今家電の新しい形の開発で注目を集めている、ソニーによる『Life Space UX』プロジェクト。家の中の壁や天井とテクノロジーを融合させることで、空間そのものを使ってあらゆるコンテンツを楽しもうというもの。彼らが開発する「住まいに感動体験を盛り込む装置」とは何なのでしょうか。新たな住宅のスタイルをテクノロジーとともに生み出す『Life Space UX』の動きに要注目です。
生活に欠かせない家電製品。とはいえ居住空間は限られていますので、できる限り省スペースかつ高性能なものを選びたいところです。そんなニーズに合わせ、今やあらゆる家電がコンパクト化してきているわけですが、近頃ではそこから一歩進み “空間と一体化" するレベルで、インテリアに馴染むプロダクトも生まれている模様。
なかでも特に注目を集めているのが、ソニーによる次世代型家電の開発プロジェクト『Life Space UX』です。家の中の壁や天井とテクノロジーを融合させることで、空間そのものを使ってあらゆるコンテンツを楽しもうというもので、すでに具体的なプロダクトも誕生しています。
既存の空間を活かして新しい体験を生み出すという、挑戦的な試み。その現在と展望を取材しました。
お話をうかがったのは、Life Space UXを推進するTS事業準備室の御三方。左から赤羽進亮氏、戸村朝子氏、中島豊氏。
CEO直下、ソニー渾身の新プロジェクト
『Life Space UX』は2014年1月のCES(※)でソニーの平井一夫CEOが直々に提唱したコンセプト。従来の家電のようにモノをただ置くだけでなく、家の中にある床や壁、天井など既存の空間と組み合わせて新たな感動体験を得る。これまでにない製品を開発するプロジェクトとのこと。たとえば、「あらゆる壁を超高精細のスクリーンに変えてしまうプロジェクター」や、「普段は壁掛けの鏡として使用し、タッチすると情報端末になるディスプレイ」など、いくつかのプロダクトがすでにお披露目されています。
※CES…毎年1月、ラスベガスで開催される国際的な家電の見本市
ちなみに、Life Space UXは、短期的にソニーの収益に大きく貢献することが一番の目的ではなく、むしろ新しい商品や市場の創出を狙ったプロジェクトとのこと。プロジェクトチームはCEO直下の独立部署に置かれているため、目先の利益にとらわれず自由なモノづくりができるのだとか。
Life Space UXが目指す製品はどうしても新規性や革新性が強くなるため、従来通りの事業計画は立てにくい。そのため、どの事業部にも属さず、何の制約も受けない立場でモノづくりに取り組める現在の環境は、とても恵まれていると思います。トップ直下だけに意思決定も早く、企画立案から製品化までがスピーディーなのも利点ですね。(戸村氏)
壁際ギリギリに置けば、どんな壁も高解像度スクリーンになるプロジェクター
ともあれ、まずはLife Space UXから生まれたプロダクトをご覧いただきましょう。
たとえば、コチラの『4K超短焦点プロジェクター・LSPX-W1S』。スタイリッシュなローテーブルといった佇まいですが、壁に映像を映すプロジェクターです。見た目のかっこよさもさることながら、圧巻なのはそのスペック。「超短焦点」、つまり超近距離の壁に映像を投影できるレンズと、フルHDの4倍以上(!)という有効885万画素の解像度を同時に備えています。わかりやすくいうと、「壁際の床に置くと垂直の壁がそのままスクリーンになり、最新式のフルハイビジョンテレビを遥かに凌駕する映像美を堪能できるプロジェクター」ということですね。
一般的な家庭用プロジェクターだと、レンズと壁の距離間が合わずうまく投影できなかったりするわけですが、これなら壁の横に置くだけでOK。場所や間取りの制約を受けませんし、人影、物影の映り込みを気にする必要もありません。
■照明から音楽が流れる『LED電球スピーカー』
続いてはコチラ。一見ふつうの電球ですが、驚くべき機能が備わっています。
なんと、電球から音楽が! ソケットに差し込むだけで光と音楽が降り注ぐ、その名も、『LED電球スピーカー』です。スマホやPC、タブレットからワイヤレス再生でき、調光も自在。通常のスピーカーのように配線がゴチャつくこともなく、ソケットがあればどこでも使えるので、リビングだけでなく寝室やキッチン、トイレ、バスルームまで、家の中のあらゆる場所にて「音楽のある生活」が実現するわけです。
このように、どちらの製品も壁や電灯といったどんな家にも必ずある要素を活かし、見事に新たな価値・体験を創出しています。なるほど、これは斬新かつ合理的。そして、なにより楽しいじゃないですか!
Life Space UXのプロダクトは「住まいの付属品としての家電」ではなく、「住まいに感動体験を盛り込む装置」です。そのため、製品開発にあたっては「家の中でこんな体験ができたらいいな」と、まずは「体験」ありきで考えます。そこにソニーが蓄積してきた様々な技術やノウハウを組み合わせ、これまでにない製品を世に送り出していくことを目指しています(中島氏)
プロダクトそのものはあくまで "装置" であるため、デザイン的にもなるべく主張しないものが望ましいそう。確かに、『4K超短焦点プロジェクター』も『LED電球スピーカー』も、スタイリッシュながらも住空間に自然に溶け込むフォルムとなっていますね。家にモノをあまり置きたくない派にとっては魅力的でしょうし、「ミニマルライフ」や「スモールライフ」を是とする昨今の時流にも合っているかもしれません。
なお、現時点で市販されているのは前述の電球とプロジェクターのみですが、他にも複数のプロダクトの開発が進んでいて、時期は未定ながら製品化を見越しているとのこと。
家電の在り方そのものを変えてしまう、かも
また、ゆくゆくは建築家、工務店などとも連携し、新築住宅やリノベーションの設計段階からLife Space UXのプロダクトを組み込むことも検討しているようです。
住宅をただのハコとしてデザインするのではなく、「その空間で何をしたいか」、「どんな体験を望むか」を考えながらつくっていく。これからはそんな時代になっていくのかなと思います。Life Space UXの製品をあらかじめ組み込むことを見越して設計すれば、さまざまな体験がより自然な形で住空間に溶け込み、楽しい住まいになるのではないでしょうか。(赤羽氏)
たとえば『4K超短焦点プロジェクター』。現在の価格は500万円(税別)とのことなので、誰もがおいそれと購入できるブツではありませんが、住宅を設計する際のインフラとして考えれば検討の芽は十分に出てきます。物件自体のグレードを少し下げてでも、「壁が超高精細なスクリーンになる」価値を得たいと考える人は、けっこういるんじゃないでしょうか。
ともあれ、こうしたプロダクトがさらに増えていけば、住まいにおける家電の在り方そのものを変えてしまうかもしれません。いつしかモノとしての家電は消え、その機能のみが家の中に組み込まれる、そんな時代がやってきたりして・・・。
いずれにせよ、今後の展開に期待せざるを得ません。
なお、新製品の開発状況や体験イベントなどの最新情報は、Life Space UXのオフィシャルサイトや、Facebookにて発信されていますので、ご興味のある方は要チェックですよ!
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)写真提供:ソニー