気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第82弾は「駒込」です。


■さて、突然ですが問題です。「駒込」は何区でしょう?

① 豊島区 ② 文京区 ③ 北区

線路上に架かる駒込橋からJR「駒込」駅北口を見る。左手に伸びるのは本郷通り

正解は、①豊島区です!

詳しくご説明すると、住所表示としての駒込や「駒込」駅は豊島区ですが、山手線ホームの一部やエリアを代表する景勝地のひとつ「旧古河庭園」がある北側は北区。そしてもうひとつの景勝地「六義園」のある南側(本駒込)は文京区なんです。“駒込エリア” は、3つの区が入り組んだ境界線上に位置しているんですね。

そのせいか、文教の都らしい品のよさと、下町っぽい親しみやすさが同居しているような印象を受けます。今回はそんな「駒込」の街の個性を分析していきたいと思います!

■人生をサポートする “街の靴屋”

さて…… 訪れたのは、駅から北へ徒歩5分ほどの場所から長〜く延びている「霜降銀座商店街」。ギュッと間口の狭い入口が特徴的です。「しもふり」と記されたエントランスアーチには、オリジナルキャラの「しーちゃん」&20周年記念キャラの「もーちゃん」が仲良く描かれていてほっこりします。

上・車が入ってこないので、お年寄りやベビーカー連れでも買い物しやすい。/左下・商店街には現在40店舗以上が軒を連ねている。/右下・100以上の応募作品から投票で選ばれた「しーちゃん」(背中に乗っているのが「もーちゃん」)。一反木綿のようにも見えますが…… 正体は謎に包まれているそう

今回の “街の先輩” は、商店街の広報を担当されている、靴屋「パリーシューズ」の三代目・中村翔志さん。お話をうかがう間にも、道行く商店街の方とていねいに挨拶を交わす姿が印象的でした。

中村さん:子どものころはもう商店街が遊び場で。ひとりで自転車の練習をして、眼鏡屋さんのショーケースにバーンってぶつかったりとか…… そういうことをしても、皆さんが温かく守ってくれて(笑)いろんな場所でひとり暮らしもしましたが、今は生まれ育ってきたこの場所に戻ってきました。

商店街中ほどにある「パリーシューズ」と、背筋を伸ばして店に立つ三代目の中村翔志さん

中村さん:うちは初代のおじいちゃんの頃から変わらず、本当に “街の靴屋” って感じです。来てくれた方に『何でもあります』と言えるようなお店を目指して、商品は豊富に揃えてます。昔はこの商店街だけでもこういう靴屋さんが5〜6店舗はあったんですけど、後継者不足でだいぶ減ってきちゃいましたね。

キャッチコピーは「足元から健康を考える店」。店内には履き心地にこだわった靴が所狭しと並ぶ。子供靴に長靴に、コックシューズに安全靴…… ほ、本当に豊富!

服飾の専門学校を卒業後、高級アパレルブランド「コム・デ・ギャルソン」の販売のお仕事を経て、数年前に「パリーシューズ」の三代目になった中村さん。自分を育んだ環境であるお店を引き継ぐことは、『ゆくゆくは……』と考えていた自然なことだったのだそう。

『 “純粋培養” でなく、外で働く経験を積んだおかげで自分は商店街全体を俯瞰して見ることができているんじゃないか』と中村さんは語ります。なるほど、自分たちの立ち位置を客観的に捉える視線は、進化に欠かせないものかもしれませんね。

とってもにこやかな中村さん

それにしても、高級アパレルブランドの販売員から街の靴屋さんへの転身って、ずいぶん振れ幅が大きいですね?

