気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第27弾は「成城学園前」です。


芸能人、文化人が居を構えることで知られ、桜並木が美しい高級住宅地、成城学園前。ここ「成城アルプス」はこの街を代表する老舗洋菓子店。創業以来、変わらないバタークリームのケーキは、根強いファンがいることでも有名で、子どもに限らず「お誕生日にはアルプスのケーキが欠かせない」という声も少なくありません。誕生日はもちろん、引き出物や手土産、お茶の時間はアルプスのケーキで、“ちょっと特別” に演出するのが、成城流。今回は、幅広い世代が集う学園都市、成城学園前で半世紀に渡り愛され続ける「成城アルプス」のシェフを訪ねます。

◼︎ “ケーキはひとりで作れません” 伝統と革新の味と誇り

ケーキは奥のアトリエで作られ、常にフレッシュな状態で店頭へ。

ずらりと並ぶ色とりどりのケーキの中で、おすすめの一品を聞くと「全てです」とにっこり。笑顔に自信を滲ませるのは、シェフパティシエの太田秀樹さん。

店には僕の好きなものしか置きません。そのためにも、日々、技術も感性も磨き続けなければいけませんね。ただ僕はあくまでも裏方のひとり。お客様に喜んでいただくには、綿密な下準備も、丁寧な仕上げも、接客も全部が大事なんです。ケーキはひとりでは作れません。ケーキの美味しさというのは、結局トータルなものですから。

成城アルプスの店内の様子。気品のある空間。

ケーキの味はシェフの感性が出発点。とは言え、行き着くところは、ケーキを目にした時や場所、口にした瞬間のときめきや懐かしさ、ケーキが演出する笑顔や涙があってこその美味しさだというのは、きっと誰もが頷けるところではないでしょうか。

先輩方の作ってくださった綺麗なケーキを、きちんと心を込めてお届けするのが私の役目です。お客様との関わりが大きなやりがいになっています。

そう話すのは、店頭スタッフのひとり、米倉さん。ケーキの世界に飛び込んで4年目、職人技が光る完成品を店頭に並べる時には「いつか自分の手で!」とケーキへの熱い想いが込み上げてくると話しながら、50年の歴史薫るクラシカルなカウンターの向こうで、優雅にそしてテキパキと手を動かす姿が印象的でした。

■成城の “ちょっと特別” に寄り添い続けて50年

「成城アルプス」の店名は、太田さんのお父様の田舎、長野県から見える日本アルプスにちなんだもの。ケーキ屋の息子として成城で育ち、フランス、スイスで修行を積んで、お父様の跡を継いでシェフに就任したのがおよそ20年前のこと。

子供の頃、夏休みの度に訪れた田舎の家の窓の外に、いつもアルプスの山々があったように、物心ついた頃から、家の冷蔵庫を開ければ当たり前にケーキがあったそう。太田さんにとって、パティシエになったのは、ごく自然な流れだったと言います。

そんな太田さんは、1965年から続く伝統の味を守りたいとおっしゃいます。

洋菓子は和菓子と違って、時代によって変わっています。どんどん、古くなってしまうんです。例えば、先代の時代にはバタークリームが主流でしたが、今は圧倒的に生クリームを使うケーキが多いですよね。だからと言って、うちのバタークリームのケーキを変えるつもりはありません。厳選した材料が必要になるものなのですが、あのコクと口どけは格別だと言ってくださるお客様の声に応え続けていきたいと思っていますから。

流行の波を乗り越え、創業以来50年以上も愛されてきたバタークリームのケーキの味は、目も舌も肥えた成城のお客様のニーズによって支えられたもののようです。

▲成城アルプスを代表する一品「モカロール」。Mサイズ1,700円、Lサイズ2,600円。

店内に併設されたサロンでは、成城の住人と呼ぶにふさわしい、マダムや紳士、著名人が優雅に寛ぐ姿が。

左: 商店街や小田急線の車内では、成城学園の創立100周年を祝うポスターがあちこちに。学園100周年オフィシャルサイトを覗くと、コンサートやシンポジウム、公開講演など地域に開かれたイベントが目白押し。/右上:新宿まで小田急線急行で15分の場所とは思えない、車にも人にも優しいゆったりとした道路。/左下:イチョウ並木も成城を語る上では欠かせない街のシンボル。

■雰囲気はそのままに、成城の2020年は・・・?

太田さんは、成城の魅力を緑が多く暮らしやすいところだと言います。所々、変わってはいるものの、ゆったりとした雰囲気は子供の頃のままだとか。

隣のアトリエの弟子達の手元を、時折、真剣な眼差しでチェックしていた太田さん。厳しい修行時代の功績を物語るトロフィーが所狭しと置かれた事務所にて。

変わったところと言えば・・・昔は家が1軒あった区画に、今は4軒建っていることですかね(笑)。もちろん、御屋敷もたくさんありますけどね。それだけ、若い人が増えたのかもしれませんね。

バタークリームの伝統を守る一方で、新作も手がける太田さん。この街の小さな変化をシェフならではの感性で嗅ぎ取っているようです。

2003年には成城アルプスの姉妹店である「プレリアル成城」がオープン。こちらで提供するケーキは、味の層を複雑にせずに、洋酒は控えて、若い世代にも馴染みのある優しい味わいを意識しているそうです。   

2006年に開業した駅ビル「成城コルティ」は、光と緑に溢れ風が吹き抜ける空間。レストラン、カフェ、雑貨屋に加えて、子育てステーションや小児科を備えている。

駅から住宅街に続く道路は舗装され、幅広く、ベビーカーでも通りやすい。

成城といえば、成城石井! もともとは果物店だったのが、スーパーマーケットに業態転換、その後、他店舗展開を開始したそう。

成城学園前の改札を出れば駅ビル「成城コルティ」でママたちが元気にベビーカーを押し、スーパーマーケット成城石井の近くでは、学生たちが賑やかに人の波を作っています。成城の2020年、さらには次の100年は、この若い活力によって支えられることでしょう。

その頃もきっと、木漏れ日がレースのような影を落とす「成城アルプス」の一帯では、ケーキの焼き上がりを知らせる薫りが立ち込めて、“ちょっと特別”なひと時を、街行く人に予感させているに違いありません。

成城アルプス
住所:東京都世田谷区成城6-8-1
tel :03-3482-2807
営業時間:9:00〜20:00
定休日:火曜日
ウェブサイト:http://www.seijo-alpes.com/

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