中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。
今回訪れたのは、目黒区に建つ築49年のマンションの一室。「リノベ暮らしに先輩に聞く!」では初登場のメゾネット住戸、ふたつの階をまたぐ家ならではのリノベーションに迫ります。
住まい手は、リノベーション会社 ゼロリノベの西村一宏さん一家。ご自身で自邸の設計を手掛けるのは、これで二度目だという。
西村さん:子どもが大きくなったので、小学校の学区を移らなくていい範囲で広い家に越そうと思ったんです。
前の家は48㎡で、もともとローンを完済したら貸し出して、その家賃収入で二軒目のローンを払っていくようなプランを描いていて。
そうして見つけ出したのが、112.19㎡のこの物件。当初は60㎡ほどの空間を求めていたそうですが、エリアを限定したため中々見つからず、結果的に100㎡を超えるこの部屋を購入するに至ったとのこと。
■二層のLDK
もともとの間取りは1階にLDKを、2階に3つの個室をまとめたプラン。メゾネットかつ壁式構造(※)のため、ひと続きの広い空間が造りづらい。そして、3人暮らしゆえ、そこまで部屋数は必要ない。そんな与条件をもとにリノベーションが始まりました。
※鉄筋コンクリート造の構造形式のひとつ。柱と梁ではなく、耐力壁で建物を支える。
西村さん:構造上壊せない壁が多くて、基本的にはリノベがしづらい物件で(笑)
100㎡超えというとかなり広い印象を受けますが、結局は50 50で分かれているから、なかなか広い場所が取れない。その中でどうやって快適な空間をつくるかが課題でしたね。
そこでとった選択肢は、思い切ってLDKを上下階で分割すること。下階にダイニング・キッチンを、上階にリビングを配しました。当初は不安があったそうですが、いかがでしょうか。
西村さん:やっぱりご飯を食べたら、そのままリビングのソファになだれ込んでテレビを見る、みたいな流れが一般的じゃないですか。それがやり辛いのはどうなんだろうって。
でも実際に暮らしてみると、上の階に行く時には『さあ寛ぐぞ』と気持ちが切り替わるので、意外といいですよ。
智子さん(奥さま):夫より私の方がその実感が強いかも。ダイニングにいると、家事だったり、子どもの宿題を見なきゃいけなかったり、やることがたくさん見えてくるけど、ソファしかないリビングに上がったら、他のことを考えなくていいから気持ちが休まるんです(笑)
■光を迎え入れる空間づくり
階段を上がる際に印象的だったのは、上階から柔らかい光が差し込んでいたこと。階段の壁の一部を金網にし、明るさを確保していたのです。
西村さん:リノベーション前は、階段まわりが閉鎖的でめちゃくちゃ暗かったんですよ。だからなるべく壁で仕切らず、上階で取り込んだ光が下階まで落ちるような造りにしようと思って。
光に関しては結構気を使っていて、寝室やバスルームもなるべく明るくなるようにつくっているんですよ。
2階の廊下の突き当たりには、寝室と子ども部屋が。壁面にはルーバーを設けられ、光と風が抜けていました。
智子さん: “閉じこもりすぎないように” という意味も込めて、子ども部屋は抜け感のある造りにしました。ゆくゆくはドアをつけることも考えてつくってはいますけどね。
続いては、特にこだわって設計したという造作バスルーム。モルタル仕上げがスタイリッシュ。なんと窓の向こうには坪庭のような空間が見えます。
西村さん:元の間取りでは、この坪庭が全然活かされてなかったのがもったいなくて。お風呂と洗面が面するのは変わらずなんですが、それぞれ閉じた空間になっていたから、せっかく光が落ちてきてもあまり明るくなかったんです。
■シンプルに、コスパよく
さらに、“なるべくシンプルに、コストをかけすぎないこと” を心がけたという西村さん。なんとドアに関しては新しく購入したものはないとのこと。既存のものを活かすことで、コストを下げるだけでなく、経年で得られる風合いをも取り入れています。
西村さん:剥き出しの感じが好きなので、壁も仕上げにお金をかけすぎることはないかなと。とはいえ、全面そのままだとあまりに荒々しいので、腰の高さまではグレーに、天井は白く塗り分けました。
キッチンは造り付けの引き出しなどを設けない簡素な仕様に。ベニヤで仕上げたのもコストカットのためだそうですが、そのラフさが部屋の雰囲気に馴染んでいます。
西村さん:水回りの設備ってかなりお金がかかりますよね。お風呂は造作なのでユニットバスよりだいぶお金を使いましたが、キッチンはなるべく安くつくろうと思って。
正直『わーステキ!』って感じではないですけど、キンキンに真新しい綺麗なものを入れるより、この部屋にはあっているかな。
■新たな住まいにて
最後に今の暮らしについて、おふたりに伺ってみました。
智子さん:新緑の季節にキッチンでお皿を洗っていたら、窓の外の景色がまるで草原で……それがすごく心地よかったなと印象に残っています。
わたしはダイニングテーブルを仕事場にしているんですけど、こういう閉塞感がない空間でリラックスしながら仕事できるのが本当に嬉しいです。
西村さん:私はリビングで過ごす時間が好きですね。プロジェクターやスピーカーを仕込んだので。
智子さん:オリンピックをここで観戦できたのがすごく楽しかったよね。
西村さん:あとは、実験的に設備をIoT化したんですが、インターフォンに携帯電話で対応できたり、子どもが鍵を忘れたときに玄関を開けてあげられるのが便利です。
智子さん:時間帯に合わせて照明の色温度が変わるようにしたのもよかったよね。日が暮れるにつれて、徐々に白から暖色に移っていって。
西村さん:現状余っている部屋は、ミラーを張って趣味のタップダンスを親子で練習する場にしています。下がピロティなので、音をそんなに気にしなくて良くて。
息子は絵や工作にも関心があるみたいなので、将来的にはアトリエ的なスペースとして使ってもらってもいいかなと思っています。
当初の予定より大幅に広い家を購入した西村さんですが、ライフスタイルの変化に対応する余裕ができてよかったとも語っていました。まだまだポテンシャルを秘めた住まい、これからどんなアップデートがなされていくのでしょうか。
―――――物件概要―――――
〈所在地〉中目黒
〈居住者構成〉3人家族
〈間取り〉2SLDK+WIC
〈面積〉112.19㎡
〈築年〉築49年(取材時)
―――――設計・施工―――――
〈会社名〉ゼロリノベ
〈WEBサイト〉https://www.zerorenovation.com
撮影:沢崎 友希 / 取材・文:本多 隼人