カウカモマガジン5月号のテーマは、「トウキョウアウトドア」。
アウトドアのプロに、暮らしをより楽しくするアイデアを聞いてきました!
星空の下、映画を観ながら飲食を楽しみ寝転がり、そしてその非日常な空間をも楽しめる映画上映イベントがあるのをご存知ですか? そのイベントの名前は「ねぶくろシネマ」。「ねぶくろシネマ」では、河川敷の橋脚などに映し出された映画をふかふかの寝袋などにくるまりながら自由に鑑賞することができるんです!
その「ねぶくろシネマ」を手掛けているのは、合同会社パッチワークス。パッチワークスは調布のコワーキングスペース「co-ba chofu」を拠点にするデザイナーやwebプランナー、まちづくりの分野で活躍するメンバーが「まちをリデザインする」ことを目的に発起した組織です。
そのメンバーである唐品知浩さんに、「ねぶくろシネマ」を開催している目的や屋外で映画鑑賞することの魅力について伺いました。
自分たちが住む調布の街を、もっとちゃんと好きになりたい
ー「ねぶくろシネマ」は調布市で生まれたとのことですが、どういったきっかけで誕生したイベントなのでしょうか?
僕が住んでいる東京都調布市は、古くから市内に映画の撮影所が点在することから「映画のまち」と謳ってきました。しかし、撮影所の中は見学することはできなくて、「映画のまち」と言われても、思い浮かぶものと言えば記念碑くらいしかない。また、市内には映画館が1軒もなく、市民には「映画のまち」という感覚はまったくと言っていいほどないんですよね(笑)。
せっかく縁があってこの街で暮らすことになったんだから、自分の住む街を好きでいたいじゃないですか。子どもたちにも将来、「調布出身でよかった」と誇れるようになってほしい。そんな思いがあって、僕ら親父たちができることから何かを始めようと、パッチワークスを立ち上げました。
そして、2015年10月に僕らパッチワークスが調布市民と市役所職員がブレストできる「調布を面白がるバー」という会議を開催しました。そのブレストの場で「もっと映画を気軽に観られる環境があったら、映画のまちに相応しいよね」という意見が出たんです。昔観た映画で、いつか子どもと一緒に観たいと思った名作は誰にでもある。そういった作品を子どもたちと楽しめる場をつくりたいと思ったのが最初のきっかけですね。
子どもと一緒に大画面で映画を観られる場所がなかった
ー市民の声が基になって生まれたイベントだということですね。
そうですね。調布は僕らみたいな30〜40代のファミリー世帯が多い。でも、小さい子どもがいると映画館ってなかなか行きにくいですよね? そんな映画から遠ざかっているファミリー層が気兼ねなく映画を観られる環境を用意したいと思ったんです。
幸いにも調布は近くに多摩川や野川、田んぼなどがあり、とても自然豊かな環境です。調布飛行場や宇宙開発施設などもあり、野外施設には困りません。そういったスペックを生かして、なるべくコストと手間を掛けずにオリジナリティの高い映画の鑑賞会を実現したいと考え、「ねぶくろシネマ」が生まれました。
ー第一回目は真冬に行われたそうですね?
はい。第一回は12月19日土曜日の18時から、多摩川の河川敷で行いました。時期が時期だけに、もうハンパじゃないくらい寒かったです(笑)。あまりの寒さに子どもたちも早く家に帰りたがるっていう(笑)。もう少し暖かくなってから開催してもよかったんですが、「まずは一回やってみよう」という思いで実験的にやってみました。
それでも当日は約100名の方が参加、2店の飲食店が出店してくださって。ありがたいですよね。
この日は大泉洋さん主演の『しあわせのパン』という映画を上映しました。それに合わせて調布市内のパン屋「コンチェルト」さんに依頼をして、作中に出てくる「しあわせのパン(カンパーニュ)」を特別に焼いてもらって販売しました。これは、映画の内容に合わせた飲食や物販などを用意することで、映画の世界観全体を再現したいからなんです。
上映する映画は親子で楽しめる内容のものをセレクト。また、開催する時期や場の雰囲気に適した内容かどうかも重要視しています。
ーそれはとても素敵な試みですね! ちなみに、「ねぶくろシネマ」という名前はどういう経緯で生まれたのですか?
「アウトドアでくつろぎながら自由に映画が楽しめる」というニュアンスが伝わる、いいネーミングが何かないかと考えていました。第一回目の開催が真冬だったので、当日は寒さも前向きに捉えられるツールが必須だった。それで「じゃあ、『ねぶくろ』がいいんじゃない?」っていう感じで生まれたように記憶しています。
実際に上映当日、寝袋にくるまって映画を楽しんでくれる方もいましたし、アウトドア用チェアに座って観覧している方も多かったです。何張りかテントも見受けられました。確かにとてつもなく寒かったけど、皆さん、アウトドアで映画を観る雰囲気と状況を楽しんでくださったんじゃないかと思います。
野外なら大人も子どもも、自由に映画を楽しめる
ーアウトドアで映画を楽しめることの魅力とは何でしょうか?
