セルフビルドで中古戸建をリノーベーション。本記事では、自宅を自由にDIYする家族にお話を伺ってきました。古道具や古材をアレンジしたパーツで各所が彩られているそこは、住み手の創造が爆発したワンダーランドな空間。素人であっても、プロのパートナーと共にここまで作り上げられる。ストーリーがぎっしり詰まったお家にわくわくする記事となっています。
東京都日野市の住宅地に建つ、屋根の形や窓辺のデザインが特徴的な1軒の住宅。玄関に回ってみると、外観のシックなイメージを裏切る光景が目に飛び込んできます。ラフに塗り上げられた壁やドア、謎のオブジェたち。内部は一体どうなっているのかと、恐る恐るドアを開けてみると・・・。そこに広がっていたのは、住み手の創造が爆発したワンダーランドな空間でした。
階段の手摺は仙人の杖のようなねじれた古木、錆びたトタンでできた引き戸、竹ザルをシェードにしたランプ、石臼のような手洗い器、古い時計が埋め込まれたドア・・・、どこを見渡しても「何コレ!?」な驚きに満ちたこのワンダーランドの住人は、映画監督・映像作家の高木聡さんこと通称「タカさん」と、アンティークショップを営む奥様の麻子さん、長男・現(げん)くん、次男・温(はる)くん、三男・灯(とも)くんの5人家族。昭和50年代に建てられた住宅を中古で手に入れ、リノベーションしながら暮らしています。
以前は駅近くの団地を買って暮らしていたんですが、子供が生まれて手狭になり、戸建てへの住み替えを考えました。最初から中古狙い。この家は医院兼住宅として使われていたもので、昭和の高度経済成長期のゆとりを感じさせるデザインだったのが気に入りました。(タカさん)
そう話すタカさんは、リノベーションすることも当初から想定していたそう。
もともと古い建物が好きで、古い家に少しずつ自分たちで手を加えながら暮らすのが理想でした。でも、いくら古くて味があっても、構造体がダメになっている建物はNG。この家は広く、構造もしっかりしていて、僕らの希望にぴったりだったんです。(タカさん)
タカさんは、ウェブサイトでその事例を見てテイストが気に入ったフィールドガレージの原直樹さんにリノベーションを相談。そこで、「解体してから空間をどうするか相談したい」「現場で話し合いをしながらつくっていきたい」といった希望を伝えたところ、「ぴったりの奴らがいます」と原さんから紹介されたのが、HandiHouse projectでした。
HandiHouse project(以下、ハンディ)は、デザインから工事までのすべてを自分たちの手で行うほか、施主もデザインや工事に参加するワークショップ形式の家づくりを行っている集団。ハンディの加藤渓一さんに、高木さん一家との家づくり開始時の様子を聞いてみると。
工事に着手できるのが2月で、3月には入居しなくちゃいけないという事情から、とりあえず住むための最低限の要素として、床と壁、キッチンと風呂を工事して、好みや趣味などを反映する「味付け」は住み始めた後にやろうという話になりました。工事への参加を促すと、お子さんたちはノリノリでやるんだけど、タカさんは見てるだけ(笑)。DIYにはあまり興味がないのかな、と思っていました。(加藤さん)
「自分で住まいに手を入れながら暮らしてみたい」という希望を抱きつつも、「やり方がわからないし、自分では無理だ」と思っていたというタカさん。しかし、連日現場に通い、ハンディのメンバーと話をしながら家づくりを進めるうちに、気持ちが変化していったと言います。
素人がプロに口を出していいのかなという気持ちがあったんですよね。僕もものづくりを仕事にしているから余計にそう思うのかもしれないけど、プロにはプロのやり方があるでしょう? でも、ハンディの家づくりを間近で見ているうちに、施主ももっと意見を言っていいし、やっていいんだという気持ちに変わっていったんです。(タカさん)
OSB合板を貼った壁や無垢のパイン材を敷いた床は、高木さん一家が塗装を担当することに。そこでタカさんの創作意欲に火がつきます。1階ホールのトイレの壁に、色とりどりの塗料で抽象画のような塗装を施したのです。ハンディの坂田裕貴さんは、タカさんの変貌ぶりを振り返って話します。
トイレの塗装も驚いたんですけど。一次工事を終えて高木さん一家が入居するタイミングになり、1ヶ月くらい間が空いたんです。で、そろそろ二次工事開始かな、と思っていたら、ある日タカさんの書斎の入口に、古材やトタンがコラージュされたオブジェみたいなでっかいドアが付いていたんです。なんだこれ、スゲー!って(笑)。(坂田さん)
自分でやっていいんだ! とは思ったものの、目の前にプロがいるわけでしょ? 比較されたら恥ずかしいなと思って、最初はあまり積極的に参加できなかったんです。工事が中断している時に、「今のうちにやっちゃえ!」って、思うままにドアを作っちゃいました。(タカさん)
