カウカモマガジン6月方は、クラウドファンディングサービス「Makuake」特集
実は、10月号「秋の夜長は灯りとともに。」で取材させていただいた、LED照明の “Siphon” も、昨年Makuakeで大きな話題を呼んだプロダクトの1つです。
そこで今回は、当時の内容を再編集し、改めてご紹介します。


突然ですが、みなさんのお宅の照明はLEDを導入していますか?

従来の照明に比べ、おどろくほどの長寿命・省電力を実現したLED照明。特に、東日本大震災の発生により節電意識が高まったことから、照明をLEDに取り替えよう、という動きは一気に世の中に浸透しました。そしてその流れとともに、電力消費量が多く、切れやすいクリアガラス製の白熱電球は、相次いで生産中止となっています。

その一方で、LED照明特有の、電球とも蛍光灯ともつかない色合いや、冷たい感じがする白色LEDがどうも苦手、という人も少なくありません。また、昔ながらのクリアガラス製の白熱電球は、インテリアにこだわる人に根強い人気があります。

でも、LED照明では、白いプラスチック製の電球しか作れない。あのクリアガラスにオレンジ色のフィラメントがともるレトロな電球は、もうなくなってしまうのだろう・・・。きっと多くの人がそう思い込んでいたでしょう。

しかし、一見、不可能かと思われる分野に果敢に挑戦し、見事に商品化した小さなメーカーがありました。愛知県にあるカー製品の製造・販売会社、ビートソニック。

かっこよくて懐かしくて、あたたかみのあるLED電球を、『Only One』というブランド名で展開しています。

特に、昨年10月に開発した "Siphon(サイフォン)" は、クラウドファンディングサイト「Makuake」に登場するや、大きな反響を呼びました。

従来のLED照明のイメージを根底から覆すこの電球は、いったいどのようにして生まれたのでしょう。

株式会社ビートソニックの戸谷大地さんに伺いました!

LED照明の商品企画から販売までを担当するプロジェクトリーダーである戸谷大地さん。大手メーカーでは作れない「光にこだわる人のための美しい電球」の企画製造に取り組んでいます。ご自身のお住まいでも寝室の照明に "Siphon" を使っているそう。「夜にベッドで本を読むので、枕元に置いています。同じようなコンセプトの商品が最近いろいろ出てきている中で、調光できるのは "Siphon"の強み(※編集部注:これまでの白熱電球用のものだとできない場合もあるとのこと)。なので、寝室はもちろん、飲食店などでも重宝しますよ。」

カー用品の製造販売から、異分野の照明づくりへ

—ビートソニックさんと言えば、社名のとおり、もともとは体感オーディオ機器の専門メーカーとして知られ、現在もカー用品の製造販売を主軸としています。LED照明を作ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

弊社はカー用品、とりわけカーオーディオ用品を扱っているメーカーです。車内のスピーカーやCDデッキ、その周辺機器づくりを20年ぐらいやってきて、事業はある程度順調なんですが、カーオーディオ全体のマーケットで見ると、徐々に右肩下がりになってきているんですね。最近、街中でズンズン音を鳴らしているクルマってあまり見ないじゃないですか(笑)。'90年代ぐらいまでは、最初のお給料でとりあえずクルマのローンを組むみたいな時代だったのが、最近はクルマは持たなくていいとか、小さなクルマでいいという考えになってきました。それとともにクルマにお金をかける、特にオーディオにお金をかける人がすごく減ってきているんです。

ーなるほど。

そこで、今から5年ほど前から、今までのモノづくりのノウハウを生かせる他の産業への参入というのを考え始めていました。その頃から徐々にLED照明が注目されていましたが、震災が発生し、一気に市場が広がってきたんです。

他の産業への新規参入を考えたときに、すでに市場ができあがっているところに参入していっても、事業として成功するのは難しいですよね。これから急激な成長が見込める新たな市場に参入するというのが第一条件だったわけです。さらに、これはモノづくりをしてきたメーカーならではの着眼点だと思うのですが、LED照明というものが、大きな工場じゃなくても作れて、自由度が高く、いろんな形にできることがわかりました。

そこで、大手のメーカーでは作らないような、光にこだわる人、照明にこだわる人向けの電球があれば、市場としてはそんなに大きくないから大手メーカーと住み分けができる。なおかつ電気機器なので、うちの今までのモノづくりのノウハウも生かせるだろうというのがあって、じゃあLED電球を作ろうという方針が決まりました。(戸谷さん)

