気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第11弾は「三軒茶屋」です。
渋谷まで田園都市線の急行でひと駅、雑誌でも度々特集される三軒茶屋は、「サードウェーブコーヒー」など、常に新しい流行や独自の文化が発信される街。
そんな三軒茶屋に、また新たな流行を生み出しそうなお店ができました。その名も「東京茶寮」。バリスタが日本茶をハンドドリップする、新しいタイプの煎茶専門店です。次の時代の流行を生み出す、三軒茶屋という街のエネルギーについて、店主の青柳智士さんと谷本幹人さんに聞きました。
■サードウェーブ、ミーツ、茶
「東京茶寮」がオープンしたのは2017年1月。洗練された内装と、煎茶のハンドドリップというコンセプトの新しさで話題になりました。老舗の日本茶屋さんの新業態かと思いきや、実は運営をしているのはデザイン会社。以前から豆の生産地や管理、提供方法にこだわりを持った「サードウェーブコーヒー」を展開しており、その発展系の新事業として、煎茶の分野に進出しました。
青柳さん:日本茶の楽しみ方って、まだ発掘されていない多くの可能性を秘めていると思うのです。みなさん日常的にペットボトルのお茶に親しんでいますよね。そして茶道のようなハイカルチャーもある。ところが、その中間を行くスタイルがまだありませんでした。
「サードウェーブコーヒー」という現在のトレンドを吸収したうえで、日本古来の煎茶文化へと応用する。この、新しく、洗練された発想が、三軒茶屋の雰囲気にしっくりと馴染みます。
■生産者をリスペクトする「新たな飲料文化」を
「東京茶寮」の煎茶の提供の仕方はとてもユニーク。煎茶2種飲み比べのメニューでは、「産地」や「品種」の異なる煎茶を2種選び、温度などの異なる淹れ方で味わうことで、風味や香りのバリエーションを楽しむのです。
谷本さん: 生産地を限定したシングルオリジン茶葉や、ハンドドリップで提供する方法は、サードウェーブコーヒーにインスパイアされています。コーヒーの生産者ははるか遠方ですが、日本茶に関しては国内に素晴らしい生産者がいる。その人々をリスペクトした新たな飲料文化が築けないかと思いました。そこで考えたのが煎茶のハンドドリップ。他に類のない提供方法なので、茶器から全てデザインしたんですよ。
お茶を淹れていただくと、種類やお湯の温度によって全く違う香りがふわーっと漂います。特筆すべきはハンドドリップする所作の美しさ。コンパクトながら茶室を思わせる静謐な空間で、丁寧に淹れられたお茶をいただいていると、忙しい日常から少しだけ離れて、気分をリセットできそうです。
■三軒茶屋は「若者が新しいことに挑戦できる街」
「サードウェーブコーヒー」と「お茶」を組み合わせ、斬新な文化を発信している同店。青柳さんは、三軒茶屋は「若い店主がやりたいことをやれる」場所だと、この街の魅力を語ります。
青柳さん:三軒茶屋には、僕らのような比較的年齢が若い店主が自分のやりたいことをやれる余地があるんです。駅から少しだけ離れれば、地価も比較的リーズナブル。それでいてその店に尖った感性があれば、多くの人が訪ねてきてくれます。近所には僕と同年代の30歳代後半の店主が多いですね。谷本はまだ26歳なので、店主としてはかなり若手ですが。そんな彼も受け入れてくれる懐の深さがあります。
確かに「カフェマメヒコ」や「Cafe Obscura (カフェオブスキュラ)」など、三軒茶屋発祥で今やメインストリームを担っているカフェ文化の中心には、若くしてこの地に店を構えた店主がいました。独特のカフェ文化が根付く三軒茶屋は、出店するのに最適な場所だったと谷本さんは話します。
谷本さん:出店にあたって、いろいろな街をリサーチしたのです。たとえばサードウェーブ系のカフェの出店が相次ぐ清澄白河なども候補に上がりました。清澄白河は、倉庫のような広々とした空間が特徴のラフな雰囲気。結局僕らが提供する煎茶のスタイルには合わないと考えました。三軒茶屋は、もう少しこぢんまりとして洗練されたイメージなんです。
