突然ですがみなさん、お料理にはどんな塩を使っていますか?

「いつも同じ、1種類の塩しか使っていない」とか、「特にこだわっていない」という方も少なくないのではないでしょうか。

一口に塩と言っても、実は味も香りも色もさまざま。現在、日本国内だけでも、なんと2,500種類ほどが出回っているのだとか。

お料理の基本中の基本である塩ですが、バラエティ豊かな塩の中から数種類を揃えて、食材や気分、体調によって使い分けてみると、味の幅がぐんと広がるんです。

そんな塩の魅力にとりつかれ、2014年末に塩専門店をオープンしたのが、ソルトコーディネーターの田中園子さんです。

戸越銀座商店街の東端にある田中さんのお店、「solco」におじゃまして、塩の魅力をたっぷり伺ってきました!

まるで青山にある高級化粧品のショップみたい!

八百屋にお肉屋、お魚屋、お惣菜屋・・・。さまざまなお店が軒を連ね、賑わいを見せている戸越銀座商店街。駅から東に進んでいくと、長い商店街の端に、黒を基調としたとってもスタイリッシュなお店が現れます。

整然と並べられたガラスのボトル、黒のカウンター、モルタルの床、奥には大きな鏡。一瞬、海外の高級化粧品のお店かと思ってしまいましたが、外には「塩」と書かれた懐かしいホーローの看板が。

庶民的なお店が立ち並ぶ戸越銀座で、周囲とはまったく異なった存在感を放つsolco。レトロモダンな内装は、 Jimi Claude Officeの岡本健さんの設計。塩の色や形が映えるよう、店内は黒を基調に、というのも岡本さんのアイディアとのこと。

オーナーの田中さんは、理系の大学院を卒業し、製薬会社で新薬の開発に従事されていたバリバリの "リケジョ" 。でも、塩との出会いはプライベートで宮城県石巻市に旅行したことがきっかけだったといいます。

2013年の7月に、石巻市に旅行に行きました。東日本大震災の発生以降、何か被災地のためにできることはないだろうかと思いながらもずっと何もできなかったので、旅行に行こうと思い立ったんです。そこで、おみやげ屋さんに立ち寄ったときに、石巻で作られている「伊達の旨塩」という塩を買ったんですね。これが、もうびっくりするほどおいしいお塩で。「旨塩」という名前のとおり、何か旨味調味料でも入っているんじゃないかというぐらい旨みがあったんです。もちろんそんな調味料は一切入っていないんですが。あまりのおいしさに驚くとともに、そういえば家にもいろいろ塩があったなあ、と思ってキッチンを漁ってみると、なんと20種類以上の塩が出てきました。

もともと小さいころから料理が好きだったこともあり、調味料を何種類も買いそろえていましたし、おみやげで貰ったりしたものもたくさんありました。

改めてそれらの塩を見て、色も香りも形も味も、いろんな個性があることに気づきました。

そこで理系の私は、それぞれの塩の成分を、表計算ソフトに入力して比較してみたんですね(笑)。すると、たとえばマグネシウムが多いと苦く感じるのかな、と思っても、実際はそうではない。科学的な分析があてはまらず、想像したのとはまるで違う味だったりする。これは面白い、深く勉強してみたい、と思って、"ソルトコーディネーター" という資格の養成講座に通い始めました。

オーナーの田中園子さん。solcoという店名は、ソルトコーディネーターの講座を受けていた頃、一緒に学んでいた仲間から、名前の「園子」とソルトをもじって「ソルコさん」と呼ばれていたことから名付けたそう。

おいしい塩に出会う前から、ご自宅に20種類もの塩があったというあたり、ただ者ではないですが、実は昔から料理好きだった田中さん、製薬会社に勤めるかたわら、フードコーディネーターの学校にも通っていたのだそう。

いつか食関係のビジネスを起こしたいと漠然と思っていたんです。フードコーディネーターの学校が修了した後、そこで知り合った同期の方から、野菜ソムリエ協会での仕事に誘われました。製薬会社での開発の仕事はとても楽しかったのですが、思い切って転職。1年間、食のイベントを企画したりマネージメントなどの仕事をしました。その後、ロンドンに1年間語学留学し、スローフード協会の方と知り合ったご縁で日本食を紹介するイベントの開催を任されたり、という経験をして帰国。

食で起業したいという気持ちはどんどん高まってきて、働きながら起業セミナーにも通い始めました。でもまだ具体的にどういうビジネスをしようというのはまるで決まっていなかったんです。

そんな頃にふと思いついて旅行して、たまたまおいしい塩に出会った。そこで「これだ!」とひらめいて。そこからはトントン拍子で話が進みました。

導かれるようにして出会った「塩」。そこからわずか1年半でオープンしたという 「solco」 では、田中さんが国内外から厳選した約40種類の塩を、自由にテイスティングして購入することができます。

それにしてもお店のかっこいいこと! 黒でまとめられた店内に、細長いガラスのボトルがとてもよく映えています。

シルバーの蓋つきの細いガラスボトルに詰められ、整然と並ぶ塩たち。圧巻の光景です。

ボトルは本物の培養試験管。添えられているおしゃれなスプーンは薬さじです。

塩は湿気が大敵。珪藻土で作られた調湿剤は、チョコレートウェハースのような形がキュートです。

これ、実は本物の試験管なんですよ。塩の専門店をやろうと思ったときに、塩を、料理や気分によって選んで使ってほしいなと考えたんですね。あるいは、「僕はこの塩」「私はこの塩」と人によって好きな塩を選んで使ってもらう。そのためには4,5種類の塩を食卓に揃えてほしい。そこで狭いキッチンに置いてもじゃまにならないスリムボトルがいいなと考えました。

私自身が理系ということもあって、試験管みたいな容器がいいなと思い、相当探したんですけど、なかなかイメージに合うものがなくて。それでも最終的に、大学院時代に使っていた試験管と同じようなものが見つかりました。ただ問題は、この容器は培養試験管なので、菌を培養するために蓋に溝をつけてあり、空気が入る構造になっていたということ。塩に湿気は大敵ですが、密閉されないために塩を入れるには不向きです。でもどうしてもこの容器を採用したかったので、試行錯誤の末、ふたの内側にコルクを噛ませるという方法にたどり着きました。

容器の密閉性は実現できましたが、使う際はお鍋の上で開けたりせずに、湯気のないところでスプーンに取って使ってくださいと説明しています。スプーンも、ロゴ入りの可愛い薬さじを別売しています。

試験管に薬さじとは! まるで実験をしてるようで、気分が上がります。