中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。

今回は、東京都文京区で16年前に新築で購入したマンションをリノベーションされたIさんご夫妻(ご主人:公務員/40代、奥さま:公務員/40代)のご自宅にお邪魔しました。


■「根津は歩くのが楽しい街」。16年前に新築マンションを購入

ここ数年、人気を呼んでいる谷根千エリア(谷中、根津、千駄木)。下町風情が残る街並みに寺社や味のある個人商店が点在し、歩くだけで楽しい街です。

独身時代から谷中の賃貸マンションで暮らしていたIさんご夫妻は、谷根千に暮らして20年以上。今のように注目される前から、この街の空気感が好きだったといいます。

「この街には、そこでしか見つからない物を売っていたり食べさせたりするような個性的なお店がたくさんあって、散歩するのが楽しい。ふたりともお酒好きなんですが、ディープな居酒屋も多いので勇気を出して入ってみたり(笑)」と奥さま。

奥さま:結婚を機にこの界隈でマンションの購入を検討したんですが、当時はバブルの名残がある90年代半ば。希望エリアの物件は億単位で、とても手が出なくて(笑)。諦めて、別の街でマンションを購入して暮らしていました。でも「やっぱり谷根千に住みたい」という気持ちがずっとあったんです。

それから5年ほどがたち、気分を変えたいと住み替えを検討した折に出会ったのが、根津神社近くで建設中だったこのマンションでした。

珍しい変型の2LDKで東側と南側にバルコニーがあり、しかも南側は開放感たっぷりのルーフバルコニー。決め手になったのは、遠く上野公園の緑まで見渡せる眺めのいいロケーションです。

洗濯物は東側のバルコニーに干せるから、南側は座ってビールを飲んだり植物を育てたりと自由なスペースに。都市計画の関係で、隣に高い建物ができる可能性が低いのもポイント。数年前から、この眺めにスカイツリーが加わりました。隅田川の花火大会も見えるそう。うらやましい!

奥さま:実は申し込んだものの前のマンションがなかなか売れず、途中で心が折れそうだったんですが(笑)、建設中に中に入らせてもらったらすごく見晴らしが良くて。頑張って買おうと決めました。

引っ越した年に里親として引き取った猫の「とめぼー」は、マンションと同い年。

■きっかけは水回りの不調。思いがけない出会いでフルリノベを決断

新築マンションの暮らしは快適でしたが、15年ほどたった頃、水回り設備の不調をきっかけにリノベーションを検討。特に手を加えたかったのがバスルームでした。

奥さま:バスルームが北側の一番奥にあって、ジメジメするのが気になっていたんです。通風用の小窓を作ったりできないかとインテリア雑誌を立ち読みしていた時に見つけたのが、ハンズデザインの星名さんの自邸でした。マンションをこんな風に変えられるんだ! とびっくりしてしまって。

ハンズデザイン一級建築士事務所を主宰する建築家、星名岳志さん・貴子さん夫妻のお住まい。開放的な玄関ホールとひとつながりのオープンキッチンが住まいの中心です。

住まい中央にあったバスルームを移設することで、書斎と寝室をゆったり確保しています。

奥さま:なかでも、バスルームの位置を動かすなんて発想はまったくありませんでした。開放的な玄関ホールにも惹かれて、「どうせなら、我が家も全面的にリノベーションしちゃおうか!」と。

ご主人:思いつきでどんどん進んでいった感じです。だからお金がたまっていなくて、正式な依頼までずいぶん待っていただきました(笑)。

■住まいの中心はガラス張りのバスルーム! 光あふれる空間へ一新

設計の希望は伝えつつも、一番のリクエストは「思い切った提案をしてほしい」。それに応えて星名さんが提案したのが、玄関を開けて正面にガラス張りのバスルームがある大胆なプランです。

玄関から見たバスルーム。開放的に見えますが入浴中は音が遮断され、意外にも「別空間にいる感じで、リビングに人がいても気にならない」のだそう。夜の入浴時は、廊下のフットライトに紙をかぶせたぼんやりとした灯りのみで入浴を楽しんでいます。

図面で見るとこちら▼

玄関入って正面には浴室、右手にはリビングダイニングキッチン、左手には寝室が広がる、とても思い切ったプランです。

玄関入って右手には、リビングダイニングキッチンが広がります。

バスタブに浸かれば、ルーフバルコニー越しに街並みや上野公園の緑、遠くスカイツリーまでを一望。いわば住まいの特等席にバスルームを持ってきたプランです。「さすがに大胆すぎて引かれるかと思って(笑)、別案も持って行ったんですが、この案に決まりました」と星名さん。

奥さま:夜、明かりを消してお風呂に浸かるのが好きです。ライトアップされたスカイツリーが綺麗に見えるんですよ。

2つあった個室の間仕切り壁を撤去して、ルーフバルコニーに面した明るい南側にバスルームと洗面室を移設。向かい側に、間仕切りのない寝室をレイアウトしています。

壁がないため空間がゆったりとつながり、お風呂上がりにベッドやクローゼットに直行できる動線も便利。

浴室からあがると洗面室。そして、左手には寝室が広がっています。

寝室と洗面室の間には壁がないので、コンパクトながら開放的。洗面まわりは壁付け洗面ボウルと置き型ミラーですっきりまとめ、こまごました洗面道具や洗剤は洗濯機上部の棚にまとめて収納。

