気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第18弾は「泉岳寺」です。
都営地下鉄浅草線の泉岳寺駅があるのは、第一京浜沿い、道路の海側にはすぐに山手線、京浜東北線、新幹線の線路があり、このあたりに山手線の新駅ができる予定になっています。今まさに新しい街ができようとしている注目のエリアですが、第一京浜から山側には、駅名の由来になった江戸時代からの古刹・泉岳寺があり、その脇の細くて曲がりくねった路地を上ると旧高松宮邸がある古い街が広がっています。そして、その脇に大福好きなら知らぬ人はいない大正7年創業の老舗和菓子屋・松島屋があります。
■老舗和菓子屋に感じる上質さと下町情緒
昔はここが東宮御所で、その向こうも黒塀のお屋敷が並んでいました。創業は大正7年ですが、皇太子時代の昭和天皇陛下が甘党だったみたいで、たまたまうちの豆大福を食べていただいたことがあったようです。その後高松宮様がお住まいになって、高松宮様もご近所を大事にしてくださる方だったので、陳情に来る人なんかにあの店は小さいけど頑張ってるから帰りに買ってってやれって宣伝してくれたようなんです、ありがたいことに。
こう話すのは、泉岳寺に通じる細い路地の存在も教えてくれた松島屋の三代目主人文屋宏さん。子ども時代は高松宮邸で虫を取ったり、自転車を乗り回していたりもしたそう。しかし、今から40年くらい前からマンションが建ち始め、高松宮邸も一部がマンションや都営住宅に変わりました。
大きな家は維持できなくなったのか、次々とマンションになっていきました。でも街の全体的な雰囲気は子どもの頃から変わってないですよ。通りからちょっと入ると細い路地があったりして、下町情緒みたいなものも感じられます。うちの横の路地なんて、オヤジが小さいときから変わってないって言ってたから、100年近く変わってないんじゃないですかね。
大福を丸めながらそう話してくれた文屋さん。松島屋さんのお店も、昔ながらの情緒を残した、本当に東京の下町にありそうなお店。お菓子も手作りにこだわり、その日作ったものは全てその日に売りつくすのだとか。
朝生菓子って言って上生菓子とは違って朝作るお菓子ばかりなので、5時前くらいから作り始めて大福は1日1000個くらい。このやり方でやっていこうと思ったらそれくらいが限界で、だからお客さんもこれ以上いらないと思ってしまいます。自分たちの生活スタイルを変えたくないですから。
この日いただいたできたての豆大福は、ほんのり温かくて本当に美味しかったです。上質なお菓子と親しみやすい店構えから、松島屋さんは高級住宅街と下町情緒の両面を持つ泉岳寺そのままのお店だと感じました。
■第一京浜を境に、目まぐるしい変化と昔ながらの雰囲気が、隣り合って同居
生活スタイルを変えたくないということは、新駅誕生で街が変わっていくことに否定的なのかと聞いてみると、そうではないという答えが返ってきました。
便利になるなら、それはそれで利用すればいいと思います。ただ、昔のよさを残す方向でまちづくりを考えてもらいたいなとは思います。色気のない街にするんじゃなくて、ホッとできるような昔ながらの雰囲気も残して欲しい。昔の雰囲気を残して、どんどん便利になっていくなら、最高じゃないですか。
昔ながらの雰囲気を残しつつ、便利になっていくならむしろ歓迎だという意見は、少しずつ変わってきた街を見続けてきた文屋さんならではという感じがします。
実際に、新駅開発が行われている山手線沿いに行ってみると、平らな広い土地で工事が始まっていました。第一京浜から海側の土地が平らなのは、実はこの土地が埋立地だからです。江戸時代には、第一京浜が海岸線で、この道路より外側は海でした。歌川広重が東都三十六景や諸国名所百景の「高輪海岸」はこのあたりを描いたものと言われ、道沿いには、江戸時代のものと言われる「高輪海岸の石垣石」が残っています。
歩いてみて感じたのは、第一京浜を境に、新しく目まぐるしく変化する土地と、歴史がありゆっくりと変化する土地があるのが泉岳寺だということでした。道路を境に街の雰囲気がガラリと変わるのです。
松島屋に戻って、海側を見下ろすとオフィスビルや高層マンションの姿が見えます。便利な新駅から坂を上って下町情緒あふれる街に戻り、昔から変わらないお菓子を買う。数年後にはそんな生活が泉岳寺で送れるようになるはずです。
<松島屋>
住所:東京都港区高輪1丁目5−25
電話番号:03-3441-0539
営業時間:9:30-18:00
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