中村さん:値段も一桁、二桁ぐらい違いますね(笑)。スーツ1着が何十万円とかの世界だったので。百貨店での勤務も経て、ものを大切に扱うことを学びました。

ただ本当に価格帯が違うので、うちではていねいになりすぎないフランクな空気感といいますか、自分なりにちょうどいいところを探ってます。いやあ、始めたばっかりの頃は話し方が固すぎちゃって…… 『こちらでございます(ちょっとイイ声)』みたいな感じで。

左上・現在はご両親と二世代でお店を切り盛りしているそう。ハートマークを作るお父さんがお茶目!/右上・一足一足に付けられた手書きの値札がどこか懐かしい。/左下・もちろん近隣小学校の上履きや学用品もズラリ。/右下・ちょうど合わない靴に悩んでいた取材班が靴を一足購入すると、かわいいオマケ(マニキュア型の糊)のプレゼントをいただき、ほっこり♡

「パリーシューズ」は2021年で創業65年! 長く通ってくださる地元のお客さんの中には、中村さんのことを生まれた時から知っている方も多いのだとか。『そんな方々から見れば、まだまだ自分はヒヨッコで……』と照れ笑いをこぼしつつ、お客さんのライフステージに合わせて靴を提供していきたい、と続けます。

中村さん:赤ちゃん靴から始まって、その子の成長に合わせて靴を提供していきたいですね。例えばその子がお母さんになった時に、また自分の子供をここに連れて来てくれるように。そしていつか、高齢になった時にもおすすめできるような靴も揃えていたい。そんな “街の靴屋” としてのサイクルができつつあるなって実感しています。

■商店街の武器って何だろう?

2014年、中村さんは商店街の広報担当として、商店街の魅力がより伝わるようにホームページをリニューアルします。デザイン会社と協働して完成したという、うわさのホームページがこちら!

左・トップページ右上にいる「しーちゃん」のセリフは時間帯によって変化する。夕方にチェックしたら『夕ごはんは和食派です』とのこと……かわいい!/右・イラストがふんだんに盛り込まれ、フォトギャラリーなどのコンテンツも充実しています。なかでも特筆すべきは、お店の人の顔が見える紹介ページ(霜降銀座商店街ホームページより)

こちらは中村さん含む取材チームが、すべての店舗に挨拶→インタビュー→写真撮影→仕上がりチェックというステップを踏み、約2ヶ月かかりっきりで制作したのだそう。熱意を持って取り組んだ甲斐あって、新ホームページは大好評。全国の商店街の方が視察に訪れたり、ホームページ作りのコツを聞かれたり、いろいろうれしい反響があったそうです。

ところ変わって、商店街内にある会議所「霜降会館」へ(入口の手書き文字の味わいにグッとくる!)。壁には、昭和49年に商店街に初めてアーチが完成した際の記念写真が飾られている

商店街の店主の方々から話を聞いていく中で、中村さん自身もこの「霜降銀座商店街」の強みを再確認できたと言います。それは、何よりも “人” の力。ひとりひとりの店主さんの個性豊かなキャラクターが商店街を面白くしているのだと、改めて実感したのだそうです。

中村さん:この商店街の中にはチェーン店がほとんど無いですからね。名物店主みたいな方もたくさんいらっしゃいますよ。使ってみてもらわないとわからないんですけど…… めちゃめちゃ一流の人たちが揃っているんですよ!

商店街は個人商店が大半を占めている。車が通れなかったり、駅からやや距離があるところが、昔ながらの手付かずな姿でいられるポイントなのかもしれない

中村さん:例えば一回お豆腐屋さんで買ったら、『もうお豆腐はスーパーじゃなくてこのお店で買おう』って思ってもらえると思うんです。ちょっと値段設定は高いかもしれないけど、そのぶん本当に美味しいし体にもいいんですよ。個人店はチェーンと違ってそれぞれの色が出るので、ぜひ商店街を利用してみてください!

現在、ホームページ運営やSNS運用は、中村さんがひとりで行なっているのだとか。たま〜に更新が滞りそうになる時にも、『リニューアル時のデザイン事務所の方や商店街の皆さんの協力を思うと、やる気が出ます』と語ってくださいました。

中村さん:まわりからすると、もしかしたら『やってくれてありがとう』なのかもしれないですけど、僕からしたら『紹介させてくれてありがとう』なんです。(感謝が)ぐるぐる回ってるような感じがしますね。