三軒茶屋の駅前は「世田谷パブリックシアター」、「シアタートラム」といった文化施設や、昭和を感じさせる路地裏の飲屋街などがパッチワークのようにひしめいています。ところが駅前から5分も歩けば、住宅街のなかに個性的なお店が点在する、落ち着いた街並みが見えてきます。「東京茶寮」も、そんな駅前の賑わいから少しだけ離れた場所に店を構えています。
青柳さん:高架道路が空を覆う国道246号線から明薬通りに入ったときの、途端に景色がひらける感じが好きなんです。いかにも都心という雰囲気から、道を一本入るだけで、こんなに違う。そのコントラストがよいんですよね。
三軒茶屋は、東は三宿、西は駒沢大学、南は学芸大学、北は下北沢と、それぞれ雰囲気が違う街に隣接しています。街と街の距離が近いので、駅から離れても郊外的な雰囲気にはならずに、ゆるやかに次の街に接続してゆくのです。グラデーションを描きながらどこまでも続く街のつくりが、三軒茶屋ならではのゆったりとしつつ都会的な空気感を醸しだしているのかもしれません。
■住人と訪問者、古さと新しさ、老若男女。全てがちょうど良いバランス
文化を発信するトレンドタウンとしての印象が強い三軒茶屋ですが、駅前だけでもスーパーが3軒あり、世田谷公園や駒沢公園にも近いという、暮らしやすい街としての側面もあります。
谷本さん:三軒茶屋はバランスがよい街です。老舗もありつつ、常に新しいお店ができて街をアップデートしている。地元のお客さんも、遠方から情報媒体を見てやってくるお客さんもいる。街を行き交う年齢層も幅広く、多様性があります。
駅前には「三角地帯」と呼ばれる飲み屋街など庶民的なお店も多く、そんなこの街の多様性が楽しいのだと、青柳さんは話します。
青柳さん:僕が個人的に大好きな「Detroit Meat Choppers(デトロイトミートチョッパーズ)」は、元々タイヤのメーカーに勤めていた方がオーナー。カウンター越しのお客さんとの距離感が絶妙で、自分の仕事の参考にもなります。また三角地帯などにある庶民派の飲み屋を開拓するのも楽しくて、小さなスナックも含めてかなり行っています。ちなみに僕らの忘年会で行った居酒屋は「ちさとちゃん」。狭くて煙がもくもくする店内に男2人でぎゅうぎゅうに座って飲みましたね。
■「全てが均一に新しい街になるのはつまらない」
しかし、その三角地帯の一部分は今後、再開発で取り壊されることが決まっています。
青柳さん:好むと好まざるとにかかわらず、三軒茶屋はさらに洗練された、キレイな街になってゆくのでしょう。でも全てが均一に新しい街になるのはつまらないような気がします。新旧のバランス感覚を大切に、その時代ならではの「三茶らしさ」を作っていけたらよいのではないでしょうか。
歴史ある商店が多くあると同時に、常に若く新しい「何か」が生まれる街、三軒茶屋。この特性が今後も息づいていくかどうかは、この街のルーツを愛し、それをアップデートする「東京茶寮」のような試みが積み重ねられていくことに、かかっているのではないでしょうか。
<東京茶寮> 世界初のハンドドリップ日本茶専門店
住所:東京都世田谷区上馬1丁目34−15
営業時間:平日 13:00 ~ 20:00 / 土日祝 11:00 ~ 20:00
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日休み)
ウェブサイト:http://www.tokyosaryo.jp/
>Newコーナースタート! 【カウカモNIGHT!! -三軒茶屋編-】
東京に暮らすなら、街の「夜の表情」も気になるところ。カウカモ編集部が夜の街にダイブして、その街に暮らす人々に突撃インタビュー! ぜひ一緒に散歩している感覚で記事を読んでみてください。きっと “この街” を身近に感じられるようになりますよ。
取材・文:蜂谷智子/撮影:cowcamo編集部/編集:THE EAST TIMES・cowcamo編集部