中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。


東京都足立区に建つ築16年(取材時)のマンションの一室。そこには寺をイメージしたという和風モダンな空間が広がっていた。

住まい手は、会社員のてっぺいさん、みきさんご夫婦。賃貸マンションでの暮らしを経て、ここ西新井エリアで未改装の物件を購入し、フルリノベーションを行った。

てっぺいさん:もともとふたりで葛飾区に3年くらい住んでいて、賃貸の契約更新のタイミングに合わせて家探しをはじめたんです。

みきさん:彼が千葉の柏の方、わたしが新宿に勤務していて、その中間地点ということでこのエリアを選びました。

下町っぽい雰囲気がいいですし、商店街やアリオ(大型ショッピングセンター)があって買い物には困らない街なんです。実際子育て世代をたくさんみかけますよ。

今回インタビューに応じてくれたてっぺいさんとみきさん。

■お寺に憧れて

内装のテイストはみきさんたっての希望。日本の伝統建築で見られる真壁(※)、スギ材の柱や床など、室内の随所に和の要素が散りばめられている。

※柱が見えるように納められた壁。

みきさん:本当にわたしの個人的な趣味全開で(笑)。どんな家が好きなんだろう?って考えてみたら、お寺とかおばあちゃんちみたいな、落ち着きを感じる和の空間で暮らしてみたいと思ったんです!

寝室に続く引き戸を開けるみきさん。

建具や装飾、家具にいたるまで、自らこだわりをもって集めたというおふたり。引き戸は、大正や昭和の時代につくられたものをリペアして使っているそうだ。

寝室。

みきさん:釘隠しっていう装飾を付けたらグッとお寺っぽくなると聞いて、京都まで買いに行ったり、和のアイテムは色々探しましたね。

実は、建具や和家具はネットで見つけたものなんです。オンライン上でやりとりが完結するリペアサービスがあったりするので、そういうものを活用してみるのもおすすめですよ。

左・木目が美しいスギの柱と長押(なげし)。黒い装飾は「釘隠し」と呼ばれ、文字通り釘の頭を隠すために付けられたもの。日本の寺院や城郭建築でよく用いられた。/右・インターネットで見つけ出した和家具。

それでは、こうした和の要素を住まいに取り入れる上で大切なことはなんだろうか。設計を担当したゼロリノベの野田歩夢さんに尋ねてみた。

野田さん:『お寺に住みたい』という要望をいただいて、意匠に真壁を取り入れていますが、一方で完全に和に振りすぎないことも意識しました。

例えば、リビングに架かったコンクリートの梁は日本の木造建築には存在しないものなので、完全に隠してしまうという考え方もありますよね。

でも、ここはあくまで鉄筋コンクリート造のマンション。無理に和の空間を再現しようとすれば、きっと上っ面なものに見えてしまうのでは?と思うんです。

今回あえて天井や梁を現しにしたように、和をテーマにしたマンションのリノベーションでは、コンクリートのような現代的な要素とうまく混ざり合うようなデザインが大切だと考えています。

てっぺいさん:モダンさも感じられる空間だから、もともと持っていた北欧テイストの家具も馴染みます。

設計当時をふりかえるおふたりと野田さん(左)。

■土間を巡らせて

ここで住まいの全体像を把握してみよう。図面を見れば、部屋全体を巡る土間に機能を集約し、リビング・ダイニングをくつろぎのスペースとして切り分けた造りであることがわかる。

野田さん:一筆書きをテーマに、お家に帰ったら手洗いや荷物の収納を済ませ、すべてを終えたリラックスした状態でリビングに入れるような間取りを考えました。

みきさん:“土間=おばあちゃんち” みたいなイメージで、その雰囲気が好きなんですと伝えたら、土間に機能をまとめた回遊性のある便利なプランを提案いただいたんです。実際これがめちゃくちゃ使いやすくって。

玄関扉をあけると右手に洗面スペース、のれんの先にはシューズインクローゼットがある。

玄関からまっすぐ進むとキッチンにたどり着く。

みきさん:食器が好きだから “見せる収納” が欲しかったんですけど、全部が全部オープンじゃなくて、クローズドな場所もしっかり確保してあるから、ちょっと気がゆるんでも散らかって見えないのが助かりますね。

キッチンにはお気に入りの食器類が並ぶ “見せる収納”、そしてその裏側には浴室・脱衣所、洗濯機置き場、収納が集約されている。

さらに、土間によって床に30cmほどの高低差が生まれることも、この住まいを語る上で欠かせないポイントなのだという。

野田さん:段差ができることで、腰掛けられる場所が増えたり、相対的にものの背の高さを感じにくくなったり、色々とメリットがあるんです。

石材のような質感のキッチン腰壁は、外壁にも使われる素材で仕上げた。

通常、キッチンの腰壁といえば約1mほどの高さがあり、部屋に圧迫感を与えてしまうケースも少なくない。しかし、この住まいの場合はキッチンが土間から立ち上がっているため、一段上がったリビング・ダイニング側からは、高さがテーブルと同じ70cmほどになり、圧迫感が軽減されている。

窓辺は縁側のような寛げる場所に。

てっぺいさん:朝ここに腰掛けて、歯を磨いたりする時間が好きですね。

土間を辿っていくと、ワークスペース兼てっぺいさんのギター置き場に行き着く。

ワークスペースのデスクとテレビボードは、床の高低差を生かし、高さが揃ったすっきりとした造りに。

■一体空間でのびのびと

最後に今の暮らしについて、おふたりに伺ってみた。

てっぺいさん:ひと続きの空間なので、お互いの存在を感じながら暮らせるのがいいですね。毎日とても心地よく過ごせています。

みきさん:そうそう、ほぼワンルームみたいな造りだから、大きいソファでのびのびできるのもいいよね。

てっぺいさん:これからはベランダをもっと活用したいと思っています。ウッドパネルなんかを敷いたらよさそうだと思っていて。

みきさん:わたしはもっと和っぽい物を集めていきたいですね。最近盆栽にはまっていて、洗面所にちっちゃいものを飾ってるんですよ。

壁面のせっ器質タイルが映える洗面所には、さりげなく盆栽が飾られていた。

現在トレーニングスペースになっているキッチン横の小上がりは、将来の子ども部屋として活用することも考えているのだそう。これからの暮らしについても朗らかに語ってくれたおふたりだった。

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―――――物件概要―――――
〈所在地〉西新井
〈居住者構成〉2人家族
〈間取り〉1LDK+WIC+SIC
〈面積〉76.53㎡
〈築年〉築16年(取材時)
―――――設計・施工―――――
〈会社名〉ゼロリノベ
〈WEBサイト〉https://www.zerorenovation.com/