これまでのLED照明の常識を覆した "影美人" 。長寿命、省電力を追求する大手メーカーが作らなかった「ガラス製の電球」を、小さなメーカーならではの発想で実現しました。

—そこで最初に作ったのが、 "影美人" というクリアガラス製の電球ですね。LED電球はプラスチックで覆われたものしか作れないと思い込んでいたので、ガラス製のLED電球というのはとても驚きました。

最近はクリアタイプのLED電球がいくつかのメーカーから出てきましたが、4年ほど前はほとんどなくて、プラスチックの不透明のカバーに覆われているものばかりだったんです。でもそれだと、直接ぶらさげるにはいいかもしれないですけど、シェードに入れたときにはっきりと影が出ない、という、マニアックなニーズが、一部の設計事務所やライティングにこだわる人の間にありまして(笑)。

それを解決するためのLED電球ができないかなというところから、全面ガラスで、一点から360度光が広がるような仕組みを考えて商品化しました。それが、そのこだわり派の方々から非常に評判がよかったんです。「ああ、こういう尖ったものを作っても、照明にこだわっている人は結構わかってくれるんだ」というのがそこでわかりました。(戸谷さん)

美しい影がくっきりと映り込むことを目的に作られた "影美人" 。1個の大きな発光体をレンズによって拡散させるというアイディアで、白熱電球よりもさらにシャープな影を出すことに成功。2013年の「グッドデザイン賞」を受賞しました。

— "影美人" という名が表すように、「影がくっきりと出る」というのがこの商品の特徴なのですね。LEDの新しい市場のニーズとして、そのときにスタンダードだった不透明のプラスチック製のLED照明に満足していない人の割合は、戸谷さん自身はどのぐらいいると感じていたんですか?

従来のLED照明に対して満足していない一般の人の割合は、感覚値でしかなかったんですけど、ある程度いるんだろうなという気はしていました。

そして、大手のメーカーは、長寿命とか明るさとかばかりを追求していたので、逆に、そういうニーズがあるという感覚は持っていないのではないか、長寿命や明るさ、省電力という魅力を前面に出しているがために、あのプラスチックの半透明の形に成らざるを得ない、だから、大手メーカーはこういったクリア型の電球は作らないのではないだろうかと。それで、このニッチな市場は少しずつ広げていけるんじゃないかなと思っていました。(戸谷さん)

渋谷のおしゃれなカフェで見かけたヴィンテージ電球をLEDで作りたくなった

— "影美人" と、影美人の姉妹版とも言える "雪ガラス"(ガラスにサンドブラスト処理を施し光沢を抑えたもの)の次に開発したのが、"Siphon(サイフォン)" というとてもクラシカルなデザインの電球ですね。これが本当にLEDだとは信じられないほど、昔ながらのエジソン球そのままのかっこよさで、初めて見たときは衝撃を受けました。このSiphonはどのようにして生まれたのでしょうか?

オレンジ色に灯るフィラメントと、真鍮製のクラシカルなソケット。"Siphon" はLEDのイメージを180度覆す、スーパーかっこいい電球です!

"Siphon" はボールの大きさや形が異なる5種の展開。このあたたかなフィラメントの色味がたまりません!

次のLED電球づくりをどうしようかなとずっと考えていたときに、渋谷などにあるおしゃれなカフェは、最近流行りのインダストリアル系のデザインと相性がよいためか、裸電球を使っているお店が多いことに気づいたんです。裸電球は要するに白熱電球なので、消費電力も多いし、割れるし、触ると熱いし、たぶん半年ぐらいで換えないといけないし、と、いろんなデメリットがあるはずなのだけれど、それでもやっぱりデザイン的にすぐれているから使っているんだろうと。それで、これをLEDにできないかなという発想はふつうに浮かんできました。

ですが、それまでそういった電球は世の中になかったので、できるかもしれないけど、いろいろと難しいかもしれないなあ、とも思っていました。うちはLED電球自身を開発するノウハウはそこまで高くないので、「影美人」も外部のLED電球のメーカーと一緒に開発をしてきたんですね。で、照明の展示会に行った際に、いくつか知っているLEDのメーカーの人たちに聞いてみたんですよ、「線みたいなLEDを作ってうまく配置することで、ヴィンテージ白熱電球を作りたいんだけど、こういうのってできないの?」と。そしたら「難しいけどできるかもしれない」と。で、調べてもらううちに、なんとかできそうだということになりました。(戸谷さん)

今人気のヴィンテージ風インテリアと相性抜群です。

—ふつうに販売せずに、クラウドファンディングを使ったのはなぜなのでしょう?

