新コーナー「街の先輩に聞く!」。この街ってどんな街? その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました! 第1段は「学芸大学」です。
人気の東横線沿線で、渋谷まで急行で2駅。便利な立地ながら、駅を出ると出口の両側には賑やかな商店街が広がり、庶民的な雰囲気の学芸大学。
細い路地や高架下を探索すれば、居心地の良いカフェやレストランも。少し歩けば自然豊かな碑文谷公園があり、子育て世代はもちろん昔から住んでいるおじいちゃんおばあちゃんも意外に多く、ほど良い下町らしさが暮らしやすい人気の街です。
そんな駅前の賑やかな商店街から一本路地に入った住宅街の一角に、今年6月にオープンしたのが、スタンド形式のドーナツショップ「ヒグマドーナッツ」です。
いつも揚げたて、しかもドーナツなのに甘すぎず軽やかな食感は、女性はもちろん男性にもリピーター多し。子どもから近所のお年寄りまで絶え間なく訪れる人気店として評判を呼んでいます。今回は、店主の春日井順さんに、お店の話、そして学芸大学という街についてお聞きしました。
本業はデザイン会社の代表!
―お店をオープンする前から、野外フェスや「青山ファーマーズマーケット」に出店して人気を呼んでいたそうですね。そんな春日井さん、意外にも飲食業が本業ではないとか?
本業はデザイン会社の代表で、CDジャケットやファッションカタログのデザインやブランディングの仕事をしています。2年ぐらい前から、土日を利用して個人的にイベントでドーナツを売り始めたんですが、人気が出てきたので店を出すことを決めました。
東京にいる自分が、地元北海道のためにできること
―会社経営の傍らドーナツショップを! ドーナツが好きだったんですか?
いいえ、僕自身は甘いものが得意ではないし、レシピも最初はクックパッドを参考にしたぐらいです(笑)。ドーナツを選んだのは、「北海道の食材でできるもの」を作りたかったから。
僕は北海道出身なんですが、「北海道の食を使って何かやりたい」、とずっと思っていました。食のブランドイメージとしては日本一なのに、北海道はお金に変えること、付加価値をつけることが苦手。
だからデザインやブランディングという僕の仕事を生かしてほんの少しでも経済に結びつけたり、北海道に行ってみたいと思う人が増えるようなプロジェクトを作りたくて。まずは、ひとつの看板となる商品で勝負してみよう、と思って始めました。
―なるほど。ではドーナツの材料は北海道産なんですか?
はい。小麦粉、牛乳、バター、砂糖、それにマスカルポーネチーズやソフトクリームも北海道産の原料です!
―素晴らしいです。北海道って、言われてみれば確かに、スイーツの原材料の宝庫なんですね。
「下町らしさ」と「精神的なゆとり」が共存する街、学大
ー甘すぎないからか、男性のお客さんも多いのが印象的です。
そうですね。以前カナダに住んでいたことがあるんですが、街にドーナツショップが多くて、子どもからおじいちゃんおばあちゃん、みんな立ち寄っていくのがいいな、と思っていて。コーヒーを飲みながら顔見知りの人と挨拶したりね。
そういう、コミュニケーションの媒介になるような存在を作りたかったんです。
―では、なぜ学芸大学でお店を出されたんですか?
「ファーマーズマーケット」に出店していて、うちのドーナツを買ってくれる人の雰囲気がだいたいわかったんです。
お金を出してちゃんとしたもの、おいしいものを食べたいと考えるような、経済的にだけじゃなく精神的にも余裕がある人。そういう人がいないと成立しないな、と思って。コンビニに行けば、うちの半額でドーナツが売ってますからね。
―なるほど、そういう人が多く住んでいる街ということで選んだと。
いい意味で余裕、ゆとりがあるんだけど、下町っぽさもあるんですよね。あとは商店街があることも理由です。スーパーで一気に買うんじゃなくて、商店街の魚屋や八百屋で会話しながら買い物する、そんな暮らしが根付いている所がいいなと思いました。住んでいて楽しいと思うから。それに公園が近いから、テイクアウトして食べられるし。
―店に立ちながら道行く人と挨拶を交わしたり、すっかり街に根付いている感じがします。
この街の人、びっくりするぐらいフレンドリーなんですよ。店舗は元洋服のリフォーム屋さんが入っていたビルをリノベーションしているんですが、工事中毎日のように近所の人から「いつできるの? なんのお店?」って聞かれました(笑)。現場の人も「こんなに話しかけられる現場は初めてだよ」って言うぐらい。その時点で、ああ、この街にして良かったな、と思いましたね。
理想は、学大を愛するローカルの人に愛されるお店
―お店を出す時には、学大以外の街も検討しましたか?
