気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第61弾は「品川」です。


品川といえば東京でも有数の交通の要衝でありビジネス街。新幹線を始めとして多くの電車の路線があり、駅前には高層ビルが立ち並んでいるのはおなじみの光景だと思います。一方で、東海道五十三次の第一宿「品川宿」としての長い歴史を持つ街でもあるというのも広く知られているのではないでしょうか。

今回は品川宿があった「北品川」で街歩き専門の古書店「街道文庫」を営む田中義巳さんと、「KAIDO books&cafe」の佐藤亮太さんに品川についてお話をうかがいました。品川駅から歩いて歴史をさかのぼりながら、向かいましょう。

■現在と未来の品川を象徴する港南エリア

品川駅の東側・港南口を出ると目の前に大きな広場があり周囲を高層ビルが取り囲んでいます。そこにはソニーの本社など様々な企業のオフィスや、タワーマンション、ホテルがありますが、その向こう側には東京卸売市場食肉市場、運河を渡ると東京海洋大学もあります。

見上げると、日本マイクロソフト、三菱重工、キヤノンマーケティング・・・と錚々たる企業のオフィスビルが並ぶ。

見るからにビジネス街なのですが、このエリアは全体が埋立地で、土地自体ができたのが明治以降、街が形成されたのは食肉市場ができた昭和13年以降だといいます。当時から戦後にかけて住宅や工場が建つようになり、30年くらい前までは小さな雑居ビルが立ち並ぶような街で、駅舎も小さくホームには長い地下通路を通らなければいけなかったそうです。

それが現在のような姿に変わったのは1990年代以降。線路だった場所が「品川インターシティ」に姿を変え、駅舎も新しくなり、2003年には東海道新幹線の駅ができました。そして、2027年にはリニア中央新幹線の始発駅にもなる予定です。まさに、港南口は現在と未来の品川を象徴するエリアですね。

■プリンスホテルと高級住宅街とソニー、高輪・御殿山

今度は駅の西側・高輪口に行ってみましょう。

唐突ですが、品川駅の住所は実は “港区” 高輪3丁目、品川区ではなく港区にあります。現在の品川駅はもともと高輪と一体のエリアだったのです。

その高輪口で目につく物といえばやはりプリンスホテル。実は4つもプリンスホテルがあり、一番古いのがグランドプリンスホテル高輪で、1953年開業。その後、1978年に品川プリンスホテル、82年にグランドプリンスホテル新高輪、98年にザ・プリンスさくらタワー東京が開業しています。

こちらは、駅から坂を登る途中に右手に見えてくる、グランドプリンスホテル新高輪の様子。

最初のふたつのホテルはそれぞれ竹田宮邸、毛利公爵邸の跡地に建てられていて、これが高輪エリアの特徴を端的に表しています。というのも、高輪エリアは江戸時代には武家屋敷が立ち並んでいました。明治以降、その土地が払い下げられて高級住宅街になってゆき、一部が大使館やホテルになったのです。現在でも駅前の坂を上がりプリンスホテルを抜けると高級住宅街が広がっています。

そこから左に曲がり、坂を下っていくと少し新し住宅街が広がっています。ここはソニー本社の跡地周辺で、2007年に港南地区に移転した後に開発されました。移転前は「ソニー村」と言われたこのあたりは、城南五山のひとつ「御殿山」と呼ばれるエリア。その名の通り、江戸時代は実際に山で、初期には将軍の鷹狩の休憩所として利用され、18世紀以降は桜の名所として庶民の行楽地となったそうです。

この坂を下りきった先に、ソニー旧本社跡地がある。この3月末にオフィスビル着工予定。

ちなみに、この御殿山のあたりの住所は、 “品川区” 北品川。今では港区とか品川区とか区境をあまり意識しないで行き来していますが、高輪の武家屋敷だったところは港区で、御殿山の山だったところは品川区、と境があるのは、実は江戸時代からのことだったのです。