例えば多摩川に掛かる橋脚をスクリーンに見立てるとなると、10分に一度のペースで上部には電車が通る。さすがにその時は音が聞こえにくくなるんですが、大事なセリフを聞き漏らさないように、かえって大人も子どももストーリーに集中するんですよね。同じタイミングで笑ったり、驚いたりしていると観客に不思議な一体感が生まれてくる。「あぁ、今、みんなで一緒に映画を楽しんでいるなぁ」という感覚になります。
今の映画館ってほかの人の邪魔にならないことを気にして、静かにしていなくちゃ・・・という雰囲気がありますよね? 結婚する前はよく映画デートをしていたのに、子どもが生まれてからは映画館から足が遠退いてしまったなんていうご夫婦も多いように思います。でも、アウトドアだと当然ながらまわりでいろんな音がするので、赤ちゃんが泣いても、子どもが騒いでいてもまったく気にならない。隣同士で話をしたって何の問題もない。誰にも気兼ねする必要なんかないんです。
このほかにも、映画の途中で夜空に瞬いている星を見上げたり、映画を横目にドリンクを買いに好きなタイミングで立ち上がれたりできるのも、野外ならではの楽しみ方なのかなと思いますね。
日本全国で野外映画館が開催できるようになったら
ーこれからどんなことを実現されようとしているのか、お聞かせください。
アウトドアに限らず、遊休不動産を活用して映画館にしていきたいと考えています。高速道路の高架下だったり、トンネルだったり。廃業してしまったホテルや廃校、空きビルでも、白っぽい平面の大きな壁さえあれば映画館になりますから。忘れ去られたような場所でも工夫をすれば人が集まってきます。人が集えば街が活気付くきっかけになりますよね。
野外映画館を開催するとなると、場所の許可や交渉、機材の準備などに手間が掛かるのも事実です。場所さえあればどこでも開催していいというわけではない。でも、僕らには野外で映画イベントを開くことのできるノウハウも経験もあります。思い出に残るような映画体験をぜひたくさんの方に味わってほしいので、お呼びが掛かれば日本全国、どこへだって行きたいです(笑)。
ただ、ハードルとなるのが、機材のレンタル代。プロジェクター、スクリーン、音響設備、発電機、映画の著作権料などを合わせると、1度の開催で最低でも30万円は経費として必要になります。
そこで今、僕らはクラウドファンディングで協力者を募っています。資金が集まれば僕らで機材を購入し、その機材とノウハウを貸し出しできるようにしたいなぁって。そうすれば、日本全国で「ねぶくろシネマ」を開催することができるようになりますからね!
ー調布だけでなく、全国で野外映画が楽しめるようなったらいいですね! 今後の予定を教えてください。
直近では10月8日土曜日に調布市多摩川河川敷での開催を予定しています。
先日4月16日土曜日には、「湘南T-SITE」さんで『スタンド・バイ・ミー』を上映しました。調布以外の場所での初めての開催だったのですが、非常にご好評をいただきました。このように、別の場所で開催する可能性もあるので、興味を持ってくださる方はぜひホームページをチェックしてみてください。
ー誰かに気兼ねすることなく、大事な人と自由に映画を楽しめる機会がもっと増えたらいいですよね。「ねぶくろシネマ」があらゆる地でもっとたくさん開催されるようになることを心待ちにしたいと思います!
【番外編】 唐品さんが、今ハマっている暮らしのアイテムとは?
ー最後に、皆さんに共通でお聞きしているのですが、唐品さんの今ハマっている “暮らしのアイテム” を教えてください。
うーん、、、屋台ですかね(笑)。僕が部長を務めているYADOKARI小屋部というのがあるのですが、そこで企画している屋台キットをおすすめしたいです。
フリーマーケットやイベントに出店する時にこういった屋台を使うとすごく様になるし、注目度も上がります。簡単に組み立てられるような仕組みなので、あとは自由にカスタマイズして自分流にアレンジしてもらえたらうれしいですね。
ー屋台・・・! 手掛けられているものがとても幅広いですね! 今後も面白いお話、楽しみにしています。
■取材協力:合同会社パッチワークス
WEBサイト:http://patchworks.co.jp/
ねぶくろシネマ公式サイト:http://nebukurocinema.com/
取材・文:福田彩/撮影:cowcamo/写真提供:合同会社パッチワークス