創刊30周年を迎えた『東京人』は、「都市を味わい、都市を批評し、都市を創る」をコンセプトに、毎月東京にまつわるワンテーマを深堀する “都会派総合誌” です。東京を切り口にした雑誌はたくさんありますが、そのディープな内容は唯一無二!
東京ラブな『カウカモマガジン』にとって、お手本にしたい先輩のような雑誌なのです。そこで今回の「TOKYO研究 #2」インタビューは、『東京人』編集長の高橋栄一さんに、東京の街がより楽しくなるお話をうかがいました。
■歴史との比較、内外との比較をしつつ、都市を批評することを目指す
—『東京人』では、都市を「味わう」だけでなく、「批評し」「創る」ところまでを目標にしているのですね。
批評するという点では、『東京人』はアメリカの雑誌『THE NEW YORKER』がお手本です。歴史との比較、内外との比較をしつつ、都市を批評することを目指しています。
—『THE NEW YORKER』といえば、旬の知識人が多数執筆している雑誌です。
ニューヨークと同じく、東京も、国中、世界中から人が集まる街。批評家、クリエイター、経済人、官僚、政治家など、さまざまな人たちが東京にいるから、圧倒的に多様な視点から街を語ることができるのです。そして、世界中のオーケストラも、美術展も、博物展も、東京にやってきます。これが東京のアドバンテージです。
■高層ビル街も、ノスタルジックな飲み屋横町も、どちらも東京ならではの風景
—たしかに日本で『THE NEW YORKER』と同じことをやろうとしたら、東京でしか成立しないかもしれません。都市ならではの多様性を反映しているから、『東京人』のラインナップはこんなに盛りだくさんで面白いんですね。
「六本木の歩き方」「神田EAST散歩」といった、街にフォーカスした特集に加え、「特撮と東京」「オリンピックと都市東京」「鍋でほっこり」など、カルチャーや建築、グルメなど多岐にわたる題材をピックアップし、東京の楽しみ方を提案されています。
高層ビル街も、ノスタルジックな飲み屋横町も、どちらも東京ならではの風景だと思うのです。また、老若男女、内外の人、それぞれの視点から見た、どの姿も東京のいち側面。
ですから『東京人』は、あえてターゲットを絞ることをせず、様々な層の人に向けてバラエティに富んだテーマを取りあげることにしています。
実は、1986年の雑誌創刊時、『東京人』は東京都がスポンサーだったとのこと。2002年からは都市出版が発行元になり、現在の体制になりましたが、広く東京にいる人= “東京人” に向かって発信していくというスタンスは変わらないそう。
■創刊時の編集長から伝わる方針は『馬鹿は考えるな』
—しかしこれだけ扱う内容が幅広いと、編集者には相当な知識量が求められますね。特集のアイデアは、どこから生まれるのでしょうか。
創刊時の編集長から伝わる方針は『馬鹿は考えるな』。それは、編集部が頭で考えるよりも、我々が面白いと思う人や、優秀な専門家に考えてもらった方が、よい内容になるということ。ですから特集をつくる際には、人のつながりや、出会いが要になります。もちろん本や雑誌を読んだりすることも大事ですが、それ以上に、多くの人のアイデアを聞きに行くことを大切にしています。
—なるほど。本や雑誌、そしてインターネットには情報があふれていますが、それらは既に世に出ているもの。まだ誰も知らない面白いものは、現実の出会いにしかないのかもしれません。
こんなことがありました。フランス文学者の鹿島茂さんが、「アウトローとは法律の外にいる人間。つまり法律の保護を受けない人間を言う」と、何かの席で語っていらしたんです。その定義が面白くて、雑誌の特集になると閃きました。
そこでできたのが2008年10月号の特集『アウトロー列伝』。鹿島茂さんと作家の佐藤優さんとの対談も、非常に印象に残った特集です。
—識者のふとした言葉から特集ができるなんて、ドラマチック! 『東京人』は作り手も、東京で暮らすことを楽しみながら編集されているように感じます。
■今後注目すべきは、グローバル企業と地元の活気が交わる街、赤坂
—2020年に開催される東京オリンピックに向けて、東京は急速に変貌していますが、『東京人』編集長として、今後注目すべき街をあげるとしたらどこでしょう? どのエリアに注目されているのでしょうか。
街として注目しているのは赤坂です。10年前、赤坂の氷川神社で、江戸末期から明治の始めに作られた、お祭りの山車(だし)に付ける人形が9体も発見されたんです。そこで貴重な人形を修復してお祭りで復活させる活動が始まり、それを機に町会が活発になりました。9月の15日から18日がお祭りなのですが、土地柄企業の方も参加し、若い人達も大勢集まって盛り上がっていますよ。
