中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく 「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。
今回は、東京都杉並区にお住まいの伊藤さんご夫婦(礼二さん:デザイナー/40代後半、美喜さん:編集者/50代前半)のご自宅にお邪魔しました。


西荻窪駅から北に伸びる商店街を進み、閑静な住宅街に入ったところに見えてくる4階建てのヴィンテージマンション。築40年とあって、エレベーターはなし。木でできた郵便受けを横目に、階段を上りきった4階に、今回お邪魔した、伊藤さんのお宅がありました。

「いらっしゃい」とドアを開けてもらうと、マンションのレトロな印象とは打って変わって、ドアの裏側は明るいターコイズブルー。すりガラスが入ったアンティークの引き戸の奥にある寝室も、ブルーを基調に、ポップな色合いでまとめられています。北側のとろりとした光が入る二重窓の向こうからは、隣の幼稚園から子ども達の笑い声が聞こえてきました。

左:室内の床より一段下がった玄関周りはタイルでスッキリ。アンティークランプの間接照明がいい雰囲気を醸し出しています。右:シューズラックは玄関ではなく、寝室の一角に。ターコイズブルーに塗られており、シューズラックとは思えないきれいさ。

「この物件に出会わなかったら、マンションを購入することはなかった」という伊藤さん夫婦。その出会いは偶然というよりも、何かに呼び寄せられたかのような不思議なものでした。

西荻窪で夫とお昼を食べた後、少しお酒も入った勢いで不動産屋を覗いてみたんです。その時は特に家を購入するつもりもなく、でも中に案内してくれた店員さんがとてもいい感じで。私たちの家に対する好みを聞いて、いくつか物件を出してくれました。(美喜さん)

そもそも、ふたりは結婚してから18年間、隣町の吉祥寺にある賃貸に暮らしていました。そこでの暮らしはとても心地がよかったと言います。

一戸建て風の賃貸で、窓が多くて光と風の通りがよく、とても住みやすかった。特に妻は吉祥寺という場所も含め、すごく気に入ってたんじゃないかな。

ただ、僕自身はどんどんチェーン店が増えて行く吉祥寺の街に正直飽きてしまっていて。通っていたバーが閉店したのをきっかけに、引っ越してもいいかという気はしていました。西荻窪のように古くからの商店街や個人商店が多い街はおもしろいですしね。(礼二さん)

たくさんのお話を聞かせてくださった美喜さん。フランスでホームステイをした経験も、今回の家づくりに活きたようです。

住み心地はよかったけれど、やはり賃貸だと自分たちの好きなように手を加えられないところはありますよね。ドアノブや洗面台を変えたいと思ってもできない。エアコンが壊れても大家さんが買い換えるので、自分たちでは商品を選べない。

ふたりとも物が好きだしこだわりもあるから、どうせなら土地を購入して家をゼロから立ててみたいという気持ちはありました。でも都心の便利なところがいい、となるとなかなか価格との折り合いもつかず、一度は諦めていたんです。(美喜さん)

「建売り物件や新築マンションは興味なし」、「住宅街より商店街の近くがいい」、「部屋数はなくだだっ広いのがいい」、「日当たりと風通しの良さは必須」など、家に対するふたりのこだわりを聞いた不動産屋が、土地物件と共に、「もしかしてここなら気に入るかも?」と案内してくれたのがこのマンションでした。

童話作家が施したリノベに一目惚れ、さらに自分たちらしい住まいへ

二世帯前の住居者は、童話作家。もともとの間取りを大きく変え、壁を漆喰にしたり、ドアを取り払ってR壁を作ったり、二重窓を作ったり、水まわりの位置を変えたりと、大規模なリノベーションを行っていました。

古くなっていた漆喰の壁は塗り直しましたが、部屋の区切りとなるR壁も、基本的な間取りも、前々住人の童話作家のリノベーションを引き継ぎました。

窓が二重になっていたのも、大きなポイント。ペンキの色を熟考し、ターコイズブルーに。

リノリウムの床も、漆喰の壁も、R型の壁も、かっこよかった。ゼロから自分たちでリノベーションをするのは大変だけど、こんなに土台が良いなら買ってもいいなと。(礼二さん)

4階建ての4階だったのもポイントだったよね。(美喜さん)

エレベーターが付いてたら買わなかったしね。(礼二さん)

そこがあえてポイントだったんですか??

