中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。


今回訪れたのは、コーポラティブハウス(※)のプロデューサーを務めるご夫婦が建築家とタッグを組んでつくりあげたリノベーション住まい。

※入居希望の数世帯が集まって、建築家とともに共同で建設する集合住宅のこと。

左から住まい手のA.O.さん、S.O.さん。

■住まいのプロの家探し

O家はふたりの娘さんがいる4人家族。子育ての負担を減らすべく、通勤徒歩圏内を条件に家探しをはじめたそうだ。

そこで出会ったのが、こちらの目黒区に建つ築20年のマンションの一室。専有面積は62.3㎡と、4人暮らしの住まいとしてはややコンパクトな印象だが、この物件を選んだ決め手はなんだろうか。

A.O.さん:まずは立地条件をバッチリ満たしていたことが第一で、この部屋は眺望がよくて、幹線道路沿いなのに静かなのがよかったんです。

たしかに4人だったら70㎡くらいは欲しいと考えがちですけど、多少の面積の差はプランや暮らし方次第で埋められると思っていたので、下限は55㎡くらいで幅広く物件を見ていましたよ。

都心ながら眺望の抜けがよいO邸。

S.O.さん:建物自体の話をすれば、共用部がシンプルで無駄のないつくりなのが好印象でした。立地的にはもっと華美につくりそうなものなんですが、そうでないぶん管理費が抑えられているんです。余剰金も毎年出るような計画になっていて、非常に健全な運営をされてるマンションだなと感じました。

「わたしたちが普段手掛けているコーポラティブハウスも『共用部はなるべくシンプルに』が基本です」とS.O.さん。

■必要に応じて0から100まで

リノベーションは絶対ではなく、あくまで物件次第だったと語るおふたり。設計を依頼した建築家の伊原 慶さん/TA+Aには、内見時からどこまで手を加えるべきか相談に乗ってもらったそうだ。

S.O.さん:大学時代からの友人の彼に「リノベをするかもしれないから物件探しから手伝ってもらえないか」って声をかけたんです。

「どんな家でどんな暮らしをしているか」がわかる相手に頼みたかったので、昔から趣味が合う上、家族構成も偶然うちと同じ彼がぴったりだなと。

A.O.さん:私たちは「こういうテイストのリノベがしたい!」みたいなこだわりが全然なかったから、プレーンな状態から自分たちに今何が必要かを一緒に考えてくれる方が良かったって面もありますね。

一級建築事務所 TA+A / 東京アーキテクツアンドアソシエイツを主宰する伊原 慶さん。住宅に限らず、商業施設やギャラリー、オフィスなど様々な用途の建築物を手掛けている。

■斜めの線を引いて

まずはこの住まいの中で一際目を引く「壁」についてお話を伺っていこう。

部屋の対角線上に壁(以下「斜行壁」)が立っている。

伊原さん:一見しただけだと突飛に見えるこのプランは、一般的な “nLDK” の間取りに違う骨格を与えることで、限られた面積をより自由で快適に使うことができるのではないか、という発想で生まれたものなんです。

家って家具の配置だけでも結構プランが変わりますよね。この斜行壁は単なる壁というよりそういった家具のようなイメージで、場所ごとにそれぞれ違う役割を持たせているんです。

既存の間取りを微調整しながら、斜行壁(図中の赤い部分)を立ち上げた。

■動くパーテーション

それでは「斜行壁」が持つ役割について、部屋ごとに順を追って紹介していこう。まずLD〜オープンスペースに注目すると、壁が可動式であることに気づく。

壁が動くことで「視界のひらけたLD+おこもり感のある学習スペース」〜「LD+独立した子ども部屋」と間取りを調整できる造りになっているのだ。

伊原さん:リビング横のスペースは、初期の段階からお子さんのための場にしようという話がありました。

その上で家族の一日の動きや部屋の使い勝手などを考慮すると、適宜状況に合わせて使い分けのできる空間が適切だと考えたんです。

さらにカーテンを閉じれば、よりクローズドな空間に。「上の子の友達が泊まりに来た時なんかは、仕切って好きに使ってもらってます」とA.O.さん。

A.O.さん:その時々のモードによって壁の位置は変わりますね。子どもたちは、籠もって遊びたいか、キッチンにいる私を見ながら遊びたいかでパタパタ動かしてる印象です。

S.O.さん:4人で暮らしていると、それぞれ集中したいときもあれば、ちょっとイライラしちゃうときもあるじゃないですか。そんなときは閉じてしまったり、状況に応じて工夫して過ごせます。