「影美人」で照明業界に参入したものの、これまでクルマ業界でやってきたので、右も左もわからなかったわけです。手さぐりしながら展示会に出たりしていたんですが、その時わかったのは、まだ小さなブランド、知られていないブランドを一般の人に知ってもらう、業界内でも知名度を上げるというのは、ものすごくハードルが高いのだということ。「影美人」も、最初はこういうクリア型の電球はほぼ弊社しかやってなかったんですが、ちょっとずつ営業している間に、他の会社が同じようなものを作ってくるようになって、これはちょっと面白くないなというのもありました(笑)。

うちはモノづくりだけやっている会社で、営業マンはいないので、営業力はかなり弱いんです。でもそういった会社でも、短期間で業界内での認知度を上げ、商品を多くの人に知ってもらうことはできないかなと考えたときに、クラウドファンディングがひとつのツールだなと思いました。

アメリカではベンチャーのモノづくりの会社が、クラウドファンディングで何億円という資金を集めて、一気にみんなが知るメーカーになっていく事例がありましたし、日本でもそういうクラウドファンディングのサイトが立ち上がってきた。そこで、これをうまく使えば、ある程度成功させることはできるんじゃないかと考えたわけです。(戸谷さん)

2014年10月にスタートした "Siphon" のクラウドファンディングページ。「ダサいLEDは終わりにしよう」という挑戦的なコピーがインパクト大。

—つい最近まで、クラウドファンディングというと、社会的事業を支援する意味合いがとても強かったですよね。今でも日本ではまだそうだと思うんですが、そこをうまく、宣伝ツールとして利用したということと、日本でこれだけすんなり受け入れられたというのも驚きでした。そして結果はなんと、目標額の961%という驚異的な達成率!

予想以上の反響に、本当に驚きました。最初は飲食店や商用施設などのニーズが一番かなと思っていたんですけど、意外に一般の方からの支援が多かったんです。今までのLED電球のデザインに違和感を持っていた人が大勢いたのだと感じました。

最近の消費者というのは、デザインや所有欲といったものよりも、機能そのものにお金を出す人が多いという傾向があるんですね。クルマにしても、走れればなんでもいい。軽自動車が売れているのもそういう理由が大きいですよね。そんな中で、デザインや所有欲、所有感みたいなものに価値を感じる人がこれだけいたんだなと。だってこれ、寿命で言うと、通常のLED電球の半分ぐらいしかないですし、明るさも半分。そして価格は倍以上するんですよ(笑)。

でもそもそも「Siphon」は、「かっこいいLED電球を作りたい」というコンセプトだったので、機能面、性能面はあまり考えていなかったんです。社内でも反対意見は多かったんですけど、そういう振り切ったところが、結果的によかったかなと。(戸谷さん)

ヴィンテージショップで探し出したようなクラシカルなフォルムのSiphonを手にしながら、開発秘話を語ってくれる戸谷さん。

工芸作家とのネットワークを作り、独創的な照明づくりを支援

— "Siphon" の次に、さらに独創的な照明づくりにも挑戦されているんですね。ガラス工芸作家さんとコラボレーションしたという "美影" は、まるで一点ものの美術品のような美しさで、思わず見惚れてしまいました。

"美影" はひとつひとつがまさに芸術作品。左から、「ブドウ」「溶岩」「氷の塊」「ドラゴンフルーツ」。

LED照明という分野に参入してみたら、LEDというのは部品の組み合わせなので、本来、自由度が高いということがわかったんですね。だから、例えばハート形の電球を作ろうと思えば、結構簡単にできる。じゃあ、ガラスのカバーの部分をガラス工芸作家さんとコラボして作ったらどうだろう、という思いつきから、「美影」は生まれました。全国のガラス工芸作家さんに「自由に作ってほしい」とお願いしたんですが、溶岩がどろっと溶けたようなものやつららを模したもの、ドラゴンフルーツを象ったものなど、工芸作家さんならではのものがたくさん出来上がりました。

でも、ハンドメイドの工芸品であるがゆえに、毎回同じものが作れないというデメリットもあったんですね。特に、オンラインで販売する際に、写真とは少し形が違ったり、気泡が入っていたりすると、買う側にとっては、イメージの異なったものが届くことになるかもしれない。そのため、現在「美影」はオンラインでの販売はしていないのですが、そこから、もっと工芸作家さんの活躍の場を増やしたいという思いがわき上がって、「あかりなかま」という、照明クリエイターの支援の場づくりを始めました。(戸谷さん)