高木邸の家づくりはそこから一気に進化します。朝、ハンディのメンバーが高木家に集合すると、タカさんとコーヒーを飲みながら打合せ。「今日はどうする?」「こんなパーツが手に入ったよ」「それ、あの部分に使ってみる?」。一体どこで見つけてくるのか、さまざまな廃材を収集してくるタカさん。仕事の仕入れ時に面白いアイテムを見つけては、持ち帰ってくる麻子さん。それらを見ながらアイデアを出し合い、その場でデザインを決め、セルフビルドでつくっていく。子供たちや麻子さんも帰宅したら作業にジョイン。そんなライブ感溢れる家づくりが進んでいきました。
頭の中にあるイメージと素材がバチッと組み合わさったらGO!という感じ。図面から入るんじゃない、感覚的なつくり方。形にならないものをつくっていくときは、つくる過程で意見交換ができた方がいいよね。お互いどんどん意見を言いながらやることができたから、「僕も一緒につくってるんだ」という気持ちにすごくなれた。(タカさん)
見本があるものをそのままそっくり真似てつくるのは簡単だけれど、まだこの世にない新しいものをイメージからつくり出そうとする時は、そう簡単にはいきません。つくりながら試行錯誤して、時には壊してやり直して、なんてこともあるでしょう。タカさんが理想としていたのは、そんな家づくり。いちからつくる新築だったら、予算や時間の問題から、こうはできなかったでしょう。中古だからこそ、そしてハンディというパートナーを得たからこそ、タカさんの理想は実現したのです。
一緒にいる時間が長くなるほど、タカさんのイメージしていることがわかってくる。それは、全工程を一緒に作業しているからこそ。僕たちハンディとしても、理想とする家づくりの形でした。(加藤さん)
購入から2年が経過した今も、セルフビルドによる進化を続けている高木邸。「毎回、訪問する度に、何かができてるんです」と坂田さんは話します。最近では、しばらく倉庫として使っていたスペースをLDKにつなげ、壁全面に棚を造作。今後は外装に手を入れることも考えているそう。今でも定期的にハンディのメンバーが高木家に集まり、みんなで今後のリノベーションプランを話し合っているのだとか。
自分の家がどんな素材で、どんな風にできているのかを知っていると、自分で手を入れる際の自由度も上がるし、家への安心感も増すと思う。工事に参加したことで我が家がぐっと身近になりました。(タカさん)
たぶん、頭でわかってるだけじゃダメなんですよね。自分で手を動かしたり、実際に触ったり、現場を見たりして、家がどうやってできているのかを知ることが大事。僕は設計デザイン出身で現場経験がなかったんですが、ハンディを始めてそのことを実感しました。(坂田さん)
高木家の次男・温くんにDIYによる家づくりの感想を聞いてみると。
インパクトを使って壁にビス打ちするのが楽しかった!自分の家を自分でつくったことがあるやつなんて、学校じゃ僕だけだよ。(温くん)
そう話す温くんは、建築家になるのが夢だそう。我が家の家づくりを通じて、建築に興味が湧いたのだとか。そんな夢を語る温くんを、タカさん、ハンディの加藤さん・坂田さんは心底うれしそうな表情で見つめていました。
よく「家は3回建てろ」って言われるけど、その通りだなって思った。自分の思い通りにしたくても、家の構造や使い勝手を考えると、できないこともたくさんある。そのことに気付けたのは、中古でこういうスタイルの家づくりをやったからこそ。こんな経験を重ねることで、理想通りの住まいがつくれるようになるんだろうね。今のところ住み替える気はないけれど、これからも家づくりを続けて、最終的には買った時よりもずっと高い値が付くような家にしたいな(笑)。(タカさん)
既存の建物の魅力を受け入れつつ、新しい物語を暮らしながらつくっていく。そんな風に中古を住み継ぐ、高木さん一家のような暮らし方が広がったら、世の中の住まいはもっと豊かになるのではないでしょうか。「買って終わり」「つくって終わり」ではない、住まいとの付き合い方。住まいに向き合って暮らすことの楽しさを教えてくれる事例です。
【取材協力】
HandiHouse project
合言葉は「妄想から打ち上げまで」。デザインから工事までのすべてを自分たちの「手」で行う集団。施主もデザインや工事に参加するワークショップスタイルの家づくりを展開。メンバーは坂田裕貴さん(cacco design studio)、中田裕一さん(中田製作所)、加藤渓一さん(studio PEACE sign)、荒木伸哉さん(サウノル製作所)、山崎大輔さん(DAY'S)。
取材・文:佐藤可奈子/撮影:cowcamo