中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。
今回取材させていただいたのは、カウカモマガジンで初となるタワーマンションのリノベーション事例。
足を踏み入れると、そこには木の温かみを感じる内装、そして高層階ならではの眺望を活かした空間が広がっていた。
迎え入れてくれたのは、ケンタロウさん・エリカさんご夫妻。おふたりは新宿駅近くの賃貸マンションにしばらくお住まいだったが、ケンタロウさんの通勤の都合で、タワーマンションの林立するベイエリアで住まい探しをはじめたそうだ。
エリカさん:また賃貸に住むことも考えたんですけど、家賃を払うよりも住宅ローンの返済の方が負担が少ないと思って買うことに決めたんです。
新築はちょっと予算に合わなかったので、築10年前後くらいのマンションを探してここを見つけました。
リビングのソファでくつろぐエリカさんとケンタロウさん。
こちらのマンションは築12年と比較的築浅。そのため当初はリノベーションの予定はなかったと話すおふたり。しかし既存の内装の古さや間取りの使い勝手が気になり、徐々にリノベーションへと傾いていったそうだ。
エリカさん:もともとひとつひとつの部屋が狭い2LDKの間取りで、部屋の引き戸を外してリビングとひと続きにしたらどうかみたいに話していたんです。
はじめから水回りや内装のリフォームは検討していたので、それだったら思い切ってリノベしてみようかなって。
左は設計者の齋藤 弦さん。大手ゼネコンで働く傍ら個人の建築プロジェクト「Strings Architecture」を立ち上げている。
そこで設計を相談した相手は、エリカさんの高校時代の友人である齋藤さんだった。なんでも齋藤さんとは大学の進路が決まった際に、将来家づくりを依頼する約束を交わした仲なんだとか。
エリカさん:それが本当に成就したっていうのは、いつも話す鉄板ネタで(笑)。
設計の内容は基本的にゲンちゃん(齋藤さん)にお任せで、「広いリビング」「ハンモック」「スクリーン」の3つだけ要望を伝えてお願いしました。
■眺望を最大化する間取りへ
既存のリビング。その隣には寝室とウォークインクローゼットがあった(提供:Strings Architecture)。
齋藤さん:まずこの物件を見て気になったのは、角部屋ならではの眺望を活かせていなかったことです。
この物件の良さは、キラキラした都会や運河、そしてヒューマンスケールな街並みというふたつの風景を楽しめることなので、それらを同時に見渡せるようなLDKをつくろうと思いました。
そこで齋藤さんは細切れになっていた間取りを大きく再編集。個室を取り払い二面に窓のある開放的な空間をつくりながら、「広いリビング」というオーダーにも応えたのだ。
リノベーション後の図面。
キッチンからリビングダイニングを見る。
もともと独立していたキッチンもこのリビングダイニングに面するように配置換え。既存の設備を活かしながら、コストパフォーマンス良く魅力的な空間を演出した。
齋藤さん:キッチンが景色を楽しめない位置にあったのももったいなかったんですよ。ただ配置を変えて新設するとなると100万円以上かかってしまうので、既存のシステムキッチンを再利用することにしました。
左・リノベーション前は個室になっていたキッチン。/右・施工中の様子。既存のシステムキッチンを90度回転させて配置した。ここに化粧板をつけることでガラッと真新しい印象になる(提供:Strings Architecture)。
システムキッチンを壁付にしたのは排煙のしやすさを考えてのこと。手前にカウンターをつくって “オープンキッチン風” の使い方ができるように設計されている。カウンターは新設だが、何も設備が入ってないため十数万円程度でつくれたそうだ。
エリカさん:バーっぽくて人が集まれる感じが気に入ってます。たまにわたしの母が来てここで料理教室を開いたりもするんですよ!
ケンタロウさん:設備としては新しく食洗機を入れたので、使い勝手もいいですね。
壁には名古屋モザイク工業の磁器質タイルを貼った。カーテンの奥は洗面と浴室に続く。
■バッファとしての土間
さて、続いて注目したいのはゆったりとした玄関土間だ。配管やコンクリート現しの柱・梁が見え、LDKと比べてややラフな設えとなっている。こちらはどのような意図で設計された空間なのだろうか?