■江戸時代、宿場町として栄え、遊郭のあった品川宿

続いて、御殿山エリアから東側(品川駅から見ると南側)へ。第一京浜、そして品川駅発着JR線の線路を越えた先に見えるのが、今回お話を伺った「街道文庫」や「KAIDO books&cafe」のある、北品川エリアです。

品川駅発着JR線や東海道新幹線と、第一京浜がクロスする「新八ツ山橋」から大崎方面を見た様子。

少し歩くと、京急線北品川駅が見えてくる。

「街道文庫」の田中さんは、江戸と品川の関係をこう説明します。

「江戸市中」というのがもともと高輪の大木戸までだったのが八ツ山まで広げられたんですが、明治に入ってからも境界はそのままで、東京15区が設置されたときも八ツ山より向こうは芝区、こちら(北品川)は荏原郡となりました。

お話を伺った、街歩き専門の古書店「街道文庫」を営む田中義巳さん。

街道歩きが趣味で、定年退職を機に、全国の街道を歩きながら集めた街道や宿場、歴史、建築などを集めた古書店を開業した。

一時期「品川懸(県)」が置かれたこともあるという品川は、もともと江戸/東京とは別の地域と考えられていたのです。それを変えたのが品川駅の誕生でした。

明治5年に品川駅ができたんですが、このあたりで一番栄えていたのが品川宿だったので、品川宿に近い駅ということで、(高輪にあるにも関わらず)品川駅と名付けられたのだと思います。

品川宿は当時、現在の北品川駅から青物横丁駅のあたりまでに渡ってありました。品川駅の方が北側にあるのに、南側にある北品川駅が “北” 品川なのは、そういった背景があるそうです。

田中さんにお話を聞かせていただいた場所は、街道文庫から歩いて約2分の「KAIDO books & coffee」。田中さんが選んだ書籍を見たり買うこともできるカフェです。

旧東海道沿いにある「KAIDO books & coffee」。日本初の「旅」と「街道」専門ブックカフェ。

お店のある旧東海道は、古くからの商店もいくつか残り、宿場町の雰囲気を残しています。また真っ直ぐではなく少し曲がりくねっているのも宿場町ならではなのだとか。

道幅は今でも江戸時代と同じまま。

では、以前の品川宿はどのような街だったのでしょうか。

ほぼ全体が遊郭で、飯盛旅籠(めしもりはたご)というんですが、少ないときで80軒、多いときで140軒くらいの旅籠がありました。明治以降はそれが貸座敷やホテルになったりしましたが栄えてはいたんです。でも昭和33年に赤線が廃止されて、突然まったく健全な街に変わりました。いまは当時の面影はほとんど残っていないんです。

北品川商店街のシャッターには、そんな昔の記憶を残そうと、江戸から明治への文明開化の時期をかたどった浮世絵がいくつか描かれている。

■通り過ぎていく街、品川

赤線廃止以降の品川宿からは、旅籠はなくなり商店や住宅、町工場が並ぶ街になりました。元宿場町の商店街は栄えていましたが、いまは廃れつつあるといいます。

宿場歩きというかたちで品川を歩く人は毎年数万人規模でいるんです。でもそういう人は歩くことが目的なのであまり街で買い物したりはしないんですよね。品川って通り過ぎていく街なんですよ。そもそも参勤交代の人も品川に泊まる必要はほとんどないから、人を集めるために江戸時代に遊郭が作られたんです。

お店の横にある「丸屋履物店」さんは、明治の前、慶応元年(1865年)から今も続いているとか。

たしかに品川は、どこかに行く時に通過する場所。交通の要衝ではあるけれど、あまりそこにとどまることはない、そんな場所な気がします。でもそれが品川のキャラクターであり、通り過ぎる人たちが少し寄ることで賑わいが生まれる街であることが品川の魅力なんだと田中さんの話を聞いて思いました。