画像引用:特定非営利活動法人赤坂氷川山車保存会
—赤坂では地元の歴史を大切にし、再生させる活動も盛んなのですね。グローバル企業のオフィスも多く外国人が行き交う環境と、地元の活気との相互作用で、面白いムーブメントが起こりそうです。
オリンピックの再開発は、都市間競争に勝つためにも、必要なことだと思います。一方で新しいビルには同じような機能が求められるので、画一的になってしまいがち。しかし街のつくり手もそこは心得ていて、建物と同時に「物語」もつくろうとしています。
—物語、とは具体的にどういうことでしょう。
たとえば浅草、丸の内、日本橋、渋谷、池袋、成り立ちも性格もだいぶ違う街です。一斉に再開発が進み、東京の街同士が切磋琢磨する過程で、差別化のために個性を掘り起こすようになる。そうなるとドラマが必要だし、そのネタが歴史なのです。再開発を通して、逆に歴史性が強調されていくのは、面白い現象ですね。
—街にはドラマが必要だという点、とても共感します! 『東京人』は、度々歴史的なテーマを特集されています。創刊の30年前から、街の物語に注目していた雑誌だといえますね。
■編集長お気に入りの街は、年々変わり行く街、池袋
では、編集長としてではなく、高橋さん個人としてお聞かせください。お気に入りの街はありますか?
池袋ですね。住んでいるので一番馴染みが深いですし、年々変化があって楽しいですよ。
—池袋がホームタウンなんですね。お気に入りの街で、どんな過ごし方をされているのでしょうか。
散歩していることが多いですね。映画館もたくさんあるので、映画を見ることも。立教大学にもよく行きますよ。イベントやシンポジウムを聞きに行ったり、教会での結婚式の様子をボケっと眺めたり(笑)。他にも、目白庭園もあるし、雑司ヶ谷まで足を伸ばしてもいいし、見所が多い街です。
高橋さん流のお散歩は、モデルコースを想定しつつも、途中で道を変更したり、飲みに行ったりしてもOKな “きままさ” がポイントだそう。お散歩後の一杯は格別ですよね。
ちなみに、このエリアのオススメ散歩コースは、目白駅 → 徳川ハイツ → 目白の森 → 自由学園明日館 → 立教大学だそう。ぜひ実践してみてはいかがですか?
■『東京人』編集長が、お散歩途中に行きたい池袋エリアの呑みどころとは?
最後に、『東京人』編集長のおススメの飲み屋さんがぜひ知りたくて、お気に入りを教えていただきました♡
①手打うどん「立山」
うどんは締め。量は少なめで丁度いい。つまみは種類も豊富。店内に飾ってある、長嶋茂雄氏の引退セレモニーのスコアボードの投手に、オーナーの名前を見ると感激します。
公式サイト:http://www.teuchiudon-tateyama.com/index.html
食べログ:http://tabelog.com/tokyo/A1305/A130501/13068990/
画像引用:http://www.udon-repo.net/shop/692/content.html
②洋食屋「ウチョウテン」
開店以来、ずっとお世話になっている洋食屋。黒毛和牛のハンバーグが人気だが、メンチもコロッケもうまい。手ごろなワインも趣味がよく、行くたびに満足できる。
食べログ&画像引用:https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130501/13003914/
③しゃぶしゃぶ「兼久」
一人で行くことはないが、仲間と行くには最高。肉も旨いが、凝った和の前菜もいい。日本酒は少し高級だが、飲めば納得できる。個室が中心なので、ゆったり話をするのにうってつけ。
hotpepper&画像引用:https://www.hotpepper.jp/strJ001146190/
食べログ&画像引用:https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130502/13030300/
—ピックアップしていただいたお店から、しみじみとくつろいだ雰囲気が伝わります。
池袋の飲み屋のよいところは、誰も領収書を切っていないところ。みんな自腹で飲みにきています。
—なるほど。社用でなく、プライベートで楽しみたいお店なんですね。池袋は、肩の力を抜いて素顔で楽しめる街。お散歩ついでの一杯、今度やってみます!
古くから住む人だけでなく、昨日上京してきた人も、外国から訪れた旅人も、東京に居ればみんな “東京人”。さまざまな人を受け入れる、多面的な街をまるごと楽しもう!
『東京人』は、そんな思いがあふれる雑誌。東京好きなら、目が離せない存在ですね。
取材・文:蜂谷智子/撮影・編集:cowcamo編集部