照明クリエイターを支援する「あかりなかま」のサイト。

—カー用品の製造販売から、工芸作家さんの作品づくりの支援へ。LED照明づくりに参入してから、クリエイティブな広がりやつながりが生まれているんですね。

全国にはガラス工芸作家さんだけでなく、木工の作家さんとか、いろんな工芸作家さんがいますけど、そういう方の活躍の場ってあまりないんです。有名な作家さんなら、グラス1個作って何万円、という世界ですけど、それはごくごく一部で、多くの工芸家さんは、グラス1個作って1500円、みたいな市場しかない。でも、それぞれが持っているポテンシャルを照明に応用したら、数万円の価値があるんじゃないかという発想から「あかりなかま」は生まれました。

今、あちこちの工芸作家さんに直接コンタクトしたり、紹介していただいたりしながら、少しずつ「なかま」を集めています。弊社は完全にサポート側に回って、照明器具を作るノウハウを提供したり、安全基準のクリアの方法を教えたり、LED電球の部材も提供しています。今は、もう少し工芸作家さんに活躍の場を、照明市場という大きなマーケットに挑戦できる土台を作ってあげようかなという、半ばCSR的な意味合いでやっている感じですね。

でも、工芸作家さんを応援することによって、弊社にもいろんな人脈ができてくるんです。将来的には照明を電球だけではなく、それに合う周辺機器も出していきたいですし、今はハンドメイドのものを売るプラットフォームも何社かで出ていて、スマホで買えたりもするので、そういったところとうまく組んで、一点ものを上手に売っていくような仕組みができると、ビジネスとして芽が出てくるかもしれないと考えています。(戸谷さん)

作家さんの手でひとつひとつ作られた "美影" は、明かりを灯すとさらに美しさが際立ちます。独創的な作品の数々は、まさに命が吹き込まれているかのよう。

—くつろぎの場である家には、量産品ではなく、ちょっといいもの、こだわったものを厳選して置きたい、という人は多いですよね。これから先、作り手の思いがこもった、独創的な照明が御社の取り組みから誕生するのがとても楽しみです。

それでは、only oneに関する最新ニュースなどありましたら教えてください。

昨年から引き続き、家電量販店や東急ハンズさんでご好評いただいています。
InstagramやTwitterをチェックすると多くの写真が投稿されているので嬉しいですね。

また、最近では店舗用の照明としてアパレルやカフェで使っていただける比率が高まってきました。
昨年オープンした「渋谷モディ」や今年オープンした「東急プラザ銀座」などの新しい街のランドマークにも多くのSiphonが使われています。
今までにないヴィンテージなデザインだけではなく、設計会社やインテリアデザイナーが安心して使えるようにとサポート体制などを強化してきた結果だと思っています。

これからも部屋やお店の雰囲気を引き出すための照明として一人でも多くの人に使ってもらえるようにいろいろな提案をしていきたいと考えています。(戸谷さん)

実際に目で見て、触れてみたら、"Siphon" のかっこよさがもっともっとわかるはず。「渋谷モディ」や「東急プラザ銀座」に行った際には、どこで使われているのか探してみるのも楽しいかもしれませんね!

【番外編】 戸谷さんが今、ハマっている暮らしのアイテムとは?

ー最後に、皆さんに共通で教えていただいているのですが、戸谷さんが今ハマっている “暮らしのアイテム” を教えてください。

珪藻土バスマットですね。

今、1歳の息子がいるのですが、以前息子を抱きながら風呂場から出るときに足を滑らせて転びそうになったことあるんですよ。
やっぱり繊維のバスマットってどうしても完全には水滴を拭ききれないんですよね。

そんなことがあって、この珪藻土バスマットに変えてみたら一瞬で足の裏がさらさらになるんで、すごい驚きました。それ以来、転びそうになったこともないし、水滴が残ってて足跡がつくようなこともないので、子育て世代の人を中心に超オススメしています。

写真引用:http://www.soil-isurugi.jp/product/detail/bathmat.html

ーsoilのバスマット・・・! 先日、お部屋をのぞき見させてもらった、しおたんもオススメしていました。ファンの多いアイテムですね。( 【第1回】27歳・PRスペシャリストの塩谷舞 @ciotan のお部屋をのぞき見! )

それでは、お話を聞かせていただき、ありがとうございました。今後のご活躍も楽しみにしています!

■取材協力:『Only One』
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