また、生まれも育ちも北品川だという「KAIDO books&cafe」の佐藤さんがお店を開いた理由も、そんな品川宿の歴史をとどめたかったからだといいます。

「KAIDO books&cafe」の佐藤亮太さん。(株)しながわ街づくり計画の代表を務める。

どんどんお店はなくなっていくし、ワンルームマンションばっかりできるし、人口が増えているとは言っても2年くらいで入れ替わってしまう。20年くらい前には毎月どこかで縁日をやっていたりしたんですが、商店主の方たちが歳をとってどんどんそういうのもなくなってしまっている。

そんな中で、長年受け継いできた品川宿の歴史やつながりを大事にしたいと思ったんです。それで、全国から人が集まる旅の拠点だった品川宿の特徴がわかりやすく色濃く出る場所として、全国のマニアックな情報が集まる場所を作りたいなと。そうしたらたまたま田中さんがいて、田中さん一緒にやりましょうよって街道の本を集めたブックカフェになったんです。

お店に来るお客さんは7割が地元で平日はお年寄りが中心で、週末は30代40代が多いのだとか。旧東海道の近くはワンルームマンションが多いということですが、少し離れた湾岸側などにはタワーマンションも建ち、ファミリーも多く暮らしています。そして、さらに多くのマンション計画があり「今後数年で3万人くらい人口が増えると言われている」(佐藤さん)のだそう。

北品川にこんな景色も。屋形船屋が並ぶ、天王洲運河。

そんな大きな変化の最中にある品川はこれからどう変わっていくのでしょうか。

■昔からの風情と利便性。歩けば魅力が見えてくる街

商店街が寂れていく中で今の品川の街を支えているのはどのような人たちなのか、佐藤さんはこう言います。

20年とか15年くらい前に引っ越してきた人たちが、10年くらい前から地域に入り込みたいと祭りなどに参加するようになって。今はその人達が中心的な役割を果たすようになっているところもあります。まだまだですが、若い人たちが少しずつ入ってきています。このあたりの人たちは来るもの拒まずなので、関わりたいと言ってくれる人がいれば誰でも受け入れてくれると思います。

時代を感じる建物と新しい建物とが共に並ぶ、北品川の街並み。

そして、田中さんは子育てをきっかけに交流が生まれるのではと言います。

商店街で、若いお母さんが中心になって集まれるスペースを作ってるところもあるし、「おばちゃんち」という子どもを預かる施設もあるので、そういうところで昔からいる人と最近来た人が交流できるようになるといいですね。

品川エリアは利便性は間違いなく高く、その中に昔の風情も残っているので、若い人でも住みたい人は多くいると思います。実際「住みたい街ランキング」でもいつも上位に入ります。

今回訪ねてみて、旧品川宿のエリアは、メジャーな街に囲まれたエアポケットのような場所だと感じました。本当に多くの人が訪れながらそのほとんどが通り過ぎていく場所ですが、その足元にある街にはまだまだ魅力がたくさんありそうです。街道文庫の田中さんも品川の好きなところは「掘り起こそうと思えばいろいろなことが掘り起こせるところ」と言っていて、実際に歩いてみても本当に歩けば歩くだけ発見がある街だと感じました。

品川駅から、港南口方面、高輪口方面、そして北品川へとぐるりと歩いてみると、品川は場所によって雰囲気の大きく異なる街、そして長い歴史の上に成り立つ街だということがよくわかります。歩きながら、街並みの違いを、そして時の流れをじっくり味わってみてはいかがですか。

街道文庫
住所:東京都品川区北品川2-6-12 ハイツ品川101
TEL:03-6433-0349
営業時間:10:00〜19:00
定休日:不定休
ウェブサイト:http://unpoh.web.fc2.com/syukis/tanaka/fc2-tanaka.html

KAIDO books & coffee
住所:東京都品川区北品川2-3-7
TEL:03-6433-0906
営業時間:10:30〜20:00、土日祝は10:30〜19:00
定休日:毎週火曜日
ウェブサイト:http://kaido.tokyo/