中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューをさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。

今回は、東京都目黒区に中古マンションを購入し、ご夫婦でリノベーション設計をされた守さんご家族(ご主人・真史さん:インテリアスタイリスト / 36歳、奥さま・智子さん:建設会社設計部勤務 / 35歳、娘さん・央夏ちゃん:2歳)のご自宅にお邪魔しました。


守さんご家族が暮らすのは、東急東横線都立大学駅から徒歩10分ほどの住宅地に建つ築48年の中古マンションです。玄関ドアを開けると開放的なひとつづきの室内越しに、広々とした60㎡のルーフバルコニーが目に飛び込んできます。

前オーナーが新築時から所有し、2部屋分をつなげた広大なルーフバルコニー。

■ルーフバルコニー付き物件との奇跡的な出会い

ここに暮らして3年半になるという守さんご夫妻。ふたりは京都にある大学の建築学科の先輩・後輩として出会い、卒業後、真史さんはイタリアの高級家具などを扱うカッシーナ・イクスシーに、奥さまの智子さんは建設会社にそれぞれ就職。夫婦ともに住空間の設計に関わるプロとして、早い段階から自分たちのライフスタイルに合わせた住まいとして、中古マンションを購入してフルリノベーションをする計画を立てていました。

真史さん:立地や予算を考慮すると、新築物件ではやりたいことの可能性が限られてくると思い、最初からフルリノベーションができる中古マンションに照準を絞り、僕が独身時代から住んでいてふたりとも土地勘もある目黒区内で物件を探しました。

智子さん:特にこだわったのは日当たりと風通しの良さだったので、ルーフバルコニーのある物件を探そうと不動産屋さんに相談したら1軒目の内見でここを紹介されて。初回で希望通りの物件に出会えるなんてラッキーでした(笑)

広々としたルーフバルコニーのある窓側から、暖かな日が差すダイニングキッチン。

物件は48年前の竣工当初に前オーナーが隣り合う2部屋を購入して、内部の仕切り壁を取り払って2部屋をつなげたもので、ルーフバルコニーも最初から間仕切りがない状態で使用していたといいます。売却時に再販業者が入っておらず、手付かずの状態で室内の状況が保たれていたことなどが、結果的に守さん夫妻が求めていた好条件につながりました。

■子どもを見守る、視界良好な間取り 

設計のプロである守夫妻はお互いの得意分野を考慮して、智子さんが間取りのプランニングを、真史さんが内装デザインをするという役割分担によってリノベーション計画をスタート。リノベ前は間仕切り壁が多く室内が暗かったため、壁を取り払い、バルコニー側にキッチン、ダイニング、リビングをひとつながりに配置して、家族が集まるスペースに明るい自然光がふりそそぐ空間を生み出しました。

▲間取り図がこちら。自然光が降り注ぐバルコニー側は一面リビングダイニングキッチンに。

真史さん: リノベーションって全部自分たちの思い通りにできないってことが面白さのひとつだと思うんです。限られた条件の中で自分たちの生活にフィットさせることがデザインの醍醐味でもある。

だから僕らは古さ=時間の蓄積ととらえて、あえて天井を剥き出しにしているのもここに流れてきた時間を感じながら生活をしたいって考えたからなんです。

天井は剥き出しのままで。先ほどのダイニングキッチンの反対側には、ビビットカラーがとっても印象的なリビングが広がっている。

智子さん:リノベーションの計画時には夫婦ふたり暮らしだったのですが、将来子どもを授かった時のこともイメージしながら設計していました。

特にキッチンでの家事が多いだろうと想定して、作業台に立った時にどこにいても見守りができるようにアイランドキッチンにしたのは大正解。実際に娘が生まれてから、料理をしながらリビングやベランダで遊ぶ様子が視界に入ってくるので安心です。作業をしながらテレビも見れますしね(笑)

奥には明るいリビングのソファで寛ぐ央夏ちゃん。料理をしながらでもこうしてリビングの奥まで見渡せて、子どもの様子を見守れる。

アイランドキッチンはとても広々としたつくりで機能的。

■家具と建具でゆるやかに空間をつなげる

守さんご家族の住まいは、トイレや浴室などの水まわり以外に間仕切り壁がほとんどありません。壁の代わりに家具と建具が、リビングとダイニング、リビングと寝室という隣り合う空間をゆるやかに区切りつつ、人の気配が感じられる絶妙な距離感を生み出しています。

