日本初の体験型DIYショップ「DIY FACTORY」を2014年に大阪市にオープンし、翌2015年には二子玉川ライズに2号店をオープンした株式会社大都。店頭でのワークショップの開催や親しみやすいディスプレイなどを通じて、これまで工具に触ったこともない、というビギナーがDIYに気軽にチャレンジできるきっかけづくりに貢献してきました。
 
もともとは戦前に工具商から始まり、問屋業を長く営んできたという大都。創業79年を迎え、さらなるチャレンジを続ける大都の3代目社長である山田岳人さんに、DIYの魅力や可能性を伺いました。


リクルート社員から転身、老舗問屋業の建て直しに奔走

ー大都は、DIYを親しみやすいものにしてくれる素地づくりに貢献してきた立役者的な存在だと感じていますが、問屋業からB to Cへとシフトしたきっかけは何だったのでしょうか。

株式会社大都の3代目代表取締役である山田岳人さん。「DIYを文化に」をモットーに、わくわくするようなDIY事業を次々に展開しています。

大都は1937年、昭和12年に創業しました。僕はもともとリクルートに勤めていましたが、妻が先代の一人娘で、結婚の条件が「娘をやるから会社を継げ」だったんですね(笑)。それで大都に入社したんですが、僕が入社した1997年当時は、問屋業の業績が非常に厳しくて、何か新しい事業を立ち上げなければ、と思うようになりました。

小売業を始めようか、と考えていたところに、中学時代の友人が「ネット通販をやればいいんじゃない?」と。当時はパソコンを持ってすらいなかったので、次の日にさっそくパソコンを買いに行って、ゼロからひとりで勉強し始めたんです。それが2002年でした。

ーそうやって始まったんですね!

ネット通販をスタートさせてからも、日中はトラックで配達に回り、夜にやっとパソコンに向かう生活でした。HTMLってなんだ? というところから始めてなんとか作り上げたんですが、それでもほかで工具のネット通販をやっているところがなかったので、少しずつ売上が増えていきました。

1年半かかってやっと月商100万円を達成し、初めてネット通販業務の専任スタッフを雇うことができましたが、事業の主体である問屋業の業績は悪化する一方で、とても追いつかない。問屋業というのは取引先に対して非常に弱い立場なんです。無理な条件を飲まされるし買い叩かれる。注文数通りの納品をしても、売れなければ在庫過剰だと言って返品される。当時は社員が15人いましたが、とうとう行き詰まり、2005年に先代に「このままでは全員が路頭に迷ってしまう。廃業させてください」と申し出ました。

それでも先代がどうしても会社だけは残して欲しい、お前のやりたいようにやっていいから、というので、2006年、社員全員に規定通りの退職金を支払い、解雇するという苦渋の選択をしました。そこで問屋業からは完全撤退し、ネット通販事業に移行したんです。

2002年から楽天市場にDIY工具の通販サイトをオープン。豊富な商品を取り揃え、売上ナンバーワンと言われるまでに成長したと言います。


ただ売るだけでなく、作る楽しさを直に伝えたい

ー新生・大都としてネット通販に完全にシフトしたのですね。そこからDIY FACTORYをオープンしたきっかけはなんだったんでしょう?

ネット通販はDIY用品では日本最大級の通販サイトまで成長しました。でもネット通販がバーチャルな世界だけで完結してしまうことに、徐々につまらなさも感じていたんですね。僕らはなんのためにこのビジネスをやっているのだろう、ただ儲けるだけじゃなくて、作る楽しさを未来につなげる、というミッションがあるじゃないか、と。

そこで改めて実店舗をやろうと考えました。しかも、僕ら売り手と、工具メーカー、そしてお客さん=ユーザーすべてがハッピーになれるビジネスをしようと思ったんです。

ー具体的には、どんなビジネスですか?

例えば電気丸鋸はすべてのホームセンターに置いてあるけれども、使い方を教えてくれるホームセンターは1軒もない。だからそこを僕らは担おう、毎日ワークショップを開催して触れてもらおうと。

また、工具メーカーがユーザーに商品を披露する場はホームセンターですが、どの商品を陳列するかの選択権はすべてお店側にあるから、自分たちのブランドを打ち出したくてもなかなかできない。じゃあメーカーさんが商品を披露する場を僕らが提供しましょう、ということで、2014年に大阪にオープンしたDIY FACTORY1号店では、展示スペースを1棚数万円で貸し出したんですね。商品説明はうちのスタッフがするので、人件費不要でショールームが出せるというわけです。25社ものメーカーが出展してくれました。

DIY FACTORY OSAKA、FUTAKOTAMAGAWA、どちらも毎日多彩なワークショップが開催されています。中でも女子に圧倒的人気なのが、溶接によるネームプレートづくり。一見ハイレベルなようですが、思ったよりも簡単とのことで、果敢にチャレンジする女子多し。

メーカーごとに商品がディスプレイされている「ショールーム」。洋服を試着するように、工具や塗料などのアイテムを試しに使って、塗って、遊んでみることができます。


震災を機に「自分の手でやってみよう」という価値観に

ー今、DIYはますます盛り上がってきていますが、山田さんは、なぜDIYがこれだけ注目されていると思いますか?