■教えて! お豆腐屋さん

続いては商店街に繰り出して、営業中のお店の方から街について聞かせていただくことに! まずは昭和28年創業の老舗豆腐店「かさはら」にお邪魔します。

左・豆腐店「かさはら」のご店主に突撃。/右上・懐かしさを感じる昔ながらの店構え。/右下・お豆腐だけでなく、この「おから煮」が美味と中村さんに聞き、取材後に急いで買いに戻ったところ……すでに売り切れていて大ショック(やっぱり皆さんわかってるんですね)……

ーー駒込の魅力って何だと思いますか?
住みやすいですね。電車がね、山手線と南北線が通ってますし。京浜東北線の「上中里」駅も歩いて行けますから、どこにでもパッと行けるのは便利だと思います。

ーー「六義園」や「旧古河庭園」みたいな大きな庭園が近くにあるのも羨ましいです。
風光明媚ですよね。あと、ここは「ソメイヨシノ」って桜の発祥の地なんですよ。近くに「染井よしの桜の里公園」ってのもあるんですけど、子どもが小さい頃とかはよく行きましたね。

ーーありがとうございました!

■ふたつの庭園に挟まれて

駒込エリアの風光明媚さについて、もう少し掘り下げてみましょう。

もともとこの周辺は、江戸時代より武家屋敷が建ち並ぶお屋敷街でした。今でもその名残として、徳川綱吉の側用人(※)・柳沢吉保が造り上げた「六義園」、明治時代の政治家・陸奥宗光の邸宅跡である「旧古河庭園」が都立庭園として公開されているのです。なんだか、歴史の授業で聞いたことのある名前が続々と出てきますね!

(※将軍と老中の取次をする役職。「そばようにん」と読む)

「六義園」。ろくぎえん、ではなく「りくぎえん」。国の「特別名勝」に指定されている “江戸二大庭園” のひとつ。花が見頃になる春秋には園内のライトアップも!

洋風庭園と和風庭園が融けあう「旧古河庭園」。建築家ジョサイア・コンドルによる洋館やバラ園など、見所が多い

さらに、かつて「染井」と呼ばれていた西側エリアに大名屋敷の庭の手入れをする植木職人が多く集まったことから、駒込は “園芸の街” として名を馳せていました。江戸中でツツジが大ブームになったのも、桜の品種「ソメイヨシノ」が誕生したのも、その植木職人たちの切磋琢磨によるものだったのだとか。この街の歴史は花と庭園とともにある、と言えそうです。

■教えて! コーヒー屋さん

続いては、駒込に2店舗を展開するコーヒー店「百塔珈琲」へ。

左上・2015年にオープンした自家焙煎のスペシャルティコーヒー専門店「百塔珈琲 Shimofuri」。ちなみに、本店は駒込3丁目のマンション2階にある隠れ家的スポットだ。/右上・インタビューに答えてくださった笑顔の素敵なスタッフさん/左下・インダストリアルな雰囲気のおしゃれな店内!/右下・コーヒーにぴったりの焼菓子販売も。オレンジピールのたっぷり入ったスコーンにうっとり♡

ーー駒込の魅力って何だと思いますか?
ここは人との心の距離が近いなって思います。もっと都心だと “個人個人がそれぞれ頑張る” みたいな空気が強くなるかなって思うんですけど…… なんて言うか、気持ちが近いというか。

ーーお客さんはどんな方がいらっしゃいますか?
うちは商店街の中にあるお店なので、皆さんが気軽に入ってホッとできるようなお店になれたらと思ってます。お客さんは近隣に住む40〜50代の方が多いですが、最近はお子さま連れだったり、30代くらいの若いご夫婦も増えてきましたね。

ーーありがとうございました!