そうなんです。夫は、上に人が住んでいるのが気になるから「3階だったら買ってなかった」と(笑)。古いマンションでエレベーターが付いていなくて、老後は大変だと思うんですけど、エレベーター嫌いの夫にはそれも逆に良かったみたい。リノリウムは私の強い希望で、結局ほぼフローリングに変えてしまいましたけど。(美喜さん)

購入の意志を伝えてからローンの見積もりを出すため、リノベーション案を急遽2週間で用意した美喜さん。他に購入希望者もいたので、大急ぎの作業でした。

前から中古マンションのリノベを考えていたわけじゃないから、急遽どんな家にしたいか考えて。かなりバタバタしましたね。

トイレとお風呂とキッチンといった水まわりを変えるために、思いのほか大掛かりな工事になって、家だけでなくリフォームのローンも組むことになりました。(美喜さん)

料理好きな美喜さん。もとのキッチンは暗くて狭かったため、窓のある部屋に位置を変更し、すべてオーダーメイドに。調味料を置く小棚もcm単位で細かく調整し、発注しました。

ステンレス製のシステムキッチンは、株式会社京都サッスでオーダー。この日もとても美味しいキッシュを焼いてくださいました。

奥に見えるのが、こだわりの調味料用の小棚。

不動産屋経由の工務店と、中学・高校の同級生の設計士にお願いして、細かな希望と家の構造から生まれる制限との妥協点を見つけながら、何度も図面を引き直してもらったと言います。

どんな希望も口にすることでもっと自由に変えていける

特に美喜さんがこだわったのがトイレとバスルーム。まずトイレは広々使いたいと壁を壊して広さを確保し、側面には真っ赤なタイル、そのタイルの色に合わせたリノリウムの床を敷いて、窓の代わりにステンドグラスをはめ込み、抜け感を作りました。

真っ赤な色で統一されたトイレ。床は礼二さん希望のリノリウムに。手洗い場の上につけた鏡の枠は、未輸入で買えなかった外国製品を見本に、礼二さんがのこぎりで手作りしたもの。

廊下を挟んで向かい側のバスルームはブルーを基盤にしたシンプルな空間。3面がタイル張りで、扉のついた1面はガラス貼り。まるで外国のホテルのような雰囲気です。

トイレが狭いのは絶対イヤで。浴室も全面タイルにしたかったのですが、集合住宅なのでユニットバス以外はNG。メーカー品で気にいるものが見つからず、オーダーメイドでユニットバスを作ってくれる会社をネットで探しました。(美喜さん)

左:ユニットバスは、株式会社フリーバス企画でオーダー。タイルにバスタブ、シャワーや照明も自分たちで選んだ。右:「脱衣所の棚にロッカーを持ってくるとは思わなかった」と礼二さんも感服の美喜さんのセンス。

工務店や設計士に、自分がしたいことをできるだけ口にすることで、「無理かもしれない」と思えることでも意外と実現するものだと、このリノベーションで学んだと美喜さんは言います。

夫が唯一と言っていいほどこだわって、京都まで行って見つけてきたアンティークの引き戸も、壁の高さや幅が合わなかったんです。最初は無理かなと思ったけど、相談したら壁のサイズを変えてくれて。

キッチンの位置を移動させたり、トイレを広くしてもらったりというのも、相談してみると、「じゃあ、床を上げて配管を通せばできますよ」などと専門家ならではの助言をしてくれました。(美喜さん)

工事中の様子。引き戸のサイズに合わせて、壁の高さや幅を変更。

そして完成した様子がこちら。礼二さんが京都のアンティークショップを訪れ購入した、年代物の引き戸。すりガラスがおしゃれ!