いくつか理由はあると思いますが、ひとつは、世の中の価値観が、大量生産・大量消費型から、自分たちの手でなんとかしてみよう、という風に変わってきたのだと感じています。僕らが若い頃って、ファッションは上から下までメンズビギ、みたいな時代だったわけですよ(笑)。でも今は違うでしょう? ひとつひとつ自分で選んでコーディネートする形に変わってきてる。若い女の子も、シャネルのバッグよりハンドメイドのバッグの方がイケてるみたいな感覚になってきていますよね。

ー確かに。

そのような価値観が出てきた大きなきっかけのひとつは、東日本大震災だと感じています。震災が起きて、ネット通販での商品の売れ方が、それまでとがらっと変わったんですね。とにかく自力で何とかしようと購入したんだな、と感じられる商品が出るようになった。

そしてさらにDIYの流れが一気に加速したのが、2014年3月、国土交通省が出した指針です。国が「賃貸の原状回復というルールをやめなさい。入居者がDIYで部屋を模様替えできるようにして、空き住戸をもっと流通させなさい」という方針を出したんですね。これには驚きました。DIY FACTORY OSAKAをオープンしたのが2014年4月、このガイドラインが出たのが、その1ヶ月前でしたから。そんな絶好のタイミングでオープンしたこともあって、DIY FACTORYはメディアに大きく取り上げられました。


DIYに興味がある人と実践する人のギャップを埋めたい

こないだ、ある電動工具メーカーが行ったアンケート結果というのを見たんですが、「DIYに興味がありますか」という質問に対し、60数%が興味があるという回答だけれども、その中で実際にやったことがあるのはたった14%だったそうです。

なぜそんなにギャップがあるかというと、まずは、やり方がわからない。次にやる場所がない。あとは物理的にできない。賃貸なので壁紙貼ったりできませんと。壁紙は最近かなり人気が出ていますが、日本で壁紙を貼ったことがある人ってたったの3%なんですよ。これがフランスだと7割近いのです。

ーそんなに違うんですね!

さらに言うと、日本では初めて家を買う人の10人に9人は新築です。ヨーロッパやアメリカは真逆で、新築買う人なんて10%ぐらいしかいない。欧米では中古で買って自分でリノベーションするという文化がちゃんと根付いているんですね。しかもリノベーションすることで資産価値はむしろ上がったりする。日本もいきなりそうはならないけど、DIYを文化として根付かせることで中古住宅を購入する割合を9対1を8対2、7対3と変えていきたいですね。

ー2015年からは、DIYに関する豊富な情報を網羅したキュレーションメディア「Makit!(メキット)」をオープンし、この春にはポイント制の本格的なDIYスクール「STUDIY(スタディ)」もスタートしたそうですね。

Makit! は2015年10月に立ち上げたんですが、これは言わばレシピサイトのcookpadのようなイメージですね。DIYに興味を持っている方は、まず基本的なところで、道具の使い方がわからない、という悩みを抱えています。

料理をするのに包丁の使い方やレシピがわからないとできませんよね。それと同じで、まずは道具の使い方やレシピを、サイトで日本全国、世界中の知りたい人に発信しようという目的で作っています。

DIYやインテリアのアイデアやヒント、テクニックがいっぱいの「Makit!」。 写真や動画が多く、時間を忘れて見入ってしまいそうです。

STUDIYはDIYを学ぶスクールなのですが、イメージしたのはこれもやっぱり料理系で、ABCクッキングスタジオなんです。ガラス張りで、前を通る人が「何これ?」って覗いていく。やはり女性の反響が大きいですね。

大阪のなんばパークスという大きなショッピングモール内にあって、すごく通いやすいし、ガラス張りの中で学んでいる私の「イケてる感」っていうのもあると思う(笑)。つい先日、夕方の情報番組で紹介されたら、そのあと問い合わせの電話が鳴り止まなかったんです。DIYを学ぶというニーズがこれだけあるんだと驚きました。STUDIYはこれからどんどん店舗展開していきたいと思っています。

自分たちの暮らしに自分たちで手を入れていくということはすごく価値があると思う。家をDIYで素敵にしたら、誰かに見て欲しくなるからお客さんを呼ぶようになるし、子どもも自分の手でおもちゃを作ったら、壊れても自分で直すんです。ちょっと何かあったら自分で直したらええやん、と。そういうことを広げていくことがDIYの価値だと思っています。

実際にABCクッキングスタジオへノウハウをヒアリングに行き、作り込んで行ったという会員制スクール「STUDIY」。DIYを基礎の基礎からしっかり学べます。

ー自分の暮らしに自分で手を入れる。そんな人たちが増えた未来はとっても面白そうですね! これからの大都さんのご活躍を楽しみにしております。

<最後にお知らせ>
この春に「&home(アンドホーム)」としてリニューアルした「渋谷ロフト」の4階インテリア売場にDIY FACTORYが出現しました! お買い物のついでに、ワークショップで本格的なDIY体験ができるとあって、 渋谷の楽しみ方がぐんと広がりそうです。ぜひ遊びに行ってみてくださいね。

DIY FACTORY SHIBUYA (5月中旬まで期間限定open)
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町21-1
TEL:03-3462-3807
営業時間:10:00〜21:00
アクセス:東京メトロ銀座線・副都心線・半蔵門線・東急田園都市線「渋谷」駅3番出口より徒歩3分 JR線「渋谷」駅八チ公口より徒歩5分
DIY FACTORYウェブサイト: http://www.diyfactory.jp/

【取材協力】株式会社大都
http://www.daitotools.com