引き込み式の引き戸は普段は開け放して開放的に。料理の煙が気になる時、冷暖房効率を上げたい時などに必要に応じて閉められるようにしている。

リビングと寝室の間はルーバー式の建具で間仕切っています。ルーバーはリビングからの視線を考慮した角度に設定されているので、プライバシーを守りながら寝室へ光と風が通り抜けます。

真史さん:建築的な壁を立てない、というのが今回のリノベの大きなテーマでした。壁を立ててしまうとそこで用途が完結してしまいますが、可変性のある家具や建具を使えば、ゆるやかに空間をつなげながら、状況に応じて部屋を間仕切ることも広げることもできる

それから、ソリッドではないもので部屋を仕切って空間をひと続きにすることで、 どの部屋にいても家全体の広がりを感じることができるんです。

そう話す真史さんは、カッシーナ・イクスシーを昨年退社してインテリアスタイリストとして独立。日々の暮らしの実感から、普段の住宅設計の仕事でも建具と家具で空間をつなぎながら間仕切る手法をおすすめしているといいます。

ルーバー状の建具でリビングと寝室を仕切る。リビング側からは寝室が見えず、寝室には光と風が入る絶妙な角度に調整している。

寝室内のウォークインクロゼットの一部はパンチングメタル製。光と風が抜けるため圧迫感がなく、湿気がこもらない。

寝室は夜に寝るだけの場所だから必ずしも窓際に配置する必要はなく、むしろ少し暗い方が気分が落ち着いて安眠を誘うといいます。そして智子さんはマンションの構造と状況も考慮してプランニングをしています。

智子さん:リノベ前に現場確認をしたところ、マンションの共用通路の音が気になったので、廊下側に利用頻度の少ないウォークインクロゼットや浴室、トイレ、玄関を配置しました。これらの部屋が防音のワンクッションを担っているので、リビングやダイニングはとても静かなんですよ。

前の住まいから使っていた収納ボックスのサイズ、所有する洋服の量から幅や奥行きを割り出したオリジナルのウォークインクロゼット。廊下側に配置して廊下の音を防音する効果も担っている。

マンションの音環境にまで配慮した間取りを考えるとは、さすがプロならではの視点ですね。リノベーションの前に共用部に接する場所の音の響き方をチェックした上で、間取りで問題を解決するという手法は大いに参考になりそうです。

左:寝室の横に、浴室、ランドリー、洗面という配置は、家事がしやすく、ストレスのない生活動線に基づいて計画されている。/右:浴室前のランドリーコーナーに造作棚と収納ボックスを置いてタオルや肌着などを収納している。

玄関を入って目の前には、真史さんの書斎、そして左隣には作業場が設けられています。il circo(イル・チルコ)というプロダクト・ブランドを立ち上げ、1年に数回受注販売会を行う真史さんは、この作業場でバッグや財布などの革製品をつくっていますが、ゆくゆくはアトリエを別に借りて、この場所は子ども部屋にする予定だそうです。

書斎と作業場は引き込み式の引き戸で仕切ることができる。

作業場には、独立祝いに智子さんが真史さんにプレゼントしたというレザー専用のミシンが。引き戸を閉めれば作業中の音は気にならない。

書斎には真史さんのアイテムがずらり。棚は、真史さんがお気に入りのイギリスのシステム収納のブランド、VITSOE(ヴィツゥ)の「606ユニバーサル・シェルビング・システム」を採用。ダボ穴の位置で棚の高さを自由に変えられる。

真史さん:一般的なマンションには廊下スペースがありますが、通路としての役割しか果たさないのはもったいない。ですから通路幅を広くとって、書斎の機能をプラスすることで、場所として死なない空間をつくりました。

ダイニングとキッチンに向かう廊下スペースに設けた真史さんの書斎。

智子さんと央夏ちゃんのお絵描きスペースとして使ったりも。

左:書斎の横にはトイレ。共用部側に配置することで防音効果を高める役割も果たしている。/右:トイレの横、元々キッチンスペースだった場所は広々とした玄関スペースへと変更した。

■住みながら気分に合わせてDIYを楽しむ

長年、家具や小物のディスプレイの仕事をしていた真史さんが手がけた内装とインテリア。抜群のセンスの良さが光ります。誰でも真似ができるコーディネートのコツはあるのでしょうか。

真史さん:色調をそろえておけば、多少素材がバラバラでもバランスが取れますよ。うちの家具はブランドも素材も違うものを合わせていますが、キッチンとダイニングは茶系に、リビングはグレーを基調として同じ色調の家具を合わせています。さらに壁紙やフローリング、棚などの内装材も色調を合わせれば、統一感を出すことができます。

