気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第26弾は「都立大学」です。
渋谷まで東急東横線で11分という都心に位置しながら、落ち着いていてアカデミックな香りの残る街、都立大学。この街が今、若い子育て世代を中心に人気を集めているといいます。都立大がファミリーに支持される理由は何なのでしょうか? 街の子育て世代が通う「ニジノ絵本屋」の代表・いしいあやさんに、そのヒミツをうかがいました。
■人と人のご縁をつなげる、地元密着型の小さな絵本屋さん
幼児教室や小児科があるビルの一角にある「ニジノ絵本屋」は2坪ほどの絵本屋さん。代表のいしいさんは2010年にひょんなことからこの小さなスペースを借りることになり、絵本屋さんを始めたといいます。
「この場所で何ができるだろう」と考えて、始めたのが絵本屋さん。都立大学はファミリーが多く住む街ですし、お店の隣は小児科の病院と薬局なので、ぴったりだと思いました。元々絵本を描いているアーティストの友人が多かったので、作り手と読み手をつなぐお店になればと思ったのです。
「ニジノ絵本屋」が扱う絵本は、他では手に入りにくい個性的な作品ばかり。スペースが小さく、一度に置ける絵本が少ない小さな空間だからこそ、お店に置く絵本を選ぶセンスが光ります。
大手書店で手に入るような有名な本は、あえて扱わないようにしています。また、お店のお客さんを子どもだけに限定することもありません。「クオリティが高く、しかもここでしか買えないものを」というのが、絵本を選ぶ基準。地元の作家とコラボレーションした、オリジナル絵本も出版しているんですよ。ちょっと特別な絵本を目当てに、年齢性別に関わらず、幅広い層のお客さんに来ていただいています。
■余裕と情熱を持って教育に取り組む。そんな今どきファミリーが選ぶ街
東急東横線の「都立大学駅」は、1991年に八王子に移転するまで立地していた東京都立大学(現・首都大学東京)から取られた駅名。キャンパスの跡地にある「めぐろ区民キャンパス」は図書館や音楽ホールなどの文化施設やおしゃれなレストランのある憩いの場となっています。駅の周辺には「トキワ松学園」や「桜修館中等教育学校」「八雲学園」などがあり、学生の多い街。塾も多く、子どもの教育に熱心な人が多いのだとか。
お客さんでもお子さんのいる方は、しっかりと教育に取り組んでいるようです。でもいわゆる教育ママという言葉から連想するような、行き過ぎた雰囲気の人は少ないですね。この街の人は教育だけでなく暮らし全般に関心が高くて、余裕があるんです。
いしいさんはこの街で過ごす中で、「父親が子育てに積極的な街」という印象を持つようになったそう。
お客さんには子ども連れのパパも多いです。近所の保育園で仕事をしていたときには、パパだけの絵本サークルがありました。子どもと楽しむ絵本を持ち寄って、情報交換する会だそうです。そういうサークルがあることも、都立大学らしいところだと思います。
ママ任せにせず、子育てや教育も夫婦で協力して取り組めば、日々の生活に余裕が生まれそうですよね。そんな意識の高い家族に選ばれるのが、落ち着いていて文化的な都立大学の街なのかもしれません。
■人と人との出会いが新しい活動を生み出す街
「ニジノ絵本屋」は書店であるだけではなく、出版や、読み聞かせなどのイベント企画も開催しています。出版は地元イラストレーターとの、イベントは都立大学と同じく東急東横線沿いの中目黒在住のピアニストとのコラボレーションから発展したそう。人と人がローカルでつながり、新たな活動が生まれていくのが、都立大学らしいところなのかもしれません。
私は個人的に都立大学という街に深い縁を感じているんです。なんと、私の両親が新婚の頃に住んでいたのが、この街でした。そんなことは全然知らなかったので、事実を知ってびっくり。運命的なものを感じました。今では住まいも都立大学に引っ越してきて、職住近接です。
都立大学と深いつながりのあるいしいさん自身が、新たな出会いを引き寄せて活動の幅を広げている「ニジノ絵本屋」。実はまた新しい縁があって、お店の引っ越しされたそうです。新しいお店も、もちろん都立大学。駅から徒歩3分の場所にある平町1丁目の新店舗は、2017年4月27日に開店しました。
■外ではバリバリ、地元ではゆったり。この街に似合うのは、上質な普段着
いしいさんは、地方での読み聞かせイベントの開催や、海外の絵本展示会への出張などで、街を離れて飛び回っていることも多いそう。その分、都立大学に戻ったときは、地元に密着したお店で、安らぐ時間を過ごしているといいます。
私「Hibusuma(ヒブスマ)」という中華点心のお店が大好きなんです。小籠包がとてもおいしいですよ。あとは老舗和菓子屋さん「ちもと」の名物の「八雲もち」も、昼には売り切れてしまうくらい人気ですね。私がよく行くのは、職場の「ニジノ絵本屋」近くのお店が多いんです。住まいも近くなので、通勤途中に近くのお店の人同士で挨拶したりする、アットホームな関係。そんなふうに、普段着の感覚で通えて、でもしっかりとこだわりのあるお店が、都立大学には多いですね。
芸能人や会社経営者も住まいに選ぶことが多い都立大学。外で忙しく働いている分、オフは日常を大切にできるこの街で、英気を養っているのでしょう。
■2020年、使えるものは直しながら、よいものを受け継いでいく
東京五輪が開かれる2020年に向け街も少しずつ変わっていきますが、いしいさんは古きよきものを大切にする街であってほしい、と話します。
都立大学には、昔の家や街並みが残っています。私の住まいも築50年の古いアパートですが、今ではぜったいに作れない加工の窓ガラスが使われていたりするのです。時間が経てば街が新しくなっていくのは必然ですが、古いものを修繕しながら、受け継いで行くことも大切にしたいですね。
都立大学は積み重ねられた日常が、洗練の風情を醸し出す街。暮らしを慈しむ感性を持つ人が街を住み継ぐことによって、この先もそのよさが守られていくでしょう。
<ニジノ絵本屋>
住所:東京都目黒区平町1-23-20
営業日:10:00 – 19:00
ウェブサイト:http://nijinoehonya.com/
(※ 7月より定休日・営業時間ともに変更予定あり。詳細はHPにて確認を)
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取材・文:蜂谷智子/撮影:cowcamo編集部/編集:THE EAST TIMES・cowcamo編集部