気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました!  第93弾は「東陽町」です。


「大手町」から東西線に乗って約9分、江東区のちょうど真ん中あたりに位置する「東陽町」。みなさんはどんな街だかご存知ですか?

正直に告白します。筆者は詳しく知りませんでした……(恥)ふたつ隣の「門前仲町」や「西葛西」のことは知ってはいたのですが……。いえ、知らないことは決して恥ずかしいことではないんです。 “街の先輩” にその魅力をしっかりと教えてもらいましょう。

「東陽町」駅のある「永代通り」にはオフィスビルが建ち並びます。

今回お話を伺うのは、ふんわり柔らかな生地が魅力のデニッシュパンを作る工場・直売店を営む「モンシェール」さんです。

つやつやのデニッシュパンは1斤1,000円(税込)。季節限定商品もたまにお目見えしますが、創業時からデニッシュパン1本にこだわります。

■町工場と直売店が一緒になった「モンシェール」

「東陽町」駅に降り立つと、パンを目がけて一直線に向かいます。

こんにちは〜!!

住宅街の一角にある工場の入り口をのぞくと、ムワッと広がる熱気と甘く柔らかな香りが。中には、巨大なオーブンがいくつもそびえていて、たくさんの職人さんたちが製パン作業にいそしんでいます。

オーブンを開ける瞬間、室温は一気に40度以上にもなるそう。

どうやらちょうどお昼の焼成タイムだったようです。焼き上がったデニッシュパンは次々オーブンから引き上げられ、型から「タンッ」と外されると、ほかほかな湯気をまとった艶やかな姿でご登場。

焼き上がったデニッシュたちが次々並べられていきます。ああ、至福の瞬間!

わあ、いい香り!今作っているパンはどんなお味なんですか?

高澤さん:これはプレーンですよ。全部で6種類あるんですが、一番人気の商品です。

ミルクをたっぷり入れているから甘い香りがするし、生地もほら。柔らかいでしょう?

と説明してくれるのは、本日の “街の先輩” である高澤さんです。

この贅沢な一品を眺めていると、危うく手が伸びていってしまいそうです……オーブンの横をふと見れば、デニッシュ生地を機械で伸ばしています。

折り機を使いながら、薄く丁寧に生地を伸ばし、幾重にも層を作っていきます。「生地は生き物」。その日の気温や湿度で具合が変わるため、実に繊細な手業が問われます。

高澤さん:デニッシュ生地は層が命!54層になるように生地を何度も折りたたんでいます。これが食感を良くする秘訣なんです。

最近になってこうした丁寧な作業をする店が増えてきましたけど、創業した当時、そこまでするのはうちくらいで。

価格帯はちょっと高めですが、その分材料にこだわって丹精込めて作っています!

歴史あるデニッシュパンの製造過程をながめ、感動する取材陣。そうこうしていると平日の昼間だというのに、「パン2斤ください」「4斤ください」と、次々にお客さんがやってきました。

■「東陽町」へと引っ越し

下町育ちの高澤さん、小さい頃からモンシェールのパンに親しんでいたといいます。

「モンシェール」さんは、 “東陽町の顔” とも言えるパン屋さんだと聞いています。いつからお店を始めたのですか?

高澤さん:実は始まりは「東陽町」ではなくて……1985年に京都の祇園で始めた「ボローニャ」というお店なんです。

それから「このデニッシュパンの美味しさをもっと広めたい」と代表が東京への進出を決め、今の場所で「モンシェール」に屋号を変えて製パン工場を開きました。

この街を選んだのは首都高速道路や湾岸道路、「東京」駅から近いという物流的なメリットからだと聞いています。

生まれは遠く離れた祇園の地だったんですね。現在「モンシェール」さんのパンを買えるのは「東陽町」と銀座の「博品館」だけだそうですが……

高澤さん:そうなんです。基本は卸をメインにしつつ、百貨店や駅ビルの催事なんかで販売をしています。

なので、最初は工場だけ。お店はやっていなかったんですよ。ところがここは住宅街のど真ん中、ご近所さんのなかで「何やらあそこはパンを作っているらしいぞ」と噂になったようでして……(笑)

いい匂いに誘われて、「あの〜一本パンを売ってくれませんか?」という人が続々訪ねてくるようになったんです。それからですね、ここが直売所になったのは。

わかります!これだけいい香りがするんですもの。一体どんなパンなんだって、そりゃあ気にもなります。

お店の周辺はマンションが点在する住宅街。ちなみに「東陽町」にはカウカモでも人気の高いヴィンテージマンション “秀和レジデンスシリーズ” が4つも建っているんです(左が「秀和東陽町レジデンス」、右が「秀和第3東陽町レジデンス」)。

高澤さん:最初はご近所の方が買ってくださっていたんですが、帰省やお出かけの時などにお土産としてお裾分けをしてくれていたようでして。ご近所さんを飛び越えて遠くの方にも認知されるようになっていきました。

お客さまの中にはお仕事で東京出張で来られた時に買いに来てくれる方もいらっしゃるんですよ。

匂いとともに、噂はすぐに全国各地へ広まったようですね!美味しさの持つ力って偉大です。

この日店頭で販売されていたのは定番の「つぶあん」。あんことふんわりやわらかなデニッシュは、抜群のペアです!