齋藤さん:この物件に限ったことではないんですが、マンションって自分でカスタマイズできる余地のようなものが少ないと思うんです。
ある意味でそのアンチテーゼじゃないですけど、この土間は住まい手の自由な使い方を受け入れる懐の深い場所になればいいなと考えてつくりました。
洋服掛けやスーツケースを置くことは、もちろん僕がこうしてくださいと伝えたわけじゃないんですが、うまく使いこなしていただいているようでよかったです。
エリカさん:最初は『土間なんてつくったら部屋が狭くなるじゃん……』と思っていたんですけど、実際つかってみるとすごく便利で(笑)。
うちは来客が多いから広い玄関があるのは本当に助かりますし、物干しバーの使い勝手もいいです。アールのかかったデザインもお気に入りですね。
ケンタロウさん:通販で頼んだ水を積んでおけたり、あまり部屋の中に入れたくないゴルフバッグやスーツケースなんかもそのまま置けるのが楽でいいですよ。
左・框(かまち)には間接照明を仕込んだ。床はテラゾータイル。/右・物干し用の真鍮製のバーは、来客時のハンガーラックとしても活躍しているようだ。
齋藤さん:ちなみにコンセプチュアルな話をすると、この土間は “街と住空間の隙間” のようなものだと考えています。
ここに初めて訪れたとき、マンションが非常に利便性の高い立地にあるためか、街で活動してきたテンションをクールダウンさせる間もなく家に帰ってくるような印象を受けました。
せめて住空間に入る前にバッファとなる場を挟み込めないかと考えて、この空間構成が生まれたんです。
土間とLDKはカーテンで仕切ることができる。
■ここが難しい!タワマンリノベ
ところで、こちらのお住まいのような超高層マンションでは、11階以上の階にスプリンクラーを設置する義務が法律で定められていることをご存知だろうか。
こうした中低層マンションとの違いが、リノベーションにはどのような影響を及ぼすか聞いてみた。
齋藤さん:スプリンクラーが設置されている場合は、すべての床に水がかかる状態でないといけないので、まずそこが設計の制限になります。
今回は大きく間取りを変更したのでスプリンクラーを配管ごと動かしたかったんですが、このマンションはちょっと造りが特殊で配管を簡単に動かせない方式になっていたのも痛いところでした……。
なんとかデザインを変更することなく納められたんですが、かなり大変だったので、タワーマンションのリノベーションを考えている方は、まずはスプリンクラーがあること、そしてその方式がどうなっているかを気に留めておくことをおすすめします。
ちなみに施工は、消防局に通って行政のお墨付きをきちんともらった上で行っています。今回のように防災設備に手を加える場合、自分の家だけでなく建物全体の安全性を担保することも大切なんです。
部屋のいたるところにスプリンクラーが仕込まれている。
齋藤さん:もうひとつ気を付けたいのは、超高層の建物ゆえに構造部材の寸法が大きく目立ちやすいことですかね。元の状態は天井に大梁とダクトがボコボコと出ていて、見栄えがあまり良くなかったんです。
今回はダクトルートを引き直して、間接照明を仕込んだ “梁・ダクト隠し” を設けたので、比較的すっきりした天井を実現できたと思います。
天井の段差が目立つ改修前のリビング(提供:Strings Architecture)。
緩やかな曲線を描く “梁・ダクト隠し” がリビングを囲む。
■自宅で優雅なひとときを
窓辺にはおふたりのリクエストである「スクリーン」を内蔵。ホームパーティーの際には、ミュージックビデオを流したり、雰囲気を演出するのに一役買っているそうだ。
最後におふたりの今の暮らしぶりを伺って締めくくろう。
エリカさん:家がいい環境になると、こんなにも心穏やかに過ごせるのかと感激してます。これまでは気分転換でよくホテルステイしていたんですけど、今はうちにいればいいやって(笑)
ケンタロウさん:ハンモックもすごくいいですよ。もともと妻の要望だったんですが、僕の方が使いこなしてますね(笑)
運河を眺めながら、歯磨きをしたり、動画を見たり。夜にぼーっとするのもリラックスできます。
右提供:Strings Architecture
寝室。コンセントや照明の操作盤はベッドを想定したホテルライクな配置。ベッドはこれから探す予定なんだそう。
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―――――物件概要―――――
〈所在地〉中央区
〈居住者構成〉2人家族
〈間取り〉1LDK
〈面積〉55.36㎡
〈築年〉築12年(取材時)
――――――設計――――――
〈会社名〉齋藤弦/Strings Architecture
――――――施工――――――
〈会社名〉ルーヴィス
取材・文・撮影:本多 隼人