荷物の梱包などで馴染み深いダンボール。このダンボールが私たちの住まいの中で活躍する、意外な可能性を探ってきました。今回お話を伺ったのは、ダンボール製品を暮らしのあらゆるシーンに提案している、山田ダンボール株式会社。私たちの知っているダンボールだとは思えないほどおしゃれなデザインなどで「ダンボールを暮らしの楽しみに変える」取り組みは要注目です。
今日、私たちの生活に深く根付いているダンボール。
宅配物や引越しの荷物の梱包、スーパーで購入した食材の運搬など、多くの機会で "ものを包むための素材" として、手にしているのではないでしょうか。さらに、ダンボールを、子どもが喜ぶ秘密基地やおもちゃにリメイクして楽しんだことがある、なんて方も少なくないかもしれませんね。
そんなダンボールが、近年、"住まいにマッチする住宅建材" として注目されているらしいのです。一体どんな風に住宅へ取り入れられているのでしょう?!
今回、ダンボール製品を暮らしのあらゆるシーンに提案している、山田ダンボール株式会社の千葉工場(千葉県八千代市)に伺い、その実態を探ってきました。
暮らしにより身近に。ダンボール業界を牽引!
山田ダンボール株式会社(以下、山田ダンボール)は、創業1918年(大正7年)の伝統あるダンボールメーカーです。そのルーツについて、山原良彦さんが語ってくださいました。
あと3年で100周年を迎える山田ダンボールのダンボール事業は、岐阜県多治見の陶器を巻く梱包材として始まりました。"ものを包む" 工業製品としてスタートしてから、社員ひとりひとりが、ダンボールという素材が暮らしにどのように活きるか考え抜き、もっと身近なダンボールの市場を作っていこうという流れで、これまでさまざまな製品ラインナップを増やしてきました。(山原さん)
かつて運搬のために "木箱" が用いられていた日本に、ダンボールの製造における技術や機械がアメリカより導入され、その高い技術を日本に定着させたのが、山田ダンボールでした。
その後、運搬用として使用されていたダンボールが、暮らしに少しずつ取り入れられていく背景のひとつには、日本で頻発する "地震" があったのだそう。
重ねて運搬のしやすい軽いダンボールは、組み立ても容易で、災害発生時に体育館などへ避難した際、簡易間仕切りとしてプライベート空間を確保するのに適していました。
その経験をもとに、製品ラインナップのひとつとして「ダンボルーム(※)」を作るきっかけとなりました。(山原さん)
※ダンボール製の簡易間仕切り。
みなさん気付いていないだけで、身近にはダンボール製品が使われており、どこかで触れているかもしれません。素朴で温かく、落ち着きのある色味もあいまってインテリアにもとても合うんですよ。(山上さん)
いまでは運搬に留まらず、ショップやファッションショーなどのシーンでダンボールの什器が活用されたり、住居における内装や建具、家具など多岐に渡り製品が開発され、消費者の手に届いていると言います。
工業製品から、商業シーンへ。
山田ダンボールの製品を語るにあたり、忘れてはいけない "ある技術" 。
それが、「トリプルウォール(3層ダンボール)」です。
トリプルウォールとは、軽量で、印刷や使用後の処理がしやすいように開発された、一般ダンボールよりも強度の高いダンボールのこと。3層分の厚みがあり、特殊な釘を使って木材に釘打ちすることも出来るのだとか。
昨年YKKファスニングが主催した、新たな発想でものづくりに取り組む企業の展示会で、アイデア商品が多数発表されるなか、山田ダンボールは壁面を使ったDIYアイデアを提案しました。
それは、壁に特殊な面ファスナー(マジックテープ)を使い、ダンボールの収納棚が取り外し出来るウォールデコレーション。組み立ても簡単で、すべての工程にクギや工具を使わない、見たこともない、新しいウォールデコなのです。
軽量・クッション性の高さなどからケガの恐れも少ないダンボールの特性が活きており、子どもと一緒に部屋づくりが楽しめそうですね。まもなく製品化され、一般家庭に届く日も間近とのこと!