夫婦の趣味が重なり合ってふたりにとって居心地のいい空間に

扉やタイルだけでなく、キッチンセットや蛇口、ドアノブ、テーマカラーにするペンキの色まで細かく出来上がりをイメージしてひとつひとつ選んでいったという伊藤さんご夫妻。ステンドグラスや鏡フレームなどを手作りしたり、元々ある家具をペンキで塗り直したり、と自分たちも家を作る工程に関わりました。

左側トイレのドアにあるのは大学時代の友人でもあるステンドグラスの先生に作ってもらったもの。窓のない閉塞感を和らげてくれます。右側のバスルームのステンドグラスは美喜さん作。

内装に使って余ったペンキとタイルは譲り受け、自分たちで手持ちの家具に色を塗り、タイルを貼りました。

家の中にあるものは、小さな置物から食材ケース、ゴミ箱まで全てこだわりの厳選品。どちらかというと、ポップでカラフルなものが好きな美喜さんに対し、礼二さんはレトロさを大切にするタイプ。それらがぶつかることなく自然に溶け合っているのも、伊藤家の魅力のひとつです。

原色カラーのヨーロッパ家具と、アンティークな木目が主張し合う事無く、共存しているリビング。ご夫婦のバランスそのもののよう。

左:美喜さんが旅先で見つけたアンティーク風の電話。一目惚れして写メを礼二さんに送り、購入。右:礼二さんと美喜さんがそれぞれ別の時に、インテリアショップで見つけて欲しいと思っていた、という飾り棚。食器を収めています。

基本的に、家の物選びや今回のリノベーションについては、妻が全て進めてくれました。「こうしようと思うけど、どう思う?」って一応は聞いてくれるんですが、「ちょっと違う」と思ったことはまずありませんでしたね。ふたりの趣味が完全に一致しているわけではないけど、妻に任せて、できあがった家はすごくよかった。(礼二さん)

え? そう? でも一応全部確認をとって進めたよね(笑)(美喜さん)

いやあ、よくやった、と思いますよ。あなたは、よく頑張った!(礼二さん)

旦那様から思いがけないお褒めの言葉に、照れる美喜さん。そんな美喜さんの一番のお気に入りの場所は、ちょっとしたデッドスペースを使った飾り棚のコーナー。

デッドスペースを使った飾り棚。鉄製のヤモリの飾りプレートを電球カバーにしたのも美喜さんのアイディア。右奥にあるのが洗面スペース。

もともとこの狭いスペースには、洗面台があったんです。でも狭いスペースなのが嫌で、右奥の物置だった空間を洗濯と洗面スペースにしました。構造上壁が取り外せなかったので、デットスペースは遊びに。いろんな国を訪れて集めた小物や、洋書なんかを飾っています。棚に鍵とか腕時計を置けるので、意外と便利ですよ。(美喜さん)

洗面所スペースは緑やホワイトのナチュラルカラーでまとめて。空間ごとにテーマカラーがあると、インテリアにまとまりが見えます。

本当に、時間と手間暇をかけて作り上げた家ですが、「ここを終の住処と考えているわけではない」とふたりは口を揃えます。

礼二さんお気に入りの寝室で、おしゃべり。「質感のある光が好き」というのはデザイナーの礼二さんならでは。

やっぱり築年数も古いし、エレベーターはないし(笑)。今私たちが50歳前後だから後15年、20年くらい、好きな環境で住めたらいいかなって思っているんです。(美喜さん)

そもそも、一生住むとは最初から思ってなくて。状況も変わるだろうし引っ越したければ引っ越すかもしれない。ここを残すかどうかもその時考えればいい。

でも、今はすごく気に入ってますよ。
北側の部屋の窓際に座って外を眺めるのがとても気持ちいいんです。(礼二さん)

結婚18年目で手に入れた、マイホーム。好きなものに囲まれた、伊藤さんご夫婦の新しい暮らしは、今、始まったばかりです。

ーーーーー物件概要ーーーーー 

〈所在地〉東京都杉並区
〈居住者構成〉ご夫婦
〈面積〉約82.24㎡ 
〈築年〉築43年 
〈設計〉石原正明建築設計事務所
〈工務店〉大昇建設工業株式会社

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