■暮らしやすさ満開

「霜降銀座商店街」は、その奥で切れ目なく「染井銀座商店街」〜「西ヶ原銀座商店街」〜「ふれあい通り商店街」へとつながっていきます。どこに住んでいても買い物環境がすぐ近くに整っていて、リアルな暮らしやすさを感じますね。

上・「染井銀座商店街」は道幅が広く、大手チェーン店の姿も。/左下・商店街の境のタイルがパッチワーク状に入り組んでいる面白ポイント。左の長方形のタイルが北区「霜降銀座商店街」で、右の正方形のタイルが豊島区「染井銀座商店街」だ。/右下・奥には、さらにふたつの商店街が続く。道がゆるく蛇行しているので、その先に何があるのか興味をそそられる

もともと北区のこのあたり(西ヶ原)は高齢者率が高い地域。そこへ、近年では新しく若い世代が増えて、緩やかな世代のミックスが行われていると中村さんも語ります。

中村さん:昔は高層のマンションってほとんど無かったんですけど、ここ4〜5年くらいで多分10棟以上増えました。かなり住む人の入れ替わりが起きてるんですね。商店街でちょっとおしゃれなコーヒーのイベントとかをやると、『こんなに若いファミリーが住んでたんだ!』ってびっくりします。

さらに、駅の東側では線路を挟んで「さつき通り商店街」と「アザレア通り商店街」が住民の暮らしを支えています。商店街、多いですね!

左・「さつき通り商店街」/右・「アザレア通り商店街」。ちなみに「さつき」も「アザレア」も、ツツジの仲間。駒込が園芸の街だった歴史を感じる

中村さん:以前住んでた僕ら世代の方が、子どもと一緒に戻って来たりしてるんだと思います。買い物がしやすくて、緑も多いし、小学校も多い。そういうことが理由でほかの街に住んでも最終的にこの街に帰ってくる方が結構多いんじゃないでしょうか。

■マイナスイオンを感じる、本郷通り

ここでちょっと商店街から離れて、街の様子を見てみましょう。駅から伸びるメインストリート・本郷通りでは、細長いビルが身を寄せあう隙間から大樹の緑がひょっこり。背後に広がる庭園が強い存在感を放っています。

本郷通りに建ち並ぶマンションの合間から見える「六義園」の緑

本郷通りからちょっと横道に入ると、「旧古河庭園」のお城のような塀が伸びる東京離れした空気に……

こちらは「六義園」の外周。レンガの塀が趣深い

お話を伺う中で飛び出した中村さんのこんな一言に、自然が暮らしのすぐ隣にある贅沢さがにじみ出ていました。

中村さん:(庭園は)正直、近すぎてあんまり行かないんですけど……(笑)。でも家から50mくらい歩くと、もう「旧古河庭園」の外周なんですよ。雨が降るとすごい緑の匂いがして。中まで入らなくても、そういうので満足しちゃってるのかもしれないです。

■オンオフ切り替えの街、駒込

取材の最後に、中村さんに『この街の魅力って何でしょう?』とお尋ねしてみました。

中村さん:近くに何でもあるような便利な街が色々ある中で、「駒込」を選ぶ方って、しっかりオンオフを分けたい方なんじゃないでしょうか。仕事して帰って来て、夜はホッと休めるような…… そんなライフスタイルが好きな方に合う街だと思います。いい意味で気が抜ける、カッコつけなくていいような空気が漂っていると思うんですよね。

商店街風景。夜になると閉まるお店が多いからこそ、しっかりオンオフが切り替えられるのかも

なんてことでしょう…… 記事の締めくくりに書くべき “まとめ” 的な部分を、ストーン! と見事に言葉にしていただいちゃいました。

自分たちの居場所の個性・魅力をしっかり分析して伝えられるのは、きっとホームページのリニューアルを経て、商店街とがっぷり四つで向き合ったからなのでしょう。そして、中村さん自身も “帰ってきた” 三代目として、客観的に街を見つめることができるからなんですね。

今はちょうど、入れ替わりもある時期。老舗のお店が閉店したあとに、街の気取らない空気に惹かれた若い世代が出店するケースがちらほらあるのだそう。温かいムードは大切にしたまま、この先ますますの発展が期待されます。

ここ「駒込」の魅力とは、一度味わえば帰ってきたくなる、揺るぎない穏やかさなのではないでしょうか。今日もこの街の商店街には、“人” の魅力がいっぱいに花開いているのです。

【INFOMATION】
店名:パリーシューズ
アクセス:東京都北区西ヶ原1-60-4 (google map
営業時間:10:00~19:30
定休日:不定休

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