住まいに活きる、ダンボールによる新しい空間デザイン
山田ダンボールは、現代のライフスタイルに合わせた建具の提案を積極的に行っています。
たとえば、"和" の演出として欠かせないふすま。
・・・えっ! ダンボールでふすま?!
ダンボールなので、クッション性はありつつも硬さは通常のフスマと変わらないかもしれません。しかし、温かい風合いでお部屋に優しいトーンをつくってくれますよ。(山上さん)
このダンフスマには、表面には見えない工夫もほどこされています。
ダンボールの特性を活かして、従来のふすまよりも軽く、すべりがスムースに出来ています。内部に取り付けた車輪によって、子どもやお年寄りでも力を入れずして開閉が出来るんです。驚くほどスーッと動くんですよ。(山田さん)
実は50年も前から、再生されることを前提としてダンボールをフスマに利用してきたそうです。ところが最近、家のスタイルもモダンになったことで、フスマにもバリエーションが求められるようになったと山田さんはおっしゃいます。近年、住宅メーカーもダンフスマに注目し、採用をしているそうですよ。
見た目のよさだけでなく、リサイクルしやすい点や、コストを抑えられることも含めて、近年建具として注目されているダンボール。暮らしに寄り添うポイントはこんなところにも。
デザインとしてダンボールを使うことももちろんですが、環境に配慮した素材として、もっと普及していくことを願っています。
たとえば、一般的に住宅などの空調や、排気・排煙などの用途で使用されるダクトは、亜鉛鋼板(鉄販)などで製造されていますが、山田ダンボールは竹中工務店と共同で、ダンボールダクトを開発しています。ダクトを廃棄するときと、ダンボールを廃棄するときでは、断然ダンボールのほうがパワー削減され、約80%も廃棄の熱量を抑えることが出来るんです。(山田さん)
現代の暮らしに沿った、フレキシブルなダンボール活用
ダンボールを住まいへ利用することへのメリットは、こんなところにもあるようです。
木材は、一定の圧力が加わると割れるものですが、ダンボールは、衝撃を吸収する緩衝性を持っているのがいいところです。そのため、万一地震で倒れても、衝撃がある程度しのげるでしょう。(山原さん)
山原さんは震災を体験して、壁や戸が落ちてきたら危ないということに、改めて気付いたと言います。そんなとき "ダンボールならば致命傷にならない" という、新たな素材のよさを認識し、もっと積極的に暮らしへ取り入れたいという、原動力が湧いたそう。
運搬のしやすさやエコな面のみならず、素材の安全性など、多くの点で人や環境に優しいものなんですね。
ダンボールを "暮らしの楽しみ" に変える
そのほかにも、山上さんが企画開発した「コンポスト」もいま注目されています。
コンポストとは、調理クズとなる廃棄食材を微生物のはたらきで分解させる生ゴミ処理器のこと。一般的なコンポストと言えば、プラスチック製のものを想像しますが、これはもちろんダンボール製。インテリアにもなじむようにと、デザインにもこだわった商品です。
素朴でナチュラルなダンボールに、北欧テイストの花柄と可愛らしい文字をほどこして、屋内に置いても生活感なくおしゃれに見えるようにしました。
野菜くずやりんごの皮、卵の殻などが微生物によって分解されるため、箱を開ける度に中身に変化が見られ、毎日が楽しくなると評判です。実際に手を掛けて、それが暮らしの習慣になってくると、コンポストに "愛おしさ" さえ感じるという人も多いんですよ。(山上さん)
山上さんの言葉の通り、普段意識しない素材に目を向けてみると、もっと暮らしが楽しめる発見があるかもしれません。いままで、何気なく手にしていたダンボールという素材。こんなに住まいと密接な関係を持ち得る、環境にも優しい面があったんですね。
山田ダンボールさんの開発はこれからまだまだ続きます。
私たちの暮らしを包んでくれる "ダンボール" の進化に、今後も目が離せません!
【取材協力】山田ダンボール株式会社
東京都中央区日本橋本町1-9-4Daiwa日本橋本町ビル10F
TEL/03-3241-7176
取材・文:本田里奈子/写真提供:山田ダンボール/撮影:cowcamo