■街の人たちの声に応えたくて 

そんな、みんな大好き「モンシェール」は、なんと24時間営業だというのだから驚きです。

高澤さん:もともと卸をやっているから工場は夜間も営業しているんですよ。

昼勤夜勤と交代で凡そ20名のスタッフが働いています。こうして昼夜問わずやっていると、夜に買いに来てくれる人もいるんですね。

というか「夜しか来れないんだよ」って人も意外と多くて。そういうお客さまの声に応えるために24時間営業をはじめたんです。

深夜のパン屋さんって、何だか特別な響きです……

高澤さん:この辺りはオフィスが多いから、夕方から残業明けの23時すぎまで、会社帰りの方が明日の朝食を求めて買いに来てくださるんですよ。

そこからの時間帯は、この街一帯が本当に静かですね。お店の呼び出しベルがすごく遠くまで「チーン」と届くくらい。

真夜中になると訪れるのは、タクシーの運転手さんが多いですね。中には夜勤の仕事終わりに買いに来てくれる方もいらっしゃるんです。

かつては工業地帯として栄えていたという「東陽町」、現在は工場跡地に建ったオフィスやマンションが混在する街並みに。「竹中工務店」「大和証券」などなど、大手企業のオフィスをちらほら見かけました。

日が明けると訪れるのは、近所の方々。「朝ごはんを買いに」と自転車でフラーっと尋ねてくるそうです。

これだけ大人気だと、他にもお店を出したくなりませんか?やっぱりそこは「東陽町」という場所にこだわりがあるのでしょうか。

高澤さん:「東陽町といえばあのパン屋」というイメージをもっていただいてることも多いので、これからもこの街でやっていきたいですね。

それにあんまり店舗をたくさん作りすぎて、製品の質が下がってしまっては元も子もないですから。

■高澤さんの思う「東陽町」

ビジネス街としての顔を持つ「東陽町」駅周辺エリアには、老若男女多様な人たちが集います。

ところで、高澤さんはここに勤めて長いそうですね。働き始めてから今までで街の変化を感じることはありましたか?

高澤さん:私がここに来たのは16,17年前ですが、その頃からこの街が変わったイメージはあまりないですね。

街で見かける方々は、昔からサラリーマンの方が多い印象です。

あとは大きめのマンションが結構あるので、ファミリーもよく見かけます。そういえば最近は若い方が増えてきたような……

上・昼下がりの公園にはニューファミリー層のママと子どもたちの姿が。/下・街にはそんなファミリー層が多く住まうビッグコミュニティのマンションが点在します。

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ちなみにこの街の人たちは、どんなキャラクターなのでしょう?「門前仲町」が近いだけに、江戸っ子な感じがあったり……?

高澤さん:そうですねぇ……「てやんでえ!」というほどのガッチリ江戸っ子気質ではないですが、壁をつくらず話しかけてくれる方が多いような気がします。 基本的に明るくおおらかな印象ですね。

■周囲の街と交わって

高澤さん:そうそう「東陽町」って、周辺の街へのアクセスがすごくいいんですよ。バス便が多いですし、自転車を持っていると最高ですね!少し走ると「錦糸町」や「亀戸」にすぐ行けるんですよ。

隣町の「木場」や「南砂町」には大きなショッピングセンターや商店街もあるし、本当に小回りのきく街で!

左・「錦糸町」まで都営バスが常時運行しているため、JRへのアクセスも良好。自転車でも10分〜15分ほどの距離だそう!/右・ふと目に入った「地下鉄八号線(豊洲〜住吉間5.2km)」と書かれた看板。よくよく調べてみると、2030年代半ばに東京メトロ有楽町線「豊洲」駅から「東陽町」駅を経由し、「住吉」駅に至る路線の整備計画が動いているそうな。さらに街が便利になる予感!

上・「南砂町」にはショッピングセンター「SUNAMO(スナモ)」と、テレビでもよく取り上げられる「砂町銀座商店街」。/左下・「木場」の「イトーヨーカドー」は映画館を併設しています。/右下・「東陽町」付近でもしっかり大型スーパーが営業しています。

ちなみに駅からすぐ近くには「江東区立図書館」や「江東区役所」が。公共施設が充実しているのもこの街の強みです。

なるほど、確かに「東陽町」で暮らしたら周囲の街へフットワーク良くおでかけできて、便利に過ごせそうです!それでは最後に、高澤さんのおすすめのスポットを教えてください。

高澤さん:「木場公園」ですね。意外にこの街って川や緑といった自然を感じられる場所が多いのが魅力です。

根詰めていると、どうしても『パンのことを忘れたいな』って瞬間があるんですよ、そんな時に公園へ足を伸ばすと癒されますね。

上・左下・昼下がりの「木場公園」。ランニングに、バーベキューに、多様な年代の人たちが思い思いの時間を楽しんでいます。/右下・緑が生茂る「仙台堀川」のほとり。

高澤さん:お店をあげるとしたら、うちですよね(笑)

あとは……タンメンが有名な「トナリ」さんは僕のお気に入りかな。この辺りはビジネス街ということもあり、ご飯屋さんや居酒屋さんが意外とあるんです。

左・高澤さんのおすすめ「トナリ 東陽町本店」。お昼時には行列ができるのだとか。/右・オフィスの集まる「永代通り」周辺には居酒屋さんもちらほら。

「すごく暮らしやすい街だと思うので、読者のみなさんもぜひ一度いらしてみてください」と締め括ってくれた高澤さん。いつどんな時でも、訪れる人を優しく受け止める「モンシェール」は、あなたが尋ねてくれるのを楽しみにしています。

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【INFOMATION】
店名:モンシェール 東陽町工場
アクセス:東京都江東区東陽5丁目24-10 (google map
営業時間:24時間営業
定休日:なし