あとは模様替えみたいな感覚で壁ごと動かせるのもいいですね。子どもたちが成長すると、それに合わせて家具の配置もどんどん変えたくなりますから。

斜行壁は光を柔らかく反射する光沢のある左官仕上げ。「壁が可動式なので、動きに耐えうる蝶番の強度や左官の精度を担保するのがなかなか難しいところでした」と振り返る伊原さん。

照明は時間帯に合わせて色温度を切り替えられる仕様。

■合理化された動線

続いて廊下に出ると、斜行壁には収納棚が造り付けられていた。ただの通り道ではなく、家事室としての側面を持つというこの空間。そこに込めた工夫や使い心地を伺ってみた。

ハンカチやティッシュ、マスク、エコバッグなど外出時の持ち物をまとめて収納している。フックにはいつも保育園バッグをかけているそう。

伊原さん:斜行壁を拠り所にどんな機能を置くか煮詰めていく中で、娘さんたちがよくハンカチを忘れるから靴を脱がずに使える範囲に収納をつくろうという話が出たんです。

A.O.さん:プラスでちょっとした作業台になっていることもポイントですね。ここでいつもアイロンをかけるんですけど、洗濯機から3歩、クローゼットはすぐ後ろの寝室という具合に、動線がコンパクトにまとまってて本当に便利なんです。

「姿見が奥行きをだしてくれるおかげで、ここで作業していてもあんまり窮屈じゃないんです」とA.O.さん。廊下の奥には洗面室・浴室が続く。

洗面台は造作したもの。DURAVIT社製の洗面ボウルは、S.O.さんお気に入りの逸品。

ちなみに洗面室・浴室には、整理収納アドバイザーの資格を持つA.O.さんならではの工夫が盛り込まれている。

左・乾燥機OKの洗濯物はその場で畳んで脇の引き出しへ、NGのものは浴室のポールにかけて乾燥と、ここでも動線は非常にコンパクト。/右・浴室はハーフユニットバス。壁面には石鹸類をハンギングできるバーを設けた。「カビにくい」「ボトルが傾いているため中身を最後まで使いやすい」と良いことづくめなのだそう。

■楽チンなキッチン

廊下から裏手に回ると、キッチンにたどり着く回遊性のある間取り。玄関からダイレクトにアクセスできるので、買い物した食材や日用品の収納がしやすい造りだ。

非常にスッキリとした印象のキッチンだが、これは斜行壁側に造った大容量の引き出しのおかげなんだそう。

キッチンは一見造作に見えるが、化粧材を張り替えた既製品。壁面はフラットで清掃性のよいガラス素材で仕上げている。

A.O.さん:前の家では “見せる収納” でかわいい感じにやってたんですけど、とにかく掃除が大変で……今回は掃除がしやすいように、なるべく出っ張りがなくて、ものが表に出ていないキッチンを目指しました。

もちろん引っ越す前に断捨離はだいぶしましたけど、キッチン用品は全部引き出しの中に収まっているんですよ。

油が飛びにくい斜行壁側にはキッチン家電が並ぶ。収納の天板は耐熱素材なので、調理作業も安心して行える。

玄関からキッチンを見る。目隠しのカーテンはテキスタイルデザイナーの安東陽子氏に特注したもの。

■家づくりを終えて

「斜行壁」を軸に様々な工夫が凝らされていたO邸。最後におふたりに、家づくりのアドバイスを伺ってみた。

A.O.さん:終の住処”として家づくりをしなかったことが良い方向に働いたと思いました。

そうじゃなかったら、何でもかんでも詰め込みたくなって、結局満足のいくものにならなかったと思うんですよ。

引っ越し前提でいま現在の暮らしをよくしようと考えると、注力するポイントって結構絞れますね。

S.O.さん:そうそう、例えば10項目で10点ずつ配点があったら、オール9でじゃなくて、9項目満点で90点を取ってる感覚ですね。

今回の場合は広さを諦めて、そのぶん内装や設備をがんばったのがよかった。洗面だったり、カーテンだったり、やっぱりコストをかけたところって気に入ってるんですよね。

リビングのカーテンは玄関と同じく、安東陽子氏デザインの特注品。オーガンジーと金属素材の二重構造のファブリックが光を美しく透過させる。「これはもはや家宝です(笑)」とS.O.さん。

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―――――物件概要―――――
〈所在地〉目黒区
〈居住者構成〉4人家族
〈間取り〉2LDK
〈面積〉62.3㎡
〈築年〉築20年(取材時)
――――――設計――――――
〈会社名〉TA+A / 東京アーキテクツアンドアソシエイツ