何より、住まいの中心であるバスルームがガラス張りなので南からの光が全体に行き渡り、「念願の明るい住まいになりました」とおふたり。間仕切り壁は取り払いましたが、変型間取りを生かした斜めの壁がLDKからの視線をさりげなく遮り、開放的なのに落ち着ける空間です。

LDKからバスルーム側を見るとこんな感じ。「夫がリビングでテレビを見て私が寝室で寝ている時なんかも、お互いの姿は見えない。間仕切りはないですが、別の場所にいる感じです」と奥さま。

ちなみに、お手洗いは玄関入って右手すぐに。土足のまま使用する造り。

■無垢材と大谷石、モルタルの質感豊かなキッチン

壁に囲まれていたキッチンは、広々としたオープンスタイルに一新。大谷石と無垢のアルダー材で家具のように仕上げたカウンター、ラフなモルタル壁を背景に形のきれいな器やカゴ、茶筒といった日常使いのさまざまが並ぶ空間は、センスのいいギャラリーのよう。

好きなテイストが近いおふたり、料理道具やうつわは少しずつ集めたもの。ダイニングテーブルとベンチは谷中(現在は両国に移転)にある「いろはに木工所」のオーダー品。右の壁の奥は、ご主人の趣味の革や針金を使ったハンドクラフトのためのスペース。

お気に入りの料理道具やスパイスは見せながらゆったりと収納するいっぽう、カウンター下の収納は「取り出しやすく・片付けやすく」をポイントにきめ細かく設計。

星名さんは設計の際、キッチンに限らず収納する物の量を細かくヒアリングしますが、Iさんご夫妻はさらに「こんな雰囲気で、こんな風に収納したい」という希望を写真や文章で丁寧にまとめて伝えたため、密な打ち合わせができたといいます。

奥さま:私は本当に面倒くさがりで(笑)、例えば食器を入れる棚をオープン棚にしたのは、できるだけワンアクションで出し入れしたいから。食洗機ではなく手洗い派なので、まな板やボウルに水気が残っても乾きやすいように、通気性のあるルーバーの引き出しもお願いしました。

いかにストレスをなくせるか考えたり、収納をパズルみたいにスポッとはめていくのも楽しかったです。

手持ちの物を “棚卸し” して収納場所を見直し。入れる物を棚や引き出しのサイズに折った新聞紙の上に置き、奥行きや高さを決めていったそう。キッチン奥のバスルームだった空間には、収納たっぷりのパントリーを新設。以前は置き場所に悩んでいたウォーターサーバーと冷蔵庫のサイズを合わせて棚を設計。

左:色とりどりのスパイスは見せて収納。モルタルとガラスのコントラストがきれい。/右:シンクで悩みがちな食器洗剤やスポンジの置き場。星名さんの提案で、ダイニングから見えない場所にポケットを作ってトレーで出し入れ。奥行きが深いので、ストックの石鹸なども奥に収納。

理想のイメージや収納量を「大学のレポートぐらいの充実度で(笑)」写真と文章にまとめたIさんの手作り資料。「普通は一つひとつヒアリングしていくんですが、それを最初から出していただいた。一緒に作ったような感覚です」と星名さん。

■収納を自分仕様に無駄なくリノベーション

すっきりとしたIさん邸ですが、意外にも収納スペースは以前より減ったぐらいだそう。マンションの収納は標準サイズで設計されているので、人によっては無駄があったり足りなかったりするもの。リノベーションを機に無駄を見直し、自分仕様に一新したのが功を奏したようです。

奥さま:以前も収納は多かったんですが、トールタイプの下駄箱は上の方が使いにくかったり、キッチンの引き出しも全部は引き出せないから奥はデッドスペースになったり。そういった小さなストレスを伝えて、無駄なく使いやすく設計してもらいました。

ユニークなのが、天井から吊るす収納。既存の天井を剥がして現れた穴にあらかじめメガネボルトを設置しておき、必要な時になんでもぶら下げられるようにデザインされているのです。洗濯物干しや上着かけ、時にはザルを下げて干し野菜を作ったり(!)と、意外なほど活躍。

左:オブジェのような針金バーは、手づくり好きなご主人のハンドメイド!こちらはキッチンで使ったふきんを干すためのバー。/右:バルコニーで育てているレモンバーベナを室内で干してハーブティーに。

奥さま:リノベーション前の部屋も気に入っていたし、意外に色のトーンも大きくは変わっていないんです。でもこれだけ大きく手を加えるとすごく開放感があるし、素材感も全然違う。家じゅう、好きな場所ばかりです。

収納の美しさはお見事。注目すべきは、写真右上の本棚スペース。文庫本はカバーを外し、色味を統一しています。

新築での暮らしを経て、自分好みのオリジナルな住まいへ。立地のポテンシャルを生かしたリノベーションで、好きな街での暮らしがもっと楽しくなりそうです。

ーーーーー物件概要ーーーーー 

〈所在地〉東京都文京区
〈居住者構成〉ご夫婦
〈間取り〉1LDK
〈面積〉64.58㎡
〈築年〉築16年
〈設計〉(株)ハンズデザイン一級建築士事務所

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