しました。学芸大学から中目黒の間、駒沢、三軒茶屋、三宿、下馬・・・。なかなか条件に合う物件に巡りあえなくて、1年ぐらい探したかな。地理的に言うと、246とか大通り沿いじゃなく歩き回れるウォーカブルでコンパクトな街を選びたくて、ここに決めました。
―「地元感」ですね。
僕の感覚ですけど、学大に住んでる人は自分の街が好きな人が多いんです。自分の街に、いい飲み屋とかセンスのいい本屋があったら嬉しいじゃないですか。「あの店があって嬉しい」って思えるような、ローカルの人が通う場所にしたかった。
大手がお金を出してバーンとやるようなやり方じゃなく、規模が小さくてもちゃんと作る、誇りを持ったインディペンデントな店。学大はそういう店が多くて、それが街の価値につながっていると思います。
チイちゃんの鉄板焼き、おにぎり、おしゃれ角打ち・・・学大の街の魅力とは?
―お店を始めてから、街に感じる魅力も変わってきていると思います。この街の面白いお店や人を教えてください!
この道をまっすぐ行ったところに、「みどうすじ」という60年ぐらいやっている鉄板焼きのお店があって、チイちゃんていう素敵なおばちゃんがいるんです。チイちゃんはこの街の昔のことをよく話してくれるから、学大の歴史を知りたければチイちゃんです(笑)。
―やっぱり人が魅力と。
そうですね。あとはビストロの「LODGE BISTRO SARU」。店主と友達で、店の帰りに寄ったり、お客さんをお互いに紹介し合ったりしています。
―楽しそう!
この道沿いに昔からある「飯塚精米店」がおにぎりを売ってるんですけど、おにぎりもお稲荷もめっちゃおいしい。
それから「学大角打」ていう飲み屋は、店をオープンする前からよく行ってました。日本酒もたくさんそろっているし、料理がめちゃめちゃおいしい。特に蕎麦がお薦めです。この前初めてお店で「ヒグマドーナッツです」って言ったら、社長さんが買いに来てくれたようで「え!ヒグマドーナッツの人なの?」って言われました(笑)。
―それでは、学芸大学の好きな場所、思い浮かぶ風景はどこですか?
やっぱり商店街かな。銭湯があるのもいいし、それに商店街を抜けたところに小さな飲み屋がたくさんあるエリアがあって、そこも学大っぽい場所だと思います。
―オープンわずか4ヶ月とは思えないほど、学芸大学の街に根付いているヒグマドーナッツ。店主である春日井さんの街選びのビジョンが明確だったからこそ、地元の人たちにすっと受け入れられ、街並みのひとつとして愛されていることが伝わってきました。
<HIGUMA Doughnuts>
より多くの人々に北海道の多様な素晴らしさを伝えたい。そこから外に出た者の視点で、 価値あるものを再発見・編集し、より多くの新しい価値を創出したい。そんな想いからスタートしたドーナツ屋さん。
北海道の大地が生み出す 豊かな食材を贅沢に使用し、ひとつひとつハンドメイドで作る ドーナツの美味しさを是非お楽しみに。
ウェブサイト:http://www.higuma.co/
住所:東京都目黒区鷹番2-8-21(※2018年夏に、こちらに移転しました。)
電話番号:03-5734-1308
定休日:水曜
営業時間:10時~21時(売り切れ次第終了)
文:石井妙子/撮影:cowcamo編集部