そして、いったん統一感のあるベースができてしまえば、たとえば派手な色のオブジェや民族調の家具など、 個性の強いアイテムをそこにプラスすることで、 自分だけのオリジナルな家をつくっていくことができると思います。

茶系でまとめられたキッチン&ダイニングは、さまざまな樹種や石、金属の質感がミックスされているにもかかわらず、落ち着いた調和をみせている。

真史さん:これからリノベーションをする人たちには、持っている家具、欲しい家具を置くことを前提とした間取りの計画をすることをおすすめします。

家が完成した後に間取りに合わせて家具を購入する人が大半だと思いますが、自分が気に入った家具とともに生活するシーンを思い浮かべて、そのサイズに合わせて自由に間取りを決められるのもリノベーションの良さ。そして、良質な家具は値段も高いけれど、長く使えることを考えると実はコストパフォーマンスはいい。

リノベーション工事全体の予算の中で家具代も含めて考えれば、お金のかけどころのメリハリをつけることで、好きな家具を購入することへのハードルも低くなりますよ。

フィリップ・ユーレル社の革張りテーブル「GUARDI」は智子さんのお気に入り。角も脚も薄いクッション材を内蔵した革張りのため、小さな子どもが転倒してぶつかっても衝撃で怪我をする心配がない。

リノベーション直後のインテリアは、天井がコンクリートの素地の色が剥き出しで家具はグレーで統一されていたという守邸。娘さんが生まれ、気分が変わったこともあり、真史さんがDIYで天井を白くしたり、リビングの壁の一部を紫色にペイントしたり、グリーンのソファカバーを自らミシンで縫って張り替えて模様替えをしているそうです。

智子さん:最初はコンクリート剥き出しの天井がカッコイイと気に入っていたのですが、住んでいるうちに殺風景に思えてきて、2年前に主人がペンキで塗り替えました。天井の面積は広いので、白くしただけで部屋全体に光が巡って明るくなりました。

コンクリート剥き出しのままだった天井を白く塗装。空間が明るくなった。

真史さん:1年前に部屋を楽しい雰囲気にしたいと思い立ち、リビングの一部を紫にペイントして、それに合わせてグリーンのソファカバー植物柄のクッションを合わせてコロニアルっぽいスタイルに変えました。

リノベーションした時が完成ではなく、気分に合わせて壁や天井を塗り変えてもいい。壁の一部の色を塗り替えるだけで、ガラッと部屋の雰囲気を変えられますよ。

ポーターズペイント社のバイオレットカラーで塗った壁。一見奇抜に見えそうな紫色の壁は、どんなインテリアにも自然になじむ。真史さんお手製だというソファカバーは、紫色の壁面に合わせてグリーンをチョイスした。

■DIYでつくるアウトドアリビング

念願だったルーフバルコニーは、竣工時点でエリアの半分だけウッドデッキが敷かれ、パラソル付のアウトドアファニチャーを置く程度だったそう。今年のゴールデンウィークに時間が出来たことから意を決して、本格的なDIYに取り掛かり、都会的で洗練されたアウトドアリビングが完成しました。

智子さん:引っ越し当初は、バルコニーがあまりにも広くてちょっと持て余していたんです(笑)。でも、ようやくバルコニーが整ったので、晴れた日は外で食事をしたり、娘が三輪車の練習をして外生活を楽しんでいます。ナチュラルな雰囲気が気に入っています。

ソファはホームセンターで角材をカットしてもらい、真史さんがDIYで制作。その周りには、「SOLSO FARM」に相談してセレクトしてもらった植物とプランターをコーディネートしている。

真史さん:ここからは、花火も見えるんですよ。今年の夏は友達を招いて、ガーデンパーティを開きたいですね。

設計のプロである守さんご夫妻の住まいは、洗練されたインテリアがとても魅力的です。その美しさの背景には機能的で使いやすい動線や収納計画など、生活を重視したロジックが詰まっていました。

皆さんも家具から発想する間取り住みながら気分に合わせて内装を変えるDIYなど、守さんご夫妻のように既成概念にとらわれない自由なリノベーションを楽しんでみてはいかがでしょうか?

ーーーーー物件概要ーーーーー 

〈所在地〉東京都目黒区
〈居住者構成〉ファミリー
〈間取り〉2LDK
〈面積〉89㎡ + バルコニー 60㎡
〈築年〉築48年
〈インテリアデザイン〉CIRCOWORKS