでしょう? でも、今の日本も内装に使われる多くはベニヤだったりとか合板だったり。だから平成の世に生まれた内装材を50年後にレスキューしても、もう価値を見出せなくなっちゃうかもしれない。
プラスチックとかフェイクのものはダメかな。基本は木だとか自然に還る素材で、鉄も残す。あと縄や竹も。本国もそうだけど、基本的に「子どもや孫に残したい物か」を基準にジャッジしてる。
カフェの入り口の壁は、レスキューした建具をパズルのようにはめ込んだこの世にひとつのデザイン。
全国の「ご当地廃材」、東京オリンピックもレスキュー!?
ここから車で1時間半以内。それより外側は断るけど、事情にもよるね。
フロアの一角には、レスキュー予定表が。
10年ぐらいの長い目で見ると、全国にリビセンを作りたい。スポットを増やせば守れる古材も増えるから。さらにそのスポットの間に、販売しないけどレスキューはするサテライトみたいなものもできるといいなと思っていて。
なるほど。全国網羅したら、ご当地廃材みたいのがたくさん出るといいね(笑)。
実は諏訪を象徴する古材があって。あそこに切り株みたいのがあるでしょう。あれ、御柱(※)なんだよね。お役を終えた御柱は輪切りにされて、土地の有力者に配られたり地元の店に飾られたりするんだけど、そのひとつをもらって。しかも根元の方のすごくいい部分。
※「御柱」……諏訪で7年に一度行われる奇祭「御柱祭」に登場する神聖な巨木
これが諏訪の御柱祭で使われた御柱の一部!ありがたや
いいなご当地廃材、おもしろい(笑)。僕やりたいことがあって、たとえば地方にあるおじいちゃんおばあちゃんの家が空き家になって壊すしかないと。その時に解体したパーツをとっておいて、東京で自分たちが住むマンションをリノベーションすれば思い出は継承できるじゃない。全国に拠点があればレスキューに行って輸送してもらって。それができたらすごく面白い循環だなあと。
カフェ併設や全国にネットワークを作る計画は日本独自のアイデア。「本国は基本的に賛成してくれる、のびのびやらせてもらってるよ」とアズノさん。
フランチャイズ展開の話が出たけど、さらにその先のビジョンはある?
今、冗談半分本気半分で言ってるんだけど、東京オリンピックのレスキューがしたいんだよね。
リオデジャネイロオリンピックでは、スタジアムの廃材を再利用して小学校建設に使うらしいんだよね。それをあらかじめ盛り込んで設計してる。東京オリンピックも時代の流れとして環境配慮は外せないはずだから、それまでに俺らがもっと活発に動いて注目される立場になって。まだ4年近くあるし、チャンスはあると思う。
確かに! いいね。リビセンもカウカモも、東京オリンピックに照準を合わせて、何か仕掛けられたらいいね! 最後にいい話が聞けた。ありがとう!
こちらこそ、ありがとう。これから共にどんなことができるか楽しみだね!
ー東京オリンピックのレスキュー! 今まで考えたことのなかった話なだけに、驚きの展開でしたが、確かに東京オリンピックで使われたものが、形や場所を変えながらも、何十年後も愛着を持って、大切に使われている様子って、想像するだけでなんだか素敵ですよね。
「世の中に見捨てられたものに価値を見出し、もう一度世の中に送りだし、次の世代につないでいく」という彼らの姿勢、カウカモマガジンでは引き続き応援していきたいと思います!
気になった方、アズノさんの想いに触れに、ぜひ上諏訪まで足を運んでみてください。新宿から特急で2時間。一度、体感してみる価値ありだと思いますよ◎
Rebuilding Center Japan
住所:〒392-0024 長野県諏訪市小和田3-8
電話番号:0266-78-8967
ウェブサイト:http://rebuildingcenter.jp/
1981年長野県生まれ。コピーライター、住宅雑誌編集者を経て現在は長野と東京の2拠点生活を送るフリーランスエディター、ライター。得意分野は住まいとまちづくり。