気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第16弾はウルトラマン商店街でおなじみの「祖師ヶ谷大蔵」です。
かつて円谷プロがあったことから名付けられた「ウルトラマン商店街」を擁する街、祖師ヶ谷大蔵。このウルトラマン商店街は、50年以上の長~い歴史を持つ3つの商店街の連合体として2005年に誕生した、全長約3キロメートルの長~い商店街です。街のシンボルであり、住民の生活を支えるウルトラマン商店街を歩き、地元の人々に愛される理由を探りました。
■親子連れが買い物をする、商店街の日常風景
新宿から小田急線で約20分、高級住宅街で知られる成城学園前の1つ手前にある祖師ヶ谷大蔵。商店街は、そこから西・南・北へと広がっています。
商店街を訪れたのは、雨上がりの午後。駅前広場のウルトラマンのシンボル像に挨拶して、駅の北側の祖師谷商店街を歩くと、学校帰りの小学生が家へと急ぎ、親子連れが次々とスーパーマーケットに吸い込まれていく様子が目につきます。夕方は車両通行止めになるので安心して買い物ができます。
有名な木梨サイクルを過ぎたあたりから祖師谷昇進会という商店街に変わり、街灯のデザインがウルトラマンタロウからウルトラマンに変わります。さらに少し進むと右手に団地(祖師谷住宅)が現れ、商店街はさらに北へと続きます。
駅の西側は北側と同じ祖師谷商店街ですが、商店よりも老舗の飲食店などが多い印象です。南側に延びるのは祖師谷みなみ商店街。ウルトラマン商店街が誕生するきっかけとなった円谷プロがあったのはこの南側です。みなみ商店街は世田谷通り近くまで続き、世田谷通りをまたぐようにこちらにも団地(大蔵住宅)があります。こうして商店街を歩いてみると、地元の人から外国人までさまざまな人が集まる、昔の世田谷の香りを今も感じられる場所だ、と感じました。
■古くから「映画」が人々の身近にあった街
団地によって人口が増えたことは確かだと思います。私は昭和31年生まれですが、大蔵団地は子どもの頃に建築してた記憶があります。商店街自体はそれ以前からありました。東宝と新東宝の撮影所があって、映画の関係者が多くいたので、戦後の早い時期から商店街が賑わっていたと聞きます。
こう話すのは、祖師谷みなみ商店街の小島孝理事長。この土地で生まれ育ち、お父様がはじめたお米屋さんを継いで地域のために尽力している方です。団地の新築年は、祖師谷住宅が昭和31年、大蔵住宅が昭和36年~39年。東宝のスタジオは規模を縮小したものの、今もこの街にあります。
私が子どもの頃は、その辺で映画の撮影をしているというのが日常でした。いけないんだけど、悪ガキだったから東宝の撮影所に忍びこんだりもしてました。円谷プロは東宝の衣装部の倉庫を使っていたと思います。
子どもの頃から映画が身近にあるのが当たり前だったという小島さん。その頃からおよそ50年ですが、街の雰囲気はあまり変わっていないと言います。
昔から子どももお年寄りも多くて、今もお年寄りが増えたという感じはあまりしません。それ以上に新しいマンションに引っ越してくる若い家族が多くて、子どもも多い。小学校にお米をおろしてるから分かるんですが、最近だけ見ても子どもは増えているはずです。商店街もそういう地域の人たちに支えられてきました。
■昔ながらの商店街が「ウルトラマン商店街」になった理由
そんな変わらない街で、いい意味で変わらずにいた商店街がなぜウルトラマン商店街になったのか。小島さんはこう説明します。
以前から円谷プロと何かしたいというのはあったんですが、円谷プロはキャラクターのイメージをすごく大事にしているので、商店街だけではうまくつながることができずにいたんです。そんな中、小田急の高架化の計画が持ち上がって、祖師谷昇進会の方から一緒に事業をしないかという話がありました。
それをきっかけに事態は動きます。
共同事業を始めて数年経った頃、世田谷区が新人職員の研修の一環として「せたがや売り込み隊」というのを初めたんです。その中の1つのチームに大蔵出身でウルトラマン好きの職員がいて、「ウルトラマンを題材にして何かしましょう」という話を持ちこんできました。それで、区に間に入ってもらうことで、商店街と円谷プロさんで一緒にやるということで話がまとまったんです。
そして約1年の準備期間を経て2005年にウルトラマン商店街が誕生。その数年後には街路灯のデザインを公募しウルトラマンをイメージしたものとして、さらに商店街独自のウルトラマングッズも開発してじわじわとウルトラマン商店街は浸透して行きます。
■「ウルトラマン効果」でより良い街に
ウルトラマン商店街が誕生した後も、街の雰囲気が大きく変わることはなかったものの、メディアに露出するようになることで、少しずつその効果が出てきたと言います。
キャラクターとして知らない人はいないし、外国人でも好きな人がいるから、街を訪れる人が少しずつ増えてきたのは確かですね。今年は祖師ヶ谷大蔵を舞台にした映画『スプリング・ハズ・カム』も公開されて、ロケ地マップを見ながら散策してる人も見るようになりました。こういう映画の舞台になるっていうのも見えないウルトラマン効果なんだと思うんです。また映画のロケの聖地になればいいですね。
■「正義のヒーローはウルトラマンだけど、最終的に解決するのは人間」
知名度が上がることで人が訪れる場所になり、映画のロケ地にもなるのは嬉しいという小島さん。その一方で「やはり地域密着型の商店街なので、支えてくれるのは地域の人たち」とも言います。
ウルトラマンが重要なのではなく、ひとつのキャラクターをシンボルにしてみんなが同じ考えで集まってやることが大切で、最終的には人の力なんです。ウルトラマンのストーリーにも「正義のヒーローはウルトラマンなんだけど最終的に解決するのは人間だ」という円谷英二の思いが入っています。それは商店街とも共通することなんじゃないでしょうか。
「街の一体感が祖師ヶ谷大蔵のよさ」だと話す、小島さん。街ではウルトラマン商店街の誕生と同時に、商店街と地域住民が一緒に活動する「ウルトラまちづくりの会」も誕生し、「ウルトラサマーフェスタ」や「街バル」などのイベントも開催、街が一体となって地域を盛り上げています。商店街も昔からある店舗と新しい店舗が入り混じっていたり、新しい店舗も実は二代目がリニューアルしたお店だったりと、新陳代謝しながら地元の人に愛される商店街であり続けています。
2020年の東京オリンピックでは、大蔵にある世田谷区立総合運動場がアメリカチームのキャンプ地に決まり、さらに外国人をはじめとする来訪者が訪れると予想される祖師ヶ谷大蔵。住みやすさはそのままに、もっと人の集まる街になりそうです。
<祖師谷南商店街振興組合>
事務所:世田谷区砧6-37-5
TEL:03-3416-6037
■この街で暮らしたいと思ったら
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取材・文:石村研二/撮影:石村研二・cowcamo編集部/編集:THE EAST TIMES・cowcamo編集部