完成のイメージを「デザイン・ハンティング」で固める
もともとの部屋はごく一般的な1DK。その内装をすべて取り壊し、何もないスケルトンの状態にした後、新たな空間をつくり上げました。
プランは、間仕切り壁をあえて設けず、窓の開放感を生かしたワンルームに。
室内には、コンクリート打放しの壁面と墨で黒く着色したモルタルの床、装飾をそぎ落としたステンレスのキッチンカウンターといったクールな要素に、無垢のフローリングや、壁や天井の一部に施された植物のような柄など、有機的であたたかみある要素が組み合わされています。
カッコイイ、だけど肩の力が抜けていて、居心地がいい空間。
ある方向へ一辺倒というような、極端なものは好きじゃない。ほどほどがいいと思う。だから、クールな要素とあたたかみのある要素、ふたつの正反対の要素を取り入れました。
特に強い個性を放っているのは、部屋の奥行きいっぱいに伸びるバーさながらのステンレス製カウンターと、部屋にオープンに開かれたバスルーム。
リビングスペースから眺めると、黒い壁を背景に、バスタブとシャワーブースがアートのように浮かび上がります。
以前、海外に行った時に泊まったホテルで、バスタブが部屋の中に置いてあったのがセクシーで印象的だったんです。設計の際、城戸さんと田中さんに、具体的にお願いしていたことのひとつでした。
デザイン性にこだわり、生活のしやすさにも熟慮されたリノベーション。
これだけ完成度の高い空間をスムーズに実現できたわけは、具体的なイメージをできる限り明確に設計者に伝えたから。Mさんは、好みの空間や建物を"デザイン・ハンティング"して、それらの写真を設計チームに渡しました。
この物件に出会うまでの1年半ほどの間に、国内外にあるいくつかのブティックホテルに泊まってみたんです。そこで、気に入った部屋のワンコーナーやパーツなど、空間づくりの参考になりそうな部分をたくさん撮っておきました。
たとえば、リビングから見えるようにバスタブを置いてあるのは、世界中で展開している著名なブティックホテル「W」の部屋がヒントになりました。室内に間仕切り壁を設けずに、床に段差をつけて視覚的にゾーニングしたのは、福岡の「WITH THE FUKUOKA」を参考に。バルコニーにウッドデッキを敷くのは、スペインのバルセロナにある「H1898」がイメージソースでした。
また、設計の際には、城戸さんと田中さんに当時住んでいた家も見てもらったそう。
使っている家具やカーテン、雑貨、そういったもののコーディネートを見てもらったほうが自分の好みが伝わりやすいだろうと思って。言葉だけでは、なかなか伝えにくいですからね。
私たちcowcamo取材チームがお伺いした時は、Mさんがこの部屋で暮らし始めて3か月が過ぎたころ。
中古リノベーションをしようと思い立ってから実現するまでに、2年近くいろいろなことを考え続けたせいか、もうすでに住まいに愛着が湧いています。
もともと人が集まるような空間にしたかったのですが、すでに何回か同僚や友人を招いてホームパーティーをしました。
今後はウッドデッキを敷いたバルコニーにソファを置いて、そこでも友人たちとくつろげるようにしたい。もっともっと、自分の理想のイメージに近づけていきたいと思っています。
ただやみくもに物件を探すのではなく、売却や賃貸など将来の運用のビジョンを固めた上で、戦略的に物件を探す。それは暮らし方が変化しやすいシングルだけでなく、若いカップルやファミリーの住宅購入の参考にもなりそうです。
特に、資産価値や賃貸ニーズの落ちにくい都心の好ロケーションにある物件を狙えるのは、シングルの住宅購入の利点と言えるかもしれません。
賃貸でなかなか暮らしに合う部屋がない、と不満をお持ちのシングルの方は、ぜひMさんの戦略的中古リノベーションを参考に。ひとり暮らしがぐっと豊かに、ずっと楽しくなること間違いなしかも?
プロデュース:スマサガ不動産株式会社
設計:スマサガ不動産 城戸輝哉+G architects studio 田中亮平
取材・文:介川亜紀/撮影:cowcamo